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実験部隊

 初めての経験だった。

 そんなありきたりとも言える感想が、光夜の素直な思いだった。

 戦争している世界に、時代に生まれた。故にこそ、力を求めた。

 力で全てが解決しないことは分かっている。家の思いも、母の思いも、それらを全て理解していた。それでも力を求めた。強くなければ何も出来ないと、戦場で肌で感じていたから。

 だからこそ……あまりの異常な力を見て興味を持った。想像すらも出来なかった、空を飛ぶという圧倒的優位性。小型故にオーラスーツとは比較にならないほどの俊敏性。小さいながら確かな積み重ねを感じさせる技量。そして……全てを吹き飛ばす圧倒的な力。

 

 全てが……光夜が求めていたものだった。


 その力に惹かれた。そしてその力が、あり得ない兵器であることを知り、更に興味を惹かされた。確かに兵器が異常だというのは、あの光景を少しでも見れば誰でも分かることだ。

 だがあの技量は、どう考えても兵器のそれではない。だからこそ今回の視察に志願した。そうして行ってみれば……信じられないことだらけだった。

 飛行するパワードスーツ。パワードスーツの強さ。これだけでも驚くべき事だが、それ以上に、パワードスーツを装着している人間が、あまりにも異常だった。

 二人の基地司令が言っていたが、精神異常者と言われても不思議ではない経歴の持ち主だ。しかし光夜はそれが嘘でも戯れ言でもないことを、十分に理解できる物を見てしまった……感じてしまった。


 刀という異様な武器と、宗一との生身での立ち会いだ。


 刀という見たこともない湾曲した刃物。それがまるで宗一を求めるように光り、パワードスーツに吸収された。


 まるで力そのものが、宗一を求めているようだ……光代の目には映っていた。そしてその力に触れてみれば、凄まじいほどの力を感じさせてくれた。

 そして興味を抑えることが出来ず、模擬戦を求めた。その結果は正に惨敗だった。別段光夜自身、不敗であることにこだわりはなかった。

 己のため、家のため、人類のため……様々な想いがあって必死になって戦って、力を磨いてきた。無論死にたいわけではないが、自分の力及ばずながら死ぬことに対する覚悟もある。

 その全てを……粉砕される一瞬の出来事だったのだ。たった二合。それだけしか宗一と切り結ぶことが出来なかった。

 今まで自分の磨き上げてきた力。真に殺すという圧倒的な殺意を持って相手の戦意を鈍らせて身が竦んでいるところを叩く、一撃必倒の剣。それが通用しないだけに飽きたらず、流されてその勢いを利用され、手に衝撃を与えられて自らの木剣を取りこぼした。

 あのとき手が震えていたのは、宗一との切り結んだことが要因でもあったが、それ以上にそのあまりの技量の高さに、光夜自身が震えていたのもあった。だからこそ……この人以外にいないと思って、弟子入りを懇願した。

(絶対に……弟子にとってもらいます)

 あれほど達人からすれば、自分の剣が間違いだらけなどと言われても、苛立つどころかむしろ納得出来る。その人の指導に伴って体を触れられることなど……本人にとってはどうでも良いことでしかなかった。


 ちなみにだが、光夜は本当に自分の「女」を考えておらず、顔が良いとか、胸がでかいとか、尻がでかいとか……


 ぶっちゃけ、男から自分がどんな目で見られているのか、つゆほども考えたことがない。


 そのため、指導であれば別段どこを触られようとほとんど赤くなることもない。それは指導する側としても助かる事ではあるのだが……そこはへたれな宗一。相手が大丈夫だからと言って自分が大丈夫な訳もなく……この二人の師弟コンビは、なかなか面倒な事になるのが決まっていた定めでもあったと、後に宗一は思うことになるのだった。




 昼飯。それは働く者にとってかなり重要な休憩といえる。朝は大半の人間が家で食べる。晩は仕事上がりに飲みに行く、仕事の延長で会食、面倒だから外食等……朝飯に比べれば家ではないところで食べる率が高い。むろん例外はあるし、そうでないひとも一杯いるだろう。

 私自身、地元に勤めた人間のため、晩もほとんど家で食べていた。脛かじって実家暮らしの時は母の、両親が亡くなってからは自炊。そのほうが安上がりだからだ。

 だが昼飯は晩飯以上に家で食べないものが多いと思う。むろんこちらも例外はあるだろう。家に帰って食べる人もいるからだ。

 私も家に帰って食べるのは可能だった。通勤時間10分のため、昼休憩時間に帰ろうと思えば帰れるからだ。ただ面倒なので自炊の弁当で昼飯は済ましていた。面倒な時は出勤前にコンビニで飯を買っていた。

 小休憩などがない事務職などは、外周りがなければ休憩は昼休憩のみだ。そしてその休憩で食べる食事は、午後の仕事の活力に直結する。ご飯を食べなければ力も出なければやる気も出ない。おいしい昼食であれば、どちらも十分に満たして仕事が頑張れるというものでうある。

 私は色気より食い気の人間だったので、食事には結構うるさかった。といっても貧乏舌に近い人間だったので、うるさいといっても一般レベルの範囲内だと思う。単に食べることも飲むことも好きだっただけに過ぎない。仕事上がりの飲みもよく行ったものだ。

 食事というものは三大欲求といわれるくらいだから、とても重要な要素だ。これに運動欲と排泄欲が合わさり、五大欲求という考えが私の中ではスタンダードだった。

(「人間」というくくりで呼称しているが、人間も動物に変わりはないのである)

 食ったら出る。それは自然の道理。これが排泄欲。

 元が猿なので、体を動かすことが自然。これが運動欲。

 私の場合は食べるときや飲むときは制限なく食べたいので、日ごろは抑えめに食べるようにして、稽古をして脂肪を落とすために10kmのジョギングも行っていた。食べて飲むために運動をしていた側面がある。

 何が言いたいのか、あっちいったりこっち行ったりで自分でもわからなくなったが、昼飯とは切り替えもかねている重要な要素だ。食事や睡眠をおろそかにすれば、体調を崩すのは当たり前なのである。

 と、実にくだらないことを考えなければならないほど……現在の食事の雰囲気は混迷を極めていた。

 食事場所は第三会議室。その中で食事をしているのは私を含めた三人。真矢さんと璃兜さんである。

 真矢さんからはなぜか尊敬の念を込めた目線が時折向けられ、そしてその尊敬の念が体からも雰囲気で発せられている。

 逆に璃兜さんは、非常に苦々しい雰囲気を醸し出していた。といっても嫌悪感があるわけでもなく、先ほどの小堂丸に反応した自分の事で頭がいっぱいという様子だった。

 そんな二人と一緒に食事をするのは、二人の態度の原因である私である。いたたまれない……とまでは言わないが、微妙な雰囲気になっているため居心地がいいとは、言えなかった。

 そうなった原因は先ほどの発光現象が主な理由。真矢さんはそこに先ほどの立ち合いでの勝利があって、ものすごく感動されて今の状態になった。璃兜さんはなぜか自分も発行してしまって困惑しているのと、また口止めもされなかった故、新部隊設立の話を私と真矢さんが伝えたからだろう。

 状況的に理解するしかないのは事実だが、納得できるかどうかといわれればそれもまた別問題であろう。千夏司令とダヴィさんなので変なことはしないだろうが、実験に巻き込まれたのは事実なので、思うところがあるのだろう。

(う~~~~ん。帰って寝たい)

 現実逃避にもならない思考が私の脳内を占める。帰ったところで基地内の自分の部屋だ。当たり前だが実家で相続した自分の家ほど休まるわけもなく、また仮に実家に戻れたとしても、原因が何も解決してないのだ。休まるわけがない。

「なんていうか……本当に、あなたといると退屈しないわ」

 全員が珠代曹長の弁当を食べ終えて、食後のお茶を飲んでいると……深いため息をつきながら璃兜さんがそんなことを言ってくる。ため息はついているが悲観した様子はない。むしろ諦観が強い感じである。

「それはなんというか……申し訳ない」

「ううん、ごめんなさい。謝ってほしいわけじゃないし、私も責めてるわけじゃないの。ただ……なんというかすごすぎて」

 額に手を当てて眉間にしわを寄せながら考え事をする。私が絡んでからのここ最近の出来事を思い返しているのだろう。

 そんな姿を見て私もここ数か月の記憶を呼び起こすが……波乱万丈すぎて頭が痛くなってきた。自分の常識がことごとく違う状況なのだから、それも当然だろう。ましては並行世界に転移だ。奇想天外波乱万丈などでは、言い表せないほど異常だ。

 転移していないから、私よりはまだ二人はましだと私は思ってしまうが……常識はずれなことを間近で見て体験している。しかも自分自身が原因ではなく私に付随して強制的に体験させられているのだ。そういう意味では被害者という観点が非常に強く感じてしまうだろう。

「でもすごい経験をしてるし、何よりこんなに状況が好転するなんて、歴史的に見ても偉業だよ! 宗一さんのおかげでもあるんだから、そこは素直に喜ぼうよ!」

「それはそうなんだけど……っていうか、ずいぶんテンション高いわね真矢。あなた、さっきまで二人で別行動してたけど何があったのよ?」

 一番の被害者ともいえる真矢さんが、諦観しておらずむしろ珍しくテンションが高いものだから、璃兜さんがいぶかしんでいた。

 このテンションの高さは、間違いなく先の光夜少佐との模擬戦での結果と、そのあと私と話したことによってのことだろう。これに関しては非公式と明言していたので試合のことすらも言っていいのか謎のため、こちらはまだ内容を璃兜さんに明かしていない。故に、別行動をしていた内容がわかってないので、不思議に思うのも当然と言えた。

「まぁなんといいますか、いろいろとありまして」

 そして先ほどの出来事は、正直私もまだ消化しきれていない。模擬戦で恐怖にのまれながらも体が動いたという喜びはあるのだが、それ以降の出来事が強烈すぎる。

 弟子志願と新部隊設立。しかも先の話しぶりから、私に指導させる気満々な様子。何か事情があるのだろうが、それを説明されないため悶々とするのも無理はないと思いたい。

(説明してくれるかねぇ)

 話しぶりからかなりプライベートな感じだった千夏司令と光夜少佐、二人の間柄。仕事ではなく私人としての事情であれば、あまり深く突っ込むこともできない。ただ、本当に異性の指導は勘弁願いたいのが正直なところだった。

(若返ったとはいえ、精神にあまり変化はないから大丈夫だとは思うのだが。しかし偉大な先人の台詞で、精神は肉体に影響を受けるという言葉もあるが……)

 色気より食い気の私の人生だが、別に女性不振でも女性嫌いでもない。そうなるような悲惨なエピソードがあるわけでもない。

 ただ怖いのである。異性故にどうすればいいのかわからない。もちろん礼節をわきまえて異性とは今まで接してきたしこれからも接していくが、指導となるとそれも難しい。

(どこまでやっていいものか……)

 厳しい指導というのがそもそも私にはできない。私は「継続は力なり」が最も大事だと思っているので、よほど舐めた態度をしてこなければ厳しく指導したことがない。それは仕事でも稽古でも同様であり、あまり年下にどうこうすることもなかった。

(なめられてただろうなぁ)

 剣術はある程度の実力があるので露骨になめてくる者はいなかったが、仕事ではなめられていただろう。嫌いな奴には特になめられていたが、面倒だったので放置して終わっている。

 故に正直に言えば……本当に異性をどう指導すればいいのかがわからなかった。これがまだ完全な素人であればある程度なんとかできるが、光夜少佐は完全に間違いが凝り固まってしまった修練者だ。かなりの矯正が必要で、その間戦力低下をどうフォローするのかが重要だろう。

「昼飯は終えたか?」

「私たちはすでに終えたよ~」

 そんな三者三様な思いで半分以上がどんよりしてる部屋に、千夏司令とダヴィさんが入ってきた。すぐさま私含めた三人が立ち上がって敬礼を行う。そんな私たちに千夏司令はきちんと返礼するが、ダヴィさんはワクワクが止まらない子供のような笑みで、データの処理を行っていた。

「まだ休憩中だろうが、こちらも時間が惜しいのでな。始めさせてもらう」

 いろいろ立て込んでいるのだろう。疲労の色合いが濃かったが、それでも千夏司令の覇気は全く衰えることがなく、むしろ充溢しているようにも感じられた。

「さて、まずは三人の今後についてだが……先ほどの発光現象もあり、三人……というよりも宗一少尉を中心とした新たな実験部隊を設立する」

 先に聞いていた通りの話であるため特段驚くことはない。重要なのはこの先の話である。

「部隊員については現在検討中だ。よって部隊長は真矢少尉に命ずる」

「!? りょ、了解しました」

 寝耳に水、青天の霹靂といえる状況だったのだろう。真矢さんが物申したそうにしたが、しかしこれは正式な命令だ、よほどのことでも断るのは難しい。

「副隊長は璃兜少尉だな」

「了解しました」

 隊員について言及しない以上、現時点での人数は三人だ。必然的に私以外に責任ある役職が任されるのは当然だろう。璃兜さんもほとんど驚くことなく返礼した。

「また現時点での部隊長就任に伴って、真矢少尉を中尉へと昇格させる」

「!? えっ!?」

 さすがにこれは誰も予想しておらず、真矢さんが思わず声を漏らしていた。本来であれば雷ものだが、千夏司令は一瞬だけジロッとにらみつけたが、特段叱ることなく話を続ける。

「また現時点ではまだ不明だが、新たな隊員の一人として、任期を終えた光夜少佐を入れる予定だ。一応頭に入れておけ」

 先ほどの場にいなかった璃兜さんにもそれを伝えるということは、間違いなくほぼ確定と思われた。そしてそれ以外に言及しない以上、光夜少佐が戻ってきて部隊に配置されても、もしかしたら隊長の変更はしないのかもしれない。

 この光夜少佐が隊員としてくることに、璃兜さんはかなり驚いている様子だった。私と真矢さんは先ほどの模擬戦を知っているが、璃兜さんは知らないので無理もないだろう。

「続いて今後の具体的な任務……つまり実験についての話は」

「私からさせてもらうよ!」


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