夏休みの自由研究はゲーム制作で
夏休みのプログラミング教室で「if/endif」構文を習った。「もしもこの数値がこうだったら、この内容が実行されます」みたいな構文なんだって。
これができたら、ちょっとしたゲームが作れるよ! ──先生が言ってたのを思い出して、あたしは肩掛けカバンを床に置いた。ランドセルに入れっぱなしにしていた「夏休みの宿題一覧」のプリントを引っ張り出す。ピコーンとひらめいた。
……ゲームを作るの、夏休みの自由研究にしたらいいじゃん!
早速ネットで「ゲーム作り 小学生」って検索した。ソフトが色々出てきたけど、Switchの『RPGMakerWith』ってゲームソフトで作れるみたい。Switchならいつも遊んでるから、わかりやすいかな。
いてもたってもいられなくなって、あたしはお母さんに頼み込んだ。
「お母さん、このゲームソフト買って!」
「ええ? この前カセット買ったばっかりでしょ」
「お願いー! 自由研究に使うの!」
お母さんは「どうしてもって言うなら、お小遣いで買いなさい」って渋い反応だ。隣で新聞を読んでいたお父さんがチラッと顔を上げた。
「まあ、いいんじゃない。自由研究に使うなら」
「やったー! 今すぐポチろう! お母さんの気が変わらないうちに!」
「お母さんは認めてないわよ」
「そんなこと言わずにー!」
***
今年の夏は暑い。配達の人が汗びっしょりで『RPGMakerWith』を届けてくれた。お母さんがサインをする横で、あたしは満面の笑みを浮かべて「ありがとうございます!」とはしゃいだ。そうして「配達してくれた人の苦労を決して無駄にはしない!」と決意を新たにした。
──まずはサンプルゲームを遊んでみましょう!
Switchでソフトを起動して、サンプルゲームをダウンロードした。短めのゲームだ。このソフトで作れるってことでしょ? すごい。どんなふうに作られてるんだろう?
あたしはサンプルゲームの中身を見た。そうして「if/endif」構文みたいなコマンドを見つけてうれしくなった。
ゲームを作るには、絵や音楽、文章、プログラミング……いろんな素材が必要らしい。
普段ゲームしているときはそんなこと、考えてもみなかった。クリアしたゲームのエンディング画面にたくさんの名前が出てくるのは、そうやって作られているからなんだって、あたしは初めて理解した。
でも『RPGMakerWith』は素材がソフトの中に入っているみたいだ。便利!
早速自分の作品を作ろうとファイルを用意したところで、あたしの手が止まった。
「タイトル……何にしよう?」
***
「またゲームばっかりして!」
「自由研究だよー。ゲーム作るのってすっごく時間かかるんだよ!」
夏休みの間、お母さんに何回叱られたかわからない。真面目に自由研究してるのにな、と頬をふくらませて、あたしはゲームを作りつづけた。
マップを作ったり、キャラの会話を作ったり、プログラミングをしたり……特にプログラミングはわからないところが多くて、ネット検索したり、YouTubeで作り方を見たりした。プログラミング教室の先生にも聞いた。
なんとか完成したあたしの『わくわくクエスト』は、実際に遊んでみたら、とっても短かい。
──作るのにあんなに時間がかかったのに!? テストプレイを何回しても、バグや誤字が見つかる。なんで一度で見つけられないのかなぁ。
あたしは普段遊んでるゲームを思い出して「もはや神じゃん……」とゲーム会社の人たちを讃えた。
夏休みがもうすぐ終わる。宿題はもう終わっていた。忘れてる宿題がないかなって「夏休みの宿題一覧」のプリントを見直していたら、自由研究のところにとんでもないことが書いてあった。
──紙に手書きで提出してください。
「えっ……? 手書き? 紙? おか、お母さーん!」
***
お母さんにも協力してもらって、あたしは提出用のまとめを作った。ゲーム画面をたくさん撮影した。作っているときの画面は撮影しやすい。でもキャラがジャンプしてるところを撮影するのは大変だった。お母さんが「動画で撮影して、一時停止したのを印刷したら?」と言ってくれなかったら、間に合わなかったかもしれない。
あたしはスクリーンショットだらけの提出用紙に文章を書きながら「コピペできたらいいのになぁ……」と嘆いた。
新学期がはじまって宿題を提出した。クラスメイトには「ぼくはなぜ夏休みの宿題をなかなかやらないのか」という自由研究を出したツワモノもいて、呆れられていた。
「ねぇ、本当にゲームを作ったの?」
さっきのとんでもない自由研究の影響だろう。先生が聞いてきた。
「はい。紙にまとめなきゃいけないのを最初見落としてたから、制作中の様子は撮影できなかったんですけど……」
「へぇー。作ったのって、どこかで実際に遊べたりするのかな?」
「Switchとかプレステの『RPGMakerWith』ってゲームから遊べます。遊ぶだけなら無料体験版でも大丈夫ですよ。作るならソフト買わなきゃだけど……」
先生はにっこり笑って「よくがんばりました!」と言ってくれた。
ゲームを作る人の苦労がよくわかったから、来年の自由研究はゲーム会社のソフトの研究をしてみようか。
でもお母さんが「買いませんからね!」とか「またゲームばっかりして!」と言う姿や、先生が呆れる姿が頭に思い浮かんだから、これはやめておこう。
ツワモノの二の舞はごめんだ。
【おわり】