接敵
そんな部隊運営を続けて一か月余り。それだけの時間があれば実戦もそれなりにこなすことになった。そしてその過程で、小堂丸でFMEと戦うことにもなったのだが、大きな変化は見られなかった。確かに木刀よりも強いのは間違いないのだが、木刀の時とほとんど変化がないのだ。
率直に言って……斬りかかった対象が、木刀と同様に吹っ飛ぶのだ。
「「「「はっ?」」」」
私、真矢さん、璃兜さん、ダヴィさんがそろって、戦闘中であるにもかかわらず、間抜けな声を上げたのは記憶に新しい。測定されるオーラの数値なども、木刀に比べて相当量上なのだが……結果が木刀同様吹っ飛ぶのでは、ほとんど意味がなかった。
殴るのではなく切ることが出来るようになると、私もダヴィさんも思っていたのだがオーラの力が強力すぎるのか、それとも他に理由があるのかは謎だが……ともかく期待していたほどの戦果と研究結果は上げられなかった。
(まぁしょうがないか)
と、私はその程度で済むのだが、ダヴィさんとしてはけっこうショックだったようだ。他にも何度か頼まれて小堂丸でFMEを討伐するも、結果は一緒だった。それについては追々何かが変わることを、期待するしかないだろう。
(個人的には……別の方が問題だな)
また……本当はやりたくなかったのだが、剣術の指導もついにさせられることとなった。しかも悲しいことに……弟子は真矢さんと璃兜さんのみ。つまり相手は女性であり、門下生は女性だけだった。実験部隊を運営しており、他の部隊は連日関東平野の掃討作戦で忙しい。故に弟子入りさせることが出来るのは、二人だけだったのだ。
(……まぁ命令故に仕方あるまい)
そう自身を無理矢理納得させて指導を行うこととなった。指導を始める前に、千夏司令も通信で見届けてもらって、指導に伴った身体的接触については指導として扱ってもらうこととした。指導にどうしても必要故……これについて納得してもらわなければ、弟子入りは断ることとした。
(……不本意だが、開祖みたいな扱いになるということだし、中途半端はしたくない)
失伝してしまった剣術。そんな状況で私が道場を開けば、必然的に剣術を復興させた人間となってしまう。
私の心身共に人生の助けとなった刀と剣術。何よりもお世話になった真壁師匠や道場のみんなの顔に泥を塗るわけにはいかない。やるからには真剣に、本気で取り組まねば、私は刀と剣術に対して無礼を働いてしまう。それは避けたかった。
身体を触れることについては説明したら、璃兜さんも直ぐに理解を示してくれたのだが、そこからが厄介だった。何せ璃兜さんも光夜少佐ほどではないが、間違った修練を身につけてしまっている。ほぼ完全な初心者の真矢さんは、正しい素振りの型を見せ、何度か素振りをさせて型が安定してきたら放置で済むのだが、璃兜さんはそうは行かない。
(まぁしょうがないけど……型がまるでダメダメだ)
指導者もいない上に、得物がビームサーベルだ。何せ剣身とも言うべきビームの部分が当たれば対象を焼き切っているのだ。型がまともであるはずもない。
しかし一応オーラによる恩恵があるとはいえ、マテリアル兵装であるマテリアルソードは、歴とした質量のある物体的な得物。刃がある得物であるため、刃を対象の対して垂直にしなければまともに切れるはずもない。
それをするためにかなり根気のいる修練となるだろうことは、璃兜さんも納得していたが……一朝一夕では行かないのを覚悟しなければならないだろう。
(まぁ幸い……予算というか、資材とかはそれなりにあるようだが……)
ダヴィさんの裁量で、それなりの機材やら資材も使わせてくれることとなったので、それらを活用していく。録画を取ったりして動きを本人に見せたり、体に触って筋肉の動きを意識させたりと、なかなか大変な目に遭っているが、やりがいはそれなりにあった。
といっても、道場の時間は夕方の終業時間後の二時間程度。この程度の時間と日数では大きな成果が上げられるわけもない。追々やっていくしかないだろう。千夏司令的には、光夜少佐が此方に来たときの予行演習の意味合いが強いのかも知れない。
何とか頑張るしかないが……今後は光夜少佐の弟子入りも確定していると分かれば、正直気が重いというのが正直な思いだった。
(やるしかないが……憂鬱だ……)
そうして部隊運営、実験、道場での師範としての日々をそれなりに送ることとなった。残敵掃討に伴って救援要請も減り、全体的な戦力に多少の余裕ができたことから、今までと違い、遠出を行うこととなった。
その日だった。
突如けたたましい警報がコンテナから鳴り響いて、思わず体がびくっと反応してしまった。
「この音は!?」
「緊急招集音?」
私は何の音かはわかってなかったが、真矢さんと璃兜さんはわかっていたのか、音に驚いているのではなく、音の種類に驚いていた。
揚陸作戦を想定した軍事訓練の最中だった。装備状態の二人をハンガーに固定した状態で沖合までコンテナで飛び、コンテナを釣った状態の最大速度で浜辺まで移動し浜辺に着地、コンテナから二人が展開するのを援護するという訓練を行っていた。
二人がコンテナの中にいる状態で鳴らなくてよかったと心の中で安堵していると、ダヴィさんを映した画面が顔の前に映し出された。
「演習中に済まない。緊急事態だ。先ほど東京湾沖にある利島にて、オーラマテリアルの反応が突然検知された」
その言葉に二人に緊張が走った。強力な武器になり、機械製品の部品として使えば特性を飛躍的に向上させる鉱石。いまだどういう原理で鉱石が出てくるのかは解明されていないが、戦争中ということもあって、どの国ものどから手が出るほど欲しい物体である。
「場所は利島山頂付近だ。正確な位置までは把握できなかった」
その言葉とともにさらに別の画面が表示され、東京湾の地図が映し出された。そこから沖合に向けていくつかの拡大表示を経て、島が映し出された。
(伊豆半島近くの島か?)
正直な話、地理に関しては本州を意識してみていただけで、細かいところまで自分の知識との差異があるかを確認していない。しかし今はそれどころではないし、あまり大きな影響はないと思い、私はダヴィさんの話に集中した。
「あまり大きな島ではなく、戦力を割く余裕もないため、この島は人の手から離れて久しい。定期的な調査などを行うために滑走路は整備されているが、それだけだね」
離島というほど離れてはいないが、小さな島だ。不便極まりなく、過疎が進んでいた場所の筆頭だったはず。私の平和な世界ですらそれなのだから、いくら科学技術が発達したこの世界でも不便には変わりなく、戦争状態で余裕があるわけもないので、無人になるのも当然と言えた。
久しい……という期間がどれほどなのかは謎だが、手から離れている以上道の整備などされているわけもなく、補給なども行いにくい。しかしこの世界の輸送機は、オーラスーツを一部隊……六機搭載が可能なうえ、反重力装置のおかげで垂直離着陸が可能なはず。そして垂直離着陸が可能であれば、ヘリのようにその場での滞空が可能なはずだ。二人が緊張するほど厄介とは思えない。
そう思ったのだが場所もそうだが、問題なのは部隊の数がより深刻なようだった。
「現在、すべての部隊が稼働状態にある。救援要請のための輸送機で上空待機の部隊をいくつか配置しているが、それも現在救援要請で動けない状態だ」
話しぶりから察するに、突如出現したオーラマテリアルの回収に行くことができるのは、私たち三人だけのようである。
「なぜ突然反応が検出されたのかは謎だけど、ともかくすぐに調査に向かってほしい。そして可能であれば即確保だ」
私は一度このパワードスーツを入手したときに、人類によって採取されたオーラマテリアルがどんなものかは見ているが、採取の仕方は全く知らない。それを知らないはずがないダヴィさんが、一個小隊に満たない人員しかいない我々に指示を出すということは、今の装備でも採取が可能だということだろう。真矢さんや璃兜さんが、戸惑うことなく指示に従っているところを見れば、それはうかがえた。
ただしやはり緊張はしているようで、顔がこわばっていた。
(何事もなければいいが)
訓練を中止し、設営した機材も必要がないものは放置し、すぐさま利島へと向かう。
「質問なのですが、オーラマテリアルの採取はどのように行うのですか?」
飛行中、外にいる私は通信で二人に疑問を投げかける。
「採取はオーラマテリアルを一定量使用された採取器具を用いれば、オーラマテリアルが取り込まれず採取が可能となります。このコンテナにも、採取のための最低限の装備が備わっていたので、あまりにも巨大でなければ採取が可能だと思われます」
採取の方法は、オーラマテリアルを一定量使用した巨大なトングのようなものでつかみ、これまた同じく一定量オーラマテリアルが使用された封印箱に入れることで運搬が可能となるらしい。箱は私がこの世界にきて初めて見た、バイオハザードのマークが描かれた箱だった。
巨大すぎなければという前置きをわざわざつけたということは、箱のサイズを超えるオーラマテリアルが発見されたこともあったということだろう。そう思って疑問を投げかけようとしたのだが、つい先日、フライトアーマーを入手した時のサイズが私よりも巨大だったことを思い出し、私は口を開いてそのまま閉じた。
「あまり想定したくないけど、基準を大幅に超えるサイズのオーラマテリアルだった場合は、回収部隊が到着するまで守っていてほしい。念のため回収部隊の手はずは今最優先で準備しているから」
悪いことはよく当たるとまでは言わないが、これがフラグになってしまった。
「結構なサイズね」
「これは……どうしようもないなぁ」
璃兜さん、真矢さんが実に微妙な反応をしている。大きいのは量が多いということであり本来喜ぶべきことだ。しかし、ここに来たのが私たち三人ということを考えれば、守り切れるかという意味で厳しいものがある。実に素直な反応といえただろう。
物質と同化することで、その物質や機器などの特性や、込められた想いを向上させる性質上、適当なもので触れてしまえば、その適当なものと同化してしまう。ゆえに一定量のオーラマテリアルを使用した器具を用いて、無心で機械を操作して、一定量使用された封印箱に封印するという手順が必要となってくるようだった。
「ちょうど箱と同じサイズですね」
これが少しでも小さければ蓋を開けたまま無理やり入れるとかもできたのだが、見事にサイズが一緒。これではどうにもならない。そうなると護衛するしかない状況になるのだが……
(見事に、だだっ広いところだな)
山頂なのだが、山頂が平たくなっておりそれなりの広さがあるが、周りに何もないちょっとした広場のような場所だ。面積的にはバスケットボールのコートくらいの広さで、私が運んだコンテナのほかに輸送機を着陸させるほどの余裕はない。見晴らしがいい代わりに遮蔽物等が一切ない。そんな状況である
「純度はかなりいいね。量も申し分ない。ほかの二大基地にも問い合わせたけど、輸送機の空きがないらしい。何とか元パラレル部隊の三人に声をかけてるけど、今日に限ってかなりの数のFMEがいるみたいだ。しばらくは難しいね」
今日に限ってとダヴィさんはいうが……なんというかあからさまに狙ったような動きに、私はどうしても違和感がぬぐえなかった。しかしそんな違和感などお構いなしに、私の背筋に悪寒が走った。それと同時に……コンテナの警報が鳴り響く。
「!? 接近中の敵影あり」
真矢さんがそう告げるが、その報告を聞くまでもなく……なぜか私は接近してくる敵がどこにいるのかわかって、そちらへと視線を向けた。
山頂に降ろしたコンテナの、直上数メートルの高さで滞空していた私が、ちょうど水平に顔を動かして利島から伊豆半島へ……すなわち北に視線を向けた。その先に……すさまじい速度で接近してくる飛行する何かがいた。
「敵影補足、12時の方向より……飛行型!?」
「うそでしょ!? この最悪のタイミングで!?」
そんな声がしたから聞こえてくるが、私はそれどころではなかった。何せ……加速している私の思考と五感ですら、急接近してきた飛行する敵を完全に捉える事が出来ずにいたのだから。それほどの速度だった。そして二人の会話が終わるその前に……それは私を自らの射程にとらえた。
「■■■■■■!!!!」
耳に聞こえぬ悲鳴が脳に響き、それよりも先に敵の攻撃がこちらに迫った。
(っ!?)
それを辛くもよけた私。その避けた次の瞬間には……もう私を通り越していた。
(光線のような遠距離攻撃!? そのあと本体が来るのにほとんど誤差がない!?)
一瞬だけ見えた敵の横からの見た目は……矢のような見た目をしていた。というよりも正しくは戦闘機の先端がより鋭角になっている見た目というべきか。そして……この敵の姿に私は既視感があった。
(どう見てもファルバルクですね!?)
ハンターオブモンスターに登場する、古代怪龍種ファルバルク。四肢で地を這う龍であり、背中には一対の翼のようなものを携えたモンスターだ。はためかせるのに向かない形状のその翼のようなものは、特殊なエネルギーを放出する噴出口であり、一応龍という生物のくくりであるにも関わらず、ジェット戦闘機のように空を飛ぶのである。
物理法則を完全に超越した存在だが、そこはそれ。ゲームなので問題はないのだが、そこは今関係がない。
「データなし。新型だね!」
ダヴィさんの声が耳に入ってくるが、今はそれに気を回す余裕がない。避けた後の敵の動きに注目する。
(旋回性能は……さすがにそこまでではないか!)
無理に避けて体勢を崩した私が、相手に向きなおって敵の姿を見つけると、まだ旋回をしている最中だった。ならばこちらも十分に攻撃ができる。
(ファンネル!)
心の中で叫んで、私は六つのオーラファンネルを敵に向けてはなった。それによりさらに思考が加速されて亜光速のレーザーを思考のまま操った。そして、六つすべてが敵に命中するのだが……見事にすべてがはじかれた。




