新たなる力
「可能であれば、そちらに行っても?」
観測室に続くエレベーターに乗れば、すぐに観測室に行ける。そのため、確認の意味も込めて、私はそう提案した。
「……許可しよう」
千夏司令としてもどうすべきかわからない状況だ。混乱しているのかもしれず、許可をくれた。私は観測室へとつながる、大型のエレベーターに乗り込んだ。
射撃場で使用した銃器などを運ぶこともあるため、オーラスーツも乗ることが可能なサイズだ。だだっ広い空間に、パワードスーツの私だけが乗り込んで、なぜか……空虚な気持ちを抱いてしまった。
すぐに観測室にたどり着いて扉が開き、私は光の発生源へと目を向ける。すると……パワードスーツと小堂丸が点滅をやめて、互いに向けて一本の光でつながった。
「……こいつは、本当に」
「ふむふむふむ! なんと興味深い現象だ!」
ほとんどが固唾をのんで私を凝視する中で、千夏司令とダヴィさんだけはそれぞれの反応し示していた。とりあえず私はエレベーターから降りて、観測室へと入った。そして……許可を取る。
「刀を出してもらってよろしいですか?」
「「っ!」」
「無論だとも。私が許可を出すとも」
二人の基地司令が腰に手をやろうとするのが見えたが、私はそれを無視した。ダヴィさんの許可が下りたので、刀へと歩み寄った。その間にダヴィさんがケースのロックを解除してくれた。
しかしさすがに触る勇気はなかったのか、それとも別の理由かは謎だが……ダヴィさんが一歩離れた。距離が近づくたびに、光が徐々に収まっていき、触れることが出来る位置に私が立つと、私の左手と鞘の中間点辺り……左手で刀を持つときに最も手にする鞘の中間当たりが光り、その二つが線で結ばれた。
明らかに私が持つのを待っている……そんな状況といえた。
「持ってもよろしいですか?」
「許可しますが、いいですね?」
「……いいだろう」
「……取りたまえ」
念のため二人の基地司令に確認する千夏司令。さすがにこの状況では許可を出さざるを得ないと判断したのか、二人の基地司令は立ち上がって、自らの護衛の背後に隠れた。護衛も緊張しつつこちらを見ている。少しでも変な動きをすればすぐにでも構えられる、そんな心構えなのが、目を見たらわかった。
私はそれらを一切気にせず……自らの愛刀に左手で触れて、いつも通りの感覚で手でつかんだ。すると、重なったことでなのかは謎だが、強く発光しだした。しかし私はパワードスーツを着ているからか、強い光がまぶしいとは感じることはなかった。
やがてその光がただの光から、薄い青色へと変化して刀全体を包みこみ……その光が球体となって刀が消失した。
「は?」
「ほぉ!?」
千夏司令が間抜けな声を上げ、ダヴィさんが興奮した声を上げる。しかし何となくそうなることが予想できていた私は、ただ青い光の玉となった……小堂丸を見つめていた。
【お願い】
なにを願うというのか? 以前にも聞いた言葉と同じ言葉に対して、そんなことを思った。
光の玉となった小堂丸からそんな声が聞こえたと思ったその時……光の玉が左手へと吸収されるように入っていき、体全体を青い光が包み込んだ。その色に染まるように……パワードスーツにも変化が生じた。
「……あ~~~もうヤダ」
「おぉぉぉぉお」
灰色一色だったスーツに、青い光のラインがいくつか引かれ、そしていくつかの個所が動きを阻害しない程度に大きくなった。形状的な変化だけでなく、明らかに力が充溢している感覚があった。
(間違いなく、パワーアップしたな)
刀が光となって左手に吸い込まれる。ゲームやらアニメでよくある演出であり、そしてロトメイドでは、強化スーツを手に入れたら外見的変化が起こるのは、もはやお約束である。
(それが自分の身で起こるとは思わなかったが)
「……宗一少尉。意識は?」
「特段問題ありません」
「……問題大有りだがな」
(ごもっとも)
とりあえず私が正常であると確認だけして、千夏司令が盛大にため息をついた。他の基地司令はまだ固まったままだ。護衛も同様で、ダヴィさんに関しては指が高速で動いているとだけ言っておく。
(他は?)
真矢さんはあきらめたように苦笑しており、璃兜さんは少々ひきつった笑みを浮かべている。そんな中で、国連軍の三人が、それぞれ他とは違う反応を示していた。
光夜少佐は、こちらを興味深そうに見てきている。その目には嫌悪が含まれておらず、本当に純粋に興味を抱いている様子だ。
偉丈夫の男は目をキラキラさせて興奮している。その様子は、まさに興奮する子供のように純真さがあふれていた。
最後の一人の白人男性は、値踏みするような目を向けていた。
「な、なんなんだ貴様は!?」
ようやく再起動した基地司令から、怒号が発せられる。それも無理からぬことだといえるだろう。
(私自身びっくりだしな)
冷静に見えるかもしれないが、私自身すさまじく動転しており、それと同じくらいに興奮していた。何せゲームのようなパワーアップを、身をもって体験できるなど思わなかったのだから。そして今の状況から察するに、パワードスーツが木刀と同じように、小堂丸を取り込んだと考えるのが道理だった。
「ダヴィ技術中佐。これ程のことが起こったうえで、貴様はまだ国連軍だからと、屁理屈を言うのかね?」
怒号を上げたほうとは別の、もう一人の基地司令があからさまに馬鹿にしたような口調で別のダヴィさんにそう問いかけた。この態度、セリフに口調から、先ほどまで観測室がどんな雰囲気だったのか別の容易に想像できた。
(まぁしょうがないとは思うが)
内容は考えるまでもないし、考えたくもないのでそこは放置。この状況で、ダヴィさんがどう動くのかを確認するため、そちらへと視線を向けた。
「決まっているだろう? むしろもっとどうにもできなくなったね」
「! 貴様!」
「まだそんな屁理屈を!」
「ソウイチ君。悪いんだけど、もう一度下に降りてもらっていいかな? あぁ、念のため、マヤ君もおりてくれたまえ」
「!? わかりました」
二人の荒げた声に答えず、ダヴィさんが私にそう指示を出してきた。断る理由もないので、私はすぐにエレベーターに乗り込んだ。真矢さんも自分が指名されるとは思っていなかったようだが、それでも命令をすぐに理解し、私とともに屋内射撃場に降り立った。
「さて、早速だけど、さっき君が手にした君の刀。取り出せるんだよね?」
一応疑問形で聞いているが、ほとんど確信しているのだろう。私もそのような指示が出るのは予想していたし、そして小堂丸がパワードスーツに取り込まれたことはわかりきっていたことだった。
念のために左手で虚空を握りこむように少し丸めると、何もないはずの手の中に……木刀とは違う手慣れた感触が返ってきたのを覚えた。
「取り出しても?」
「もちろんだとも」
状況が状況ゆえに慎重をきして、私は小堂丸を持つと意識して……左手を握りしめた。するとそこにまるで何もないどこかから出現したかのように、左手が抜き身の小堂丸の柄頭を握っていた。
「では軽く素振りしてみてくれたまえ」
ダヴィさんからの指示どおり普段と同じように素振りをしたが、特段こちらから見ても何も変化はなかったが……観測室ではえらい騒ぎになっていた。
「な、なんだこのでたらめな数値は?」
「これが本当に、一人の人間のオーラ数値なのか?」
通信から漏れてくる声は、先ほど声を荒げていた二人の基地司令のものだった。どうやら憎悪すらも覆すほどのすさまじい出来事を、今まさに私が起こしているらしい。
(ただの素振りなんだけどねぇ)
といってもパワードスーツで素振りをしているので、端から見れば早送りしているような状況になっていて、滑稽かもしれない。
「では、ソウイチ君。大変申し訳ないが、その刀をマヤ君に渡してもらっていいかな?」
一瞬だけ内心……非常に嫌だったが、わざわざ今この場でいう意味を考えて、私は真矢さんへと峰を向けて柄を持てるように差し出した。
「――失礼します」
人に抜き身の愛刀を渡したくないというのが、態度に出ていたのかもしれない。もしくは、いくら私でほぼ問題ないと思っていても、あまりにもおかしい存在に、真矢さんが恐怖を抱いているのかも知れない。
それについてはもう仕方がないとしか思えないため、私は自分の中で勝手にお互い様であると考えて、無理矢理自分を納得させた。
そうして私がくだらない思考をしている時に、真矢さんが私が差し出した愛刀を手に取った。すると、驚いたことに、小堂丸が淡く輝いて、真矢さんのアクティブスーツにもその光が伝播するように、真矢さんの全身が薄く輝いた。
「えぇっ!?」
これには真矢さんが悲鳴を上げていた。幸いなことに、あまり危機感を抱くような雰囲気の光ではない。直感に過ぎないことだったが、それも決して馬鹿にできない。
何より個人的に……長年大事にしてきた愛刀が、私と親しい人に対して、まずいことをすると思いたくなかった。
「何?」
「……これは流石の私も予想外だね」
「え!? これを予想していたんじゃないんですか!?」
ダヴィさんからの通信に、今度こそ完全に真矢さんが悲鳴を上げた。私も声こそ上げなかったが、その言葉には驚かされた上に呆れてしまった。
「いや……触ったら何も変化が起きないことを強調したかったんだけど。まさか反応するとは」
そういってしばらく考え込む仕草をして……璃兜さんに指示を出した。
「リツ君。下に行ってもらって良いかな?」
「……それは私に触って来いって意味ですよね?」
「うん。お願い♪」
可愛らしくあざとらしく……ダヴィさんが笑みでそう言った。それは命令であるというのが理解できたため……璃兜さんは小さく溜息を吐いて、下に下りるためのエレベーターへと足を進めようとした。その時……
「私もご一緒してよろしいですか?」
意外な人物が声を上げていた。
「ちょ、姐さん!?」
偉丈夫の男が、焦った声を上げている。しかしそれに反応することなく、自らも下に……此方に来ることを望んだ光夜少佐は、千夏司令を見ているようだった。
「……いいだろう、許可する」
「感謝します」
「……姐さんが良いなら俺も」
さらに光夜少佐を姐さん呼びしている偉丈夫の男も下りてきて……計三人が下へと下りてきた。
「……触りたくないなぁ。何も起こらないよね?」
「なら触らないでくれると此方としても嬉しいんですがねぇ」
「あっ……そうだね、ごめん。失言でした。そういう意味じゃなかったんだけど」
「……いえ、失礼。私も少々大人げなかった」
璃兜さんの性格から悪い意味で言ってないのは分かっていたのだが、どうしても刀が対象だったために、棘がでてしまった。これについては反省すべきだろう。
「確かに、ソウイチ君にとって大切な物なんだものね。ちょっと興奮しすぎて、言い方とか扱いを雑にしてしまったね。失礼した」
此方の会話を聞いてダヴィさんも謝罪をしてくれた。一応仕事中なので私語とも言うべき会話なので注意されても文句は言えないのだが、その辺は人が良い。
「では気を取り直して。失礼します」
「どうぞ」
璃兜さんが丁寧に私に対して少し頭を下げて、真矢さんから小堂丸を受け取った。そしてその瞬間……真矢さんほどではないにしろ、少しだけ刀と璃兜さんの体が光った。
「……えぇぇぇぇぇ」
よもや自分にも同じような現象が起こるとは思えなかった璃兜さんが、顔を引きつらせる。二度目故に驚きはしなかったが……私もこの怪奇現象とでもいうべき現象には、眉をひそめるしかなかった。
「……これはどういうことだ、ダヴィ技術中佐?」
「……二人が発光したのは、一体……、いやしかし」
基地司令から嫌味を言われているのだが、さすがはダヴィさん。目の前の怪奇現象の解析に夢中になっていた。
しかし私は、手に持った二人が真矢さんと璃兜さんだったことで……何となく光った理由が分かった。
(二人とも、マテリアルソードの適合者だ)
「そうか……二人ともマテリアルソードに……」
どうやらダヴィさんも同じ思考に至ったらしい。
「ソウイチ君。申し訳ないのだけれど、ミツヨ少佐にも持たせてもらって良い?」
「……しょうがないでしょう」
当初は真矢さんが持っても反応しないことを示したかったのだろうが、真矢さんと璃兜さんが反応してしまった。ならばマテリアルソードに適合していない他の人ならばどうなるのか? という疑問が浮かぶのは至極当然のことである。
それは直ぐに理解できたので、私は渋々と許可を出した。許可を取る理由も本来は必要ないのだが、そこはダヴィさんなりの優しさだろう。
「宗一少尉でしたね。あなたが大事にしているというこの剣、持たせていただきますね?」
「どうぞ」
柔らかく微笑み、丁寧な口調で断りを入れてくれる。しかしその目は妖しく鋭く……私と小堂丸を見ていた。そして璃兜さんから小堂丸を、光夜少佐が受け取ったのだが……今度は何も反応することがなかった。
「おれっちもいいか?」
「時綱。人の大事な物を持たせてもらうのですから、大切に扱うのですよ?」
「もちろん。わかってるって姐さん。宗一少尉、失礼するぜ」
ここまでくればどうにでもなれ……とまでは思わないが、それでも光夜少佐もこの偉丈夫な男も、雰囲気と態度から見て変なことはしないと判断して、私は頷いた。そして偉丈夫の男が持つが、同様に何も起こることはなかった。
「念のため、一度ソウイチ君に戻してもらって、ソウイチ君から直接手渡してもらって良いかな?」
確かに、蓄光ではないが……私から直接渡せば何か違いがあるかも知れない。そう考えるのも妥当だと思えて、私は指示通り、私が持ってから光夜少佐と偉丈夫の男それぞれに手渡したが……二人とも何も反応を起こすことはなかった。璃兜さんも念のため私から直接手渡したが、光るには光ったが、特段光量が変わるようなことはなかった。




