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衝撃

「私なら気にしません! ですからどうか!」

 千夏司令が考えるような仕草で黙ってしまって、光夜少佐が慌て始めた。そんな光夜少佐に、千夏司令は苦笑しつつ言葉を紡いだ。

「そうあわてるな。お前の思いはそれなりに理解しているつもりだ」

「でしたら!」

「だから落ち着け。まず考えろ。そろそろお前の任期が切れるはずだぞ?」

 任期と聞いて、おそらく国連軍への出向の期間のことだろうと予想がついた。任期明けがどうなるかは謎だが、続投を望まなければ国に帰れると考えるのが道理である。そしてその道理の先……つまり大和国に帰ってきてからどうなるのかといえば……

(もしかしなくてもこの流れだと、そのあとこの基地に来るということだろうか?)

 というよりも、話の流れから察するにそれしかない。仮にそうでなくても少佐だ。それなりの権限は持ってそうだから、配属先に対して口出しする権限がありそうだし、なくてもこの熱意を鑑みるに、ねじ込みそうだ。

 そして基地に来たら……猛烈なアプローチをしてくるのは容易に想像できる。ここまでは予想通りだったのだが……千夏司令の口からそれ以上に、とんでもないセリフが出てくることになった。

「まだ確定ではないが、このでたらめな男の実験のための実験部隊の設立をダヴィと検討している。その部隊に入れば、必然こいつの剣術を見る機会も増えるだろう」

「は?」

 実験部隊というと、あまりいいイメージが想像できない。何せ自由戦士ダムガンシリーズではお約束な部隊だ。本当に新兵器の実験部隊として稼働しており、故障トラブルは日常茶飯事だ。

 私の場合、武装が新兵器というよりももはや突然変異兵器とでもいうべき代物。しかももはや普通の兵器とは違うため故障というのが想像できないが……それでも実験となると、とてもいいイメージができなかった。

(まぁ拷問とか苦痛を伴うような実験はしないだろうが)

 するならとっくにやっているので、今更変なことはしてこないだろう。それも人類が追い込まれて背水の陣とかになればわからないだろうが、今はまだそこまでではない。それについては心配しなくていいが……最も気になるべきところは別にあった。

(新部隊設立って……パラレル部隊は?)

 パラレル部隊の設立も私とパワードスーツの確認と、新兵の私の安全確保というか……死なれたら困るから子守りとして、精鋭が集められた部隊だったはずだ。その部隊の稼働可能状況としては、現在真矢さんのオーラスーツが故障しているが、完全専用機と違って個人調整がされただけのスーツのはず。部品なりパーツがあればすぐに戦線復帰ができるはずだ。ならばわざわざまた別の部隊を設ける理由もない。

(光夜少佐との関係というだけで、新部隊設立はさすがにおかしいしな)

 ほかにも理由があるのだろうが、今この場で言わないということは検討中か、もしくは別に理由があるのだろう。また千夏司令とダヴィさんの性格上、すべてを明かさないまでもある程度はこちらに話を通してくれると思うので、とりあえずこの場では聞かないことにした。

 それは真矢さんも一緒のようで、何か聞こうと口を開きかけたが、私が何も言わないのを見ると同じように口を閉じて控えた。

(っていうか、真矢さんが弟子入りを志願してきたのは何で?)

 光夜少佐の唐突な弟子入り願いに続くように、時綱中尉と真矢さんが立て続けに同じように弟子入りをしてきた。時綱中尉はまだわかる。どのオーラスーツに乗っていたのかは不明だが、それでもあの時光夜少佐の近辺にいた機体はすべて、近接武器を用いていた。ならば近接戦闘能力向上のために、弟子入り志願をしてくるのは自然の流れといえる。

(まぁそれだけではなさそうだが)

 こちらを見る時綱中尉の目が、先ほどまでと違って少々胡散臭いものを見る目になっている。光夜少佐の弟子入りと、私が身体的接触をしないと難しいと言ってから変化した。光夜少佐とはそこまで接してないのでまだ人となりは全然わかっていないが、今までの中でのやり取りでそれなりに暴走というか、猪突猛進というか……決めたらこれ! という感じの人なのは想像できる。それを今まで異性としてフォローしてきたのだろう。

(まぁこのプロポーションでは寄ってくる男は数知れずだろうなぁ)

 胸はでかい、尻もでかい、なのに腰は少し細めで、何よりも顔が美人。腰は軍人ゆえに「細い!」と強調するほど細くなりようがないためだろう。性格は少々猪突猛進なところがありそうだが、相手が大事にしているものに対して敬意をもって扱うことができたりしているところを鑑みるに、人としての常識なり礼儀は問題はなさそうに見受けられる。

(女として少々危なっかしい感じか?)

 同じ剣を使うものとして、私の剣技に興味を惹かれるのは無理からぬことだろう。しかし女性であにも関わらず、男性に対しての距離の詰め方が少々おかしい。

 これが並行世界の常識なのかもしれないが、それでも事前情報として私が並行世界の住人であることは知っているはず。そんな意味不明な存在に対する距離の詰め方ではない。おそらく今まで異性に対してこんな感じで接してきたのだろう。

(苦労してそうだなぁ)

 そんな光夜少佐の保護者みたいなことを、長年してきたのだろう。そう考えればこちらを警戒するのが理解できた。

(真矢さんが弟子入りを志願してくる理由は、一応マテリアルソードの適正者ではあるのだが……)

 光夜少佐、時綱中尉。二人はまだわかるのだが、本当に真矢さんがよくわからない。一応マテリアルソード適合者ということで理由がなくはないが、今まで真矢さんと接してきた感じでは、近接戦闘については正直嫌がっていたはずだ。

 何せ狙撃手だというのに、適合したという理由でマテリアルソードを貸与されているのだから。適合者故に剣術を磨く理由がなくはないが、積極的になる理由がない。

(まぁそれもとりあえず後でいいか)

 今考えるべきは直近の新しい実験部隊の設立だ。しかも今の話しぶりから考えれば光夜少佐も組み込むことを検討している……というよりも千夏司令の中では確定事項なのだろう。

「それを今口にするということは、その部隊に?」

「確定ではない。それは立場があるからだ。わかるな?」

「えぇ。もちろんです」

 確定ではないが、今の話しぶりから考えればほぼ確定といっていい状況だ。しかし国連軍という立場であるため、すべてをいうわけにはいかないということ。おそらく今のこの会話も、「大和軍と国連軍」ではなく、「半ば私人として」のやり取りだということだろう。

 私がそうやって状況を整理していると、今後の身の振り方がある程度わかったため、光夜少佐がようやく手を離して離れてくれた。しかし、最後にもう一度私の両手を手に取って、熱くアプローチをしてきた。

「宗一様。まだ確定ではありませんが、私が秩父に戻った時には、良いお返事を聞かせていただけると期待しております」

「いや、ですから異性はですね?」

「かまいません。指導のためであれば、体を触ることくらい、安いものです」

(潔すぎるわ!)

 熱に浮されているという感じがしてならなかったが、猪突猛進ゆえに話を聞いてくれそうにない。何とか話をしようと思ったのだが……その前に千夏司令に強引にこの場を解散させられてしまった。二人の基地司令が帰ったため、国連軍も一度現在駐屯している基地に戻ることとなったためだ。

「異性がだめなら、俺っちは大丈夫かい? ぜひ、お願いしたいね」

 異性はできたら断りたいと、結構如実に言った私の言葉でそれとなく私の心情を察したのか、先ほどよりも柔らかい笑みを浮かべながら、俺にそう言い残して時綱中尉が光夜少佐とともに退室した。

「貴様ら二人はとりあえず昼飯を食べに、第三会議室へ向え。そこにダヴィもいる」

 そう言い残して千夏司令も一緒に出ていった。基地司令として挨拶をするためだろう。そして命令口調だったため、第三会議室に向かうことを命じられていると判断し、私と真矢さんは敬礼とともに了解と返答し、三人を見送った。

 そして三人が完全に退室してドアも閉じて、一度長く小さな呼吸で深呼吸をして……私は大きくため息をついた。

「……激動すぎる」

 致し方ないことだが、あまりの変化に気持ちがついていかなくなってきていた。フライトアーマーを入手したため、いろいろ変わるのは無理はない。しかしまさか結成後半年も経っていない部隊から新しい部隊に移動するなど、予想だにしていなかった。

 おそらく真矢さんと璃兜さんもセットで部隊を移動するだろうから、完全な新部隊よりはましだろうが、それでも今の会話から察するに、残った部隊員のうちの一人は、光夜少佐でほぼ間違いない。

 先ほどの口ぶりから千夏司令からも弟子入りを後押しされそうで少々気がめいりそうになる。その辺に関してはまた後程お昼が終わり次第説明があると期待、とりあえずお昼をいただくこととした。

「とりあえず命令でもあるでしょうから、第三会議室へ向かいましょうか?」

「……そうですね」

(? 歯切れが悪いな?)

 今の模擬戦で何か思うところがあったが故の弟子入り志願だろうが、それでなぜ落ち込んでいるように見えるのかが理解できず、私は首をかしげる。そんな私のしぐさがきっかけになったのか、真矢さんが深々と頭を下げてきて、私はさらに困惑してしまった。

「宗一さん、申し訳ありませんでした」

「突然謝られても何が何だかわからないのですが、何に対しての謝罪でしょうか?」

「その……私自身先ほど気づいたのですが、宗一さんが剣術をしていたことを内心で馬鹿にしてました」

「そうなんですか?」

 内心で馬鹿にしていたといわれても、私自身そう感じたことがないので何も悪いことはなかった気がする。

「いや、別段謝る必要はないかと?」

「とんでもない剣を持っていて、そして素振りも見たことがありました。それを見てすごい熟練してるのもわかりましたけど……意味がないように思えてしまったんです」

 止めるのは簡単だったが、ため込むよりも吐き出しておいたほうがいいだろうと判断し、私は真矢さんの言葉を黙って聞くことにした。真矢さん自身今の気持ちの整理がついてないのか、言葉を考えながら言っているようだった。

「話に聞いていた、戦争を長らく経験してない。でも銃があって、戦闘機も戦車もある。そんな中で、数百年前の技術である剣技を修練する意味があるのか? そう思いました」

 実際問題、真矢さんが言っていることは正しい。何せ拳銃がある世界だ。剣という刃渡りの範囲でしか影響を及ぼすことができない剣に対して、銃は物にもよるがかなり離れた相手にも影響を及ぼせる。しかも習熟期間が比べ物にならないほどに短く済む。

 百歩譲って日本が戦争中なんかであればまだ理解できるが、戦争をしてないのだ。剣術を学ぶ意味を、この世界の住人が見出すのはなかなか難しいだろう。何せ生き残るか滅びるかの戦争中なのだ。合理的ではないことに時間を費やしている場合ではない。

 むろんこれはこの世界だけでなく、私の世界でも一般的な感覚では一緒だろう。そもそも大前提として、日本刀という元来人を殺すために生み出された刃物を所持すること自体に忌避感を覚えてしまうような時代だ。

 いくら好きこそものの上手なれとはいえ、一般的に受け入れがたかったのは事実である。私自身、心のどこかで意味があるのかと思っていたのだ。私の世界の一般的な思想に、この世界の住人が無意味だと思うのは無理もない。


 それが、ただ剣術を習うだけという観点からだけで見ればだが。


「けれど、宗一さんの先ほどの模擬戦を見てなんといえばいいのか……すごい感動しました。いえ、感動なんていう、簡単な言葉では表せないほどに、すごかったです」

「そうでしょうか?」

 実は内心ビビりまくっていたと知られたらどうだろうかと、思えてしまう。ので素直に言っておくことにした。

「実は光夜少佐の気合の言葉でかなり内心すくみ上っておりまして、正直情けないことこの上なかったですね」

 苦笑いしつつ、先ほどの立ち会いを思い出す。勝利はしたが、なかなかお粗末な勝ち方をしていると私は思っていた。本当に、体が勝手に動いてくれていなければ、負けていたのは私だっただろう。

「!? なのにあんな剣技を披露できたんですか!?」

 そういうと更に驚かれてしまった。映像を見なければ分からないが、もしかしたら外から見た感じでは、普段通りだったのかも知れない。

「剣技を修練したのはあくまでも趣味である刀剣が好きだったことと、物を切ってみたかったというのが始まりです。そしてそれを続けていく内に……私は少しだけ道という物を磨く意味が分かってきた気がしたのです」

「道ですか? 先ほどおっしゃっていた」

 剣道、弓道、華道、茶道等々……日本の文化で道という単語がある稽古事は、結構ある。その全てが内面を鍛えて人生と心を豊かに生きるというのが、おおざっぱな目的意識だ。それを漠然と感じつつ私は長年続けていたのだが……その意味が今日この日まで実感することはなかった。

 あれほどの殺意をぶつけられて内心すくみ上がりながらも、普段通りに体が勝手に動いたという事実。それが実際に自らの体に起こったことで……私は今までの修練が無駄ではないことを実感できた。それが嬉しかった。

「まぁともかく、先ほどの勝負は光夜少佐の戦い方が、悪く言えば力任せの剣技だった故にどうにかなっただけのこと。これでもしも私の指導云々は別としても、技術を学べば間違いなく、一瞬で私なんて追い抜きますよ」

「そんなことはないと思います。そして仮にそうだったとして、悔しくないんですか?」

「全然……とまでは言えませんが、そこまででは。命や人生がかかっているわけではない。私の剣術はあくまでも自己鍛錬の一環です。確かに負ければ悔しいですが、それは私の実力と鍛練不足。より頑張れば良いだけの話です」

 と、かっこつけて言うが、実際光夜少佐にあっさり抜かれたら悔しくて仕方がないだろう。それでも悔しくてもう剣技を磨かなくなるかと言えば、それは絶対にあり得ないと断言できた。

 好きだからやるのだ。他よりも優れているから修練するわけではない。無論他よりも優れるためや、己が上へと行くために磨いているのは事実だ。

 だが、私が剣を振るう根幹は何か? それは刀が好きだからだ。好きな物に対して真摯に、真剣に、真っ向から相対したい。故にこそ、刀という物を斬ることに対しても知りたかった。だから剣術を始めたのだ。

 ここら辺は間違いなく……平和な日常しか知らない、私しかわからないだろう。その辺はこの世界の住人とはわかり合えない。そう考えて……改めて凄い状況に陥ったと、私は自分の奇想天外な状況を内心で笑った。




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