今後
「……これはこれは」
「意味がわからないな、こいつ」
「……なんかむかつくわね」
「……奇想天外ってこの人のことだったかしら」
「……うわぁ」
五者五様のリアクションを取るパラレル部隊の隊員たち。軒並み全員絶句してはいるものの、嫌悪感などの悪感情を抱いている者が一人もいないのが、隊員達の人柄を如実に語っているといえた。
「とりあえず私からはまずは何も言わない。忌憚ない意見を聞かせろ」
連日の作戦準備やらで少々疲れているのが、千夏司令の普段よりも覇気のない姿と、疲れによる余裕のなさで語気が荒くなっているのが見て取れた。しかしこの部隊は一人を除いて歴戦の勇士。この程度でひるむようなことはなかった。
「ドゥ大尉。この呼称デビルダムガンに対する意見はあるか?」
呼称は私が説明で言ったこと呼称がそのまま採用されてしまった。娯楽文化がだいぶ衰退してしまっている上に並行世界のために、自由戦士ダムガンが存在していなかったこともあるだろう。誰も突っ込むことなとがなかった。
「映像を見ただけではあるが、こいつを仮に討伐するのなら、うちレベルの部隊が二つは欲しいな」
「……」
「そのうえで俺のマテリアルバスターソードが通用するかどうか……って感じだな」
複数かつ数種類のマテリアル兵装を使いこなすドゥ大尉の言葉には、説得力があった。何よりもドゥ大尉の言う通り、マテリアリルバスターソードが通用するかどうかが、カギとなる。
基地全体を見渡して精鋭を引き抜いて構成された、精鋭中の精鋭部隊であるパラレル部隊。そんなパラレル部隊でも、攻撃力という点において最強なのは、ドゥ大尉のマテリアルバスターソードと、真矢さんのマテリアルソードだろう。
しかしそれが通用するかどうかは、試してみなければわからない。私の悪ふざけのような呼称が仮にとはいえ採用されることを考えれば……というか深部に潜入できたのは歴史上初なので、間違いなく新種のはずだ。
それを倒せるかどうかは、試してみなければわからないのが本音のはず。そして録画ではなく、他のオーラスーツが同行してデビルダムガンと相対していれば、詳細なデータを取得していたことでシミュレートができたかもしれない。しかし実際問題デビルダムガンと相対したのは私のみだ。録画データだけではそれも難しいだろう。
「なるほどな」
「また、極東一号……敵の巣の深部にあったオーラマテリアルを宗一少尉が、入手してしまったのは不可抗力だろう。なぜ落とし穴に落ちたのかは聞いたのか?」
「すでに聞き及んでいる。その瞬間だけ記憶がないらしい」
「……なるほど」
先に一人で尋問を受けたときに大まかな説明はしているが、やはり一番ネックなのはそこだろう。巣に突入し、調査を開始しようとした矢先に意識を失った。そしてその意識の消失を狙ったかのようなタイミングで落とし穴が出現し、私は奈落の底へと落ちていった。
はっきり言って状況的に都合がよすぎる展開なのだ。しかし私が意識を失ったのはまぎれもない事実だと、バイタル機器の記録が証明している。
胡散臭いこと請け合いだが、信じるしかない状況といえた。
「それについては後々考える。まずは意見を聞かせてもらおう。次、煉道中尉」
そうして一人一人の意見を述べてもらったのだが、皆いうことはほとんど同じだった。同じ部隊の仲間ということでかばってくれているのも事実だろうが、いろいろな点からかんがみても、私を糾弾するのは難しいだろう。
(まぁ心情的に、感情的に見れば……文句は絶対に方々から飛んでくるだろうが)
一通り皆の意見を聞いたのち、わずかな時間だけ試行した後に、最後に聞くべき人物がもう一人いたことを思い出す。
「ダヴィ。お前の意見は?」
(そういえばいたな)
一心不乱にわき目も振らずに、黙々とデータ処理を行っているダヴィさんに声をかける。
しかし問われたダヴィさんは気づくことなく、作業に没頭していた。その表情は普段と違い鬼気迫るほどに真剣だったため、声をかけるのはためらわれたのだろうが、それでも千夏司令はダヴィに近づいて肩に手を置いた。
「聞こえたか?」
「――失礼。夢中になりすぎたみたいだね」
肩に手を置かれても切りのいいところまでしたかったのか、若干間が空いてからダヴィさんがそう答える。一度大きく深呼吸してから……断言した。
「まず最初に断言させてもらうよ。派遣された技術中佐の権限をフル活用してでも、ソウイチ君の身の安全を私が保証する」
普段の好奇心に満ちた子供のような陽気さを一切感じさせず、ダヴィさんがそう断言した。これには部隊員だけでなく、千夏司令も面食らったように少し驚いていた。
「私自身の好奇心を刺激する存在を手放してなるものか……という利己的な部分が大半を占めているのは否定しないけど、これほどの偉業を成し遂げた存在を他の基地、ほかの人材に任すことは私が認めない」
普段の明るい雰囲気が一切なく、断固としたその態度には少々驚いてしまった。こちらとしてはありがたいのだが……その態度にはどこか、探求心だけではない何かがある気がしてならなかった。
「今回不可抗力とは言え、ほかの基地だけじゃなく、国連軍にもソウイチ君の存在が明るみに出てしまった。正直もう少し対策してから公表できれば良かったというのが本音だけど、逆に言えばこの状況で適切に処理すれば問題にはならない」
以前の作戦会議で、ある程度の情報はほかの基地にも伝えていると聞いている。それがどこまで明かしていたのかは謎だが、どちらにしろ今回のフライトアーマー入手に伴って、質問攻めが起こるのは道理だ。
さらに今回は国連軍の部隊も派遣されている。救援要請に従って援護に向かったため、被害を抑えられたという武功はあれど、そのせいで余計に注目の的になってしまったこともある。
一応、部隊長に許可をもらってから行ったし、人道的観点からみれば褒められるべきことだが……あまりにも異質であり、強力で特殊な兵器のため、どう転ぶか正直読めないところである。
「部隊がどうなるかも今は不明だけど、とりあえずみんなの安全は私が全力で保護する。そして申し訳ないけれど、私から許可が出るまでは、ソウイチ君に関してのすべての情報に箝口令を発令させてもらう」
「それは今まで以上に厳しい……という認識でいいのか?」
「もちろんだとも、ドゥ大尉。以前はある程度は言ってもよかったけど、現時刻をもってソウイチ君に関連する事柄の、一切の発言を禁止する。部隊にソウイチ君がいることすらも口外しないように。誰かに聞かれたら私から箝口令が敷かれていると、最初から拒否していい」
千夏司令に確認もせずそう宣言した。打合せをしているようには見受けられなかったので、ある程度は事前に決めていたのかもしれない。
「宗一は、一度部隊を離れて私の直属となり、しばらくはダヴィの実験に付き合ってもらう。しばらくは大規模な作戦は行われず、関東平野の残敵掃討が主な仕事になるから、宗一がいなくても問題あるまい」
やはり最低限の打ち合わせはしていたようだ。そうでなければいくら国連から派遣された技術士官とはいえ、大和国軍の秩父前線基地所属の軍人に対して、好き勝手に命令できるわけがない。
「また、現時刻をもって私の司令官権限において、宗一を正式に少尉に任官させる。いろいろなことが絡み合った特例措置であることは間違いないが、それでも責任が伴う立場になったので、そのことをよく自覚するように。わかったな宗一少尉?」
「了解いたしました」
様々な武功をたてに、強引ではあるが大和国の秩父前線基地の正式な士官として配属させるためだろう。そうすれば少なくとも国連からとやかく言われたとしても、大和国の軍人であるという言い訳が通る。
(私としても真矢さんと離されるのは避けたい)
一番付き合いが長いうえに、同じ部隊ということで接点も多いため、真矢さんが最も信頼できる人だ。精神年齢で言えば孫ほど離れた異性に頼るのは、少々情けない話ではあるが平衡世界ゆえにそれは目をつむってもいいだろう。
並行世界、歳が孫ほど離れている、いつ若返りという魔法が解けるかもわからない等々……様々な要因が絡み合っているとはいえ、なぜ私がここまで真矢さんに対して信頼感を抱いているのかを、私は深く考えていなかった。
「ではこれをもって一度真矢少尉、璃兜少尉、そして宗一少尉以外は解散だ。残りの三名にはは、報告書の作成と待機を命じる。これは他の突撃部隊にも命令していることだ。作戦が思ったよりも早く、さらには歴史的成功で終わったことで浮かれる気持ちもあるだろうが、まだ何が起こるかはわからない。気持ちだけは第三種警戒レベルでいるように」
「「「了解」」」
私はわかりきっていたことだが、真矢さんと璃兜少尉も残るように言われて、二人が面を食らっているが、すぐにうなずいていた。二人は私とともに空を飛んで脱出した人材だ。その辺の意見を聞きたいのだろう。
私としても休憩したいのが本音だったが、どう考えてもそんな意見がまかり通るはずもない。内心で深いため息をつくしかできなかった。
「いろいろぶっ飛んでるなぁ。何とも言えないが……とりあえずお疲れだったな」
そんな私に快活に笑いながらドゥ大尉が笑顔でねぎらいの言葉を掛けてくれる。それに対して私は素直にお礼を言っておく。
「ありがとうございます」
「特異性からかんがみてどうなるかはわからないが、また同じ部隊になれるように、俺からも嘆願しておくぜ? また一緒に同じ部隊として戦場に出よう」
気さくに笑いながら、ドゥ大尉が肩を軽くたたいて励ましてくれた。その態度には、嫌味も裏も一切ないように見受けらえた。
「本当になぁ。お前といると飽きないし、ほかの連中の新たな一面も見れるから面白くていいわ」
煉道中尉は笑いをかみ殺しながらそう言ってくる。
「それは何と言いますか……」
「まぁともかく、お互い大規模な作戦でも無事帰ってこれたんだ。そのことは素直に喜ぼうや」
右腕が義手になっている煉道中尉に言われると、非常に重さがあるので素直にうなずいておく。
「ちょっと、ほかの連中の新たな一面ってどういうこと?」
「それはまさにお前のことを言ってるぞ燐。負けず嫌いなのは前から知ってるが、まさか宗一少尉の映像を見て悔しがるとは思わなかったぞ?」
かみ殺すことが出来なかったのか、それとも我慢するのを止めたのか……煉道中尉が笑いながら燐中尉にそう言っている。そう言われて、燐中尉は顔を少し赤くして反論する。
「いやあれは……さすがに腹立たない?」
「どういう意味でだよ?」
「だって、あれほどの相手と戦って単身で勝つし、しかもディエすらも単身で勝ったのよ? 悔しいという気持ち以上に、なんかいら立ちが勝るのよ」
悪感情ではなく、本当に負けず嫌いなだけという……実にからっとした怒りをぶつけてくる燐中尉。自分よりも武功を上げたとか、オーラマテリアルを入手されたことが腹立つとかではなく、純粋に戦闘面で負けているのが悔しい様子。何というか、半ば戦闘狂に思えてしまう気がしないでもなかった。
そうして三者三葉に私に一言告げてから部屋を出て行ってくれる。皆一様にして雰囲気が明るいのは、最悪の事態である基地の危機が回避されたと考えてもいい状況だからだろう。いわゆる勝利の余韻に浸りたいのは事実なのだが……私たち三人はこれからが、ある意味で本番といえた。
「さて、ソウイチ君は当然として、なぜ二人にも残ってもらったのか、二人は理解しているかな?」
「私は宗一さんと合流する前に、マテリアリルソードが発光したことだと思いますが……」
(おや? また不可思議な現象が起こっていたのか?)
二人が残されたのは、てっきり私と一緒に巣から脱出したからだと認識していたのだが、ほかにも残される原因はあったらしい。しかし今の言では真矢さんのみが残されるのが道理のはず。なぜ璃兜少尉がこの場に残されたのか? そう考えていたのは私を含めた三人だったのだが、その答えをすぐにダヴィさんが教えてくれた。
「この映像を見てほしい」
そう言いながら映し出されたのは、ほとんど何も見えないくらい画面で、上から下にないかが流れていくような映像だ。私が二人の手をもって上へと飛ぶことができる縦穴を飛んでいるときと思われる映像だった。
記録を残すという意味合いからも、オーラスーツにはあらゆるところにカメラが設置されている。その映像だとすぐに理解できたが、縦穴の中には光源がないためほとんど何も見えない状況だったのだが、すぐに小さな明かりをカメラがとらえた。
「「「?」」」
おそらく何かが光ったことを強調して認識させるために、あえて光学補正をかける前の、暗闇の映像を見せているのは理解できた。そして光ったあたりで映像を停止させる。光源が淡いながらもできたおかげで、どの部位のカメラがとらえたのかが、うっすらと理解できた。
「これは……私の機体の右腰あたりのカメラ?」




