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問い

あけましておめでとうございます

今年もよろしくお願いします

 問いかけてくる濃い赤紫の巨人。突きつけられてこそいないが、それでもすぐに切りかかれるように、ただ立つのではなく、足の膝を軽く曲げてすぐに動けるように重心が傾いているのが見て取れた。

(……思いっきり警戒されているが、やはり私の存在は大っぴらにはしていなかったのかね?)

 今回の作戦でも作戦会議室を個室にしたり、わざわざ部隊の展開を遅らせてまで、私という存在を公にはしていなかった。私の特異性を鑑みれば、そうするのは致し方ないことだろう。

 そして秩父前線基地ですら知られてないのだから、他の基地の連中が知っている訳もなく、国連軍は更にだろう。合同作戦となっている今の状況では、非常に悪目立ちしてしまったことは間違いなかった。

(救援要請故に救助したのは事実だが、後で怒られそうでいやだなぁ)

 私はともかく、千夏司令とダヴィさんは作戦の事後処理も踏まえて、天手古舞になるだろう。そこからさらに私という存在が大っぴらになったこと、そしてとんでもない変化とてんこ盛りである。呪詛の一つも吐かれそうで若干怖かった。

(まぁそれはのちに考えるとして、今は目の前の赤紫の相手か)

 問いかけてきた機体……赤紫のカラーリングの機体をそれとなく観察する。武装は背中のバックパックに担架している様子は見られず、ほとんどない様子だ。

 唯一と言っていい武器が、手に持っている両刃の直剣だった。オーラスーツの胸元までありそうな長さだ。ハンターオブモンスターの大剣ではなく、歴史的な意味での大剣とほぼ同じようなサイズに思われた。

(見た目は完全に、土器を使用していた時代の直剣という感じだが……)

 私の世界の日本において、直剣の歴史は古い。紀元前三世紀終わりから、紀元前二世紀頭の弥生時代に中国より、銅製の武具が伝来。その中に矛や槍だけでなく直剣も含まれていた。

 のちの古墳時代に鍛造技術で鉄製の直剣が登場するが、両刃の剣は五世紀ごろに廃れたと考えられている。その後直刀が出来て、平安時代中頃に日本刀が誕生するとほとんど生産されなくなった。ちなみに平安時代中期は900年ごろと考えられている。

(私の時は1192でいい国作ろう鎌倉幕府だったのだがなぁ)

 1185年のいい箱作ろうと語呂合わせが変化した鎌倉時代が、日本刀の絶頂期と考えられている。実際……鎌倉時代の刀を目にすると、格が違うのが感じられる。

(まぁ鎌倉時代の刀は大体やばいのしか残ってなくて、ほとんど軒並み重要刀剣以上になっているから当たり前といえば当たり前だが)

 話はそれたが、ともかく日本における直剣というのは時代が古い。しかしこの世界の大和国において、武器といえば剣となる。そのため歴史的価値を持つ直剣が数多く残っているのは想像に難くないが……それを差し引いてもこの赤紫のオーラスーツが持つ直剣は、すさまじい雰囲気を醸し出していた。

「何者と申されましても……秩父前線基地、パラレル部隊所属のし――失礼、宗一真堂暫定少尉と申します」

「暫定? 聞きなれない呼称ですが……」

(どこまで明かしていいんだろう?)

「そこまでだ、光夜少佐」

 問われたならば名乗らねばならないが、どこまで情報を開示していいかわからず困惑していると、通信が入った。

「千夏司令。お久しぶりですね」

「あぁ、久しいな」

(お知り合い?)

 それなりに親し気な雰囲気で話す二人に少し驚いたが、それを口に出すことはしない。オープンチャンネルではないだろうが、私にも通信が入っているということは、ある程度私も知りえていいということなのだろう。

 私にも聞こえるように会話に割って入ってきたので、おそらく言外に黙っていろという指示だと判断し、私は口を紡ぐ。

「宗一暫定少尉については、現在こちらもいろいろ調査中だ。大和国には当然報告しているが……まだ国連に出せるほど情報が精査できていない。今回の件で国連が質問をしてくるのはこちらも理解しているので、その時に正式に回答させてほしい」

「大和国には報告済み……なるほど、わかりました」

 「ミツヨ」という単語が英語なのか漢字なのかは不明だが、通信で見られる素顔から鑑みるに、大和国出身に見受けられた。聞いたことはないが千夏司令も大和国出身だろう。二人が何かしら知り合う機会があったのは容易に想像ができるが、それだけではなさそうな感じだった。

(険悪な感じはしないので、それでいいか)

 おいそれと聞いていい事柄ではない。何せ軍事機密にかかわることもあり得るだろうからだ。ゆえに私としては二人が険悪な雰囲気を出してはいないので、特段問題ないと判断した。

「さて、ある程度P1から話を聞いているが……お前という男は。でたらめな男だ」

「それは何と言いますか……何とも言えませんね」

 私自身がでたらめと言われているわけではないが、それでもあちらの立場からしたらいろいろぶっ飛んでいるのは間違いない。ゆえにこちらとしても何も言うことができなかった。

「まぁそれはそうだろうな。作戦は無事に終了した。まだ地中に隠れている可能性も拭い去れてないが、三基地と、展開している部隊で計測しても、あとは事後処理といっていいレベルだ。遊撃についてはご苦労だったが、貴様はまずさっさと帰ってこい。まだパラレル部隊は帰投していないので、合流して何があっても帰還しろ」

「了解です」

 またぞろダヴィさんからのラブコールがすさまじいことになっているだろうなと、内心で苦笑しつつ私は左腕の籠手に意識を集中する。そして脳内に浮かんだ鎧を纏うと意識すると、籠手の外側部分の装甲とでもいえばいいのか……それが消失し、フライトアーマーが装着された。

「……なるほど、これは確かに調査中ということになりますね」

(だよねぇ)

 目の前の奇怪ともいえる現象に驚いているのが、声から分かった。私としてはこれ以上話さないほうがいいと思い早々に合流しようとしたのだが、先にお礼を言われた。

「自己紹介とお礼がまだでしたね。私は国連軍に出向中の光夜氏家少佐です。先ほどは部隊の危機を救っていただき、ありがとうございました」

「これはご丁寧に。しん――宗一真道暫定少尉です。当然のことをしたまでですので、お気になさらず」

「それでも助かりました。また会うことになるでしょうから、その時は良しなに」

 国連軍所属ということで、光夜少佐がいうようにそう遠くない将来に会うことになるのが、先ほどの司令との会話の内容からすぐに理解できた。

(国連ねぇ。私の世界では一切かかわりがないので何とも言えないが、面倒ごとになるにしても厄介なことにならなければいいが)

 私の装備は面倒ごとの塊なので、面倒なことになるのは確定してるが、厄介だったり嫌なことに発展しないことを、祈るのみである。そんな益体もないことを考えながら、私はオーラを推力として、部隊へと合流するために空を飛んだ。




(……目の前で見たことだというのに、少し信じられないですね)

 P1が飛び立ったその光景を目の当たりにしたUYLだったのだが……あまりにも信じがたいものだったために、少しフリーズしてしまった。これは普段の光夜を知っている身からすればすさまじく珍しいことだった。

「姐さん。大丈夫か?」

 周囲の警戒と指示や情報解析を行っていたUY2がタイミングを見計らって声をかけてくる。弟分ともいえるUY2に声をかけられて、自らが気を抜いていたことに気づいて、光夜は自らの頬を軽くはたいて意識を切り替えた。

「ごめんなさいUY2。少々呆けていたようです」

「問題ないからそれは別に構わねぇが……まぁ姐さんが固まるのも無理ないだろう」

「ほやねぇ。何というか、うちから見ても……というか、誰から見ても驚くんとちゃうん?」

 UY2だけでなくUY3も同意する。実際それはどうしようもないほどに、どうしようもないことだったので当然と言えた。

「惚けていた私がいうのもあれですが、警戒態勢を維持しつつ、佐野前線基地に帰投します。救援要請を見逃さないように注意を」

「「「了解」」」

 作戦は終了したが、いまだに潜むFMEの数を減らしておくに越したことはない。また救難信号を発している部隊がいれば、救援にいくのにためらう理由はない。そう指示を出しつつも、光夜は先ほど出会った宗一のことを考えていた。

(国連軍の受け入れ先が、秩父前線基地でないことに少々疑問を抱いてましたが、そういうことだったのですね)

 当然だが、世界規模の戦時中であり、さらにいくら国連軍とはいえ加盟国の機密事項すべてを知りえる権限があるわけがない。そのため機密事項の塊ともいえる、秩父前線基地が受け入れ先でないことに、通常であれば別段問題はない。

 しかしそれが光夜の部隊も受け入れないということに、光夜自身違和感を覚えてはいた。そしてその違和感の正体を知って、納得していた。

(名字から名乗ろうとしてましたね?)

 違和感は今の短いやり取りで、さらに濃厚となった。宗一が二度名乗ろうとしたときに、名字から名乗り始めようとしたことに、小さくない違和感を覚えたのだ。

 今は世界的にみて、名前から名乗るのが普通になっている。昔は大和国も名字から名乗っていたが、それはすでに光晶歴になった時点で、名前から呼ぶように当時の天皇が変えるように指示を出している。つまりその時点で「普通ではない」ことを如実に語っていたのだ。

「しっかし何だったんだ? あのP1っていう兵士。ありゃ一体どんな冗談兵器だ?」

「冗談ではないんやろうけど……明らかに異質やったねぇ。ほんまに不思議な御仁のようで」

「そうですね」

 皆が口々に疑問をいう。しかし当然それで何がわかるわけでもなく、またいくら作戦が終了したとはいえ、まだ基地に帰投してない段階で、無駄口をたたくなど本来であれば光夜が厳として戒めることなのだが……今はその光夜自身が別のことを考えていたので、叱責することはなかった。

(それに……あの剣技……)

 光夜が考えていたのは、P1の奇想天外な鎧の装備ではなく……手にしていた近接武器と、それをふるった時の技量の高さに対する衝撃だった。

(木剣に見えましたが……あれはマテリアル兵装なのでしょうか? それに、わずかに湾曲していたように見受けられましたが……)

 湾曲した刀……日本刀が生まれていないこの世界でも、湾刀がないわけではない。しかしあれほどの長さの湾刀はなく、それを模したであろう木剣もこの世界にはないものだった。

 そしてそれ以上に木刀と思しき武器で、ディエを文字通り吹き飛ばした異常な出来事。それらを踏まえればマテリアル兵装であると考えるのが妥当なのだが……この世界の知識しか持ち合わせていない光夜に、あれが木刀であるとわかるはずもなかった。

 木刀にも疑問を抱いていた光夜だが、それ以上に驚いたのは宗一の剣技の熟練度だった。二度振るった姿勢を見ただけだが、それだけで技量の高さがうかがえるほどに、習熟しているのが見て取れたからだ。

 名字から名乗ろうとしたこと、身につけた装備と剣術。あまりにも常識からかけ離れた存在といえる宗一という男に……光夜は並々ならぬ感心を寄せることとなった。


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