視察前会議
それから一週間ほど経過した。その間私の仕事は完全にダヴィさんのおもちゃという名の実験体となり、あらゆることを行わされた。
ちなみにその間、私を含めた三人は、軟禁状態と言って差し支えないほどに、行動に制限を設けられた。他の人への通信は不可。実験以外での部屋の外に出るのを禁止。
実験で外に出ることがあったので、それでだいぶマシだったが、きつくなかったと言えば嘘になった。
(まぁ……私は外で動き回れたから、まだマシか)
私は当然フライトアーマーの実験。真矢さんと璃兜少尉については、マテリアルソードに関することが主だった。
また、璃兜少尉がマテリアルソードの適合者になったこと、何より真矢さんのオーラスーツが修理中ということもあって、一時的に璃兜少尉がマテリアルソードを装備することになった。元々楯と剣を使った戦闘スタイルの璃兜少尉だ。失礼ながら、真矢さんよりもうまく扱うことが出来るだろう。
(真矢さんが少しほっとしていることが、少々笑えてしまったが)
そしてマテリアルソードが光ったことについては、未だ展望すらも見えない状況だった。しかし真矢さんと璃兜少尉に反応したのは事実なので、二人はしばらくマテリアルソードから離れることは出来ないようだった。真矢さんもオーラスーツの修理が完了次第、マテリアルソードを装備することになるだろう。
新装備とも言えるオーラファンネルレーザーの威力に最大射程、発射数。フライトアーマーの防御力。
そしてもっとも重要だったのが、飛行に関する事だ。最高及び最低速度、最高高度、滞空時間、巡航速度での飛行時間、最高速度での飛行時間。他にもオーラスーツを運搬できたので、運搬可能な最大重量、運搬しながらの飛行時間等々。飛行に関することに一番力を入れた。
私がいた世界だけでは、人とほぼ同じサイズで、アニメや漫画のように自由自在に飛び回る兵器は存在しない。一応巨大なバックパックを背負い、両手に持った小型のジェットエンジンで空を飛ぶことが出来る装備が、私の世界にはあったので、できないわけではなかったが、当然自由自在ではないし、装備して飛んでいる存在はほぼ生身だ。速度も大して出ない。
科学技術が大いに発達したこの世界でもそれは同じで、人型サイズで単独飛行することは、ありえないことだ。そしてそれ以上に、この世界は戦争中だ。どうしても研究、開発は兵器が主な内容となる。無論、単独で自由自在に空を飛べて攻撃できるのであれば、それは十分な利点となるので研究も開発も行われているが、実を結んでいないのが現状である。
そんな状況で突如として出現した、ほぼ人型サイズで自由自在に空を飛び回るフライトアーマーを装備した、パワードスーツ。今までは何とかダヴィさんだけがおおっぴらに知っている存在だったが、国連軍も従事した、世界でも注目されていた大規模作戦で空を飛び回ってしまった。
大和国の軍にはある程度箝口令が通用するが、国連軍はそうはいかない。国連軍に出向している大和軍人はまだある程度の効力は生ずるが、他の国の軍人には通用するわけがない。
国連軍として従軍したときのデータや録画記録を、自国に流すのは軍事違反なのでそこまでは出来ないようだったが、それでも口頭で報告することまでは、防げない。
(人の口に戸は立てられない)
結果……大和国の別の基地だけでなく、世界中から私の装備について問い合わせが殺到しているという。それがただの興味本位ならばまだあしらえたが……いかんせん今は世界規模の戦時。有用な装備のデータは、世界中どこに行っても喉から手が出るほど欲しいはずだ。
(しかし……それを一蹴するとは思いもよらなんだ……)
国連軍が従事した作戦で明るみに出てしまった私という存在。それに関する事は驚いたことに、大和国が文字通り一蹴したのだ。先日大和国の国主であり、最高責任者でもある天人・煌威皆陛下が、大胆にも声明を発表したのだ。
『宗一・真堂少尉は、我が国の国民であり、大切で優秀な軍人である。彼の者の扱いについては、秩父前線基地に一任している。秩父前線基地、そして私の承諾なしの、彼の者について無用な詮索、無理な引き抜きは控えていただきます』
何とも強気な事を、全世界に発表した。これには基地で声明を聞いていた、真矢さん、璃兜少尉は……ちなみに、未だに朝から晩まで、私を含めた三人で実験に従事して、半ば監禁されている……驚きながらも、陛下の声明を姿勢を正して真摯に聞いていた。
そんな二人には少々申し訳なかったが、私はこの世界の日本である大和国の国主が、女性であることに驚いていた。
(この世界は男尊女卑というのがなかったのだろうか?)
一応言っておくが、私は男尊女卑も女尊男卑もおかしいと思っている人間だ。確かに男女、女男、という性別だけで見ても、この二つには大きな違いはあるが、違いは違いと言うだけで、その性別的な違いを見て、優劣を決めるのはおかしいのだ。
しかし私の世界では、どうしても戦争をするのは男の役目だったために、男の方が優れているという考えが、世界的に歴史的に考えられてきた事だった。この世界の歴史は多少なりとも勉強したが、実際戦争もしているのでそういう考えに至ってもおかしくない。
だが、少なくとも今の天皇陛下は女性のようだ。それもかなりのやり手であり、好かれていることが二人の態度を見れば直ぐに分かった。
『とはいっても、世界大戦となっている今の状況で、有用なデータが欲しいというのは理解しております。故に、先にも申しましたが、秩父前線基地の判断において、データを開示することを、私、天人天皇が保証いたします』
この声明が流れているとき、二人はわざわざ起立し、胸に手を当てて小さく頭を垂れていた。私はそんな二人を見て、少々びっくりしていたくらいである。
(なんというか……これぐらい出来る人がトップだったら、日本も少しは変わってたのかねぇ)
第二次大戦に敗戦したため、属国と言っていい関係だった日米。無論米の下にいたからこそ、私は懲役に就くことなく生涯を全うできたという事もあるのだが……一般市民でも知り得ない事柄がどれほどあったのかは、想像すらもしたくない。
(いくら平和を訴えても、それを維持するだけの力がいるのが、残酷な現実だな……)
私の世界は戦争や紛争は多くあれど、ありがたいことに私が生きていた時代の日本は、最後まで戦争らしい戦争は起こらなかった。それについては、悲しいことではあるが、核の傘の下にいたのが大きな理由の一つだろう。
核兵器。もっと率直に言えば、核爆弾。一発で一つの県を焼け野原にする恐るべき兵器。核兵器の厄介なところは、その火力だけでなく、数十年にわたって残り続ける、放射能の毒だ。これを撃たれて自国に着弾すれば……凄惨なことになるのは、日本の歴史が証明している。
(この世界で、核兵器がないのはでかかっただろうなぁ)
以前に勉強したが、この世界におけるアメリカ……アメタリカは二次大戦の時点では核兵器が完成していなかった。そのために大和とは和平という形で終戦した。
その後のこの大和がどのような国防をしていたのかは謎だが……アメタリカに自国の軍事技術生産を制限されていないのであれば、少なくともFMEとの戦争までは、きちんとした日本軍……大和軍が存在しており、平和が保てていたのだろう。私が勉強した範囲内であれば少なくとも大きな戦火に包まれたことは、大和ではないはずだ。
(東京大空襲もないからな)
だからこそ、職人技が日本よりも発展したとも言えるのだろう。実際、私の戦果を抜きにして、この大和がFMEの侵攻をここまで耐えているのは、賞賛するしかない。それは技術が凄いという事と……天皇陛下の存在が大きいのだと、この二人を見て思った。
しかし……そんな天皇陛下でも、どうにも出来なかったのが私という存在だった。今回の極東作戦は国連軍にも援軍を要請している。そのため、国連軍に見られたという不都合が生じており、そして国連軍に対して、天皇陛下が命令できるわけがない。
そのため……実験に従事はしていたが、ある程度のデータが取れた事と、そしてそのデータの精査が終えたのだろう。
極東作戦より一週間の時間が経った日。私は再び赤紫のオーラスーツの使い手、光夜・氏家少佐と会うことになった。
「明日、ついに国連軍、ほかの関東外縁部の二つの基地から視察が来る」
モルモットとして仕事を早めに切り上げた16時。私と真矢さん、璃兜さんは、軟禁部屋にて、千夏司令の話を聞いていた。
「わかっているとは思うが、宗一少尉のデータや本人との相対が主な目的だ。半ば強引だが正式に任官し、さらに私の部下のため、そうそう変なことはしてこないとは思うが、何かあれば必ず報告しろ」
軍に所属しているので、最低限の人権は保障されている。また階級が偉いといっても、私に正式に命令できるのは、千夏司令やダヴィさんといった秩父前線基地に所属している人間だけだ。
いくら偉かろうと、よほどの緊急事態でなければそうそう無茶なことはできない。
「ただ、国連軍に関しては、こちらもあまり強く言えない面があるからね。その辺は私とチカ司令で対応するから、君たちは何かあればこちらに指示を仰いでくれた前。別行動中なんかは特にね?」
まるで別行動を警戒するような発言をされている。予定では緊急事態を除いて、私たち三人は二人から離れる予定は今のところない。だというのにわざわざ言ってくるということは、そういうことも想定しておけということだろう。
(まぁそれをされるとしたら私が一番だろうが……)
二人もそれなりに研究対象としては魅力的だが、戦力的に考えれば私の足元にも及ばないレベルだ。二人も十分強いのだが、いかんせん私の装備が規格外で強力すぎる。
データはほぼ提供すると話は聞いているのだが、データがあっても実際にパワードスーツが直ぐに開発できるとは思えない。
手っ取り早く拉致するということは、ありえなくはないだろう。
「それも踏まえて、宗一少尉の装備は、実験を円滑に進めるという名目で常時装備させておく。ただ、他の兵器と違って火器管制システムでロックがかけられないので、言動にはくれぐれも注意しろ」
拉致されたとしても、装備さえ無事なら私をどうこうするのはそうとう難しい。ならばいっそのこと装備させたままにしておけば、相手に対する牽制にもなる。そういったことも含めての指示だろう。
しかし逆に言えば、システム等が内蔵されてない武器なので、システム的に制限をかけることができない。つまり、私の意志でいつでも撃つことが可能となっている。
(そう考えると、よく私を野放しにしているな)
私の好きなロボットアニメで、ムクロクロという作品がある。これは銀河の外からやってきた侵略者たちと、侵略者側から奪ったロボットで地球を防衛するという作品だったが、そのパイロットはナノマシンでパイロット認証を受けた人物しか操縦できない、複座型のロボットだった。
女の子は現代の人間であるため問題ないのだが、相方の戦闘担当搭乗者は、戦国時代からコールドスリープで現代で目覚めた侍。ゆえに現代の常識が通じないので、首元に電流発生器を取り付けて、万一の場合は電流を流して暴走を止めていた。
(まぁもしかしたら、すでに体内に小型爆弾とかしかけられている可能性も、ありえなくはないが)
ここは並行世界のはるか未来の世界。ロボットは普通にあるし、反重力発生装置もある。いつの間にか小型爆弾が体内に仕込まれていても、不思議には思わなかった。何せ実験体としていろいろ実験従事している。入れ込む状況はいくらでもあっただろう。
(楽観的だが……千夏司令とダヴィさんがその装置を握っているのなら、私がバカしない限りは安全と思っていいだろう)
命が惜しくないとは言わないが、それでも二人であれば変なことはしないだろう。それくらいに、信頼は互いにあると思いたい。
「明日来る視察団は、二つの基地の司令官と護衛の四名。国連軍からは光夜少佐と同じ部隊の隊員が二人来る予定だ」
どうやら先日会った方と、早くも再開することになるようだ。
先日の会話では千夏司令と知り合いなのは間違いないようだが、それがどんな関係かはわかっていない。仮に仲が良かったとしても、今所属しているのは別組織だ。
しかも視察理由が、突然変異と表現できるほどの奇怪な新兵器の視察である。仲良しこよしだったとしても、今は絶対に仲が良いわけがない。
(厳格な人って感じではあったが、どの程度かが怖いな)
矛先が私を向くのはわかっている。ただそのあとがどうか……あまり面倒なことにならないことを祈りたいものである。
(まぁ無理だろうが)
「光夜少佐自身は規則に厳しいが、話が通じないやつではない。そこらはあまり心配しなくてもいいのだが、残りの一人が少し心配だな」
手元の画面を見ながら、そうつぶやく千夏司令は、渋い顔をしていた。こちらには視察団のデータは明かされていないので何とも言えないが、どうやら千夏司令が面倒だと思えるほどの存在だというのはわかった。
「基本的には私とダヴィが答える。三人も発言を促されることもあるだろうが、くれぐれも余計なことは言わないように」
「まぁそうはいっても、どこまで言っていいのかわからないと何も言えないよね? というわけで三人にはこれを渡しておくよ」
そうダヴィさんが言うと、私たちに印刷された用紙が手渡された。どうやらデータに残したくないらしい。その時点で隠し事をすると明確になった。




