実験従事指示
「その通りだリツ君。この映像は、ソウイチ君が二人のオーラスーツでつかんで、脱出する際の映像だ。その時、リツ君が右手に持っていたものは何だったか、覚えているよね?」
真矢さんのオーラスーツが右腕と胴体、頭部を残してほぼスクラップに近い形の時である。そのため私は脱出に伴って真矢さんのオーラスーツの右手で私の左腕を持ってもらった。私の右腕は、璃兜少尉が左手でつかんでいた状態だった。その時、璃兜少尉が右手でもっていたもの。それは……
「私が貸与してもらっている、マテリアルソードです」
「その通りだマヤ君」
真矢さんの言う通りだ。達磨状態腕一本手前、しかも担架機能も破壊されているオーラスーツでは、剣を所持することができなかった。そのため、璃兜少尉の手持ち武器を捨ててまで、マテリアルソードの回収を優先した。つまりその時マテリアルソードを持っていたのは真矢さんではなく、璃兜少尉であるはずだ。
「そしてその映像を確認させてもらってから、私が三人の……特にリツ少尉のデータを解析した結果がこれだ」
そういいながら写しだされたデータは、私たち三人の機体と、平均的オーラスーツのデータだった。私のパワードスーツは、比較対象がないため過去の私のデータも一緒に表示されている。
(まぁ見せられたところで私にはよくわからんのですが……)
わかるのは、過去のパワードスーツのデータからみて、倍に伸びている数値がほとんどだということだ。
「えっ?」
相も変わらずよくわからない状況の私のデータを見て、自分自身何とも言えない感情が胸中を渦巻いている中、そんなあっけにとられるような間抜けともいえる声が、璃兜少尉の声から漏れていた。
自分のデータを見ていた私は、その声が気になって二人のデータを見てみた。よくわからない私ではあるが、平均的オーラスーツだけじゃなく、過去の璃兜少尉のデータと比較しても全体的に数値が向上しているのはわかった。真矢さんのほど強烈な上がり幅ではなかったが……しかし平均的オーラスーツでは考えられない異様な上がり幅を記録している。
真矢さんの機体も、破損したにも関わらず、数値が向上しているデータが記載されているが、今注目すべきは璃兜少尉のデータだろう。
「この映像を見てからマテリアルソードを確認してみると……驚くべきというか、予想通りというべきか、リツ君がマテリアルソードの適合者として登録されていた」
「えぇ?」
機体性能が向上したこと、そしてマテリアルソードの適合者となったことは、少なくない衝撃的な状況である。そしてこれだけで、なぜこの場に私以外の二人が残されたのかがよく分かった。
そしてこれについてはまだ知らなかったのか、それとも知っていたけれどほかの出来事で少々頭が回らなかったのかは謎だが……再度千夏司令が天を仰ぐように固まっていた。そして深い深いため息をついている。
「というわけで……以前からあったソウイチ君と、マヤ君に貸与しているマテリアルソードの摩訶不思議現象。研究対象が増えたという状況になっております!」
だんだんとテンションが上がってきたのか、ワクワクしているのが隠し切れず目をキラキラさせるダヴィさん。そしてそのあとの言葉に……私たち三人は絶句した。
「奇天烈で摩訶不思議なこの状況を研究すべく、三人にはこれから特殊実験部隊の隊員となって、実験に従事してもらいます!」
「ダヴィ。そんなことを私は許可した覚えはないぞ?」
ダヴィさんの宣言に、さすがに待ったがかかった。フリーズしていた千夏司令が一度深く深呼吸をすると、普段通りの厳しい表情で、ダヴィさんを制止する。
「え~~~? いいだろう?」
「実験するのは完全に止めはしないが、今はまだ無理だ。それはお前もわかっているだろう?」
(止めてくれないんですね)
不可思議すぎる現状を、放置するわけにもいかないのは当然のこと。そうはわかっているが、このマッドサイエンティストに近いうえに、思春期特有の精神的にまだ成熟してない精神での暴走をかんがみると、ちょっと恐ろしいことになりそうなダヴィさんの実験を止めてほしいと思うのは……致し方ないだろう。さすがに人道的に反した実験はないだろうが、それでも何を命じられるのかわからない。
「まずは現時点での宗一少尉の装備のデータ収集と、外部公表に向けての資料作りが最優先だろう」
「む~~~。それはそれで面白いからいいけどさあぁ。もっと面白い題材が目の前にあるのにぃ」
外部公表に向けての資料作り。単語だけ聞けば、すべてを公表するといっているように取れなくもないが、そんなわけがない。かなりデータを制限したものを公表するのは間違いないだろう。それほどまでに私のパワードスーツは異常だった。
「国連軍に見られることも、わかっているだろう?」
「まぁそうだよね」
(うん?)
国連軍という、外部は外部でも基地や国という垣根すらも超えた、外部組織のことを出したとたんに、ダヴィさんが渋々ながらも千夏司令の言葉に従うように同意してうなだれていた。そのあまりの物分かりの良さに、私は少し違和感を覚えた。
私は平々凡々な生涯だったただの男。国連という単語は、ニュースくらいでしか耳にせず、かかわりあうことなどあり得るはずもない。
この世界は戦争中であるため、国際的な遊撃部隊を有した組織だと認識していたのだが、それだけではないのかもしれない。
(まぁ国連軍が直近でからむとしたら、間違いなくあの赤紫のオーラスーツの搭乗者である、光夜少佐と絡むことになるのだろうが)
千夏司令と知り合いであり、最も巣に近しいところにいた部隊。さらにマテリアルソードが、かなり上等なものだったことをかんがみても間違いないだろう。実力者なのは間違いないが、どうか変な人でないことを切に願うばかりである。
ちなみにこの願いは、良くも悪くもかなうことなく……私自身とんでもない状況に陥ることになるのだった。
「このアホが暴走する前に私から結論を言わせてもらうが、二人はしばらく出撃させない。真矢少尉に関しては、言わなくてもわかるな?」
「オーラスーツを破損させたからですね」
真矢さんの準専用機であるオーラスーツは頭、胴体、右腕を残して他は壊れている。あの状態の機体で出撃できるわけがない。
しかし規格が統一されたオーラスーツの利点として、パーツ交換での修理が可能なはずだ。確かに準専用機のために、調整には一般兵よりも手間はかかるだろうが、在庫さえあればそこまで時間は要しないはず。
それをあえて言わないと言うことは、暗に実験を優先するようにという言外での命令なのかも知れない。
「そうだ。致し方ないのは理解しているが、顛末書は提出してもらう。そしてこれを理由に、真矢少尉には宗一少尉と行動を共にしてもらって、データをダヴィに提供してもらう。そしてこれは璃兜少尉もだ」
「私はマテリアルソードが反応したから、ということですか?」
「その通りだ」
真矢さんは、私と出会ってから相互向上をしているかのような現象が出ているため、以前からなるべく一緒に行動するように指示が出ていた。そして今回璃兜少尉にもマテリアルソードが反応したので、それを確認するためのデータを取ることになるのだろう。
「そして言うまでもないことだが、今この場の五人が知りえた情報についても、箝口令を出す。これは先ほどの宗一少尉に関する箝口令よりも、重い命令だと認識してもらう」
「「「了解」」」
どんどん私に関することで秘密が多くなってしまうことに、若干の危機感を覚える。私としては、自分を守ってくれていることは理解しているので、ありがたいとは思う。
だが……仕方ないことなのかもしれないが、それにしても秘密が多すぎては何かの拍子でばれたときに、面倒なことになるのは容易に想像できる。ばれた秘密がやばければやばいほど、その面倒ごとが大きくなるのは道理。
特にこの世界は戦争中だ。戦争の要ともいえる、戦力に直結した秘密。これが諸外国にばれた場合、下手をすれば大和国が糾弾される恐れもあるのだ。そんな場合の面倒ごとなど……はっきり言って想像もしたくなかった。
「そして明日からは、リツ少尉もソウイチ君の部屋の隣室に移動してもらうよ? マヤ君とは反対の部屋だね」
ほかの宿舎からはだいぶ離れた位置にある、私が住んでいる部屋の隣室への移動。ほとんど完全に真矢さんと同じ扱いをしている。それだけ興味深い事柄ということだろう。
「明日からの予定はソウイチ君はデータ取り。二人もデータ収集は同様だけど、対外的には機体の修理と療養とさせてもらう」
わかりきっていることだが、二人のデータ収集も秘密ということだろう。どんな実験をするのかは不明だが、私以外は全員女性だ。実にやりづらい実験になりそうで、うれしいやら悲しいやらという心境である。
(男的な感情がなんか元気になってきたなぁ……)
状況だけ見ればハーレムみたいな状況だが、そんなわけがないことはわかっている。しかしそんな思考回路が自分に生まれたことは、若返ったということのあかしなのだろう。
「まぁそんな感じかな? とりあえずタマヨ曹長にお弁当を依頼しておいたから、三人はこの部屋で食事を済ませてくれたまえ。食事時間含めて1時間休憩してくれて構わないけど、この部屋から出ないようにね」
どうやら本日より、データ収集をさっそく始めるつもりのようだ。確かに今は13時になったばかり。疲れがあるのは間違いないが、このトンでも状況を目の前にして、大規模作戦の直後とはいえ休みにしてくれるなんて余裕が、この世界にあるはずもない。
「ではこれで会議は終わりだ。私は仕事に戻る。三人は先にダヴィも言っていたが、この部屋からは出ないように。そしてダヴィの指示に従って、実験に従事しろ」
「「「了解」」」
そう言い残して千夏司令が部屋を後にした。ダヴィさんも準備があるといって部屋を出る。そして私を含めた三人が残された訳なのだが……璃兜少尉が深々と溜息を吐いた。
「何というか……とんでもないことになったわね」
苦笑しつつ軽く頭をかきながらそんなことを言った。流石にそこそこ困っているというか、戸惑っているのは間違いないようだ。
「マテリアル兵装が新たな人間と適合するって……今までそんなに事例あったかしら?」
「ほとんどないと思う。私……ごめん、やっぱり何でもない」
「? 言いかけて止めるなんて珍しいね? 何を隠してるの?」
璃兜少尉の疑問に答えようとした真矢さんが、口をつぐんだことに疑問符を浮かべた璃兜少尉。私も一瞬疑問に思ったが、私のパワードスーツと真矢さんのマテリアルソードの関係であるとわかって、私は納得した。そして助け船を出すことにする。
「私に関わることなので途中で止めたのでしょう」
「宗一さんの? あぁ、なるほどね」
私に関わる関係は機密関係が多い。この場に残された人間であれば明かしても良いかもしれないが、それでも確認してからの方が間違いがない。それを璃兜少尉も分かったのだろう。
「しっかし……あなたって本当に飽きさせない人ね?」
「といわれましても」
言っていることはその通りだと、私自身もそう思うのだが……私も別段やりたくてしているわけではないのだ。からかわれているだけなのは分かるのだが、どう反応すれば良いのかは正直分からなかった。
「まぁ、それもそうね。まぁそれよりも……こうして無事に帰ってこれたことを、喜ぶべきね」
璃兜少尉がそういったことで、私はこの作戦が無事に終了したことを、ようやく認識できた。それは真矢さんも同様だったようで、璃兜少尉のその言葉を聞いて驚いたような表情をしてから……ゆっくりと深呼吸をした。
「そっか……そういえばそうだよね」
決死部隊に近い突撃部隊として、FMEの巣へオーラスーツに乗り込んだ。そして、作戦目標である巣を崩壊させて帰還した。あまりにもばたばたして実感が湧かなかった。特に真矢さんは、正に九死に一生を得た状況だったはずだ。状況に頭が追いつかないのも無理はなかったのかも知れない。
あまりにも衝撃的なことが続いていたが、とりあえず一息吐いて思考に労力を回す事が出来るようになった。ここになって漸く……世紀の偉業が成ったことを、認識することが出来たのだ。
(それは私も一緒なわけだが……それでもどうしてもまだ実感は湧かないな)
私としては本音を言わせてもらえるのならば、あまりにもぶっ飛んだことが続きすぎて未だに理解できてないところが非常に大きい。更に本音を言えば、世紀の偉業が成ったこと、そしてそれを成し遂げたという実感は、私にはかなり薄い。
何せこの世界に来てから、まだ数ヶ月も経過していないのだ。二人も偉業が成ったことよりも、基地を守ることが出来たという気持ちの方が大きいだろうが……私にはまだ帰属意識が根付くほどこの基地で過ごしていない。その辺はしょうがないところもあるだろう。
(私もそうだが……二人とも偉業を成し遂げた部隊にいることに、まだそんなに理解してないかな?)
私がフライトアーマーに変化した光の球を取り込んだことで、巣の崩壊が始まったのはほぼ間違いない。あの光の球がコアだとするのならば、私が巣のコアを破壊したというのが妥当だろう。
事実だけで見ればそれが正しいのだが、しかし私一人だった場合、絶対に私の出撃許可が下りなかったはずだ。ならば必然的に考えて、部隊全員が一番の武功を上げたことになる。そしてその内の二人はここにいるのだが、二人ともそこまで自己主張する人ではない。恐らく今は無事に帰れたことしか、分かってないだろう。
(しかし……あの光の球がコアだとすると、一体何故、そんな物が巣にあって、しかもオーラマテリアルとして、こちらの武器となるんだ?)
私が取り込んだ、あの光の球がオーラマテリアルだとするのならば、FMEの巣のコアはオーラマテリアルと結びつけることも、出来なくはない。オーラマテリアルをため込む習性があるために、巣にオーラマテリアルがあることは予想されていたため、そこは不思議ではない。
しかし何故、コアがオーラマテリアルなのかがよくわからなかった。
(それともデビルダムガンがコアだったのか?)
もしくはあのオーラマテリアルの門番といえる、デビルダムガンがコアだったのかも知れない。しかし私しか最深部にたどり着けなかったために、まともなデータを取ることが出来てない。ここで私がない頭を捻っても、あまり意味がないだろう。
(私が単身で突入してしまったこと、最深部で敵と相対したが、私は文字通り規格外の存在。おまけにオーラマテリアルを独占してしまった。私自身も何を言われるのかわからないなぁ)
そしてそれは私だけではなく、上層部である千夏司令も該当する。そう思うと……客観的に見れば実験動物にしたくなる気持ちも、分からないでもない。しかしそれが実際自分の立場に成りそうになると、ごめん被りたい。
実に勝手な生き物だと、私自身内心で溜息を吐いていた。




