救援
次の瞬間……璃兜に群がっていた敵が複数体、飛来した閃光に貫かれた。そして次に、私の機体に群がっていた敵へと飛来して、それも貫いた。
けれど一体がその閃光を避けて、再度私に襲い掛かってきた。そんな私の前に……飛来した何かが庇う様に前に出て、その襲撃を防いでくれて、右腕の銃器で吹き飛ばしていた。その姿は大きく変わっていたけど、わからないわけがなかった。
「宗一さん?」
「ご心配をおかけしました」
見慣れない姿に変わっていた、私をかばってくれた人へと声をかける。するといつもと変わらぬ声と口調で、宗一さんが応えてくれた。
「無事、だったんですね」
「無事でよかったわ。それは間違いないけど……その姿は?」
「これは――」
姿が変わっていることについて当然に疑問を投げかけたとき、再び大きな振動があたりを襲った。群がっていた敵がいなくなったとはいえ、危機的状況に変わりはない。何とか逃げなければ。
「脱出しましょう。P4、こちらへ」
「脱出するったって……どうやって?」
「いいから早く!」
私のそばに来た宗一さんが、無事に残っている私の機体の右手を、左手でしっかりと持ってくれる。どうやら見捨てていくという選択肢は、最初から持ち合わせていないようだった。
どうやって脱出するのかは謎だけど、機体状況から私では文字通り手も足も出ない。任せるしかなかった。
「璃兜、私のマテリアルソードをお願い」
「わかったわ」
右手を持たれた状態で、今の私の機体では貴重なマテリアルソードをもっていくことができない。けれど貴重なマテリアル兵装を捨てていくわけにはいかなかった。璃兜もそれがわかっているので、右手でマテリアルソードをもって、左手を宗一さんのパワードスーツに差し出して、宗一さんの右腕を力強く握った。
「では、飛びますので、舌をかまないように気を付けて」
「「は?」」
言われた言葉の意味が分からず、二人して間抜けな声を上げた。けれどその答えは……実際に飛ぶことによって回答された。
「「えぇぇ!?」」
宙に浮き、すぐさま宗一さんが飛来してきた方角へと取って返す。途中、何体かのFMEと遭遇したけれど、そのすべてを……宗一さんの背面から放たれた閃光が貫いていた。
「うそぉ」
あまりにもあり得ないことの連続で、璃兜がそんな呆けたような声を上げていた。私も同じ気持ちだったけど……何度も常識外れの現場を目撃してきたせいか、驚きはしていたけれど声を上げることはしなかった。
暗闇の中を飛んでいく私たち。かなり怖かったのだけれど……悲鳴を上げて宗一さんの邪魔をするわけにもいかないので、何とか必死になって耐えた。やがて穴の中に飛び込んだ宗一さんは、今度は真上に向かって飛んでいく。するとすぐに……外の光が見えてきて、そしてすぐに外へと躍り出た。
このとき……あまりにも衝撃的出来事が多すぎて、私たち三人は誰一人として、璃兜のオーラスーツと璃兜が持っているマテリアルソードが淡く光っていることに、気がつかなかった。
「……外?」
「……わぁ」
まだ朝といえる時間であったため、あたりは当然明るく……輸送機の中でしか見たことがないような高度からの景色に、思わず感嘆の声が漏れてしまった。しかし下に目を向ければ、いまだ戦っている部隊が大勢いた。それを認識したのを待っていたかのように、先ほどまで潜入していた巣が崩れ落ちていくのを見下ろしていた。
「P1、高度を下げてPLと合流できますか?」
無事に脱出することが出来て意識を切り替えられた私は、すぐにどうすべきかを考えてP1に指示を出した。
「了解です」
そう一言返してP1が高度を下げる。その間に回復した通信で、位置情報を割り出して……場所を把握し、P1に指示を出した。
「未確認飛行物体からP1、3、4のコールサインが出てるんだが……お前らか?」
基地へと向かいつつ、交戦していたと思われるPLから、あきれたような声がこちらに届いた。
「そうなりますPL。ご心配をおかけしました」
通信以外にできることがない私が、PLとの通信を行う。高度を下げて着陸した私たち三人を、先に脱出した三人が温かく迎えてくれた。
「聞きたいことは山ほどあるが、よく戻った」
「だな。無事とは言い難いようだが、肉体は大丈夫か?」
「本当に……あんたって人は」
生存が絶望的だった私たち三人が無事に帰ったことで、喜びを分かち合った。しかしそう長々としている時間はない。今はまだ作戦時間中なのだ。何もできない身ではあるものの、できることをしなければ、そう考えていた時、P1より進言があった。
「PL。どうやらいくつもの部隊が苦戦しているようです。遊撃という形で援護に行ってもよろしいでしょうか?」
先ほど上から見た以外にも、いくつもの救援要請が出ているのを、オーラスーツが受診していた。巣が崩れたことで敵が狂暴化しているようだ。
本来であれば単独行動など、現に戒めるべきことではあるが……P1は飛ぶことができる。今のところ遠距離攻撃手段を持ち合わせた、FMEの種別はほとんど確認されていない。そのため……ある程度高度が取れればP1が被弾する恐れはほとんどないと思われた。
また、救援要請に部隊単位で動こうにも、私という足手まといがいる中では移動速度も遅くなる。そんなわ足しのフォローに逆に危険な目に合わせてしまうかもしれない。そういろいろと判断したのか……苦い顔をしながらPLが許可を出した。
「しょうがない。責任は無事に帰ることと、記録の説明で取ってもらうからな。必ず戻れ」
「了解です」
そう短く返事をして、P1が一瞬にして空高く飛翔して飛んで行った。その速度はまさに戦闘機そのものという速度で……誰もが溜息をついていた。
「なんか真面目に考えるのがあほらしくなってくるな?」
「お前が真面目に考えるって……、いや、まぁその通りなんだが」
「気持ちはわかるけど……PL、私たちはどうするの?」
すでに多少なりとも体験した私たちも、笑うしかない状況だ。目の前で見せられた異常な状況に笑うしかない気持ちは、十分理解できた。けど、P2の言う通り、どうすべきか考えなければいけなかった。
「P3、肉体は問題ないな?」
「問題ありません」
「P4?」
「私は機体、肉体ともに問題ありませんが、P3のマテリアル兵装を運搬するにあたっていくつか武装を廃棄したので、戦力はダウンしています」
「一人欠けていることもある。やはり撤退だな。P4、P3を抱きかかえて運搬。P3、P4の担架武装を装備して迎撃のサポートだ。俺含めたほか三名で護衛し、基地に帰投する」
「「「了解」」」
今の私にできることなどほとんどない。だからできるだけのことをすると考えて……沈んでいた気持ちを切り替えて、できることを行った。
私たちはそんな状況ではあったけど、何とか無事に基地に帰還することができた。
その間……いろいろ起こす宗一さんが、さらにとんでもないことをすることになるとは、この時は考えている余裕もなかった。
それを見た兵士は口々に驚きの声を上げたという。そしてそれと同時に恐怖を覚えた。新たな飛行種がこの大規模作戦で飛来して襲い掛かってきたのではないかと?
しかし、それが杞憂であると同時に救いの手を差し伸べてくれたと、通り過ぎてから気が付くこととなった。
飛来したそれは、それなりの高度を維持したまま飛行を続けて、その体からいくつもの閃光を放ち、苦戦していた部隊の敵を貫いて、危機的状況を救ってくれたのだから。
「なっ? なんだありゃ?」
「新型兵器か?」
かなりの速度で飛翔しているため、オーラスーツのカメラでもまともにとらえることができず、飛行物体としかこの時点では認識することができなかったのだ。しかしコールサインが出ていたため友軍というのはわかったので、誤射をすることはなかった。
だが、あまりにも異質なその新型兵器は、だれの目にも異質に見えた。
しかも登録されたコールサインも……見慣れないコールサインだった。ほかの二つの基地はそこまでコールサインを気にしないが、さすがに同じ基地の秩父前線基地所属部隊は、そのコールサインに注目せざるを得なかった。
「パラレル部隊?」
「そんな部隊あったか?」
一難去ったことと、あまりにも奇想天外な事態に直面したため、だれもが一瞬途方に暮れてしまった。飛来した新型兵器と思しきものが、数を減らしたことで余裕が生まれたことも事実だった。
こうして……一部の存在のみが知っていた、奇想天外な存在である真堂宗一は、上層部の頭痛を激化させる、あまりにも衝撃的なデビューを果たしてしまうこととなった。
それは傍から見れば、まるで神話の出来事のような光景だった。
【■■■■■■■!!!!!】
「はぁぁぁ!」
一人の剣士が、両手で握ったたった一本の剣のみで、自身の五倍はあろうかという巨大な異形の生物に立ち向かって戦っていた。相対する異形の怪物は、大きいだけでなく、いくつもの攻撃手段で、剣士を攻撃していた。
六本の足が生えた下半身より伸びた、人間の上半身。その両腕はハサミのような形状をしていて、両腕で目の前の剣士を切り裂かんと振るわれる。その腕の根本は、平たい盾のような形状をしている。さらに上半身の背中より伸びた巨大な触手先は、鋭く伸びた棘のようであり、巨大な岩もやすやすと貫くことができる槍と化している。
体当たりや六本の足による足技等もないのはまだ救いだったが、それでも三つの恐るべき武器に、盾まで備えた強大な敵だった。
大型種、ディエ。討伐するためには数部隊が合同で任務にあたる、超危険個体だった。
【■■■■■■■!!!!!】
「ふっ!」
そんな危険個体に、たった一人で立ち向かう剣士。相手が巨大ゆえにそちらに目が行ってしまうが、剣士も人ではなかった。深紫色に染め上げられた機械の剣士。UYLの光夜氏家のオーラスーツだった。
「姐さん、さすがにほか三人がきつくなってきたみたいだ。撤退も視野に――」
「なりません」
UY2の通信を最後まで聞くことなく、UYLは一蹴した。
「気持ちはわからんでもないけど、うちもそろそろきついんやわぁ。やられては元も子もないし、引き際とちゃう?」
「まだです。ここで我らが引けば、ほかの部隊がこれの相手をすることになります」
周囲に群がる敵をほかの隊員に任せているとはいえ、数部隊で討伐するディエをたった一人で相手にしながら、UYLは断固として提案を聞き入れなかった。そんなUYLにほかの五人は口を紡ぐしかなかった。言っていることが間違っていないからだ。
(ってもこれじゃぁ……)
それが事実だとしても、このままではこちらが消耗していき、誰かが崩れれば総崩れになるのも、また事実であり……それを危惧しているのはUY2だった。すでにUY4、5、6が限界に近い。元気が有り余っているとよく言われるUY2はまだ余力があったが、それでもこれ以上ほかのフォローを行うのは難しい状況だった。
そしてこの場を離脱することを否定した本人であるUYLも、内心でかなり焦りを抱いていた。
(さすがに……私一人では)
ディエ相手に一対一で拮抗しているのは驚嘆すべき出来事ではあるが、好転する未来は全く想像することができない状況であった。というよりも、このままでは体力が削られて、最後には負ける未来しかありえなかった。
(撤退すべきなのは間違いない。けれど……)
驚くべきことに巣が崩落した。歴史的に見てもあり得ない光景だったが、実際に起こった喜ぶべき事実を否定する理由はない。
だが喜ぶべきことに伴って……敵がより狂暴化したのも事実だった。そのため、周囲の部隊からも救援要請がひっきりなしに届いている状態だ。しかしそちらに向かえばより大きな被害を持たらされるのは目に見えているため、ディエの相手をし続けなければいけないという、ジレンマに陥っていた。
(何か……打開できるきっかけは……)
このままでは自分だけではなく、部隊全員もやられてしまう。国連軍として派遣されており、国連軍でもエリートというべき部隊であるUY部隊が全滅するのは、国連軍の戦力の観点や、士気の観点から見ても、避けなければならない。そしてそれ以上にこの部隊にはマテリアル兵装が多く支給されている。特にUYLが今まさに使用している大剣は、大和国の至宝である。これを失うわけにはいかなかった。
そうして焦りながらも打開策を考えていたその時だった。接近する機影を検知して、オーラスーツより警告音が鳴り響いた。




