工房
「反省中です…」
頭が痛くてふらふらしているのは私です。
師匠に怒られる前に反省している感じにしているのは、怒鳴られると頭に響く可能性が高いからです。
こんな状態でも、身を守ることを考えてしまう私は…
意気地なしかも知れません。
「今度からは俺の前で飲め。外で飲むなら俺を誘え。」
お説教は無し。そして…今度からは師匠と一緒に飲むことができる。
……酔っぱらうのも悪くない。
「それより裏庭行くぞ。」
良かった。今日から師匠と一緒に仕事ができる。少し不安だったんです。私は仕事の邪魔をしているんじゃないかと思われていると。
「………かっこ…つけ師匠。」
朝からお説教はなし。でも私は今…すごく、泣いています。
師匠は師匠で腰に手を当て、自慢気な表情をしているし。それが格好良く見えてしまうのも悔しいけど、今は嬉しくて涙が止まらないんです。
「エルフのサイズとドワーフのサイズじゃエルフが大変だからよ!」
確かに種族間で能力や体格差の違いはあります。私にとってドワーフの生活用品は少し低いし小さいです。だからと言って私からあれこれ注文を入れるのは、おかしい話し。
だって私が、その環境化に入ったのだから。
裏庭に、たった二日で建てられた木製の小屋が二棟。片側には【シルフィ工房】と書かれた看板が設置されています。泣き出した私のお尻を分厚い手で叩いて中を見ろと促す師匠。
私のお尻は、そんなに安くない!
そう言ってやりたい気分も感動で消えてしまいました。
師匠の工房の窯より少し入り口が広くて机も大きめ。
もう片方の小屋は私が寝泊まりしやすいように、ドワーフサイズより大きめのタンスにベッド。
「こっちは、寝泊まりだけの小屋だから質素だ。必要なものがあったら言ってくれ。工房の道具は俺のお古を使え。おまえの形が定まってきたら新しく買うのもありだ。」
私の嬉し泣きが、師匠をどんどん調子良くさせていきます。
女の涙で、調子良くなるなんて最低師匠よ!
「…私、まだ何もしてない…です。」
グズッ…涙ながらの私の言葉を聞いて、いつもの豪快な笑い方をする師匠。
「弟子だからって、合わない設備をつかわせたら弟子の伸びしろを止めてしまう可能性がある。伸び伸び仕事をしねぇとな。弟子も師匠も関係ないんだ。ハンマー握ったら、作り物と向き合うのが鍛冶魂だ。……なんてな。」
何で…何で私は、こんなお人好しと巡り合ったのかしら?里が滅びて10年。始めは逃げる為の逃避行。そして、心にあいた寂しさを形見を直して少しでも埋めたくなった。
その結果が、関係性が悪いドワーフの街で見つけた鍛冶屋の看板。開けると、だらけたドワーフ。
私が旅してきた道のりより幾分も楽な経路を、危険地帯だと脅してきたくせに…
弟子にして、寝泊まりの場所まで与えてくれた。
これはつまり…
「私の身体が目的ね!」
……ひゃあ。
馬鹿言ってねぇで、工房に荷物運ぶぞ。とまたお尻を叩かれました。
朝から荷物運び。素材は良い物順に棚に並べます。石炭は空の酒樽に山盛り。そして、もうひとつの空の酒樽には裏庭の端を静かに流れている小川から汲んだ水を入れました。
「暑いとか弱音吐いて、この水飲むなよ。腹壊すぞ!」
馬鹿にしないでほしい。私は独りで火山帯を越えたんだから、あの時の暑さに比べたら工房の中なんて水風呂並みの冷たさよ。
「だめ〜。もう無理だよ〜。」
師匠は私の小屋の窯の耐久度を確認するといい。窯にどんどん火をくべていきます。バチバチと炎が強みを増していくと部屋の中の熱気は今にも爆発しそうな息苦しさを私に与えました。
「窓開けろ。もう少し確認してぇ。」
これ以上は、無理かも。工房の小窓を急いで開ける私に外から吹く風が…風が…………無風でした。
「風よ吹き荒れろ!!」
私は、窓から外に叫びました。熱気で喉も熱かったですけど…頑張りました。
でも、無風は無風のままでした。
「馬鹿言ってねぇで、追加の石炭を持ってこい。場所は分かるな!」
私はやっぱり意気地なしだ。石炭の補充を理由に外にでたのは師匠の指示。でも歩く遅さは私の意思。裏庭へ繋がる勝手口の横の屋根付きの材料置き場にある無数の小さな箱。この箱すべて石炭だ。足りない時はここから補充だと言われていたのはつい先程のこと。
いくら私でも迷う理由がないのに…私は迷ったふり。そして、箱で持っていけば良いのに私は掌に二つの石炭をのせ直ぐに戻れる工房に歩幅を細かく刻み時間を使いました。
「おう。遅かったな。」
扉が開く音に反応した師匠は、私に背を向けたまま声をかけてくれました。
「少し迷って…」
迷う理由がないのに、私は言い訳をしました。流石の師匠も、お、おう。と、迷うかと疑問ありげな反応を見せます。
窓は全開。でも工房内は炉の熱気が溢れています。入ったばかりで、今すぐ退出したい気分に変わりはありません。
「は、はい。」
追加の石炭をくれと、師匠は私に背を向けたまま厚手の手袋をつけた掌を見せます。
「もっとだ。」
「は、はい。」
……………………?
「これで全部か!」
「は、はい。」
炉の炎を見つめていた師匠が振り向いて私をみています。何か言いたそうな表情をしていますが、まだ弟子になって3日目でも、私には分かります。
「バカヤロー!」
やっぱり。バカヤローだ。でもこれ以上、熱で苦しめられないと思うと叫ばれても落ち込みません。
「何で満足気な顔をしてるんだ!バカヤロー。」
これから私は何回、バカヤローと言われるのかな。
今から楽しみです。




