新部隊稼働
「私としては、知的好奇心を大いに刺激してくれるから、それで十分なんだよね。ただ……それですませていい存在ではないことも、理解している」
科学者として、興味深い研究対象なのは間違いない。しかし、その不思議存在の研究だけをしていればいいような世界情勢ではなく、また研究対象で終わらせていい存在でもない。それは誰もがわかっていることだろう。
前線での強力な武器が不足していると、真矢さんが私に教えてくれた。ゆえにこそ、不思議な存在である私を研究することで、新たな兵器が生まれることを願っているはずだ。
しかし先にも述べたが、私の装備はすべて異質すぎる。記憶から読み取っただけで生まれたパワードスーツ。私の剣術人生そのものの木刀を取り込み、最強の打撃武器と化した愛用の木刀。敵の巣に行ってボスと戦い、新たなオーラマテリアルを使用して、私の記憶から新たに生み出された、フライトアーマー。
直近では、ついに私の愛刀である小堂丸まで、取り込んでまった。
(……本当に、なんなんだろうな)
奇想天外すぎること、状況が結構動くこと、何より……考えるのが怖いこともあって深く考えなかったが、明らかにおかしいことが起こりすぎている。
というよりも都合がよすぎる。人員的なものは運で片づけることができるが、フライトアーマーを入手した経緯が一番異常だ。落とし穴が足元に突然できたというのに私はそれを認識できなかった。私のバイタル情報を確認するための機器によれば、私はその瞬間意識がなかったらしい。
(なぜ、一瞬だけ意識がないのか?)
ほかの機体の記録などを見れば足元に落とし穴ができたのは確認できるのだが、その落とし穴ができた前後の記憶が、私には一切ないのが謎だった。
おまけに穴の底には強敵がいたとはいえ、オーラマテリアルが存在していた。落とし穴に落とされたことが、あまりにも作為的というか、何かしらの意思を感じてしまう出来事だ。
そして節目というには少し違うのだが、この世界に来た時や、オーラマテリアルが絡んだ時に聞こえる謎の声。あの声の主が……私をこの世界に転移させた存在だとするのならば、本当に一体何を望むというのか?
(そして当の本人よりも、周囲の人間のほうが私という存在は不気味な存在で状況だというのに、よく人間扱いしてくれているものだ)
本当に、ここぞというところで運がいいのが私である。ありがたい話だ。
「飛行は無理でも、何かしらのデータが取れるだけで意味があるはずだ。いや……私が意味あるものにして見せるとも」
小さい体で胸を張るその姿は、年相応に見えるものだったが、その覚悟は大の大人でもそうやすやすと抱けるものではない。世界が違う、状況が違う、時代が違うといえばそれまでだが……それでも彼女はまだ乙女と言っていい年齢だ。この子に最低な意味での迷惑をかけないようにしなければならないだろう。
「そんな貴重な機会に巡り合えた私は幸運なのだよ。だから……誰にも邪魔はさせない。こんな面白い体験を、ほかの人に譲るなんてとんでもないことだからね!」
前半は相当な覚悟で臨むつもりであると、異性どころか同姓ですら惚れてもいいほどかっこよかったというのに、後半でお茶らけてしまったので台無しである。しかしそれが彼女の性格なのだろう。というよりも、自らに暗示をかけているように見えなくもない。
「私も頑張るけども、皆にも奮闘を期待しているからよろしくね!」
「「「了解」」」
「また、この部隊の名称はSEC部隊だ! SOUICHI EXPERIMENT COLLECTを略してSECだ!」
(……嫌な名称だなぁ)
Experimentは実験、Collectは収集という意味だ。言いたいことは分かるが……その書き方だと私を直に実験するように思えてしまう。
「コールサインはSになるね! もちろんマヤ君はSLだ!」
「は、はい!」
私が内心で眉を顰めていたのだが、そんなことなど関係なく話は進む。ダヴィさんに新たなコールサインを言われて、真矢さんが緊張気味に返答をしている。自分がリーダーであるというのを改めて突きつけられて少々戸惑っているのと、慣れなければならないと思っているのが、その声色によく出ていた。
「では各員、装備を纏って待機だ。その間にソウイチ君はフライトアーマーを装備して、コンテナが運べるかの確認を行うよ!」
「「「了解」」」
元気いっぱいに乙女が言うものだから、まるで遊びの時間の始まりとでもいうような雰囲気になってしまっているが、これは正式な軍事行動。ふざけるつもりはさらさらないが、気を引き締めてかからなければならないだろう。
私の場合、装備の装着は一瞬で終わるので、格納庫の扉が開いている間に準備が終える。コンテナと私を繋ぐのは、オーラマテリアルも少量使われた特注の牽引用ワイヤー。手で持つのでは危険なので、パワードスーツの上からハーネスを着込んで接続する方式が採用された。
装備してからハーネスにワイヤーを固定。そして飛行できるかのテストを行った。結果としては特に問題なく、コンテナを宙づりにしたまま飛行できた。これは反重力発生装置のon、off共に飛行できた。
しかし中に人を入れることになるので、そのあたり気を付けなければいけないので、そこが結構面倒だった。まずは人が中にいることを想定した飛行訓練を行う。最初はダミー人形を入れて行った。
コンテナには、オーラスーツとアクティブスーツ、およびそれに付随した装備を固定できるハンガーのほかに、搭乗員の椅子と簡易ベッドも据え付けられており、そのどちらも人体を固定するための器具が備わっていた。おまけにトイレと簡易シャワールームも完備されおり、挙句の果てには流し台もあった。
(ちょっとした移動基地という感じか?)
さすがに本格的な調理ができる施設こそないが、お湯が出る流しに電子レンジがあるので、まじめに小型拠点として活躍できるものだ。ここまでくれば輸送機でよいのではないかという考えも出てくるが、実験が主な理由なのでそれはできないのはわかった。
また、実験を抜きにしても、輸送機よりも小型で安価なのが利点である。小型と安価な理由は、飛行エンジンやらを搭載しておらず、さらに迎撃装備を装備してないのが大きな理由といえた。
(まぁ最悪は私のフライトアーマーで逃げられるしな)
FMEの猛攻にコンテナと内部の装備を捨てて逃げることになったとしても、オーラスーツ一機、アクティブスーツ一機の重量であれば、問題なく飛行できるのはすでに実験で証明済みだ。飛行時間に関しても半日程度ならば問題ないと思えた。
(荷物を想定した重りをもってデータとったから、その時の感覚でそれなりに行けるか)
完熟訓練に少々手間取ったが、それでもそこまで時間をかけずにコンテナを運ぶことが可能となった。ダミー人形で問題ないと判断したら、真矢さんと璃兜さんを椅子、簡易ベッドとそれぞれに固定して一時間ほど飛んだが、どちらも気分が悪くなることはなかった。
午前中の飛行訓練中、二人はダヴィさんと一緒になってオーラスーツとアクティブスーツでマテリアルソードの反応の違いなどを実験していた。真矢さん、璃兜さんそれぞれがオーラスーツとアクティブスーツを装備しての実験だ。オーラスーツは璃兜さん向けに調整された準特別機であることが、どう影響を及ぼすのかの確認もかねてだった。
二人がそれぞれ装備を交換し、マテリアルソードに触れたりして反応を確認したが、どちらでも反応していたようだ。しかしやはり反応が大きかったのは真矢さんだったのだが、二人して共通していたのが二人ともアクティブスーツを着た状態でマテリアルソードに触れた時が、どちらも反応が大きかったという。
「持つことはできても、まともに振るうことができないアクティブスーツで反応するのは、なぜだろうね?」
アクティブスーツは、人間の身体能力向上を目指して作られた装備だ。しかしこの世界の進んだ科学技術でも、どうしても物理的な障害を越えることができていない。
具体的には重いものを持ち上げるパワーなどは簡単に向上させられるが、どうしても俊敏性などを上げるのは、装備をまとう観点からそこまで向上しないのだ。
また重いものが持てることは持てるが、サイズが合わな過ぎて持ち上げることしかできない。サイズが違うのはオーラスーツのためのマテリアル兵装なので当然だが、なぜアクティブスーツのほうが反応を示したのかがよくわからない状況である。それを解明するために実験をしており、またダヴィさんがわからないので私などがわかるはずもないのだが……なかなか不可思議な状況といえた。
(アクティブスーツでマテリアリルソードが振るえるわけもないしな。何か意味があるのか?)
二人が装備を変えたり、オーラスーツで補助されながらアクティブスーツでマテリアルソードを振ったりと、結構愉快なことをしているのを、私は空から慎重に飛行しつつ眺めていた。
結構いろいろなパターンで実験を行ったが、その程度で謎の現象が解明出来たら苦労はしない。頭打ちとなってしまった。
基地周辺を飛んだりしたが、万全を期してまだ基地圏内から移動せず、基地周辺をひたすら飛んだ。数日の時間を要したが、私のコンテナ飛行が二人が入っていて飛行しても大丈夫だと判断された。
そして私たち三人の実験部隊は次の段階へと移行した。私たち三人が実験に従事していた時も、関東平野の掃討作戦は行われており、極東作戦からすでに二週間近い日にちが経過していたこともあり、ついにコンテナに搭乗員を乗せた状態で、訓練を開始することになった。
どうやら本格的にこの人員と装備での部隊運用を考えているようで、飛行による移動、強襲、揚陸部隊としての訓練が主な内容となった。まずは二人が乗り込んでの飛行運搬。これについては真矢さんはアクティブスーツを装備した状態、璃兜さんはオーラスーツに登場した状態でハンガーに固定した状態での移動、片方が装備している状態、どちらも椅子やベッドに固定されている状態と、ほぼすべてのパターンでの飛行訓練を行った。
またその飛行訓練に伴い、目標地点を設定してそこまで急行しての部隊展開の訓練も行われた。これは二人の装備、未装備、搭乗、未搭乗等々、すべてのパターンを行った。急行中の飛行状態で、それぞれが未装備、未搭乗から装備と搭乗を行いつつ、着地と同時に展開のパターンや、着地できなかった時のことを考えて一定の高さから飛び降りての、降下訓練まで行った。
(どうしても真矢さんが心配だな)
オーラスーツは乗り込んでいるので体全体を保護されているが、アクティブスーツは文字通りのスーツでしかないので、ほぼ生身に近い形だ。人型種の一撃をもろに食らえばそれだけで死にかねない。ゆえに気休めではあるが、スナイパーライフル以外の装備に、攻撃を受け止めることが可能な、人型サイズの防御用装備などを搭載していた。
(まぁぶっちゃけそれなりに大きな盾を装備しているだけだが……)
接近戦を行うのであれば邪魔だが、真矢さんは狙撃手だ。ある程度動きが遅くなっても近寄らせなければいい。また当然すぐそばに私がいるので、真矢さんがアクティブスーツで出撃した場合は、オーラファンネルでフォローすればそれなりにカバーができるだろう。
掃討が終えつつある関東平野のため、私たちがFMEと出会うことはほとんどなかったが、何度か救援要請を受けた。そのため実戦もかねて急行し救援に向かったこともあったが、さすがに真矢さんがアクティブスーツで矢面に立つことは、ダヴィさんも許可しなかった。
しかし救援に向かった以上何もしないわけにはいかないので、真矢さんはコンテナの上に陣取っての周囲の警戒と、狙撃による敵の妨害を行った。
(いやすごいなこの人)
アクティブスーツは、あくまでも人間の身体能力の強化補助を目的としているため、オーラスーツ搭乗時のように、思考能力の活性化のための機器は搭載されていない。そのため、目に止まらぬ速さで動くFME相手に、ほぼ生身に近い感覚で狙撃を行うことになる。私の感性からすればそれは不可能なことなのだが、真矢さんはほとんど百発百中レベルで敵に攻撃を当てて妨害を行っていた。
またコンテナの上で狙撃を行うのは周囲警戒という意味で非常に有用であり、攻撃力という点でこそ力不足だったが、ほかの点でかなりのサポートが行えていた。
「やぁぁぁぁ!」
そして璃兜さんも負けていない。特訓もかねて右手にマテリアルソード、左手に盾を装備、背面にオーラアサルトライフルを装備して、獅子奮迅の活躍を見せていた。以前からこのスタイルで戦っていたのもあって慣れているので、かなりの戦力となっている。
適応したばかりのマテリアルソードのため、そこまで攻撃力がないはずなのだが……マテリアルソードが振るわれるとほぼすべての敵が、一撃で沈んでいく。これには本人も最初驚いており、ダヴィさんは興奮して変な笑い声をあげていた。
そんな中、私はコンテナから一定の範囲内で飛び回って、オーラファンネルとアームキャノンにおける援護射撃を行った。私のこの二つの遠距離攻撃も、それなりの数をこなしたからか威力、命中精度ともにそれなりに向上しており、大いに戦果を挙げた。
ダヴィさん的には新たなマテリアル兵装となった小堂丸による白兵戦を行いたかったようだが、ほぼ生身の真矢さんを万一の時に抱きかかえて空に脱出するという、最重要任務があるためそれもかなわなかった。
(まぁそのうち絶対にやらせられるだろうが)
常識では考えられない過程でマテリアル兵装と化した小堂丸だが、それでも剣という分類のマテリアル兵装であることに代わりはない。空を飛ぶことに比べれば……インパクトは薄いだろう。
(まぁそれも先日の取り込んだ現場を見なかったり、記録を閲覧しなければという前置きはつくだろうが)
映像記録でも見られれば話は別だろうが、その辺の記録をどこまで公開するのかは、下っ端の私にはどうしようもないことかつどうでもいいことなので、考えないことにしている。
(あの二人であれば悪いようにはしないだろう)
特殊な経歴、特殊な装備を有しており、特殊な部隊にいても私はほぼ最下層の軍人に過ぎない。それこそ本来であれば佐官に直々に会うなど、本来年に数えるほどしかないはずである。しかしあまりにも特殊すぎるために、上も目を離すことができないのだろう。
(まぁ片方は死んでも、私に対して実験を行いたいと願っているだろうが)
関東平野という広大な土地故、私たちの部隊、元パラレル部隊の三人のほかにも、輸送機で上空で待機する部隊はそれなりに展開しているのだが、やはり強力な兵器が不足している状況のため、それなりの頻度で救援要請が来ていた。
私という存在、そして歴史上はじめてFMEから土地を奪還したということで、世界からも結構な注目を浴びていた。またそんなことを抜きにしても、関東平野という広大な平野部の奪還に成功し、国として街が復興できるという希望に向かって、皆必死になって残敵掃討を行っていた。秩父前線基地所属ではない、ほかの二つの基地の部隊も何度か救援したが、皆死にそうな目にあいながらも生き生きとしており、私たちに気持ちよく礼を言ってくれた。




