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裏の話

 しばらく切り結んでいたのだが、こちらは決着がつくことはなく終了した。私から攻撃できず、受け損なうこともない。璃兜さんはサイズ比ゆえに、攻撃が限定されてしまうためワンパターン化してしまう。そのため璃兜さんが攻撃しづらい。璃兜さんはかなり悔しがっていた。

 真矢さんのほうは特段問題なかった。というか、自身に被害が及ばないようにアクティブスーツサイズの盾を持って逃げていただけなのだが。

 と言っても飛行時はそれなりに逃げ回っていたので、結構大変だった様子。しかし私と璃兜さんとの切りあいの際は、ほとんど動くこともなかったので、私と璃兜さんとの切りあいを見ていた。

 野外演習場での実験は終了し、次にダヴィさんの研究室へと移動することとなった。その際に、視察団の様子を見ることができたのだが……佐野と筑波の基地司令は明らかに私を警戒していた。それは護衛の二人も同様だった。

(まぁ璃兜さんは除装しているが、私は装備したままだからな)

 オーラスーツではさすがに通路に入らないため、璃兜さんは通常通りの装備に戻っている。真矢さんは、二つの基地の護衛がアクティブスーツ着用のため、それに合わせてか千夏司令とダヴィさんの護衛というかのような位置にいた。

 二つの基地はまだいいのだ。警戒してるのがあからさまに態度に出ているので、非常にわかりやすい。しかしまったくもって読めないのが……国連軍からの視察団の三人のうちの一人、光夜少佐だ。

(ごっつにらんでますが……私何かしましたかね?)

 欧州の白人はほかの連中同様警戒しており、偉丈夫というべき大男は、好奇と好感を抱いているような目を向けてきているので、わかりやすかった。しかし光夜少佐は何というか……こちらの一挙手一投足すべてを見抜くかのように、鋭い目つきでこちらを見ている。それが嫌悪感でないのはなんとなくわかるのだが、そこまで値踏みされるような目を向けられる覚えはなかった。

(いや、私自身何かしたわけでなくても、装備が異様だから値踏みされるのも、当然といえば当然か?)

 今の模擬戦では、出力の調整が難しいために全力を出すのは不可能だった。だが、光夜少佐は現時点で私の全力を、FMEにぶつける現場を唯一まともに目撃している人間だ。注目されるのも無理はないと、私は自分で納得した。

 そしてダヴィさんの研究室に到着して、やることといえば特段たまにやる実験と、変わらないことだった。パワードスーツの身体能力のテスト、防御力検証、アームキャノンの威力とチャージショットの威力、マテリアル兵装となった木刀の破壊力。

フライトアーマーの飛行性能。オーラファンネルレーザーの威力、追捕性能。それらを、屋内射撃場のような場所で一人黙々とやらされる羽目になった。

(改めて……性能が向上しているのは間違いない)

 私がこの世界にきてすぐに実験したデータ。そこから定期的に実験したデータ。そしてここ軟禁状態で計測したデータに本日のデータ。すべてを見比べても一目瞭然で、右肩上がりに上昇している。

 そして一番新しい装備であるオーラファンネルレーザーの威力でさえも、それなりの威力を有している。アームキャノンに至っては、マテリアルライフルをやすやすと超えており、木刀に至ってはオーラキャノンに迫る威力を有している。

(開いた口がふさがらないって感じだろうなぁ)

 少し上に位置する計測室の様子は見ることはかなわないが、視察団が驚いているのが目に浮かぶようである。

「OK。一通り終了だ。申し訳ないけど、しばらくその場で待機してもらっていていいかな? 念のため装着中のデータがとりたいので、フライトアーマーを装備したまま、休めの姿勢でいてね」

「了解しました」

 そう返すと通信が遮断された。おそらく中で、本人を除いた秘密の会合でもするのだろう。

(さてさて……何が出るかな?)

 二人がいるのであまり心配はしてないが……結果が出るまでは不安に思えるものである。それも自分の努力いかんによって、結果が左右されない事柄であればなおさらである。

(じいさんの境地には事ここに至っても、たどり着けないなぁ)

 父方の祖父はやり手で努力家だった。私は知らないが、難しい国家資格の試験を受けに行き、帰ってきて妻のばあさんが手ごたえを確認したときに言った言葉が、手応えではなく……

「受かった」

 という力強い言葉だったらしい。手応えに対する答えではなかったのでなぜそういうのかばあさんが聞いたら……

「あれだけ勉強したのに、受からないはずがない」

 と、断言したとのこと。結果はもちろん合格。その話を聞いて末恐ろしさを感じたものだった。そんな祖父の息子の父も努力家で、大企業の部長→子会社の社長にまで上り詰めた。母方の祖父も、高校の校長になれるほどの人格者だった。そんな血族の男の一粒種の私だが……最初から最後まで平々凡々であった。

(ままならないなぁ)

 話がそれたが、自身の努力でどうにかできない事柄というのは、往々にしてその事柄自体ではかなり不満が溜まる事柄だ。悪い報告に話が進まないのを、祈るばかりである。




 そんな私の不安は的中し、とんでもないことが観測室で行われていたのだが……それを救ってくれたのは、人ではなく、私の想いだったと……後に知る。




「即刻あの武装を取り上げて、監禁及び人体実験すべきだろう」

 恐怖を抱いているのが如実にわかる、嫌悪感を含めた言葉だった。一通りの実験を終えてからの佐野前線基地司令の、第一声の言葉だった。

 屋内射撃場の観測室。そこにいるのは今回の視察に関係する人間で、宗一を除いた全ての人間が集まっていた。そんな状況であまりにもひどい発言をした佐野前線基地司令に対して、真矢と璃兜はわずかに眉をひそめた。反応こそその程度だったが……二人は内心途轍もなく激怒していた。

「私も賛成だ。確かに有用だが危険すぎる」

 佐野前線基地司令の言葉に同意したのは、筑波前線基地司令だった。こちらも佐野前線基地司令ほど恐怖を抱いてはいないようだが、嫌悪感は隠そうともしていなかった。

「というか、あれに自爆装置とかつけているんだろうな?」

 目の前の画面に映し出されたフライトアーマーを装備して、待機している宗一を侮蔑交じりの目で見ながら、明らかに人権を無視した言葉を吐き捨てている。というよりも、もはや「あれ」と表現していることからも、宗一を人間扱いすらしてないことがまるわかりだった。

「貴様らの話が事実であるのなら、あれに親類はいないはずだ。隠れてする分には何をしても問題はないと思うが?」

(予想通りか……)

 痛む頭を必死に隠しながら、千夏は内心で深い深いため息をついていた。先日の極東作戦でほとんど明るみとなってしまった宗一の存在。部下ならばどうにかごまかせるし、最悪は黙らせることができるが、同じ立場にある他の基地司令を、黙らせることはさすがにできない。

 本音を言えば千夏自身、最低でも宗一に自爆装置をつけておく……つまり首輪をつけておくということだけは、文字通りの規格外の宗一に対して行うのは、正直賛成だった。

 何せ宗一という存在は、常識の外にいるのだ。確かに数々のデータや本人と接した所感等を鑑みれば、首輪をつける必要性は薄いということは、千夏もわかっていた。

 だがそれはあくまでも、宗一が正気であればという前置きがつく。正気を失ったときに何かあっては遅いのだ。ゆえに最終手段は手元に置いておきたいというのは、そうあながち間違っていないと、千夏自身思っていた。

 それを否定するのはダヴィと、千夏自身だった。理性や周りからの心情を考えれば、首輪をつければいいと思う自分がいる。しかし一方で、千夏の本音を言えば、この不可思議な男に対してそこまでしたくないという思いがあった。

「それは私が断固として反対させてもらう」

 そんな二人の基地司令に対して、一人の少女が毅然とした態度で力強く言い放った。自分の数倍は生きていると思われる、老獪で老害な指令二人に対して、一切臆することなく言い切るその姿は、とても十代半ばとは思えないほどの気迫に満ちていた。

「確かに彼に親類縁者はいない。戸籍を確認しても見当たらないし、数百年前の免許証に記載された住所も確認したけど、関東平野だからただの野原に過ぎない。わざわざあんな手の込んだ身分証を偽造する理由も見当たらない」

「だったらしても問題あるまい?」

「逆にしても意味がないだろう? むしろそんなもの埋め込んで、心身に影響が出てしまうほうが問題だ」

 オーラという、いわば体力を浪費してこの世界の社会は回っている。ゆえに体力というのは貴重なエネルギー源であり、それだけあればいいと思えなくもないのだが、心理的影響は無視できないレベルで関係しているのはデータが証明していた。

 それも重要だが、自爆装置を埋め込むなど、あまりにも非人道的すぎるため通常であれば躊躇する状況である。

 

 しかしそれはあくまでも、平和な日常であればという前置きはつく。


「影響は出るかもしれないが、それでも安全を考えれば埋め込まないほうが、おかしいだろう? 明るみに出れば世論が騒ぐないかもしれないが、あれは都合がいいことに平行世界の住人なのだろう? 明るみに出ても精神異常者として片づけられる」

「そもそもそいつの言を信じていいのか? 現時点で精神異常者ではないのか?」

 二人の基地司令がそう言うのも無理もないといえる。むしろすぐに宗一の言を信じた千夏とダヴィが、おかしいと言えなくもない。そして二人が信じた理由は……今この場に存在した。

「さらに言えば、その異常な武器をのんきに保管しているんだ? 即刻天皇陛下に献上すべきものだろう」

 筑波前線基地司令が怒鳴る寸前の語気で、それを指さしながら吐き捨てた。その指先にあったのは……最悪の事態を想定し、特殊保護ケースに収められた四振りの刀だ。

 最悪の事態とは、盗まれることも想定しての事だった。宗一が明るみに出てしまった以上、他の基地に言わないわけにはいかない。そうすると刀のことが知れ渡るのも、時間の問題だった。

 そうなると強力な歴史的な武器ということだけを考えて、盗み出す輩がでないとは言い切れなかった。何せ皆、命を賭けて戦っているのだ。強力な武器が欲しいと思うのは無理からぬ事だ。

 ましてやその武器の持ち主であるその男は、現時点であり得ないほど強力な武器を三つ有している。これが明るみに出れば不満に思う者が出てきても、一切不思議ではなかった。

 この世界は歴史的価値のある物ですらも、戦場で使うための兵器に変貌させている。余裕がないのは事実だった。故に、歴史的価値のある物、強力な物等は、持ち主の意志等は一切考慮せず、強制的に徴集されるのが習わしだった。

「それは事前に渡したデータにも載せたはずだ。この四つの刀は計測出来ていない。だから徴集する理由もない」

「それはへりくつだろう?」

「その通り。へりくつだね」

 まさか肯定されるとは思っていなかった筑波前線基地司令が、キョトンと間抜けな表情をした。しかしそれは他のメンバーも同様だった。唯一千夏だけは普段通りだったが、言葉の真意を知りたいのだろう。皆がダヴィへと視線を向けた。

「だがへりくつを言って徴集を回避しなければ、これを献上しなければ成らないだろう?」

「貴様、それが分かっていながら天皇陛下に献上しないというのか? それは背信行為に等しいぞ?」

「私は国連軍所属だからね。君らに命令されるいわれはないよ?」

 これはダヴィの言うとおり。確かに秩父前線基地に所属してはいるが、国に仕えているわけではない。そのため大和の国の武器になりそうな物を献上する……という法律は適用されない。何せこの基地に宗一がやってきて、宗一が持つ刀の価値を一番最初に見て、そのあまりの異常さと価値を見いだしたのは、紛れもないダヴィなのだから。

「千夏司令。貴様も何か言え。流石に国連軍だからといえども」

「それに関しては私から言うことは何もない。何せ私は報告を受けて好きにしろと命じたのだからな」

「「なっ!?」」

 千夏のその言葉に、二つの基地司令は今度こそ驚きを露わに口をあんぐりと開けた。

「それに貴様ら二人も先日の陛下のお言葉は聞いたはずだ」

「っ!? 貴様! 謀ったな」

 千夏の陛下のお言葉という台詞を聞いて、筑波前線基地司令が察した。そして直ぐに佐野前線基地司令も気付いて、二人とも怒りを露わにして立ち上がった。

 そんな様子を、光夜は口元に添えた手で考え事をしているように見せて……口元だけで笑っていた。

(やはり……)

 そしてその台詞を言った千夏を見てから……ケースに保管された四振りの刀を、じっくりと見つめていた。それは興味があるという程度ではすまされないほど、どこか妖しい光をたたえた瞳だった。

「……さすがだな。まさか天皇陛下を出しに使うとは」

「何のことだか分からないな。私はありのままを報告しただけだ」

「抜かせ。陛下を利用するなど……貴様それでも大和軍人か?」

 吐き捨てるように、筑波前線基地司令が言いはなった。それに対して千夏は何を思うこともなく、ただ内心で溜息を吐くだけで終わっていた。

 しかし……次の言葉で流石の千夏も体で反応してしまった。

「役に立たなくなった出がらしのくせに、陛下に媚びを売るのは得意なようだな?」

「……貴様、今なんと言った?」

 地の底から響いたかのような、重く低い声が部屋に響いた。響くというほど大きな声ではない。ぼそりと……本人も自分で言ったと気付いていないほど小さい声だった。




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