第4話 紅塵の断片――宮廷に潜む陰謀の影
宮中に呼ばれてから四日目。
今日もまた、紅塵の匂いが私を導いた。舞踏会の香水事件、御膳の細工――それらは単独の小事件に見えたが、私の鼻が告げるのは、共通する匂いの存在。
「葵殿、どうやらまた不審な動きがあるようだ」
若官・聿が静かに言った。表情は変わらないが、その瞳に冷たい光が宿る。
香料保管庫の一角に置かれた、未使用の紅塵の小瓶。棚から取り出すと、微かに変化した匂いがする。普通の紅塵とは少し違う。古い香料の作り方に基づいて再現された痕跡――つまり、誰かが秘伝の製法を再現している。
「誰が……」
私が呟くと、椿が顔を曇らせる。
「宮中に仕える者の中に、紅塵の製法を知る者がいるのかもしれぬ……」
調べると、舞踏会の香水に混入された微量の成分と、御膳のソースに混ぜられた成分が一致した。香りは嘘をつかない――紅塵が、この宮廷の陰謀の証拠を隠していた。
「葵殿、あなたの嗅覚で突き止められるか?」
聿の声は静かだが、私は答える。
「ええ、必ず」
匂いの記憶をたどり、成分を分析する――それは私にとって遊びではない。命を守るための仕事だ。
やがて分かったことは、この紅塵の背後には、皇位継承を巡る駆け引き、薬材貿易の独占、そして古い製法に秘められた力が絡んでいるということ。
「宮廷の華やかさの裏で、人の命が軽んじられている……」
私は静かにそうつぶやいた。椿も頷く。
「紅塵の断片を追い、全体像を見極めねばならぬな」
夜、宮廷の窓辺で香料瓶を手にする私の手が少し震えた。小さな事件を解決するだけでは、もう済まされない――大きな陰謀が、宮廷全体を巻き込もうとしている。
しかし、私は知っている。匂いは嘘をつかない。
宮廷に渦巻く陰謀も、必ず嗅ぎ分けてみせる――紅塵の香りを頼りに、真実を暴くために。
今日の発見は小さな断片に過ぎない。
だが、この断片が繋がったとき、宮廷全体の秘密が明らかになる――その日まで、私の鼻は休まることを知らない。