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小国のドワーフおじさんは、お人好し。  作者: ke-go
ドワーフとエルフ
11/14

付与

「暑いなら、ズルしねぇで素直に言え。」


炉の火を消して扉を開ける師匠。なんだかんだ私を心配してくれました。


何となく、こうなるだろと思っていました。

理由は師匠がお人好しだからです。


「まあ、普通だからな。おまえの作業着は。」


仕立ててくれた店員さんはメイド服と呼んでいた。最初は裾が短いし胸元が緩くて恥ずかしかったけれど、今は動き易くて気に入っています。


「………へ?師匠がズルしてる!」


グハハハと豪快に笑う師匠。師匠の作業着は【熱耐性】の付与が施されているみたい。


良くそれで、私にバカヤローとか言えたものだ。


頬を膨らます私に、熱量を知らないまま耐性付与したらまともな鍛冶師にはなれない。と一応…理屈が通るような言い方をしても私の怒りは収まりません。


「付与しねぇと、その膨らました頬が治らねぇんだろ?」


ぶふっ!


膨らました頬のせいで発音が上手くいきませんが、私なりの主張なので止めません。


「わかった。わかった。とりあえず作業着脱げ!」


ふぇ!


師匠は、私の作業着を掴みながら何か考え込んでいます。それよりも、私の肌着を見ても大して驚かない方にびっくりしてしまいました。


もしかして、女性だと思っていない可能性もあります。

「随分、汗じみた作業着だな。」


デリカシーが無さすぎる。怒る私を他所に師匠は私の作業着を持ちながら店内に戻っていきました。


不思議なものです。あれだけ暑いとズルをした私。肌着で庭に独りだと急に肌寒く感じてきました…


「師匠待って〜。」


店内のカウンターに私の作業着を広げて顎に手を当て考え込んでいる師匠。何か分析しているようだけど、意外とこんな仕草をする時は実は何も考えていなかったりする事があります。


「あの爺…顎に手を当てて考えてるふりだけだ。」


父上の、エルフの里の会合の愚痴を何度か聴いた事が、ありますから。


「この服…二つ付与できますね!」


まんまるお目々の師匠の目が力強い眼力で私を見返しました。やっぱり仕事中に適当な事を言うのは良く有りません。


「正解だ。おまえ…わかるのか?」


私は付与士としての才能がある。師匠に対して、そんな期待感と私の思わせぶり。実は適当…あてずっぽうとは言えない雰囲気になりました。


「父…父上の近くで見ていましたので!」


適当から嘘の上塗り。そして私はつかなくて良い嘘をどんどん上塗りしてしまいました。


「親父さん…帯はなんだ?」


…帯?帯って服についているあれのことよね?

確かに父上は帯をしていたわ。‥どうして、その事を師匠が知っているのかしら?


「確か…緑。そう、緑です!」


これは嘘じゃない。父上の容姿は今でも鮮明に憶えている。森を愛する民は緑が好きなのよ。


「緑か大したもんだ。俺は未だにお目にかかったことがねぇ。」


どうやら、帯の色で付与士はクラス分けされついるようだ。ドランが腰に巻く帯の色は青。七クラスの上から三番目のクラスだ。


緑、赤、青、黄…そして黒、白の帯順。

付与できる数の多さ。これが付与士のクラスの指標。そして緑はその頂点にいる。新たな付与式を生み出す事も可能な特別な存在。全種共通の理。


優秀な付与士が多いのは、人族。理由は寿命が平気的に他種族より短いから成長過程の中で多種多様な付与式を生み出した。そして、付与式の知識が乏しいのは魔族だ。魔族は魔力に頼る種族。だから魔族の特別な力に対抗するように付与式が広まった。エルフやドワーフ。人族から亜人と呼ばれる種族にもドランのような付与士はいるが、最先端の付与式は大概、人族から流れてくる。


「緑帯の付与士の娘なら、二式付与に気がついても、おかしくはねぇ。」


私が嘘をついたから、どんどん肩身が狭くなっていく。

二式付与なんて始めて聴いたし…どうしよ。今から適当でしたなんて言える雰囲気じゃないもの。


「熱耐性に…そうだな。おまえが入れてみろ。」


私は…ピンチです。危機的状況に陥りました。私の作業着に師匠が熱耐性の付与をしてくれます。そして、もうひとつの付与を私に任せると言うのです。


「私…経験ないです。」


嘘の上塗りをしたうえで弱気を見せる私。せっかく頂いたチャンスから既に逃げようとしています。そもそも付与をよく分かっていないのに…


「何をビビってやがる。失敗しても良いんだ。これは経験だ。楽しみやがれ。」


本当に、お人好しなんだから。

でも、私の嘘が無かったことに済ませそうです。失敗しても良いんだ。こんな言葉を言われたら、やる気しかありません。


「何…笑ってやがる。付与は、神経をとがらせる。思ってるより疲れるぞ。根性なし。」


あ!また失言だ。


私は、根性なしの言葉で耳がピクッと動かしました。暑さから逃げようとしたから、そんな言葉を思いついたのかしら。師匠は忘れている。私は、あなたが危険地帯だと称した場所を背負って突破した、元お客さん。


決して、根性なしなんかではない!


「しっかし…汗くせえ服だな。」


あ。あ。あ〜〜〜!!


私の作業着を、汗くさいと言いました。大量の汗は、工房の暑さが原因。それを脱がせたのは師匠。テーブルに広げたままにしたのも師匠。汗を吸ったまま乾いていく服なんて…大概くさいのよ!


「別に、私の体臭が原因ではなくてよ!」


気品溢れる立ち姿で、傷つく言葉を払う。

だから、私は決して根性なしなんかではない。


「終わったか?始めるぞ。」


「あ、はい。」


何この反応の悪さ。私が馬鹿みたい。


………………やっぱり私に初めから才能があるわけない。


師匠の熱耐性の付与が終わりました。私の作業着の後ろ…身体で言ったら背骨にあたる箇所を指でなぞっていきます。師匠の指先が青白く光っていました。師匠には言ってませんが、私は魔法が使えます。大した実力はないですけど剣術と魔法は里でも有名だったから。


だからわかるんです。この青白く光るものが魔力ではないことに。


「わかったか?やってみろ。」


今更、やり方なんて聞けない雰囲気だ。父上が最高クラスの付与士。そして二式付与を理解している私。そう思われていて、今更…


(暑さからのズル。付与を適当に語るエルフの女。)


流石のお人好しの師匠でも、呆れて私を破門にする可能性がでてきた。


「いいぞ。正解だ。」


今日の私って幸運かしら?

作業着をカウンターで表側に返したら師匠が、流石だと満足気な表情をしています。

私的には、手順がわからなくて表側をむけだけなんだけれど…


(真似しかないよね?)


表側の、身体で言えば…ちょうどオヘソ辺りを私は指先でなぞっる雰囲気を出しました。もちろんこれは先程の師匠の真似で他に意味はありません。


「ほう…円状型付与式か。シルフィ‥やるじゃねぇか!」


(あ。名前呼びされた!)


私の頬から汗…暑さからくる汗ではなく冷や汗が流れました。師匠の名前呼びは、真剣な時に使う落とし技です。これで私は何度も泣かされた。形見の短剣のとき、弟子入りのときも名前を呼ばれて私は泣き出したんです。


師匠は嬉しそうに私の指先を見ています。流石にこれ以上は演技できないかも。


「線が見えるか。上手く納めろよ!」


線?え。え。納めろって何。


駄目だ。私はもうついていけない。付与士の領域に私は無断で入ってしまった。


「線が見えているな。円状型で納めるきなんだろ?弟子のくせに高等付与式で俺を驚かせる気だな。」


線は見ています。私が見えている線は縫い目ですけど。師匠の言う線が分からない。私はもう適当も適当で、縫い目を師匠が言う線だと思い込んで、なぞりになぞりました。


私を、この作業から解放して下さい。もう嘘つきません。


見たこともない神への神頼み。頭の中は真っ白。都合の悪さからの目を瞑る逃避。身体は熱くなり指先が感覚的に震えているのがわかります。


こんな時に、私は発声しかできませんでした。


「えい!やーー!!」


この掛け声で作業は終わりましたという雰囲気に、無理矢理もっていきました。

私ができる精一杯の偽装行為。

この演技なら、失敗しても疑いは持たれない。

これで私を解放して下さい。


グハハハ!グハハハ!


豪快に笑ってしまう師匠は何時ものこと。でも今回はお腹を押さえて笑い泣きしている。


「グハハハ。腹が痛え。はぁ。」


脇腹をさすり、私の顔をみては再び笑い出す師匠。単純だとは認めたくはないけど、やや単純な私でも流石に気がついた。


「何処から嘘だったんですか!!」


師匠は熱耐性を付与したあとから、全部適当だったと白状した。


円状型付与式も、線も納めも全部、師匠の演技の一部。

嘘をついた私が悪いけれど、弟子を誂う師匠に私は怒りが込み上げてきました。


でも予想外な結果がありました。


二式付与は本当だったのです。そして私のよく分からない付与真似で付与が成功していました。


「いや〜。シルフィ。おまえ本気で才能あるぞ。」


師匠も驚きながら笑いだします。私は何故付与が成功したか理解が追いついていないのですが。


私の人生初の付与は‥【防臭耐性】でした。


「気にしすぎだ。鍛冶屋で働く者は汗臭いのが普通なんだ。別におまえが悪いわけじゃねぇ。」


翌日、熱耐性と防臭耐性が付与された作業着をきて師匠と共に付与協会という場所を訪れました。そして受付を済ませ、師匠が見守る中、講習と簡単な実技を受けました。


周りはドワーフだらけ、皆、私を何度も何度も見ていました。ドワーフの国で付与の資格をとりにきたエルフ。

珍妙な現場で私は渡された白帯をエプロンの紐かわりに腰に巻きました。因みに後ろは女性らしさを少しでもと

大きめなリボン風に結び目をこだわりました。


変かな?


そう思いもしましたが、大きな洗濯ばさみを髪留めかわりにする流行りがあるドワーフの国。私の帯リボン結びも、きっと受け入れてくれると思います。


だって仲が悪いエルフとドワーフ。

私はまだ、私を嫌うドワーフに出逢っていないから…




        第一章  完





いつも読んで頂きありがとうございます。

次回から第二章【10年後のエルフとドワーフ】

となります。


もし宜しければ、ご評価をお願い致します。


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