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絶体絶命

 巣が崩壊を始めた。データを見れば何となくそう判断できる状況だった。そしてそれを起こした原因が誰であるのか……想像するのは容易かった。

「宗一さんが?」

 思わずコールサインではなく、名前を呼んでしまった。先ほど分断されてしまったときも叫んでしまったけど……今は焦りよりも驚きと喜びが勝っていた。

「状況的にそう考えるのが妥当だな」

 私の言葉に……PLが同意してくれた。そして他に誰も言葉にしないから……皆考えていることは一緒だろう。

 現在も収集をつづけているデータで導き出されるのは、巣が崩壊しているという事実。そして巣を崩壊させたのは、宗一さんだということを。

「それで? どうするの?」

 P2が浮き足立ちそうになった部隊の雰囲気を、一気に落ち着かせた。

 状況的に宗一さんが巣を破壊したと考えられる。けれど……その巣を破壊したと思われる宗一さんとは、未だ分断されて連絡も取れない状況だ。

 巣が崩壊を始めたことで、FMEが攻勢をやめて逃げるかと期待したけれど……今のところその兆候は見られなかった。

 しかし増援はなくなっているようで、数が徐々に減っていった。


 その時に、安堵して油断したのが間違いだった。


!!!!


 何とかほぼ全てのFMEとの戦闘が終えたその時、議論をしていた私の足元付近の地面が崩れて、バランスを崩してしまった。

「真矢!」

 落ちそうになった私のそばにいたP4が手を差し伸べてくれて、私は何とかそれに手を伸ばして掴んだ。けれどそんな私たちをあざ笑うように……P4の足元も崩れて、私たち二人はそろって陥没した場所に落ちてしまった。

「!? 二人とも!」

「無事か!?」

 PLとP5の悲鳴が私たちの耳をこだました。それが聞こえたということは、まだ意識があって、通信が切れてないことを意味していたけれど……そんなものは何の意味もなかった。

「真矢、大丈夫?」

「うん。ありがとう」

 お礼を言って、状況を確認して……何とか悲鳴を上げずに済んだ自分を、褒めたい思いだった。

(右足が……)

 崩落に伴った影響で、私が搭乗しているオーラスーツの右足の膝から下が無くなってしまっている状況だった。更に致命的なのが……地面が崩落しただけでなく、壁や天井も崩れていたようで、私たちが落ちた穴はすでにふさがれている状態だった。

「……体は大丈夫?」

 P2が務めて冷静にこちらの状況を確認してくれているのが分かった。通信が切れていないために、他の隊員達も私の機体については把握しているはずだ。

 その声を聴いて、私はP4に……璃兜にカメラ越しに顔を向けた。その意味が分かったのか、璃兜も苦笑いしながらうなずいてくれた。

 しょうがないなぁ……そういわんばかりの表情をしていて、申し訳なさでいっぱいだった。だから、せめて私が言わなければならなかった。

「脱出してください、PL」

「……いいのか?」

 この状況であれば仕方がないことだった。生き埋めになっているわけではない。けれど私の機体は損傷し、戦うことは可能だけど上へと通じる道は見当たらず、そして今も絶えず振動は続いている。崩れるのも時間の問題だ。

 ならば、私たち二人のことよりも、P1のことを優先すべきなのは、当然と言えた。

「見つからないかもしれませんが、この巣が崩壊していると思われる状況を作り出したのP1であるならば、彼は無事のはず。だから最悪生き埋めになっていたとしても、数日は持つはずです」

「……あぁ」

「だから、残った三人で……この情報を持ち帰ってください」

 敵が殲滅できたわけではないので、捜索は困難を極めるだろう。しかしそれでも、この情報を持ち帰られなければいけない。

 P1が生きているかもしれないという情報。そして状況証拠になってしまうが、P1が巣のコアと思しきものを破壊した可能性が高いということ。

 これら二つの貴重な情報がなければ、何もわからずじまいだ。それだけは避けなければならなかった。

「……わかった。必ず戻る。だから、それまで何とかして生き延びろ」

 さすがは歴戦の勇士達であるPLと、他二人だった。問答している場合ではないことを瞬時に決断して、私たちを切り捨ててくれた、P2とP5が何も言ってこなかったけど、それも仕方がないことだった。

 離れたからか少しして通信が途絶えて……私と璃兜だけが残された。

「ごめんなさい璃兜。私がしっかりしていればこんなことには……」

「いやぁ、さっきのはしょうがないでしょ? それにほんとに見捨てるならそもそも手も差し出してないでしょ?」

「それは……そうだけど」

「それに、あなたを見捨てたって考えながら、生きるのは嫌だしね」

「……もう」

 冗談っぽく言ってくれるその優しさがつらかった。だけど、それを素直に口にしては璃兜の優しさを否定することになってしまう。

 だから私は……何とか飲み込んで状況を確認した。

(絶望的だけど、それでも戦えない訳じゃない)

 片足立ちでも、戦闘は出来る。光学兵器であるオーラ兵装にはほとんど反動がないからだ。片足は無くなったけど武器は無事だった。ならば戦える。

 巣が完全に崩壊して埋もれそうになった場合は、私のオーラスーツ……ラーファを片足立ちでつっかえ棒として使用して、璃兜のオーラスーツを無事に済ますようにするしかない。

 もしも二人で対処できないほどの敵が来てしまった場合は、璃兜にマテリアルソードを託して、私は……捨て駒として足止めをするようにしなければならない。

(……使いたくないけど)

 オーラスーツ搭乗者に支給される……最悪の事態を想定しての実弾が二発装填された小型拳銃と、オーラ手榴弾。手榴弾は敵を引き付けるためのいわば撒き餌で、実銃が装填された銃は……取り込まれる前に自害するための銃だった。金属物資が潤沢ではないにも関わらず、支給される物品だった。

(使う時が来るのを覚悟してなかったわけじゃないけど……)

 兵士として前線に出ている以上、死は覚悟していた。それに、自決できる状況というのは、死という結果の中の過程においては、贅沢とすら言える状況だ。

 オーラスーツに積載されたそんな装備を意識して、私は死が近づいているのを意識してしまった。それが態度に出ていたのか……璃兜が気を利かせてくれた。

「マイナス思考なのは相変わらずねぇ」

「……そうかな?」

「そうよ。まだそうだと決まったわけじゃない。自分で動きを固くしてたら、それこそ自分で自分を殺すことになるわよ?」

 そういわれて……とっさに動くことができなくなるほど、体が硬くなっていることに私は気が付いた。確かに足をやられた以上、満足に動くことはできないが、それでも砲台になることはできる。自決を考えるのはあまりにも早計だと……私は自分の頬をパンッと、たたいた。

「ごめん。少し呆けてた」

「問題ないよ」

 そういって笑いかけてくれる璃兜だけど、その声がかすかに震えていると感じたのは……私の気のせいではないだろう。何せ敵の崩壊してく巣の中に取り残されてしまった状況だ。それも、私のオーラスーツが破損した状況で。

 足手まといがいる中、崩れて生き埋めになるかもしれない。運よく生き埋めがなかったとしても、敵が襲ってくるかもしれない、救助が間に合わず……巣の中で二人して衰弱して死ぬかもしれない。


 その前に……諦めて自決することになるかも知れない。


 数え上げればきりがないくらいに、死因はいくつもあった。

 この状況では、不安になるのも無理はないと……私は自分を納得させた。その矢先だった。

!!!!

 スーツから警報が鳴り響き……私はすぐさま意識を切り替えた。P4も同様で、武器を構えて周囲を警戒した。

「数は?」

「そう多くないけど……私という足手まといがいるのがネックね」

「それはもういいから。とりあえず生き残るための作戦を練るわよ」

 作戦を練るほどの時間はない。この言葉は、生きることをあきらめて、考えることをやめるなという……璃兜の叱責だとすぐに理解して、私は再度沈んでしまっている自らを鼓舞した。

「私が近づくのを可能な限り減らして、P4もそれをカバー。あとは何とか……耐えるしかないわね」

「それしかないわね」

 数に対抗できる武器はほとんどない。多少武器を変更したとはいえ、私は後衛で狙撃手だ。これほど接近されることを、そもそも想定していない。

 P4は中衛で何とか数を相手にできるけれど、それでもP4の本骨頂は楯と槍を用いた接近戦。あまりに分が悪い状況だ。

 しかもP1と分断された時の状況を鑑みれば、床や壁に穴が開いて、そこから敵が出てくる可能性もある。ゆえに……四方どころか上下にも敵がいる可能性は、拭い去れなかった。

(それでも……私は生きている!)

 死んでいった仲間や、退役してしまった仲間たち。みんなどんな時もあきらめずに……最後まで戦う抜いていった。敵に取り込まれてしまった私の前の隊の仲間だって、あきらめて自決することはなかった。

 今自決すれば苦しまなくて済むのはわかってる。でも……それをするわけにはいかなかった。

(宗一さんが……不可能と言われた巣の攻略をやってのけた)

 状況的にそう判断できるだけで、成し遂げたという保証はない。彼が無事かもわからない。

 けれど……一度も観測されたことのない、巣の崩壊と思しき現象が今も起きている。そして無事がわからないということは、死んでいるかもわからないともとれる。

(なら……私がすべきなのは、生きることを諦めて自決することじゃない)

 新兵の宗一さんが、巣を崩壊させたとはいえ、孤立させられた状態でまともに動けるのかもわからない。仮に動けたとしても、単身で無事でいられるのかもわからない。さらにもっと言えば……常識的に考えれば私たちよりもさらに地下にいる宗一さんが、無事に地上へ脱出できると思えない。

 それでもまだ死んでいないはずだ。死んでいるはずがない。生身で敵と戦えたあの人が、一人になった程度でパニックになるはずがない。

 なぜかわからないけれど、私は確認めいた気持ちで、そう思っていた。だからこの場で私があきらめるわけにはいかないと……そう強く自分に言い聞かせた。

「来るわよ、覚悟はいいわね!?」

 私の覚悟が伝わったのか、それとも戦闘態勢に移行したからか、そう問うてきた璃兜の言葉にも震えがなくなっていた。そして璃兜の言葉が言い終えるとほぼ同時に……私のライフルのスコープが敵を捕らえた。

 軽く引き金を引く。もともと敵の巣の内部で広いとはいえ狙撃するほどの距離ではなく、さらに崩壊による地形の変化で、入り組んだ地形となってしまった。

 だから私の主兵装ではなかなか厳しい状況だった。これが仮に五体満足の状態であれば、動けることによる利点でどうにかできるはずだというのに、今の私は片足を失っている。本当に……璃兜が頼りだった。

 璃兜もそれがわかっているから……背後に装備されたマシンガンで、敵をできるだけ近寄らせずに倒していた。けれど地形がこちらにとって悪く、豊富にある遮蔽物で射線を遮られ、挙句に今も震える振動であまり遠距離で倒すことができず、幾つもの敵が接敵してくる。

「私が相手だ!」

 璃兜が吼えた。そして振るわれる武器に吹き飛ばされる、敵。

 だけどあまりにも数が多すぎた。何体かが璃兜の横を抜けてこちらに迫ってくる。敵もバカではない。弱い獲物から襲ってくるのは当たり前と言わんばかりに……私に向かってくる。

「っ!」

 数体しか狙撃ができなかったライフルを捨てて、私はすでに持ち替えていたオーラハンドガンと、マテリアルソードで応戦した。

 といっても、満足にふるうことのできないマテリアルソードは、もっぱら盾として使うことになる。

!!!

 右手のオーラハンドガンの引き金を引いて、群がってくる敵を撃った。壊れているのが脚部のため、攻撃は何とか行えるけど、それでもそれ以上に敵の数が多く、どんどんと詰め寄られてしまっていた。

「真矢! このっ!? 私に来い!」

 敵を引き寄せるように大声をあげて、璃兜が派手に動いて敵の注意を引き付けようとしてくれている。この危局に際してなお、私を気遣ってくれるその優しさが嬉しかった。

 その優しさを裏切らないためにも、あきらめることなく、何とか敵を動くことができない体で捌いていたけれど、すぐに限界が来た。

!!!!

「きゃぁぁぁ!?」

 捌ききることができずに、群がってきた敵の攻撃を受ける。その際に残っていた足、そして左手のマテリアルソードをつかんでいた左腕を破壊された。

!!!!

 初めて聞く……機体からの警告音。この音は機体が重度の損傷を受けた際に鳴る、悲鳴のような警告音。その音と四肢を吹き飛ばされた衝撃で、否応なしに恐怖を感じさせられてしまう。

 覚悟をしていた、最後まで諦めないと自分を叱咤した。けれど……自分の意志ではどうにもできない状況に陥ってしまって、それが揺らいでしまった。

「来ないで……」

 思わず弱音を口にしてしまう。それを口にしたことすらも認識できず、何も持たない右手を振り回していた。璃兜が何かを叫んで、こちらに向かおうとしているのが視界の端に見えたけど……私は情けなくも、悲鳴を上げることすらもできず、震えるしかなかった。

 その時……


!!!!


「え?」

 一瞬だけ……マテリアルソードが眩い光を放った。今まで一度も起こることがなかった出来事に、思わず恐怖も忘れて呆気にとられた。そしてそれは敵も一緒だったのだけど……それは一瞬で、再度私に襲い掛かってきた。しかし先ほどと少し違ったのは、マテリアルソードに対しても攻撃を仕掛けた個体がいることだった。

(なんで?)

 恐怖しながらも疑問を抱いた、その瞬間だった。

!!!!

 再度別の警報が鳴り響いた。接近警報であり、こちらに何かが近づいているのを知らせるためのもの。

 それもすさまじい速度でこちらに向かってきていて……敵以外にあり得ない速度だった。

(ここまでね)

 接近する速度が、今まで観測されたどの個体よりも速い速度だ。下手をすれば新規個体かもしれない。だから……わずかでも残る可能性に賭けるしかなかった。

「行って、璃兜」

「馬鹿な事言わないで!」

 絶望的な状況であるにも関わらず、璃兜の声は怒りと焦りだけがにじみ出ていて……恐怖を飲み込んで戦っているようだった。そんな彼女の強さと優しさが嬉しかったけど……それに甘えるわけにはいかなかった。

「行ってくれないなら……行かせるようにするしかないわね」

「!? やめなさい!」

 理由が私の命であるならば……それをなくせばいい。そう思い……私は拳銃を手に取った。


 その時だった。


「真矢さん!」


 聞こえるはずのない第三の声が私の耳に届いて……手の動きを止められた。



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