表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/103

解散

「それで? どうして急に剣技を学びたいなんてこと、思うようになったの?」

 ウキウキと表示したデータの解析やらをしながら歩いているダヴィの後ろ姿に苦笑しつつ、璃兜が隣の真矢にそう声をかける。三人はダヴィの研究室へと向かう途中だった。

「さっき、勝負がどうなったかは聞いたでしょ?」

 通路ゆえに、だれかとすれ違う可能性もあるため、ぼかした言い方をするが、先ほどの衝撃的な話を忘れるわけもなく、璃兜は軽くうなずいた。

 宗一が想像していた通り、光夜の戦術は裂帛の気合によるいわば気当たりを用いての戦術だった。本人は意識してやっているわけではなく、自身の気合が自然と漏れ出ているだけである。意識的にせずにできているのだから、天才と称して何ら問題はないだろう。

 また大和の女性にしては背が高めなこと、背丈に見合った筋肉量、歴戦の勇士であるといった様々な要素が絡み合って、その強さを得たというのが光夜の強さの理由だった。

 ただ仕方ないとはいえ技術がなかった。先ほどの勝敗は、これに尽きた。

「勝ったっていえばそれだけなんだけど……勝ち方がすごかったの。たったの二回。相手の攻撃を受け流したと思ったらその伸び切ったところで、木剣をたたいていたみたいで、相手の木剣を吹き飛ばしていたの」

「……どういうこと?」

 璃兜のその言葉は、言われた内容が分からなかったわけではなく、どうしてそんなことができたのかという疑問だった。この世界の剣技は失伝して、もはや歴史に残るのみとなっている。

 なんでもそうだが……熟練者の技量というのは常人には超常的過ぎて理解できないものが多い。剣術が歴史という過去の遺物になってしまったため、この世界ではなおさらそれが顕著になっていると言えた。

 何せまともに剣術を使う人間がいないので、映像ですら見ることが叶わないのだから。

「私も正直よくわかってないのだけど、二度の打ち合いだけで木剣が握れないほど手に衝撃を与えていたみたい」

「……すごいわね」

 璃兜も我流の剣でFMEと戦っているため、近接戦についてはそれなりの修練をしている。以前に宗一と慎二中尉との模擬戦も見ているが、格闘戦にはならなかったため、そこまでの実力を有しているのかはわからなかった。

「ここからがもっと驚いたんだけど……冷静に確実に模擬戦を行っていたのに、内心では怖くて仕方がなかったって言ってたの」

「……なのに勝ったと?」

 感嘆するやら呆れるやら……そんなないまぜになった感情が顔に出たまま、璃兜がそうつぶやくとに真矢はそれに対して大きくうなずいた。これだけ聞けば、真矢が剣技を学びたいと言い出したことに対する理由としてはに十分だった。

 ゆえに璃兜は宗一に対する評価を改めざるを得なかった。

(任務でバタバタしてたからできてなかったけど、今度私もお願いしよう)

 宗一と同じ部隊になってから激務……とまでは言わないが、それでも模擬戦をしている余裕はなかった。FMEとの戦いでも圧倒的ともいえる剣技を披露していたのだが、どうしてもマテリアル兵装である木刀の威力に目が行ってしまっていたのだ。ゆえに……見誤っていたと、璃兜は素直に思った。

 そしてそれとは別に、少々心配していることもあった。

(気づいてないみたいだけど、真矢が異性に興味を抱くのは珍しいわね)

 長年の付き合いだが、真矢が異性……つまり男に対して興味を向けたのを見たことがない璃兜は、宗一の実力にも驚いていたが、宗一に興味を惹かれている様子の真矢にも驚いていた。

 逆のパターンは多々あった。何せ乳がでかい。それだけでも人目を引くというのにそれだけに飽き足らず容姿も整っているのだ。童顔だが、かわいい顔立ちをしているので昔から男がそういう目で見ていたことを、璃兜はよく知っていた。

 そして親友びいきが少し入ってしまうのは自覚していたが、それでも璃兜は真矢の性格をとても好ましく思っていた。そうでなければ親友であると互いに断言するはずもない。

 容姿は整っており胸がでかいために異性からの耳目を集めやすく、おまけに背格もいい。ならば男が欲情するのも当然といえるだろう。

 だというのに当の本人は、その男からの視線に全くと言っていいほど無頓着だった。ゆえに男に対して幼馴染である璃兜が、フォローを行っていた。

(宗一さんは大丈夫かしらね?)

 同じ部隊でほかの人間より接しているが、宗一が自分を含め女性隊員に紳士的な対応をしているのは十分に理解していた。下卑た目を向けられたことも、璃兜が記憶している限りではなかった。

(でも実際はどうだかわからないしねぇ)

 何せ女である璃兜から見ても、真矢は非常に欲情を駆り立てられる体躯なのだ。男からしたらより性欲が刺激されるのは、当然と言えた。変なことはしないとは思うが、一度話したほうがいいかもしれないと、璃兜は内心で思った。




 千夏司令に脅された後、私と千夏司令でともにダヴィさんの研究室まで行き、その日はほとんど小堂丸の測定や、二人に持たせたときの違いなどを検証することとなった。しかし当然すぐにいい結果が出てくるわけもなく、ひたすら計測計測で……ほとんど動かなかったがすごく疲れたものとなった。

 定時になって終わりだったのだが、その時ようやく私たちの軟禁が終わったことを告げられた。箝口令があるのでその点だけはくれぐれも注意しろと念を押されたが、ようやく通常通りになるので私含め、真矢さんも璃兜さんもほっとしていた。

 そして軟禁が終わったことで連絡が取れる状況になったとたん、他の隊員から食堂に呼び出しをくらった。いろいろと説明しろということだろう。

 そのため三人で食堂に行けば……私は相当な歓待を受けることとなった。フライトアーマーを入手し、光夜少佐と会う前に、様々な部隊の救援を行ったゆえんだろう。結構な人間から感謝されることとなった。

 むろん全員が全員、私のことを好ましく思ってはいない……オーラマテリアルを独占していることは事実……ようだったが、それでも自分が助けられたわけではなくとも、基地の人間を助けたのは事実ゆえに、面と向かって私に文句を言ってくる人間はいなかった。

 異質すぎるパワードスーツについて少し心配していたが、どうやら助けたこととダヴィさんの秘密兵器と言うことで、ある程度納得してしまっているらしい。無論中にはかなり怪しんでいる人間もいたのだが、それでも助けたことで言うに言えないという状況だった。

(排斥もあり得たから助かったな)

 偶然だが、救援を行って部隊の人間を数多く助けたことが、功を奏したといえるだろう。また新たな部隊が発足することとなったのは、三人には伝えた。ただあちらもすでに通達を受けていたようで、驚かれることはなかった。

 残念なことに整備兵の二人は、整備でこの場にはいなかった。

「残念だよ。お前らともっと同じ部隊で戦いたかった」

「だなぁ。というか、宗一少尉ともっといたかったね、俺は。危険手当がさらにもらえたからな」

「家庭があると大変ね。それはともかく……私も、宗一少尉と離れるのは残念だけどね」

 燐中尉が、自身の手を握り締めながらそう言ってくるのが面白かった。おそらく模擬戦とかができなかったことが理由だろう。

「皆さんの今後は?」

 千夏司令からそれなりに聞いているが、本人達から聞きたかったため、聞いてみたが……皆それぞれ若干渋い顔をした。

「まだ確定じゃないが、俺は国連へ出向する可能性が高いな」

 ドゥ大尉の言葉を聞いた瞬間、何とか平静を保てた自分をほめたい思いだった。

(そ、外堀を埋められている)

 光夜少佐の任期満了に伴って、新たな隊員を派遣するためだろうことはわかるのだが、まさかここまで露骨な手段に出てくるとは思わなかった。あまりにもあからさますぎる。

「? どうしたの真矢? 変な顔して」

「い、いえ。なんでもないです」

 事情を知らない燐中尉が不思議そうにしているが、箝口令のためうかつなことが言えない。私も問われた真矢さんも黙るしかなかった。ただ燐中尉もそこまで知りたいわけではなかったようで、不思議そうにしていたが追及はしてこなかった。

 もしくは箝口令が敷かれていると察したのかもしれない。この辺は軍人らしいのかもしれない。

「まぁ極東一号がなくなったから、激戦区ではなくなったからな。俺としては悪い話ではないんだが……大和の町に慣れたからな。久しぶりに別の国に行くのが億劫ではあるな」

「戦うの好きだもんなお前は。俺は出向にならなくてよかったよ。咲と蓮と離れることになるからな」

「そこらは千夏司令優しいわよね。まぁその代わり私たちが行く羽目になったみたいだけど」

「悪いな」

 煉道中尉がそう言って笑う。あまり悪く思ってないような笑みだったので、二人が小突いている。確かに優しいといえるだろう。妻子がいるとはいえ、軍人だ。普通に考えれば、妻子が理由で出向しなくていいなど、ほとんどないだろう。

 そこらへんが千夏司令が慕われる理由の一環なのだろう。また親戚とはいえ光夜少佐の事情を慮って私のそばに置くつもりでいるのだから、人情味があるのは間違いない。

(その優しさを、私にも向けてほしいが)

 しかし女性を指導したくない私としては、逃げ道をどんどんふさがれているようであまりいい気分ではない。といっても私も軍属故、命令されたら拒否などできるわけがないのだが。

(悲しいけど私って、軍人なのよね)

 おそらく生きる道がこれしかないとはいえ、軍人になるとはつゆほども思ってみなかったため、なんとなくアンニュイな気分になってしまう。

「まぁ出向はまだ先だし、俺たち三人は援護遊撃隊としてしばらくはまだ秩父所属だ。何かあったら助けてくれよ?」

「自分にできることならもちろんです」

 実験は関東平野で行うと聞いている。実験が主だろうが、それでも救援があれば駆け付けられるのだから救援は当然だろう。そんな約束を交わして、食事はお開きとなった。


 これが私が初めて所属したパラレル部隊が、解散した日の出来事だった。



 

「ではさっそくだけど、実験を開始するよ!」

 わくわくが止まらないというのが見てわかるくらい、テンションが高いダヴィさんの元気な声だ。

 光夜少佐と模擬戦をし、パラレル部隊の面々と食事を共にした翌日のことだ。第三格納庫を集合場所に指定され、私たちは三人そろって集まっていた。すでに璃兜さんも、私室として私の隣室に移動しているのだから、ある意味で当然といえるだろう。

「関東平野の残敵掃討は現在順調に進んでいる。そのためあまり危険はないと思うけど、油断だけはしないようにね。特にマヤ君はアクティブスーツだ。絶対に油断しちゃだめだよ?」

「はい」

 ダヴィさんが念を押してくるのも当然だろう。人型種くらいであれば装備によっては戦うことはできるが、アクティブスーツはあくまでも歩兵強化装備であって、FMEと直接戦うために作られた兵器ではない。オーラスーツ搭乗に比べたら防御力はないに等しい。逃げるのも難しいはずだ。一応巣はつぶしたが、まだそこまでの日にちが経っていない。用心しなければならないだろう。

「リツ君はマテリアルソードの具合を確かめながら、マヤ君から目を離さないように」

「了解です」

「ソウイチ君も……と言いたいけど、君はレーダーとか装備できないからなぁ。でも気にかけてあげてね」

「もちろんです」

 実験のためとはいえ、生身に近い形で真矢さんが関東平野にでるのは良いのだろうか? と思わなくはないが……しかしこれも任務。拒否権はないだろう。また真矢さんがこうなったのは何でか知らないが小堂丸に反応したためだ。それがなくとも守るために尽力するが、不可抗力ではあるが真矢さんがこのような状況に陥ってしまったのは己のせいである。普段よりも更に気をつけなければならないだろう。

「正直に言わせてもらうと……この実験で新兵器の開発は難しいと私は考えている」

 第三格納庫はいわばパラレル部隊のための場所といえる。それを今回の実験部隊に転用したので、この場には私たち四人しかいないのだが、それを差し引いてもだいぶ大胆なことを言っている。

(いやまぁ……その通りだと思うけども)

 想いを強化することができる不思議鉱石オーラマテリアル。思いに反応するとはいえ、私という並行世界からの転移者の記憶を読み取って、パワードスーツが生まれた。つまりオーラマテリアルが必要量あったとはいえ無から……とまではいわないが、形のない記憶から生み出されたパワードスーツ。そしてそれを生身で纏っている男。挙句の果てにどんどん装備が強化されている。

(……改めてまとめるとよく本当に実験動物にされてないな)

 人格者に初遭遇し、人格者が指揮を執る基地に転がり込め、専属研究者が国連所属で世界最高レベルの頭脳の持ち主で権力もある。本当に、運が良いのは間違いない。

(籤運は全くないのだが)

 地元に住んで半世紀以上。地元の地域のお祭りで毎年ビンゴ大会が夏祭りの時にあるのだが、一度も当たったことがなかった。それも自分の家の分だけでなく、仲の良かったお向かいさんの家の分のビンゴカードを好意でもらっていたにも関わらず。

(幼馴染の男友達のお母さんは、三回くらい当ててたよな)

 一度も当選者が昇る台に上がれず、ちょっと悲しい気持ちになったものである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ