弟子
「どうだ。見た目は同じだろう。まだ研いでねぇがデュエンダ鉱石が素材だ。切れ味は問題ねぇだろうよ。」
店内の小さなテーブルで向かいあうドランとシルフィ。
シルフィの瞼は赤く腫れていた。そしてドランの顔は煤だらけ。
作業が終わったら既に日が昇っていた。あとは再付与をすれば一応修復作業が完了となるのだが、この再付与が難題だ。
「慈愛と愛執」
この付与はあくまでも付与技術がある者が結婚する時に誓い合う一種の儀式だ。
普通の者は指輪交換だが、付与技術士は色気を出して、こんな儀式を昔につくった。
別に誰が悪いとかはない。
問題はシルフィの両親が亡くなっていることだ。
両親の何方かが付与技術をつかえたのは良い。でも居ないとなるとドランが付与して話しは終わりではない。
独身のドラン…生憎、結婚予定も相手も居ない。もし居たとして、その人物と共にこの短刀に再付与しても、意味が違ってくる。
他人の証をシルフィに渡したら形見ではなくなる。
「せめて…あんたが付与できればな〜。」
そう。シルフィに付与技術があれば両親の誓いではないけれど彼女の一族の繋がりとして役割を得る短刀。
(もう。また、あんた呼びだ。本当は名前知ってるくせに…本当に嫌い。)
「あんた。結婚予定はねえか?」
「本当に…めっ!!」
互いに疲れていても、言って良いことと悪いことはある。私の里は滅んだ。そんな私が誰と結婚するの?お付き合いもしたことがない私に予定を聞く無神経さ…
嫌い。嫌い嫌い。ドワーフ嫌い!
丁度よい高さだったから。
失言続きのドランに怒りの垂直チョップをお見舞いしたシルフィ。
あなたの低身長が招いた悲劇だという怒りの表情を見せていた。
「くぅ〜。なんか…すまねぇ。」
頭を抑えて痛さを強調するドラン。おそらく失言だったと自己分析をしている。
でも、彼が言っていることの意味は理解している。彼の付与だと形見の心がない。見た目は同じでも中身は別物それで納得したら私は私が嫌になる。
私が付与技術を身につければよい。
それが家族との繋がりになる。でも私は付与士になれるのかしら?たぶん父上が付与士だった。私は聞いてないけど狩りや訓練の時に皆の装備の前で良く独り言を呟いていたから…
そもそも、誰に教われば良いのかな?
人間は嫌。魔族も嫌。ドワーフは失言だらけで嫌いよ!
エルフを探す?でも付与士がいなかったらどうしよう。
「シルフィ…お前が良ければ弟子にならないか?」
急に名前呼ばないで、びっくりするから。それに気が付きました。あなたは真面目な時は私を名前呼びすることに。
私も学習しますので。
「ドワーフ…嫌い。」
グハハハ!何よ。大きな笑い声だして。ドワーフとエルフは仲が悪いのよ。実際、あなたと私の二人だけで…あなたは何回、私を怒らせたかわかっているでしょう。
「前も言ったろう。あんたに絡むドワーフ共は俺のハンマーで、こうだ!こう。」
知ってます。この前、出発前に話したので、でもそれは客だからで今は弟子の話し。
実際、弟子が揉め事ばかり起こしたら師匠の評価は下がるだけ。
「バカやろう。弟子を守るのが師匠の務めだ!」
どうして、エルフの私を気に掛けるのかしら。偶々出逢った客なのよ私は…
「給与は無しだ。小遣いはやる。この狭い店に住み込みだ。飯と寝床は保障するが、どうだ?」
ご飯に寝る場所。そして、鍛冶師と付与士の技術を学べる。条件は悪くない。別に給与なんか要らないし。
でも、彼は何でエルフの私を弟子にしたいのかしら?
意味がわからない。ありがたい話しだけど…
表情が暗いと思ったドランは弟子良さをシルフィにアピールする。
拳を握り人差し指を一本立てるドラン。
「お小遣いが銅貨1枚?」
シルフィの言葉に、ドランは首を振る。
「違う。あんたは俺の一番弟子だ。俺の全てを叩き込む。だから立派な鍛冶師になって天国の両親を安心させてやれ!」
だから…どうしてあなたが私にそこまで気を使ってくれるのよ。
お人好しにも程がある。だから私は困るのよ。出逢って間もないあなたを嫌いだ嫌いだと何度も思っても、本当は…
あなたを私は何にも嫌いじゃないのよ。
だから優しくされると私…困るの。
「泣くなよ。昨日から泣きすぎだ。美人が台無しだ。」
美人とか簡単に言わないで。私…勘違いしちゃうから。それに涙は全てあなたのせいよ。
だから私は、弟子になっても強がります。あなたを困らせます。偶に拗ねます。
でも…あなたからの恩は生涯忘れません。
「ドラン師匠。お世話になります。宜しくお願いします。」
立ち上がり、ドランに頭を下げるシルフィ。目標が出来たことに感謝を示した。
グハハハ!
そして、ドランも嬉しそうに笑っていた。