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小国のドワーフおじさんは、お人好し。  作者: ke-go
ドワーフとエルフ
3/14

失言

「すまねぇ…本当に。」


ドランさんは私が機嫌を悪くしたと思い。背中越しに何度も謝ってきます。実際、年齢を聞かれて強い口調になってしまいましたけど…もう怒ってないです。


「すまねぇ。」


怒ってないです。そう言いたいけれど、昨晩から私だけ空回りしている感じがして少し意地悪なことを考えてしまいました。


「あんたじゃなくて、名前で呼んで下さい。それなら許します。」


私は自分の名前に誇りをもっています。大好きな両親が一生懸命、考えて名付けてくれた。だから、あんた呼びは嫌なんです。


「確かによ〜。あんたは失礼だった。でもよ〜。」


なんだか、名前を言いづらそうな口調のドランさん。恥ずかしいなら昨日のお返しで絶対に呼んでもらおう。


「そういう所が、めっ!!」


今のが本当の失言です。さすがの私も怒りを覚えました。暴力もじさないほど今の私は怒っています。


「痛え。痛えよ!」


私はドランさんを背負っている。だから私の腕にはドランさんの脚があります。


シルフィは怒りでドランの太ももを何度も抓る。痛いと声を出しても許さない。それほどドランの言葉に怒りを覚えたようだ。


「あんたの名前…長くて覚えきれねぇ。もう一回頼むぜ。」


お客の名前を憶えていない。これは大失態。ドランとしても失礼だとは思っていたが、聞き直すタイミングを見逃していたようだ。


こんな痛みを味わうなら、早めに聞き直せば良かったと今更思っても、痛みは取れない。


「私も、あなた呼びしますから!もう変えません。」


怒りのお返し。ドランも名前で呼ばれない哀しさを味わえば良いんだ。


「いや…あんたって言われると、なんだか夫婦みてぇだな。俺は嫌じゃねぇぞ。」


「そういう所が、めっ!!」


やっぱりドワーフはエルフと合わない。背負うエルフの抓る攻撃に背中で喚くドワーフ。神様はどうして反発しあう種族を誕生させたのだろうか?


そして、事情があるにせよ、なぜこの二人が出逢ったのだろう。巡り合わせには理由がある筈なのに。そんなことを今の二人は考えることもないだろう。


「痛え…痛えし、危険地帯に入るぞ。」


痛がりながらも周囲の状況を確認しているドラン。どうやら経験からくる警戒心が酔いを冷ましたようだ。


「ちっ。今日は流れが速いな。」


シルフィの前に川が見えてきた。ドランは最初の危険地帯だと説明する。


確かに、川の流れは速い。簡単に人を流せそうな水圧だ。しかし、ドランが騒ぐほどこの川は危険なんだろうか。


もしかしたら、魔物が住み着いている?


「もう少し減水していたら足場が見えるんだが。」


なるほど、減水すれば足場が現れるのか。でも川幅自体は、そんなに広くないと思ってしまうシルフィ。


「待て、待て、待て!死に急ぐな。」


助走をつけて飛び跳ねるシルフィ。後ろで悲鳴をだすドランとは対照的に涼しい顔のシルフィは問題なく反対岸に渡ってしまった。


「あんた…勇気あるな!」


勇気?そんなものは私にはない。勇気があれば里が魔族に襲われた時に隠れないで戦っていた。


私は匿われた弱いエルフなんだ。


「もう大丈夫だ。ありがとよ。」


酔いが冷めたドランはシルフィの背中から地に足をつける。酒が抜ければ俺が危険地帯の先頭を進む。そう思っていそうな表情だが、身体を解しているドランを見てシルフィは、この川の危険の意味を理解した。


ドランの身長はシルフィの腰の位置から頭頂部のボサボサな髪の毛が少し見えるくらいだ。因みにシルフィはエルフの中で標準的な身長だ。つまり…この川が危険な理由はドワーフ限定の危険だ。


脚が他種族より圧倒的に短い。

だから飛び越える発想を持てない。


短足には確かに危険な川だろう。


そして二人は先を進み、デュエンダ鉱石の発掘ポイントを目指したのだが、どうやら危険地帯はドワーフ限定の話しで間違いないようだ。


「迷いの平原にはいるぞ!」

「底なし沼には入るな!」

「断崖絶壁だ脚元をしっかり見ろ!」


………ドランの注意喚起は全部、ドワーフ目線。私にはよく見る風景なんだけど。


「助かった。俺の見立ては間違ってなかった。あんたは優秀だ。」


ドランを抱えて、危険地帯は難なく突破できた。

私が飛び跳ねるたびに抱えていたドランさんは身体を硬直させるから思わず笑ってしまいました。


「確かに、これは役立つな。」


外套を広げ岩場で焚き火をする二人。今日はこの場所で野宿をする。シルフィはドランから渡された干し肉を手に取り、見つめていた。


(私…干し肉食べたことない。)


エルフの主食は森の恵み。木ノ実や山菜。そして果実。お酒はほどほどで、肉は食べない。


でも…もう里はない。私が環境の変化に順応していかないと。


それに、せっかく差し出してくれた彼に悪いから。


「かた…んーー!」


干し肉を口にしたシルフィの、よくわからない反応を不思議そうに見たドラン。せっかくの整った顔をしわくちゃにし口を尖らせながらも干し肉を口から落とさないように頑張っていた。


塩気。初めてに近い味覚。頑張って噛んでいるのに中々解れてくれない固さ。


「ふぅ。」


一旦、休憩。そう言い聞かせ、カラカラになった口を水筒の水で潤す。


干し肉は、なかなかの強敵だ。


「やっちゃ、ほぐれちゃ。」


干し肉との戦いは大変だった。何度も挑戦し、どうにか噛み砕いた塩気の多い肉。顎が疲れたけど達成感を得たシルフィ。母親に食べ物を口に入れて話しては駄目と昔に言われたが、初めて挑戦した食べ物に少し興奮してしまった。


「あなた。干し肉を食べきりました!」


シルフィはドランを、あなた呼びすると決めた。失礼極まりない発言は、まだ許さない。


なんとなく、こんな反応がくるとは内心…思っていた。


「ぐ~~。」


干し肉との格闘中に、横で眠りについたドラン。

干し肉の礼は明日の朝。そして、名前を覚えていなかった罪は継続。でも形見の短刀の件は感謝。だからドランの小さな身体はまだ外套で補える。


夜風で体調を崩したら大変。


シルフィはドランに身体を寄せて、外套の余りを互いの身体に巻いた。



シルフィの初めての添い寝は、

仲が悪いドワーフのおじさん。

シルフィより歳下なのに見た目はおじさん。

お人好しなのに偶に失言をするおじさん。


良いところは…お人好しだけのおじさん。


「あなた。おやすみなさい。」


二人を包んだ外套は確かに役立つものだった。





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