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【完結】夢診薬師リセの調方録  作者: なみゆき


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6-真実の街

 夢喰い事件が収束してから数日。

街は表面上の平穏を取り戻していた。

人々は再び夢晶を枕元に置き、眠りにつく。

だがリセの胸には、拭えない違和感が残っていた。


「……夢が、整いすぎている」



夢薬庵の窓から街を眺めながら、リセは呟いた。

通りを歩く人々の顔は穏やかで、同じような笑みを浮かべている。


ノアが夢晶を解析しながら首をかしげた。


「確かに……夢の波形が均一すぎます。普通ならもっとバラつきがあるはずなのに」



リセは眉を寄せた。

(誰かが夢を調律しているみたい……)


その時、セイレンが夢薬庵に入ってきた。

彼の表情は険しい。


「リセ。警団でも妙な報告が増えている。市民が同じ夢を語るんだ。“幸福の夢”だと」


「同じ夢……?」


「そうだ。まるでプログラムされたように、皆が同じ言葉を口にする」



リセは胸に冷たいものを感じた。


「……夢が共有されすぎている。これは自然じゃない」



ノアが解析結果を示した。


「夢晶ネットワークの中枢、“夢塔”から不自然な信号が出ています。発信者は……市長エルマー」



「市長……やはり」


セイレンが低く唸る。



夜―リセは夢塔の夢流に意識を沈めた、夢塔の構造に意識を接続した。

そこには眠る自分自身の姿があった。


「……まだ夢から覚めていないのね」


夢の中の自分が呟いた。

リセは息を呑む。


「これは……どういうこと?」



夢塔の構造データに刻まれていた文字。

──“夢核リセ・ファルナ”

リセは震える声で呟いた。


「……私が、この街の夢核……?」



***


市庁舎前広場。人々が集まり、市長エルマーの演説を待っていた。

巨大な夢塔の影が広場を覆い、空気は妙に均一で、誰もが同じ期待の笑みを浮かべている。



「……不自然ね」


リセは群衆を見渡し、胸に冷たい違和感を覚えた。

壇上に立ったエルマー市長は、朗々と声を響かせた。


「市民の皆さん! 新しい夢政策を発表します。これからは誰もが苦痛なき理想の夢を享受できるのです!!」



群衆が歓声を上げる。


だがリセの目には、その映像が歪んで見えた。

まるで夢の中の映像のように。



「……これは、現実じゃない。夢を通して見せられている」




その夜―セイレンは市庁舎の地下に潜入していた。

暗い廊下を進み、研究室の扉を開けると、そこには膨大な記録が並んでいた。


「……これが、市長の研究記録」



セイレンは資料を手に取り、目を走らせた。

そこには恐ろしい計画が記されていた。


「夢喰い事件を利用し、安定した夢世界を永遠に維持する装置……その中核は……リセの意識?」


セイレンは息を呑んだ。

(リセ自身が街を維持する夢核……?)




翌日―エルマー市長がリセに接触してきた。

彼の瞳は冷たく輝き、声は甘く響いた。


「リセ・ファルナ。君はこの街を守る神だ。眠り続ければ、皆が幸せでいられる」


「……眠り続ける? それは牢獄よ」


「牢獄? 違う。幸福の楽園だ。君が目覚めれば街は崩壊する。だが眠れば、永遠の夢が続く」



リセの心が揺らいだ。

(私が消えれば街が崩壊する……。でも、夢の中に留まれば人々は幸福を得る……)




夜―リセは一人、夢塔に侵入した。  

夢の心臓部に辿り着くと、そこには自分そっくりの“無表情なリセ”が眠っていた。


「……これが、夢核の私」


眠る自分が微かに呟いた。


「あなたが目覚めれば、この街は死ぬ」



リセは震える声で答えた。


「……でも、夢の中にいれば、皆が幸福のまま眠り続けられる」



無表情のリセが静かに微笑んだ。


「選びなさい。夢か、現実か」



***


リセが夢塔に侵入してから、夢塔のシステムが暴走を始めた。  

昼と夜が混ざり合い、街全体が奇妙な光景に包まれる。

青空の下に月が浮かび、太陽は沈みかけたまま止まっている。

人々は現実の街を歩きながら夢を見ており、誰もが幻覚に囚われていた。



「……これは、夢と現実の境界が消えている」


リセは夢塔の中心に意識を繋ぎながら呟いた。

セイレンが現実側で叫ぶ。


「リセ! 戻ってこい! 君が消えたら、夢の流れを止められない!」



ノアは解析器を叩きながら必死に声を張り上げる。


「夢塔がリセさんの意識を取り込んでいます! このままじゃ街全体が永遠の夢に沈む!」


**

夢の世界―リセは巨大な夢晶の中に囚われていた。

そこで彼女は“もう一人の自分”と対峙する。

無表情のリセが静かに立っていた。


「あなたが目覚めれば、この街は死ぬの」


「……でも、夢の中にいれば、皆が幸福のまま眠り続けられる」



無表情のリセが淡々と告げる。

リセは震える声で答えた。


「幸福? それは牢獄よ。夢に閉じ込められたままじゃ、人は生きているとは言えない」


「牢獄でも、痛みはない。現実は苦しい。夢なら永遠に安らげる」


リセは拳を握りしめた。胸の奥に怒りと恐怖が渦巻く。

(これは誘惑……でも、私は選ばなきゃならない)



街の人々は幻覚に囚われ、笑いながら涙を流していた。

セイレンが必死に叫ぶ。


「リセ! 君が決めるんだ! 夢か、現実か!」


ノアも声を張り上げる。


「リセさん! あなたが夢核を解放すれば、街は救われる!」

夢の中で、無表情のリセが微笑んだ。


「選びなさい。夢を続けるか、現実を壊すか」


リセは震える声で答えた。


「……私は、現実を選ぶ」


その瞬間、夢世界が拒むように揺れ、街全体がさらに深い夢へ沈み始めた。

夢塔が激しく揺れ、黒い霧が街を覆った。セイレンの声が遠くから響く。


「リセ! 意識を保て! 君が消えたら街は終わる!」


「……っ! 境界が完全に崩壊していく!」


リセは必死に意識を保ちながら、次の決断を迫られていた。


ノアも必死に叫んだ。


「リセさん! 夢核を制御できるのはあなたしかいない!」


リセは深く息を吸い、胸の奥に眠る力を呼び覚ました。  

師匠アルスの声が夢の中で響く。


「リセ……お前は夢から生まれた。だが、夢を操る薬師でもある」


「……夢を操る薬師……」


リセの瞳が強く輝いた。

夢晶が手の中で光を放ち、黒い霧を押し返す。


「私は……夢を壊すだけじゃない。夢を調合し、現実を繋ぐ薬師よ!」


無表情のリセが初めて表情を歪めた。


「……それが、お前の答えか」


「そう。私は夢核を支配する。夢を喰らう者ではなく、夢を紡ぐ者として!」


リセの体から光が溢れ、夢塔全体に広がった。  

街を覆っていた黒い霧が砕け、人々の幻覚が消えていく。  

夢と現実の境界が再び分かれ、街は静けさを取り戻した。


「……成功した……!」


ノアが涙を流し、セイレンが剣を収めた。

「リセ。君は夢核を超えた。もう誰も君を夢喰いとは呼べない」


リセは微笑み、夢晶を胸に抱いた。


「私は……夢の薬師。街を守るために、夢を調合し続ける」

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