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実力者からの果たし合い

 そうして簡易ながらも視察が終わった。衝撃的なことが起こってしまったためか、私自身は、あまり追及されることもなかった。

(とりあえず何もなくてよかったな)

 パワードスーツに関してはあまり心配していなかった。オーラマテリアルに直に長時間触れることができないと知っていたし、更に私のパワードスーツでの戦果を考えれば取り上げることなど出来るわけもない。実験動物に関しては少し警戒していたが、それも流石に戦果でどうにか出来るとは踏んでいた。

 しかし厄介だったのが、オーラマテリアルの特性である、歴史ある物体を取り込んで強力な兵器になりうるという特性。これがやはり不安だった。

(奉納刀は軽く見積もっても四百年。一番古いのは南北朝時代と推定されている刀だからな)

 何せ私が持つ四振りの刀はどれもかなりの歴史を有している。特に最も古い刀は南北朝時代(1336~1392)と推定されるため六百年以上の歴史がある。挙句に、刀は元来人を殺すために生み出された、武器そのもの。これをマテリアル兵装にすればどうなるのか? 想像するまでもなく強力な兵器が誕生するのは間違いない。

(まぁ、片刃の剣をまともに扱える人材が、この世界にどれだけいるのかは謎だが)

 この世界の歴史において、片刃の歪曲した剣というのはなさそうであり、しかも剣術を指導することが出来るような人材はいないため、まともに扱えないだろう。しかしそれもオーラマテリアルのもう一つの特性でもある、ある程度は自己修復してしまうという特性が障害となって、取り上げられても不思議ではなかった。

 こちらに関してはさすがに戦果でどうにもできないとは思っていた。千夏司令とダヴィさんでどうにかしてくれるとは思っていたが、正直なことを言えば戦々恐々としていた。

 しかし蓋を開けてみれば刀そのものが助けてくれた。鍛造してもらってから大事に大事にしてきた小堂丸が助けてくれた。ダヴィさんも言っていたが、これほど奇怪で面妖な出来事が起きてしまっては、取り上げるのは尚早以外の何物でもない。

 まだ戦果を確かめることはできないが、歴史が浅いとはいえ、純粋な武具がマテリアル兵装として取り込まれたのだ。おそらく私の木刀よりもはるかにすさまじい戦果を挙げられると踏んでも何ら不思議はない。

(面妖ではあったが……ありがたい限りだ)

 今この世界にある四振りの刀はすべて本当に大事にしてきた刀たち。粗雑な扱いを免れたこともあって、本当に安どした私であった。

(まぁイレギュラーなことが起きたことで、予定よりも遅れてしまっているが) 

 少し時間が押したが、それでも現在は13時。昼飯後に会議を行って今後の方針を検討しつつ、実験の続きだろうなと……私は安易に考えていた。

「宗一少尉、よろしいですか?」

 本日の昼食はどうなるのだろう? そんな楽観的な思考をしていた私に、光夜少佐から声をかけられた。その声が妙に重々しい響きが含まれていて……面倒ごとを言おうとしているのが何となく察せられた。

「何でしょうか?」

「可能でしたらお昼前に、私と模擬戦をしていただけないでしょうか?」




 光夜少佐が私にそう願ったのは屋内射撃場から全員が退室し、会議室へ向かう途中だった。この後は、珠代曹長に依頼していた特製弁当が運ばれている会議室にて軽く打ち合わせののち、視察団はそれぞれ帰還する手はずとなっていた。

 弁当になっているのは、帰還する視察団が輸送機の中で食べるためのものである。弁当が昼食になっているのは、我々秩父前線基地所属の人員も同様だ。ゆえに、私たちは会議室で反省会という名の打ち合わせをしながら食べるのだと思っていた。

 そんな矢先に言われたのが、模擬戦だった。

「どういうことだ、光夜少佐?」

 ほぼ終わりに差し掛かっていた状況でのまさかの言葉に、千夏司令がそう質問してくるのは当然のことといえた。私がしゃべる前に、真意を問いただそうとしたのだろう。

「言葉通りの意味ですね。模擬戦もオーラスーツではなく、防具と木剣を用いた生身での模擬戦をしていただけませんでしょうか?」

「何?」

 オーラスーツでの模擬戦ではないことが意外だったのか、千夏司令がいぶかしげな声を上げる。それは私も同じだった。なぜ防具を用いるとはいえ、生身での戦いを願ってくるのか? それが理解できなかった。

「……姐さん、気持ちはわかるが、さすがにそれはまずいぜ?」

「そうでしょうか? 時綱。別段おかしなことは申してないと思いますが」

「そうだけどよ? でも一応俺たちは今、国連の代表として来てるんだ。姐さんが剣技に惹かれるのは俺も理解できるが、今の立場はまずいって」

 時綱中尉のセリフで、それなりに何度か模擬戦を行ってきているのが理解できた。そしてなぜ模擬戦を求めてきたのかも、なんとなくわかった。

(そういえば、装備していたのが剣のみだったな)

 赤紫のオーラスーツが装備していたのは、まだ日本でも直剣が使用されていた時代である、古墳時代のような両刃の剣のみだった。ならば剣技にそれなりの自信があるのだろう。

 そんな人物が私の刀と素振りを見て、さらに話を聞いてきた。そこまですれば、後は実際の腕前を見たいと思うのも、無理からぬことだろう。

「そこも十分理解しております。けれど、それでも……この人と戦ってみたいのです」

 そう言ってくる姿と態度は誠実であり、そして切実に見えた。剣を修練した身としてその考えは十分に理解できたが、なぜ切実……というよりも必死に見えたのが、少し疑問に思えた。

「私は構いませんが」

 一応私の意見を主張しておく。その言葉に光夜少佐は嬉しそうに目を輝かせ、時綱中尉はげんなりとした。そして最高決定権のある千夏司令は……深々とため息をついていた。

「まぁ止むをえまい。許可しよう」

「ありがとうございます!」

(おや? やはりそれなりに親しいのか?)

 意外にもあっさりと許可を出した千夏司令。その時の表情が、あまり苦々しくない苦笑だった。二人の信頼ともとれる雰囲気が見て取れるやり取りだ。

 私が知る二人の会話は本日と、先日の戦場での会話くらいしかない。本日はともかくとして先日の戦場での会話は、私という未確認物体がいたことで少々険があったが、本日はそれがない。ある程度疑問が解消されたことで、少しはましになっているのだろう。

「ただし非公式とさせてもらうぞ。それはいいな?」

「えぇ、もちろんです」

 非公式という言葉で、なぜわざわざ会議室へ向かう道中で話したのかが分かった。二人の基地司令に見せないためだろう。さらに言えば、国連のもう一人の白人の人にも、聞かせないためなのかもしれない。

「ならそうだな……真矢少尉。貴様は宗一少尉とともに、屋内第三格闘場に向かえ。後で私と光夜少佐がそちらに向かう」

「了解しました」

 道案内を任された真矢さんは、不思議そうな声で返事をした。私もそれは同じだった。何せ基地内部の案内は、機械の案内で問題なく行けるからだ。不慣れな上、正式に軍人になっていなかった初期のころと違い、今は許可された権限であれば、基地の機器にもアクセスが可能である。となると、千夏司令としても、真矢さんを同行させるのは、何か思惑があるということなのだろう。

「千夏司令。出来たら俺っちもさせてほしいんだが?」

「例外に例外を重ねると面倒だから模擬戦は許さん。来ることは認めてやろう」

「残念だが、了解した」

 他の基地司令は先に帰すとしても、あと一人の国連派遣の人員と長い時間離れるわけにもいかないだろう。そのため私と光夜少佐だけと限定としたと思われる。それが分かるからこそ、時綱中尉もあっさりと引き下がったようだ。

 

 残念ながらこれは別の形で同じ事をすることになって、意味がなくなるのだが。


 そうして二人の基地司令は先に帰すこととなった。そのことについて二人の基地司令から文句がでないかと思った私だったが……意外なことにあっさりと引き下がったらしい。

(何かあるな)

 先ほど観測室でそれなりの時間やりとりをしていたというのに、この模擬戦を見もせずに帰って行くのは非常に違和感があった。一体何故なのかと疑問には思うのだが……それを考える材料もないので、考えるだけ時間の無駄だった。

(そうなると……)

 私は道案内をさせられている、真矢さんに聞いてみることにした。

「ちなみに真矢さんは、光夜少佐がなぜ私に模擬戦を挑んできたのか、その辺予想できたりしますか?」

 移動中に素朴な疑問を真矢さんに聞いてみた。といっても真矢さんも光夜少佐と親しいかはわからないので、世間話程度で聞いてみたのだ。しかし……

「おそらくですけど、純粋に腕試しをしたかったのだと思います」

 びっくりしたことに、結構普通に返してきた。確信とまでは言わないが、それなりに根拠があるようで、その声に迷いはない感じだった。

「腕試し、ですか?」

 しかし腕試しがしたいといわれても、意味が分からず私は首をかしげるしかない。

「光夜少佐は世界的にも有名な武人です。軍人であるにも関わらず、武人といわれるようになった理由は、光夜少佐の戦闘スタイルが、剣一本で戦っていることに由来してます」

 先日の極東作戦で私が見た限り、マテリアルソードだけだったのは間違いではなかったらしい。

「剣のみということで、キルスコアは多くありませんが……その代わり質が異常に高いんです。光夜少佐は十年前からほぼすべての任務で、中型種以上の個体を単身で撃破しています」

 剣一本ゆえに数を殺すことはできないが、武装が強力ゆえに倒せること自体は不思議に思わない。それだけではなく単身で撃破というのが、異様といっていい。

 しかも武器が強いのも、十年前からずっとというわけではないはずだ。彼女はどう見ても、今の私と同程度か、もしくは少し下くらいの年齢だ。それの十年前ということであれば中学生になってしまう。中学校卒業と同時に入隊というのは、戦時下のこの世界においては不思議ではないが、さすがに入隊して二~三年の新兵に、マテリアルソードを貸与されていたわけがない。その値はオーラソードなどで、中型を撃破していたということになる。

 挙句の果てともいうべきは……

「中型以上ということは……」

「大型もかなりの数を、単身で倒しているようです」

 それだけ聞ければ十分だった。剣一本のみということで、実力者ということは容易に想像できたが、大型種も単身で撃破できたというのならば、同じく木刀一本で大型種を倒した私に興味が引かれても、無理はないだろう。

「そんな光夜少佐だからなのかわかりませんが、強くなることに貪欲で、接近戦が得意な人には模擬戦をお願いすることがあるようです」

 そして今回の模擬戦は今回に始まったことではないようだ。大して親しいとも思えない真矢さんが知りえているということは、噂話が広まるほどには数をこなしていると思われる。

「つまりお眼鏡にかなったということですかね?」

 そして私が勝負を挑まれたということは、勝負してみたいと思われる程度には見えたということだろう。前線で戦い続ける本物の武人に認められたのは、剣術家としてはうれしいのだが……相手が女性というのが、少々やりにくいと思えてしまう。

「そうだと思います。何せ実力者であっても、近接武器だけで戦う人はあまりいないので」

 確かに試合でもあるまいし、自らを吸収する流体生物相手に、いくら有効とはいえ接近戦のみで挑む人間はそういない。しかしそれも中型種以上のサイズであれば話は別だ。

 何せオーラ兵装ではまともに攻撃が通らない。接近武器であればオーラ兵装でもそれなりに通用するが、マテリアル兵装の近接武器よりは威力が劣るし、威力が劣れば討伐に時間がかかる。時間がかかるということは、命を危険にさらす時間が増えるということだ。だからこそ皆マテリアル兵装を欲しがるのだ。

 しかし光夜少佐の場合、おそらくマテリアルソードを持つ前から同じ戦闘スタイルだったのだろう。ここ数年程度で、あれほどの実力を有するにいたるとは思えなかった。

「ちなみに模擬戦でも一度も負けたことがないそうです」

 そんな考えをしていると、どんどんと光夜少佐が怪物であると言うことを教えてくれる。純粋に情報としてありがたいのだが……強いことを強調されてしまって、萎縮してしまうそうだった。

「それは、今から行う対人戦でですか? それともオーラスーツも含めて?」

「含めてです」

「なるほど、武人といわれるのもうなずけますね」

 対人戦……生身で戦って負けた側が、それだけで納得することは恐らくない。オーラスーツのフル装備でやれば勝てる! と活きこんでオーラスーツで戦っても、負けるわけだ。


 剣一本のオーラスーツ相手に。


 フル装備のオーラスーツ相手に勝てるのだから、武人と言われても何ら不思議ではなかった。

 剣一本での相手を求めるのならば、私ほどうってつけの相手はいないだろう。確かにアームキャノンという遠距離武器を携えているが、私の本領は刀を用いた近接戦闘だ。それだけでは、オーラスーツなどの装備を纏っての剣術がうまいだけと捉えられなくもないが、私が使用しているのがパワードスーツだ。

 オーラスーツは思考によって操縦することが可能だが、それはあくまでもオーラスーツで近接戦闘をするのであって、実際に生身で近接戦闘を行うのとではわけが違うのだから。

 私の場合は、確かにパワードスーツを着ているが、オーラスーツと違って感覚ではほぼ生身である。生身での近接戦闘ができると思われても何ら不思議ではない。

 しかし実力があるのが分かったとはいえ、私だけではなく、なぜ生身の近接戦闘を求めるのか?

(その理由が気になるな)

「宗一さんが実力者なのは十分わかってますが、頑張ってくださいね」

 隣で歩んでいた真矢さんが、顔をこちらに向けて両の拳を力強く握って励ましてくれた。笑みは少々戸惑っているような感じだったが、それでも応援自体は間違いなくしてくれているようだった。

「……ありがとうございます」

 むろんわざと負ける理由もないので普通に戦うが、何に対して頑張ればいいのかがわからず、返事に少し間が空いてしまった。真矢さんはそれに気づくことなく、演習場へと足を進めた。





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