第十話 愚者の正位置「無計画」
ミドリ「お願いします! アタシ、どうしてもカードを集めたいんです!」
夜。
アパートの一室の前で、インターフォンに話かける。
ミドリ「譲ってください……、お願いします……」
涙目で、扉に頭を下げる。
ガチャ。
扉の中からおじさんが覗く。
ミドリ「あ……」
おじさん「そんな一生懸命にねぇ。君、なにか、叶えたいことがあるのかい?」
ミドリ「は、はい! うち、すごい貧乏になっちゃって! どうにかしないとで!」
おじさん「それは……。こんなもの集めて、君の家にお金が入ってくるとは思えないけどね」
ミドリ「そ、それでも! アタシが出来ることって他になくって……」
おじさん「あげるよ。持ってって」
ミドリ「え、いいんですか!?」
おじさん「ああ、本当はね、不気味だったんだよ。何度もゴミと一緒に捨てたんだけどね。気が付いたらポストの中に入っていた。気味が悪かったんだ」
ミドリ「え……?」
おじさん「君がもらってくれるなら、僕も助かる」
ミドリ「あ、ありがとうございます!」
おじさん「それにしても、願い事なんてね……。僕はもう願い事のために、君のようには頑張れないね」
ミドリ「は、はあ……。今のアタシに出来ることなんて、他に何も無いっすから……」
おじさん「それを集めて、君の願いが叶うといいんだけどね」
ミドリ「はい……。どうなるか、わかんないですけど、アタシ集めようって思ってるんで!」
おじさん「そうかい……。まあ、とりあえず、コレ」
おじさんからカードを手渡され、
握り締めてお辞儀をする。
次の日の放課後。
保健室。
秋穂「鉄線の武器、ねえ……」
スミ「はい。階段を降りながら逃げて、一階まで追ってきて……。でも、そこでなぜか止まって、逃げれたんですけど……」
秋穂「ふーん」
スミ「なんで、あそこで止まったのか……」
秋穂「射程外になったんじゃない?」
スミ「射程外?」
秋穂「その鉄線は、無限には伸ばせないんじゃないかってこと」
スミ「ああ、なるほど……」
秋穂「それにしても、あなた達ふたりでライブねえ……。ふ~ん……」
ヒロト「なんだよ」
秋穂「べーつに~。お姉さん、そういうお話、だ~いすき」
ヒロト「うっせーな」
スミ「えっと……、私がどうしてもって……」
秋穂「そういうことに、しといたげるー」
ヒロト「はあ……」
秋穂「それにしても黒瀬さん、偉いわね」
スミ「え、なにがですか?」
秋穂「だって、日常的にカードを持ち歩いてるってことでしょ?」
スミ「あー……。持っていた方が、危険を知らせてくれそうかなって……」
秋穂「それは逆よ」
スミ「え?」
秋穂「身に着けているから、他の人に感知され、危険に巻き込まれる」
スミ「そ、そうか……」
ヒロト「だめだ。自分で持っていた方がいい」
スミ「え? ヒロト君?」
ヒロト「家に置いていたら、家族が巻き込まれるんだよ」
スミ「あ……」
秋穂「まあ、そっか。わたし、一人暮らしだから忘れていたわ。ごめんなさいね」
スミ「あ、いえいえ」
ヒロト「忘れてたって、本当だろうな……」
秋穂「うんうん。ホントー」
ヒロト「……」
バス停。
ヒロト「黒瀬先輩。昨日も思ったんだけど、まだ自分のカードの使い方、わかってないだろ」
スミ「あ、うん。何をしても反応しないんだ。振っても、投げても駄目。何かにぶつけても、カードに戻るだけ」
ヒロト「ふーん……」
ヒロトがポケットから一枚の光るカードを取り出す。
ヒロト「これ、黒瀬先輩が持ってて」
スミ「え?」
ヒロト「早く」
スミ「え、あ、うん」
カードを受け取る。
スミ「あれ? これ……?」
ヒロト「何?」
スミ「不思議。カードって見た目は全部同じ。鏡みたいにしか見えないのに。受け取ったらなんとなく違いがわかる。これがヒロト君のカード?」
ヒロト「丸太のカードだよ」
スミ「ヒッ……」
地面にカードを落とす。
ヒロトが拾い上げる。
ヒロト「先輩、今のカードだけじゃ戦えないだろ? 持っててほしいんだ」
スミ「……。持ってて、っていってもさ……。他のカードの使い方なんてわかんないし……」
ヒロト「オープンの仕方は同じだよ。力を使うように願うことも」
スミ「あんな大きな丸太なんて、私、持てない」
ヒロト「使えばわかるから。持ってて」
スミ「えっと……、でも……」
ヒロト「心配なんだよ。今のままじゃ」
スミ「う……、うん……。このカード、ヒロト君は使わないの?」
ヒロト「オープンは一度に一つ。同時には使えないから、意味ない」
スミ「へぇ……」
丸太のカードを受け取る。
手が少し震えてる。
スミの家。
スミ「お母さん、ちょっとだけ出かけてくる」
マユミ「何? 夜遅いし、明日にしたら?」
スミ「ジュ、ジュース買いに行くだけだから!」
マユミ「オレンジジュースあるわよ?」
スミ「ジ、ジンジャーが飲みたいの!」
マユミ「あーはいはい」
家の裏の林の中。
カードは光ってない。
スミ「よし……。見られてないよな……」
周りを見回す。
スミ「……武器になれ」
スミの手の平から、光りながら、空に向かって伸びるように変化する。
スミ「あ、うわわ」
両腕でがしっと掴む。
スミ「重……いけど、持てないってほどじゃない……」
見上げてみる。
電柱のように伸びる、木の丸太のような、太い棒。
スミ「そんなに重くないってことは……。ぶつけても、大したことないってことだよね?」
隣の杉に軽く当ててみる。
ドシン!!
カー、カー!
木と丸太のぶつかる大きな音。
カラスの鳴き声。
スミ「え! あ、やば! 戻れ!」
マユミ「い、今の音、なに?」
林から懐中電灯片手に飛び出してくるスミ。
マユミ「きゃ、ス、スミ!? なにしてんの?」
スミ「ご、ごめん、木登りしてて、落ちちゃって!」
マユミ「え!? 大丈夫なの!?」
スミ「うん、へーきだから。先、家に入ってるね」
マユミ「え? ええ?」
困惑するマユミ。
深夜。
大型のゲームセンター。
所々に人がいる。
カードを片手に、クレーンゲームの通路を進むミドリ。
ミドリ「光がつえぇ……。近くに持ってる奴がいる……」
ナンパ男「ねえ、君、今なにしてんの? ひとり?」
ミドリ「……」
ナンパ男「ねえってば、こっち見てよ。あ、なに? その光ってるやつ」
ミドリ「うるせーな。アタシに構うな」
ミドリがナンパ男の方を向く。
ナンパ男「あ、こっち見てくれた~」
ミドリ「な!?」
ナンパ男「え? なに?」
ナンパ男の向こう側。
通路の先、オリンピックの聖火トーチのような物を持つ、ヤンキー風の男。
ミドリ「カ、カード持ち!」
ナンパ男「え? カード?」
ミドリ「あぶねえ!」
ナンパ男「うわ」
ナンパ男を突き飛ばす。
クレーンゲームに叩きつけられる男。
地面に倒れるミドリ。
ゴウ!!
火柱がミドリの頭上をかすめて通り過ぎる。
ナンパ男「う、うわ、うわああ!」
逃げていくナンパ男。
ミドリ「ふう、ふう、」
ヤンキー「へえ、やるじゃん」
立ち上がる。
両腕を広げる。
ミドリ「……ちょっと、待って。アタシ! あんたと戦う気はないよ!」
ヤンキー「はあ?」
ミドリ「私はただ、カードが欲しいだけ! アタシのウチ、貧乏だからさ!」
ヤンキー「だから、なに?」
ミドリ「あんたのカード、アタシにくれない?」
ヤンキー「なんだコイツ……。本物のバカか」
聖火トーチをミドリに傾ける。
ヤンキー「お前こそ、俺にカードくれよ!」
ゴウ!
火の玉がミドリ向かって進む。
ミドリ「うわ!」
横に飛んでクレーンゲームに隠れる。
通り過ぎる火炎放射。
ミドリ「はあ、はあ、くっそ、話通じない奴か……」
ヤンキー「おーい、カードくれって。聞いてる?」
ミドリ「ここは、引くしかねぇ」
クレーンゲームの並びに隠れるように、四つん這いで逃げる。
ヤンキー「隠れてないで、出て来いよ。カード欲しいんだろ~?」
クレーンゲームの間をヤンキーが覗きながら進む。
近くにいた店員が、腰を抜かしている。
店員「ひ、ひい!」
ヤンキー「あれ? どこいった、アイツ」
ヤンキーの死角をついて、
店の入り口から飛び出す。
ミドリ「はあ、はあ!」
大きな道路沿いを走る。
ミドリ「はあ、はあ、絶対、無理じゃん、はあ、はあ、あんな奴から、カードもらおうなんて!」
深夜の街を駆けていく。
ゲームセンターの中で、スマホに耳をつけるヤンキー。
ヤンキー「ああ、見失った。金髪っぽい、茶髪ロングの女。白のパーカーが、ぶかぶかのワンピっぽい奴、ああ、あ、いた? そう、それ、白かピンクっぽいスニーカー、そう、後つけれる? おう、頼むわ。雑魚狩りぐらいは、絶対成功させなきゃだしよ。」
スマホを片手に、
腰を抜かす店員と、目を合わせながらしゃがむ。
ヤンキー「こっちは俺一人でやっとくから。ああ? 独り占めしようなんて思ってねえから。じゃあな、また後で。……はあ、たくよー」
怯える店員の頭を掴む。
店員「ヒ、ヒイ!!」
ヤンキー「あー、馬鹿の邪魔が入って、予定狂っちまった」
ヤンキーが聖火を店員に見せるように持つ。
火柱が巻き起こる。
店員「う、うわあああ!」
ヤンキー「おい、叫んでないでよ。店に火ぃつけられたくなかったら、有り金、全部集めろ。ついてってやるからよ」
店員の目に写る火柱。




