触れて得た光
「!?」
弾かれたことに驚いている暇もなく、今度は反撃とばかりに敵がこちらに遠距離レーザーを放ってくる。それを避けると、私が避けた場所めがけて敵が突進してくる。
(私の動きを誘導するための攻撃か!?)
実にいやらしいことをしてくるが、実に効果的といえた。飛行にそれなりに慣れたとはいえ、それでも何度も急制動を行うのはできないのだ。一度でも避ければ、そのあとすぐに同じような鋭角な動きはできない。かといって敵の攻撃がどれほど強力かもかわからない状況で、あえて受けてみるということも難しい。
しかも私を二人から引き離すつもりなのか、どんどん上に行くように攻撃をされて、地面と離れるように誘導されていた。またこの避けることを強要されることは、こちらの最強の武器である近接武器による攻撃を行うのも、封じられているといってよかった。
残された右腕のアームキャノンで敵を攻撃するも……こちらも同じようにはじかれた。それはチャージショットも同様だった。
「だったら!」
遠距離が駄目ならば殴ればいいと考えて、私は愛用の木刀を両手で握りしめた。空中で振るうなど、訓練したことがあるわけもないのだが、相手の速度が速いことを考えれば、新路上に妨害のように差し出すだけでも意味がある。そう思い体ごと避けてから敵の進路に木刀を差し込んだのが、見事に私が吹き飛ばされるだけとなった。
「うぉぉぉ!?」
今まですべての敵を吹き飛ばしてきた木刀が、逆に吹き飛ばされたことで思わず間抜けな悲鳴を上げてしまう。武器を手放すという醜態を晒すことはなかったが、それでもこちらの攻撃が通用しないというのは、分かった。
また唯一光明が見えたのは……木刀事弾かれたその時、明らかに他とは違う箇所を見つけた。集中して見ると……明らかにコアというか弱点のような、赤く丸い突起があった。サイズ的には野球ボール程度だった。
見た目といい、ほかの体表が黒色なのにそこだけ赤いことといい、明らかに弱点と思しき場所だが……そこまで精密射撃やら木刀での突きができるわけもない。
(しかしこちらには、最強の狙撃手がいる!)
「真矢さん!」
「はい!」
「敵の体表、赤い突起を撃ってください!」
高速で突撃をしてくる相手に対してここまで言えばわからないはずもなく、真矢さんがすぐさま射撃体勢を取り、狙いを定め始めた。その姿は堂々としており、不安が一切感じられなかった。思考が加速している私ですら狙うことができない、すさまじい速度で飛び回る敵の野球ボールを狙撃するつもりなのだ。
そしてそれは……見事に果たされた。
!!!!
コンテナ上部より放たれた一筋の閃光。それは違えることなく敵の赤い部分に命中したが……敵は痛がる素振りすらも見せずに、私へと攻撃を繰り返した。
(威力が足りないか!?)
すれ違いざまに見れば、変化が見られなかった敵の赤い部位。傷がついているのかどうかは謎だが、痛がる素振りも見せない以上、歯牙にもかけていないということだろう。
(どうする!?)
木刀で赤い部位を攻撃できればどうにかなるかもしれないが、この速さで飛来する物体に木刀を正確に突き入れるなど、私にできるとは思えない。璃兜さんも飛べない以上、どうすることもできない。唯一攻撃を当てることができる真矢さんは、武器の関係もあって威力が足りない。このままこの状態が続くとは思えず、仮に続いて回収部隊が到着しても、この個体から逃げられるとは思えない。まさに八方ふさがりだった。
宗一さんがはるか空の上で戦っている。宗一さんが伝えてくれた赤い部分。私の狙撃では倒すどころかダメージを与えることすらできなかった。璃兜の装備はすべて中距離以下だ。あれほどの高度で繰り広げられる戦いに、手を出せるはずもない。
狙撃銃での射撃。観測機器によれば間違いなく命中したと断言できた。それでも反応すらも示さなかったことを考えれば、璃兜のアサルトライフルをばらまいても気にも留めないだろう。むしろ宗一さんの邪魔になるだけだ。
「ダヴィ中佐! 敵は飛行型で、宗一少尉の攻撃は一切通用しておりません。狙撃ができるドゥ大尉は!?」
「絶賛戦闘中で、とてもではないけどそちらに行かせられない!」
ほかの二つの基地のことは詳しくはわからないけれど、マテリアルライフルを持っているドゥ大尉であれば打開できるかもしれない。そう思っての言葉だったけど……援護に来るのは難しいみたいだ。
また、仮に手が空いていたとしてもここは利島。輸送機で来るにしてもそれなりに時間がかかる。それまで宗一さんが持つかわからず、そしてこの状態が続くほど、敵は甘くなかった。
!!!!
警報が鳴り、周囲より敵が迫ってきているのが分かった。幸いなことに人型種のみで数も少ない。璃兜がいれば何も心配する必要がない。けれど……嫌な予感がして仕方がなかった。
「任せて! 真矢は周囲の警戒と、打開策を考えて!」
上ってくる敵に対応するため、璃兜が戦闘態勢へと移行する。人型種相手であればアクティブスーツの狙撃銃でも倒すことは可能だ。けれど……これではただ引き延ばすだけで何も解決しない。璃兜が一人で対応できているため、私は空へと目を向けて、対策を考えた。
(何か方法は!?)
今の装備がオーラスーツで、愛用しているオーラライフルであったとしても結果は同じだというのは、なんとなく想像ができた。ドゥ大尉がいればマテリアルライフルの威力でどうにかできたのかもしれない。ないものねだりをしても意味がないことはわかっている。けれど何もできない今の私の頭から、くだらない思いが消えなかった。
そんな私の無力を笑うように、状況はさらに悪化の一途をたどっていく。
「嘘!? 中型種が!?」
警告音が鳴り響いて、中型種が接近していることが分かった。種別はギベレギベレ。中型種の中でも小さい部類に入るけれど、こいつの最大の特徴は水中でも活動が可能なことだ。近くを泳いでいた個体が集まってきたのかもしれない。
(まずい!?)
一体だけならばどうにかなったけど、レーダーには複数の数が上陸してきているのがわかる。足手まといの私がいなければ璃兜一人で討伐が可能だけど……私がいる以上、どう考えても対応することができない。詰みといっていい状況だった。
「数が三体。せめてマヤ君がオーラスーツであれば……」
ダヴィ中佐が本音を漏らしている。そしてそれは私も同感だった。オーラスーツであれば、特殊な個体でない限り、ギベレギベレごとき、私と璃兜の敵ではないというのに。
「オーラマテリアルを餌にして、食いついている間にソウイチ君が飛んで逃げて……だめだ。最高速度はあちらのほうが上だ。装備をすべて捨てて生身の二人を抱えたとしても、追いつかれる」
採取したオーラマテリアル、私たちの装備を捨てて身軽になっても、追いつかれる。完全に対処しようがない状況になった。仮に私と璃兜を犠牲にして宗一さんだけで逃げたとしても、海上で殺されるのが目に見えていた。
打開策が全く見当たらず、救援も見込めない。まさに絶体絶命な状況に陥った。つい最近も味わった……死を目前にした死への恐怖。そしてあの時とより状況がひどいのが……私がオーラスーツではなくアクティブスーツの姿であるということだ。
オーラスーツではあったけれど、あの時は損傷してまともに動けなかった。けれど、FMEに通用する武器があり、自らを守ってくれる鎧ともいえるオーラスーツがあった。
(でも……)
あの時より武器の威力は低く、鎧もない。だけれど……満足に動くことのできる装備がある。
また決定的に違うのが……あの時と違って、今は宗一さんがいる。
そちらに目を向ければ……今も新種に対して必死になって対応している姿があった。木刀を突き立てるように構えているのを見て、あの速度で飛来する新種の赤い部分を突こうとしていることに気づいて……私は心を震わされた。
璃兜だって、泣き言を言わずにコンテナに……私に近づこうとしている敵のことごとくを倒してくれている。ならば今の私がすべきことは悲観じゃない。
自分ができることをするだけ!
そう考えた瞬間に、体が動いていた。私はすぐさま周囲の警戒をやめて、一点のみ……新種の赤い部分を撃つことのみに集中した。
(一発でだめなら!)
一発でだめならば何度でも撃てばいい。そう自然と考えていた。赤い部分を破壊しようと、今も必死になって攻撃をしようとしている宗一さんの姿が、その思いをさらに強くさせた。
!!!
一射撃ち。
!!!!
二射撃つ。
!!!!
二発とも機器が命中したことを教えてくれるけれど、敵はこちらを見向きもしない。完全になめられているのが分かったけれど、そんなことはどうでもいい。なめてくれるならありがたい話だ。私が新種を撃ち抜くその瞬間まで……私のことなど意識してくれなくていい。何度でも撃つ。そう思っていた。
その時だった。
突如として、眩い光があふれ出して私を照らした。しかしそれに気づいている人は誰もいなかった。宗一さんははるか下のことに気を取られる余裕はなく、璃兜は山頂から少し下ったところで中型種と戦っているので、それも無理もないことだ。けれど、基地から情報でこちらの状況を確認しているダヴィ中佐が、何も言わないのが気にかかった。
しかしそれも一瞬だけで、私はすぐさまその光の元を探した。そしてすぐに見つける。
私の視線の先にある、光輝くオーラマテリアルを。
「どうしたんだマヤ君! いきなり――」
「ダヴィ中佐、お願いがあります」
戦闘中だというのに戦闘行動を止めた私を咎めるように、ダヴィ中佐から通信が入った。普段の私であれば、上官の言葉を遮る真似なんてしないのだけれど、今は必要だと判断して言葉を遮った。
(私の視覚映像もダヴィさんは確認しているはず。なのに何も言わないということは、少なくともこの光を今認識しているのは私だけだということ)
宗一さんはこの光を無理事が出来るし、璃兜もおそらく見ることができる。もはやこれは確信だった。そして、これが状況を打破することができるものだと、機器が何も反応しないことで、間違いないと思えた。
「……どうしたんだい?」
「今回採取したオーラマテリアルの資格者の権限を、私にいただけませんか?」
本来、オーラマテリアルが採取された場合は、基地に持ち帰ってどのように用いるのかを審議する。エンジン等に利用するのであれば問題ないけれど、マテリアル兵装にする場合の審議はかなり慎重に行われる。現在の戦線状況や、マテリアル兵装にするための歴史的武具などの状況、さらには適合者の問題もあり、いろいろな要素が絡むためだ。
巣を攻略したときに見つけた場合と違い、今回のは突如として検出され採取に向かったパターンだ。巣の深部にあるといわれていたオーラマテリアルの採取は、今のところ宗一さんが入手した事例しかないが、それでも巣の内部のオーラマテリアルは見つけた人が優先権を得る。
けれど採取の場合は優先権は設けられない。今回とおなじような、突如として発生し採取に向かったことは歴史的に見ても多い。突如として検知されるので、その時動ける部隊で採取を行うからだ。
そのため、今回の場合は私に優先権など与えられるわけがない。それに何より……このオーラマテリアルに、私が適合するなどという根拠はどこにもない。
けれど……機器が反応せず、だれも反応しない中で、私にだけ見えるこのまぶしい光を見て、なぜか私は確認していた。
この状況を打開することが可能な、一縷の光だということを、
「理由は?」
「光って見えるからです」
「……確かかい?」
「はい」
ダヴィ中佐の確認の言葉にすら、私は断言した。普段の私からは考えられないことだったけど、そんな気弱な気持ちは一切抱かなかった。それがダヴィ中佐も意外だったみたいで、一瞬きょとんとしてしまったけど……すぐに笑みを浮かべてくれた。
「わかった。ダヴィ技術中佐の権限の元に、そのオーラマテリアルの資格者の権限をマヤ君に付与する」
「ありがとうございます」
許可が得られた。その瞬間に私は光るオーラマテリアルに跪いて、両手で触れた。
【止めて】
触れたその時、確かにそんな言葉が耳に入ってきた。止めるというのが、私がオーラマテリアルに触れることではなく、別のことに対していっているのだと分かったけれど……何に対して止めてほしいと言っているのかは、わからなかった。




