光を取り込み
敵の攻撃を、捌けなくなってきているのが自分でも分かっているからだ。
(深刻なのは……決め手がない)
疑似的二刀流でどうにか拮抗している状況だが、こちらには相手を倒すことのできる決め手に欠けるのが現状だった。ゲーム的に言えば必殺技がないのである。
(必殺技って必ず、殺す、技と書くから……ゲームの必殺技って、大概死なないから違和感あるけどね)
正しくは私の木刀の一撃は、シャオロンすらも倒すことの出来た攻撃だ。まともに当てることが出来れば必殺技に十分なりうるが、シャオロンの時と違って触手が邪魔で、跳び上がることが出来ない。
対して相手もこちらを殺すことのできるような、強烈な攻撃を今のところ繰り出してきてはいない。しかしそれはあくまでも、使ってない可能性が非常に高い。
仮になかったとしてもあちらの体力が、こちらの体力よりも下回っているはずもない。そもそもにして、FMEに生物学的体力という概念があるのかも疑わしい。
(このまま続けて状況が打開できる保証はない。それに分断されたほかの隊員のこともある)
ありがたいことに皆いい人柄をした部隊だ。千夏司令から、私を無事に連れ帰るという命令も相まって、今頃非常にテンパっていることだろう。
(真矢さんの慌てふためく姿が、目に浮かぶようだ)
心配させている身で大変失礼な物言い……というよりも思考だが、とりあえず皆慌てているのは間違いない。そしてこちらも、ばかなことを考えて現実逃避をしているが、長引かせるのは私自身にも何のメリットもない。
そう考えていたのは私だけではなく、相手も同様だったようだ。天井近くに陣取って以来、ほとんど動いていなかったデビルダムガン本体が、動き始めた。
蛇のような胴体の際に生えた上半身の顔に相当する部分に、大きな穴が開いた。おそらく口を開けたような状態なのだろう。そこに……新たな光が生まれた。生まれただけでなく、徐々に大きくなっていることから、収束しているのを感じた。
(まずっ!?)
その光の収束が何かを直感的に把握して、私はその口の射線上から必死に体を逃がす。
しかしいくらパワードスーツによって超人的な動きをしようとも、口をわずかに動かすほうが動作が少なく、距離が空いているため狙いやすい。さらに最悪なことに、周囲の触手も私から距離を取って、その先端より光が発生するのが見えた。視界に写る触手の光は、収束された光と違ってあまりまばゆくない。ゆえに、収束していない光線だと判断できた。
(これをすべてよけられるわけが!?)
数の暴力を目の当たりにして、一瞬思考と体が停止しそうになるが、止まるわけにはいかない。何とか一番危険な収束されたものだけでも回避しようと動くが……相手がこちらを捉え損ねるわけもなく、その収束された光が、私へと放たれた。
光が飛来する刹那にも満たない、まさに一瞬。その時私がしたのは、回避でも受ける覚悟を固めるのでもなく、右手のアームキャノンをその放たれた光へとむけることだった。
自分でもどうしてそうしたのかはわからない。だがそれでもその行動が、この場における最適解だった。
向けた瞬間脳裏に走ったのは、シャオロンの存在。さらに目の前の敵が収束した光だった。
すべての光線が私に飛来する。触手より放たれた無数の光、そして収束された光。亜光速で迫るそれらを、加速された意識の中で認識しながら、脳裏に浮かんだ二つの出来事について、なぜか私は考えていた。
その二つを見て思うのは、その巨大な体を支え動かすことのできる原理と、すべてを弾いたバリアだ。FMEの調査が一切進んでいない状況だが、あれほどの巨体だ。なぜ動けたのか不思議でならなかった。
様々な生物学的な特徴というのは、そのサイズだからこそ発揮されるものだ。トンボのその場でのホバリング、バッタの跳躍力等々。それらはあのサイズだから出来ることだ。人間サイズにすれば、自重でまともに動くことすらも出来ないだろう。
万物に相当することだが、巨大になる……つまり質量が増せば増すだけいろいろな制約が生まれるのだ。ゆえに……いくら地球外生命体であっても、地球の重力下にある以上、サイズ故の制約を受けるのが常識だ。あれほどの巨大な物体が動きが緩慢とはいえ、立って歩けることは様々な学術的観点から考えて、あり得ないのである。
そこで思い出すのは、自由戦士ダムガンの設定である、ヨシユフスキー粒子が大きな要因の一つではないかと考えた。ダムガンなどの巨大兵器は、重力下ではその巨大なサイズから、足にかかる負担が大きすぎて、いくら堅牢な素材を使おうとも歩くことなどできるわけがない。
それを可能としたのが、ヨシユフスキー粒子である。ダムガンの世界の根幹的粒子で、これは浮力を発生させるという性質があり、それを体内で生成、貯蔵することで上半身を浮力によって浮かせることで、足にかかる重量を軽減しているというものだ。
またこのヨシユフスキー粒子は収束することでビームに転用が可能で、ダムガンのビーム兵器すべてにこの粒子が使われているといっても、過言ではない。つまり何が言いたいのかというと、あの巨体を支える要因として、シャオロンも同じであると私は思ったのだ。
立って歩くこと以外に特筆すべきは、その堅牢なバリアだ。バリアとはちょっと違うが、ダムガンにもヨシユフスキー粒子を利用したバリアのような兵器があった。
もしもシャオロンがダムガンと同じような原理を利用していると仮定するならば、その巨体から生み出される莫大なヨシユフスキー粒子で自重を軽減し、さらにバリアに転用していると思われるのがだと思った。
そしてデビルダムガンより放たれた収束された光。それはすなわち「チャージ」であることに他ならない。
そう思考したが故か? その思考をパワードスーツが読み取ったが故か?
それら二つが、私の体……パワードスーツに変化となって顕れた。
飛来する無数の光線。触手より放たれたその光は、私のパワードスーツによって弾かれた。正しくは、パワードスーツに薄く張られたバリアに弾かれた形だ。しかし収束された光線については防ぐことがかなわないと、直感的に理解できた。
だが、その収束された光を受けたのは、右腕のアームキャノン……正しくはその発射口だ。敵より放たれた攻撃をよりにもよって発射口で受け止めれば、通常受け止めた側が壊れるのが必定だが……破壊という結果は訪れることはなかった。
その代わりに訪れたのは、自らの口径よりも大きなその光の玉である敵の光を飲み込むように……発射口がスライドすることで口の径を広くした。そして広くなったことでその広くなった口径に、自らの体力が持っていかれるのが感じられた。
(……感覚的に数発分ってところか?)
持っていかれるといっても、一発撃つアームキャノンより少し多くなったくらいで、ごっそりと持っていかれるような感覚はない。いわゆる、チャージと言われる現象だと直感的に理解した。
そしてチャージが完了したと認識した私は、それをデビルダムガンへと向けた。相手がチャージしたものを受け取った形になっているため、相手はいわば丸腰に近い形だ。再チャージには多少なりとも時間がかかるはず。
(今が好機!)
というよりも下手をすれば、最後のチャンスになりかねなった。ゆえに、私は……危険を承知で敵が先ほど飲み込んだ、光の玉に照準を合わせた。
「くらえ!」
高ぶった思いを吐き出して、右手から光を放った。その時高ぶった気持ちがそのままに、左手の木刀を強く握りしめていた。その力が乗ったかのように、右手から放たれた閃光は太い一瞬の軌跡を宙に描いて、デビルダムガンの下半身の口へ直撃した。
【?!?!?!?!?!】
毎度のごとく、聞こえない悲鳴を上げた。それは絶叫と呼ぶにふさわしいものだったが、致命傷には至らず相手は形を保っていた。もう一発撃つべきか? そう一瞬考えたとき、チャージショットの痛みで体がマヒしたかのように、触手がだらりと垂れ下がっていた。
いくつもある触手が垂れている。それを見た瞬間に、私は走り出していた。
パワードスーツによって強化された意識の加速と、身体能力。瞬時に相手に詰め寄って、その触手を足場にして私は天井付近のデビルダムガンへ、接近していった。
「高嶺の花なら」
装甲をスライドさせ、アームキャノンより出た右手と左手の両手で、私はしっかりと木刀を握りしめた。
「落ちてこい!」
そして、デビルダムガンの上半身の肩部分に立って、私は両足でしっかりと踏みしめた状態で、目の前の車ほどもある巨大な頭部に、木刀を叩き込んだ。
想いが籠っていたからなのかわからないが……木刀で殴打した頭部がパンパンに膨れた水風船が破裂するかのように、あたりに飛び散るようにして吹き飛んでいた。
それをもろに浴びた……というよりも吹き飛ばされた私だったが、何とか視界を確保して地上に地面から着地した。そしてデビルダムガンがいた場所へ目を向けると……そこにはどろどろの液体のようなものになって、崩れ落ちていくデビルダムガンの姿があった。
「……微妙だな」
思わず口に出してしまうくらいに、微妙な光景だった。一応生物と思われる存在なのだが、流体金属ということもあって脊椎動物における内臓が存在しないので、どろどろと溶けていくだけで吐き気を催すような感じはしない。
だが……かといって何も感じないかといえばそうでもなく、なんともあいまいな感覚が私の胸中を駆け巡っていた。
そんな実にくだらないことを考えていると、下半身の巨大な頭も崩れ落ちていき、ゆっくりと……咥えこんだ光の玉が地面へと落ちてくる。
(状況的にこの光の玉の門番か?)
光の玉に引き寄せられた獲物であった私だったが……何とか獲物として狩られることはなく、無事に敵を撃退した。そして唯一変化をもたらしてくれるであろう光の玉へと、私は慎重に近づいて行った。ほかの門番がいないとも限らないためだ。
しかし光の球に近づくにつれて……その警戒が無意味であると思えてしまった。そのことに普段ならば疑問を抱くはずなのだが、私は疑問を抱くことも、警戒することもなく……無防備に光り輝くその玉に触れた。
【やられた】
そんな声が脳裏に響いたと思ったと同時に、私の体が光り輝いた。といっても言葉通りの客観視ができているわけではない。自らの視界が光で塗りつぶされたから光っていると認識しただけだ。やがてその光が収まった。
(今のは?)
謎の声に謎の発光現象。いろいろな出来事が重なって考えることは山積みだったが、そんなことよりも……私は自らの体に起きた変化に意識を割かざるを得なかった。




