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飛翔

 自らの発光現象が収まった。そのため、光源だった光の玉を吸収してしまったがため、完全な暗闇となった。

 しかし、自らの発光が収まる前に見えたのは、両肩に追加された巨大な肩アーマーだった。

「……なんだこのでかい肩アーマーは?」

 真っ暗闇の中触れてみれば……肩の前後を覆うようなアーマーが、装備されているような状況だった。

 肩に変化が生じたので、他にも変化がないか確認するために……暗視装置を作動させて自らの体を見てみた。結果として大きな変化があったのは両脚部と両腕だった。

 脛から外側にかけて大きな物体がついており、右腕のアームキャノンが何やらごつくなっている。バランスをとるためなのか、左腕にも簡易的な盾のようなものが装着されている。

 鏡がなく、さらに後ろ側とかも見ることができないので、全体像は不明だが……自分が目にしたものを頭の中で何となくイメージしてみて、思った。

「ペーネロペー?」

 ペーネロペーとはギリシャ神話に出てくる女神の名前だが、私がイメージしたのはそれではなく……自由戦士ダムガンシリーズの中で、重力圏内を戦闘機以上に自由自在に飛び回ることを可能とした、機体のことだった。

 後付設定だが、オデュッセウスというギリシャ神話の英雄の名を冠したダムガンに、強化パーツであるフライトユニットを装備した機体の呼称。それがペーネロペーであり、私がもっとも好きなダムガンの二体のうちの、一体だった。

 ロボットに強化パーツを装備した結果として、通常のロボットをはるかに超えるサイズとなった機体。その強化パーツが個人的に……ごつい鎧をまとっている感じで、私は大好きだったのだ。

(ってことはつまり?)

 肩アーマーだけならばまだ防御兵装として、追加されたと認識できなくもないが……脚部にまでペーネロペーのような追加パーツが装備されたとあっては、そう認識するのが妥当だと思われた。

(そうなると……)

 予想が外れていないか確認するため、私は周囲を見渡し……最後にデビルダムガンが生えていた天井を見上げた。するとそこには、おあつらえ向きに脱出することができそうな穴が開いていた。しかも見た感じだが……軽く見積もっても二回りは大きくなった今のパワードスーツでも、余裕で通れそうな大きな穴だ。

(ここまでくると本当にロトメイドみたいな感じだなぁ)

 敵を倒して新たな力を得るというのが、ロトメイドに限らず、ゲームや物語の定石だろう。

 ただ、正直な話……ロトメイドについては、ゲームであるため突っ込んではいけないのだが、敵の本拠地に乗り込んでなぜ都合よく主人公が強化される装備が設置されているのか? またそれを入手することで都合よく新たに別の場所に行けるようになるのか? と、思わなくもない。

(宿敵を迎え撃つための基地なら、相手の灰すら残さない気持ちで殺しにいくよねぇ。まぁスーパーは敵が、本拠地という名の物語の部隊を、主人公の故郷に設定したからまだわかるんだが)

 敵の武器や設備を利用するならわかるのだが、なぜ主人公だけが扱える武器があるのか? と突っ込みだすとメトロイドヴァニアファンに殺されてしまうので、この辺にしておこう。

(それに……そんなことを考えている場合ではないよな)

 ここまでロトメイドっぽい状況であるのならば……次に起こるのはそれとなく察しがついた。そんな私の思考に応えるかのように……地震が起きたかのように、地面や壁が振動し始めた。

「やっぱりな」

 予想通り過ぎてもはや笑うしかない。ロトメイドのラスボスを攻略した際のお約束である、爆破エンドだ。私が今いるこの場所が、流体金属生命体の本拠地ということで爆発する事は恐らく無いだろうが、このままでは生き埋めになること間違いなし。

(ぶっつけ本番でやれとはなんと無茶な……)

 先ほどまでのパワードスーツでは、決して届かない高さにある天井の穴。外までつながっているとは考えにくいが、それでもほかに出口があるとは思えないし、落とされた穴に戻っても穴がふさがれている可能性が高い。

(四方がどれだけあるかわからない以上、賭けてみるしかないか)

 博打ではあったし、罠の可能性も拭い去れない。だが止まっているわけにはいかないので、私は……自らが行うことをイメージした。

 イメージするのは鳥のように羽ばたくのではなく、浮力や推力を利用しての飛翔。作用反作用の法則を、ほぼ完全に無視をしたでたらめな動きだ。


 だが……有史以来人類が思い描いてきた理想の形でもあるだろう。


(フライト兄弟の思い、世の魔法少女の気持ちが知れるわけだ)

 空を飛ぶことを夢見て、ひたすらに実験を繰り返して夢をかなえた兄弟。それにより人類は飛行機という翼を得て……空で活動することが可能となった。

 しかしそれはあくまでも「空を飛ぶ」ということだけを突き詰めた結果である。人類が夢見た空への飛翔とは……神話時代の天使のように、自らの体だけで自由自在に空を飛び回ることだと私は思っていた。

 それこそ……日曜の朝アニメに出てくるような魔法少女や、逆に深夜アニメに出てくるキャラクターが、魔力や気力や呪力なんかを利用して飛ぶように。

(ペーネロペーだというのならば)

 ヨシユフスキー粒子を用いた飛行ユニット。ヨシユフスキー粒子がない……探せばあるかもしれないが……ないこの世界では、別のものを利用して飛ぶことになる、この世界で利用されているものならば、それはオーラに他ならない。

(見た目はペーネロペーだが……飛び方は村正になるわけだな)

 この世界で利用されているエネルギー。それはオーラという体力。体力で自由自在に飛び回ることのできる作品を、私は知っているためイメージがしやすかった。

(肩と脚部のパーツにオーラを回して下部より放射する)

 それはカロリーというエネルギーで、鎧を纏い、空を飛ぶ。

(それと同時に自らの体を浮かすようなイメージを)

 空を駆けて、同じく鎧を纏った武者と腰の刀で一騎打ちを行い、カロリーを大幅に消費した必殺剣技で、敵を斬る。

(目指すは地上)

 それを成すのは英雄ではない。

(いいや……仲間達の……)

 その世界の歴史にて、闇に葬られた忌み嫌われし、妖しい鎧。

(真矢さんのもとへ!)




 人を装い甲を纏う、人を殺し憎まれたる悪鬼……村正!




 頭上を見上げて……私は膝を曲げて地面を蹴った。その瞬間に噴き出す……オーラの推力。

「っ!?」

 いろいろと予想を超えた衝撃に一瞬意識が飛びそうになったが、何とか必死になって意識を繋ぎ止めて……私は天井の穴へと飛び込んだ。

(殺人的な加速っていうのは、こういうのを言うのかね!)

だいぶ緩やかだったとはいえ、いくつか曲線を描いて落とされた場所だった。ゆえに、曲がりくねっているのを覚悟していたのだが……ほとんどその心配はなさそうだった。

(不慣れなので助かるな!)

 このまま穴に沿って行くのも悪い選択ではないが……それでは私は仲間を見殺しする羽目になる。それはしたくなかった。

 だが、分断されてしまってからそれなりに時間が経過しており、通信ができる状況でもない。エリート隊員が集まった部隊であるために、全滅しているとはみじんも思っていないが……どこにいるのかわからないのでは、探しに行くこともできない。

(どうするか?)

 そう考えたその時……光るはずのない状況で、視界の端に光を見て、私はその方向へと視線を向けた。そこには、淡く光る点が確かに存在していた。その光が何なのか、この状況で分かるはずがないというのに……私はその光が、真矢さんの光であると、何ら疑うことなく確信した。

(そこにいるのか!?)

 その方角へと向かうことはできないが、それでも居場所が分かれば十分だった。真矢さんたちがどこまで地底に続く道を進んでいるのかは謎だが、それでも同じ高さになったらどうにかして壁をぶち壊して進めばいいのだ。そんな脳筋な思考で、私は上へ上へと進んだ。

 そして同じ高さまで登ってきたところで、私は上昇を停止して滞空した。当然だが都合よく壁が開いているわけもなく、上へと続く道のさなかで、私は壁に向かってオーラキャノンをチャージして発射した。

 しかしチャージショットは壁に当たると同時に、反射された。

「うぉっ!?」

 目の前で光が反射したので、結構な光量が飛び跳ねたので結構衝撃的な光景だったので、思わず声が漏れてしまった。それはともかくとして、オーラキャノンでは壁を貫けないことが分かった。

 ここで本来であれば、壁を貫くことが出来ないのだから、上に続いている穴を飛んでいくべきなのだろうが……崩れていっていると思われる巣に、隊員達を置き去りにするわけにはいかなかった。

(通信が繋がれば一発なのだが……)

 先ほどまでの深い地底ではなく、感覚的にある程度同じ地平上にいる状況でも、通信が繋がっていない。繋がれば私の無事を伝えることで直ぐに今いる場から脱出できるだろうが、出来ないことを嘆いても仕方ない。

(どうするか?)

 そう考えたと同時に……目の前の壁に何か小さな光が見えた。

「うん?」

 思わずそんな声を上げるが……その光を見た瞬間に、「同時に攻撃する」という思考が頭の中を走り、何故かそれが出来ると直感的にわかった。

 そしてその思考を理解した瞬間に……私は壁にある六つの光に向けて意識を集中した。

(背から射出するイメージを)

 正しくはリアスカートから射出するのだが、此方の方がイメージがしやすいので其方にした。そして……その六つに向けて光を放った。

「ファンネル!」

 そう叫ぶと同時に、六つの光が私が意識した六つの壁の光に向かって、曲線を描きながら飛来した。そして、意識した六つの光全てに命中し、その壁に穴を開けさせていた。

(ファンネルと咄嗟に叫んだが、どっちかというとファンネルミサイルかな?)

 ファンネル。元は英語でいう漏斗……容器に液体を注ぐための壺状ないし。円錐形の道具……の単語であり、自由戦士ダムガンの最初に出てきた兵装の形がそれに似ていたからと名付けられたのだが、以降のシリーズでは同系統の遠隔操作が可能な兵器の総称として扱われるようになった物だ。

 ファンネルは、小型砲台とも言える物で、宇宙空間の無重力ないしコロニーなどの低重力下で運用可能な兵器なのだが、地球の重力下ではそれをしようすることが出来ない。またヨシユフスキー粒子によって、機械による誘導能力が失われた環境で猛威を振るうことになった兵器だ。

 端的に言えば思念誘導が可能なミサイルである。私が今行った攻撃も、オーラ光線の攻撃であるため、正しくはミサイルではないだろう。

(まぁそこはどうでもいい)

 ともかく道が開けたのであれば先へと進むべきだ。私は開けた壁の先に向けて、飛んだ。




 P1と分断してからそろそろ10分が経過しようとしていた。けれど私たちパラレル部隊は……未だFMEの激しい攻撃を受けて、必死になってその場で固まって対処していた。

「各機、状況は?」

 両手に持ったハンドガンで無数の敵を撃ち抜きながら、P1が状況を確認してくる。私たちが円陣を組んで、味方に背後を任せている。そのため一人でも欠ければ直ぐに分かる。

 故にこの質問は……状況確認と言いつつ、時間が迫ってきているこの状況に対する問いかけなのだと直ぐにわかった。

「機体、武器共に異常がないから戦闘的には問題ないが、このままだと探しに行けないな?」

「まだ10分も経ってないから大丈夫だと思うけど……あの落とし穴の先が濃硫酸のプールとか、同化するFMEの固体だらけの部屋とかに繋がってたら流石にまずいしね」

「生きているとは思いますし、10分だから直ぐに精神的に参ることもないでしょうけど……というか、私たちもなにげにまずいですし」

 璃兜の言うとおり、私たちにも余裕がない。このまま維持するという意味では問題ないけれど……宗一さんを探しに行くだけの、余裕がないのは間違いなかった。

「でも……」

「不安そうな声を出すなP3。俺も探しに行きたいと思っている。それはもちろん全員だ」

 私の言葉を代弁するように、PLがそう言ってくれる。誰も否定しないことから皆宗一さんを探しに行きたいと考えているのは、一緒なのが分かった。

 けれど……実際探しに行くのが難しいのは間違いなかった。何せあれから状況は悪化していないが、好転もしていない。膠着状態が続いているだけだ。

 探しに行かなければいけない理由は、隊員が全員捜しにいこうとしているだけではなく、千夏司令からの指示でもある。千夏司令でなくても、あれほど特異的な存在である彼を見捨てるという選択肢は、出てこないのが普通だった。

 けれど、その全てを覆す出来事が起こってしまった。


!!!!


「「「!?」」」

 ちょうど10分が経過しようとした、正に数秒前。その瞬間に辺り一帯を凄まじい振動が駆けめぐった。

(この状況で地震!?)

 と慌てて計器を見たら……この周辺のみだと言うことがデータで分かった。通信出来ない状況ではあるけど、巣周辺程度までなら計器で観測できていた。そして巣だけが振動していることを、計器のデータは示していた。

「これって……」

 そして巣だけが振動しているという事実。地下部分はともかく地上よりも上部分は計測できている。それを見て判断できる事柄は一つだけだった。

「……崩壊している?」



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