妄想
「助けてーーー!」
店内の奥で大事な私の衣服を剥ぎ取る店員さん。
結局、こうなるのよ。師匠がお人好しでも、他のドワーフ達は言葉巧みに私を陥れようとするの。
ドワーフとエルフは仲が悪いんだから。
私が辱めを受けるのは種族間では当たり前なんだ。
本当に師匠が…お人好しなだけ。
声を荒げても助けは来ない。もしかして師匠ならと、少し期待したけど…たぶんこの人に弱味を握られているんだ。もしかしたら、今頃この人の家来に良からぬ事をされているかもしれない。
私のせいで、ごめんなさい師匠。
「私はエルフの長の娘。辱め程度で狼狽えるとおもわないで!」
絶対に屈しない。身体は遊ばれても…心だけは折らない。
「んん。」
お尻なら師匠に触られ済み。まさか同性に辱めを受けるとは夢にも思わなかった。昔、里の悪ガキ達が話していたの同性で興奮する奴もいるらしいと。
だから私は里の同性を調べた。そして、そんなエルフはいなかった。悪ガキ達の嘘話だと思っていたのに…
ドワーフにいたなんて、私が世間知らずのお転婆娘だったせい。
自業自得よ。
「大きいねぇ。」
馬鹿にされた。私は昔から発育は良くなかったのに、大きいなんて言われた。
言葉でも辱めを与えるつもり。
悔しい。せめて剣があれば刺し違えてでも倒したのに。
入り口に置いて来てしまった。
今考えれば、その時から辱めの準備が始まっていたんだ。
「んん。」
わざわざ両手を使うなんて…なんて律儀な辱めなのかしら。私の胸なんか片手で充分でしょ…
「そんな紙切れで私を辱めたと思わないで!」
嘘…嘘よ。嘘。嘘。全部…嘘よ。
辱めじゃなくて型取り?
そんな嘘で、私が油断すると思っているの?
「え?服を着ていいの。」
これはつまり辱めが終わったということかしら。
身体を触られただけで服を渡されて、普通に着ても良いのかしら?
待って。待って。待って。
違う。これはまだ辱めが続いているんだ。
私の身体はもて遊ぶまでもない貧相な身体。
つまり羞恥の辱め。
私を内から辱めるつもりね。
「ふぇ?あ、ありがとうございます。」
服を着た私を椅子に座らせて、上品な香りがする茶を差し出してくれた店員さん。
もしかして、このお茶で無かったことにしろ。とでも言いたいのかしら。
有り難く頂きますけど、茶ひとつで私を支配できるとは思わないで欲しいわ。
「こんな大きいサイズの服は初めて。普段より雑にならないように、しっかり縫わないとね。」
随分と手際良く針を操る店員さんだ。母上も裁縫が得意だったが、あの店員さんは母上以上の手際の良さだ。
私は、また勘違いをしていた。店員さんは私の作業着を作っていたんだ。私の身体の型取りをして…
これじゃあ私…妄想癖の固まりエルフじゃない。
「恥ずかしいよ…」
結局、辱めは現実だった。
シルフィ用に特注の作業着を最速で作った店員さんは、シルフィの美貌も相まって、若干自分の趣味を取り入れてしまった。
「これね。人族でメイド服って言うらしいのよ。一度見たことがあってね。あの時は衝撃を受けたわよ。でもドワーフのサイズじゃ着こなせないから、貴女を見た時にピンときたのよ。少し丈を短くしているのは、貴女の脚が綺麗だから皆に魅せるためよ。自信を持ちなさい。貴女はもっと堂々として良いのよ。」
ね!素敵なエルフさん。
結局、この人も良いドワーフさんだ。私は絵本で見た悪いドワーフに、まだ会っていない。
どうして、仲が悪いドワーフの街にいるのに…
良いドワーフにしか会わないのよ。
「さぁ、ドランに見せてやりなさい。」
扉を開けて店内に戻った二人を見つめるドラン。
彼の第一声は二人の予想を遥かに超えた一言だった。
「冤罪だ。」
ハンマーを構えて店内を彷徨いていたドラン。誰が通報したから分からないが、両腕を縄で縛られ柱に括り付けられて街の警備隊に囲まれていた。
店員さんの説明でドランの無実は証明されたが、残念ながら警備隊の誰もドランに悪いことをしたとは思っていなかった。
皆。メイド服のシルフィに瞳を奪われていた。
「とんでもねえ日だったな。」
ドランは工房の椅子に座り縛られた痕をみながら愚痴をこぼしていた。
午後からは店番を任せると言われていたシルフィは師匠に購入してもらったメイド服のエプロンの紐をきつめに縛り気合いをいれていた。