壮齢
「おまえ…鍛冶師より剣士のほうが向いてないか?」
殺伐とした店内でドランが放った言葉でシルフィは身体の力が抜けてしまい床に手わついて、ドランに懇願していた。
「私を!捨てないで下さい!!」
私は今、師匠から方向性の違いを指摘されています。鍛冶師ではなく剣士になれと。
正直な話し…実は魔法も少々なんて絶対に言えません。そんなことを言ったら、いよいよ、いれなくなります。
おまえは鍛冶師向きではない。って!
だから魔法のことは秘密にしないと。
「ドラン。この…エルフの方は…」
騎士団長の言葉に先に反応したのは師匠ではなく、私だった。
私のお願いの答えを言われてない状況で軽々しく話の腰を折る彼に私は苛立ちを覚えました。
「黙れよ。芋団長さん。私が師匠に答えを求めてる最中なのよ!」
芋は余計な一言だった。だって鉄製のフルプレートメイルに身を包む彼等をみていると身長の問題もあって、お芋に見えてしまうのよ。
まんまるお芋よ。
「芋、芋とは随分と口が悪いエルフさんだな。」
「芋が芋るな!」
駄目。暴言よ。芋が発音しやすいからって…私また芋って言ってしまいました。場を収めておいて、また場を荒らしたら本当に駄目弟子になってしまうわよ。
「こいつは、俺の駄目弟子だが、何か問題があるか?」
良かった。駄目が追加されたけど、私はまだ師匠の弟子でいれる。良かった…本当に。
ドワーフの兵隊さん達は、私を警戒しながらもドランを再度、王城へ赴くように説得している。勅令に逆らうとお前自身の立場も危うくなると脅しめいた事まで話しだした。
「ドラン。お前の一族は元々貴族だろう。王に付き従うとは思わんのか?」
「思わん。」
ドランの一族は元々貴族だった。鍛冶師を纏めていた貴族。しかし、魔族や人間領へ鍛冶師がでていき地位も名誉も失った。ドワーフ国が鍛冶師の国だったのはドラン一族が築いた実績と技術があったから。
王都から追放。そして街の片隅で小さな工房を続けるのだが、それはドランが産まれる前の話し。
ドランは産まれた時から、この街の小さな鍛冶屋で育った。そんなドランに王だ貴族だ言われても彼は何とも思わない。
そしてシルフィもエルフとドワーフは仲が悪いと教えられてきたがドワーフの国にきても、その悪い場面に遭遇していなかったが、ようやく攻撃的なドワーフを見て、偶々良いドワーフ達と先に知り合っただけだと改めて実感していた。
「明日、また来る。良い返事をお前の為に期待している。」
芋団長さんは、捨てゼリフのような言葉を残し工房から出ていった。
「…たく。おまえが出しゃばらなくて良かったのに。」
穴を開けた店内の壁を、私は急いで補修します。こういう所は10年で成長したと実感しています。
「穴があいた場所の板に釘を打つな!裏から刺さっちまうだろうが!」
「ふいぃ。」
補修中の私は釘を口に挟んでいたので、間抜けな返事をしてしまいました。師匠みたいに、こんな時は耳の付け根に釘を挟みたいのですが私の耳だと上手く挟めないのです。だから口にしたのですが、沢山くわえると口の中が鉄の味だらけになる弱点があります。
「…たくよ。」
私の補修作業は師匠から見たら駄目判定でした。結局、師匠が補修してくれたのですが、私はこういう時間が大好きです。ぶつぶつ文句を言いながら最後まで教えてくれる師匠といるのが楽しいの。
「シルフィ。この街は好きか?」
「はい!」
10年前は疑いの中で街を見ていたが、今は街のドワーフさん達と随分仲良しになれました。悪いドワーフなんか街には居ません。皆、私に良くしてくれました。
「おまえは鍛冶師としては、駄目駄目だ。」
「あ!いちいち言わないで。」
師匠が補修作業を代わってくれたから私は作業を見ています。ハンマーが釘の中心をとらえると、面白いほど、板に吸い込まれます。
私は何度も打ちつけるのに師匠は全て一度で打ち込める。これが私と師匠の技量の差。駄目駄目と言われて口ごたえしても私は今の居心地の良さを気に入っているんです。
だから、たらればの話しなんて止めて下さい!
「シルフィ。おまえが鍛冶師でひとり立ちするには、まだ時間がかかるな。」
はい。知っています。
「だが剣士…冒険者ならやっていけるんじゃないか?」
………いや。
「俺は明日、王城へ行く。………もしかしたら帰りが‥」
やめて!
「私を独りにしないで下さい。もう嫌なんです!」
珍しく師匠が目線を外して、困った表情をしています。
もしかしたら、明日で私達は別れてしまう。師匠と弟子の関係が終わるかもしれない。
「師匠は腕っぷし強いじゃないですか!王城で何かあれば暴れて逃げれば良いんです。」
「…立場が違う。王に刃を向けたら、それで終わりだ。」
珍しく弱気。私の師匠はいつも堂々で、頼りになるドワーフなのに。
でも、安心して下さい。
「私がついて行きます。こう見えてもエルフの里の長の娘なんです。一応…王族です。…たぶん。だから、師匠に嫌なことをする奴等なんて、こうです。こう!」
私は細剣で悪ドワーフ達が襲ってきた時に突きまくる動作を師匠に見せました。師匠をしっかりフォローする。
それが一番弟子の私の使命です。
「…はぁ。お人好しのエルフがよ。」
突きの動作に夢中だった私は師匠の言葉を聞き逃してしまいました。
「護衛…たのめるかシルフィ。」
私は師匠に少し擦り傷がある手を握り、人差し指を立てました。
「私の剣技は安くないですよ!」
グハハハ!
笑い出す師匠。いちいち俺を真似するなと言いながらも嬉しいそうに私を見ています。
「どうせ。銅貨1枚だろ?」
私を舐めないで。お金じゃないんです。私なりに10年間で得た収入もあります。道具も師匠の真似をして色々購入しました。だからお金はいいんです。
「一番。一番です。私は絶対に師匠の一番弟子でいますから独りにしないで下さい。」
グハハハ!
私の決め台詞を馬鹿にするかのように笑う師匠。
「飯だ飯!」
そう言いながら振り返ったあと、師匠が目元を手で拭う仕草をしていました。
たぶん…目が痒くなったのかな。最近、乾燥してるから…この辺り。




