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それぞれの戦い

 突撃部隊が戦闘を始めた……それよりも時はさかのぼり、関東平野外縁部。そこではすでに激しい攻防が繰り広げられていた。

 関東平野にいる敵が、巣へと帰るのを阻止すること。そしてローラー作戦で敵の生存数を減らす意味合いもかねて投入された防衛線部隊は、それなりに厳しい戦いを強いられざるを得なかった。

 何せ巣を中心に円形に防衛線を構築し、防衛線事押し上げて敵の生存圏をつぶしていく作戦だ。大和国最大の勢力を誇る三つの基地、そして国連軍より派遣された部隊すべてを導入しても、関東平野の外縁はかなりの距離がある。それをオーラスーツの部隊で、防衛線を構築するのは無理な話なのだ。

 線ではなく点として展開しているため、当然一つ一つの点に群がってくる敵の数はすさまじいことになる。点となった部隊はさすがに単一部隊ではなく、いくつかの部隊が合流した即席の部隊だ。連携不足によってぎこちなさはあるものの、何とか致命的な被弾をすることなく、何とか防衛線を形成するための、点であることは維持することができていた。

 そんな中……一つの部隊だけは最小単位の一部隊のまま、中央を正面突破するのではないかというほどの勢いで、前に進んでいた。

「UYLより各機。状況は?」

「UY1問題ないぜ、姐さん」

「UY2問題ないえ」

「UY3ナッシング」

「UY4問題ないです」

「UY5問題なし」

 それぞれが返事をしつつも、周囲に群がる敵を瞬時に葬りつつ、そう返していた。全ての隊員が、誰一人として互いをフォローすることなく、手にした武器で周囲に群がってくるFMEを、一切危うさを感じさせない動きで屠り続けている。

 それを証明するのはその部隊の陣形だった。なんと驚いたことに完全に一直線……真横に並んで戦闘をしているのだ。それも隣との間隔は10mほどもある。

 これでは互いのフォローをするのはにほぼ不可能だと断言できる。だというのに全機が周囲に群がる全ての敵をに屠っていた。

 国連軍派遣部隊の中で……それどころか世界最強戦力と謳われる、光夜氏家みつよ うじいえ少佐が率いる最強の部隊。コールサインは国際連合を意味するUnited NationsのUと大和国のYの頭文字を使用した物だった。

「問題はないんだが姐さん、少し先行しすぎじゃないか?」

 両手に持った手斧を振り回しながら、深い黄色の機体がそうぼやく。乗り込む搭乗員は大和出身だが、背丈が180cmを超えた偉丈夫の男。今はオーラスーツに乗り込んでいるため見ることは叶わないが、短く刈り上げた髪に快活な笑みが似合う明るい男、時綱坂部ときつな さかべ。光夜源の一番弟子で、彼女にもっとも近しく親しい男性であり、弟のような存在だった。

「ほうやねぇ。流石に突出しすぎやないかねぇ?」

 そんな京都弁なまりの言葉を、ぼんやりと零すのは赤黒いオーラスーツ。得物は両手に持った二つの短めの両刃の剣。大きさがそこまでないため、時綱よりも更に縦横無尽に振るわれていた。その搭乗者は天子鬼頭てんこ きとう。小柄な体格をした真っ黒なおかっぱ頭の笑みが、少し妖しい女性だった。時綱坂部の幼馴染みである。

「それは私も承知しています」

 そんな二人のぼやきとも言える問いかけに、深い赤紫色をした機体が応える。

 手に持つは、オーラスーツの全頭ほどもある巨大な両刃の剣。幅もオーラスーツの前腕ほどある。弥生時代辺りの直剣を、そのまま巨大化したかのような外見をしている。

 この部隊もパラレル部隊同様、全ての機体にマテリアル兵装が与えられた特別な部隊だが……その中でも隊長機である光夜少佐が持つ、このマテリアル兵装は特別の中の特別というほどに、重要な物だった。

 光夜少佐は軍に入隊し、訓練時から凄まじいまでの実力を発揮していた。それは正式にオーラスーツの戦士として戦い始めてからも同様で、世界的にも名の知れた戦士として名を馳せるほどだった。

 そんな優秀な戦士を国連が派遣を要請してきて、光夜少佐は世界のためとそれを承諾した。そしてそんな世界のために戦う光夜のために……天皇家が光夜のために与えたのが、この両刃の大剣、森薙乃剣もりなぎのつるぎだった。

 これは天皇家に代々伝わる三種の神器の一つである。それを世界のために戦う光夜のために……天皇家がマテリアル兵装に変化させた上で、光夜に貸し出しているのである。

 光夜自身の腕前も世界最高峰レベルの実力者なのだが、それ以上に世界最強レベルのマテリアル兵装だと断言できるほどの強力な武器が、この部隊……ひいては光夜を世界最強たらしめる、大きな要因の一つとなっていた。

「私たちが突出すれば、それだけ周りに行くFMEの数を、減らすことが出来ます。そしてそんな無謀なことをしなければいけない特権を、私たちは得ています」

 お堅く真面目な考えである。確かにこの部隊は全ての機体にマテリアル兵装が与えられている。特にそう言う本人である光夜の得物は三種の神器の一つだ。間違いなく超特別扱いと言って差し支えない。それでもここまで無謀なことをする理由はないが、それをすべきだと光夜は断言した。

 そんな自らの部隊の隊長に、他の隊員は皆苦笑するしかなかった。確かにそれをするための義務と理由が、この部隊にあることを隊員達自らがキチンと理解しているのだから。

「それに予感がするのです」

「予感だって?」

 ぼそりとつぶやかれた小さな言葉を聞きL取ったUY2が疑問の声を上げる。だがそれに対する返答はなく……UYLはひたすらに群がる敵を斬り続けた。縦横無尽に剣を振るいながらも、UYLがとある場所を見つめていることに、UY2は気づいていた。

(姐さん、いったい何をそんな気にしているんだ?)

「大将もトッキーも他の事気にしてはったら、うっかりやられてまうかもしれへんえ?」

 少々間延びした口調で、天子がそうやって二人をからかう。周囲に敵に群がられた状況でありながら、普段通りのその態度に、二人は苦笑するしかなかった。

「えぇ、その通りですね。各員、現陣形を維持しつつさらに前進します。無理が生じたら必ず報告すること。名誉も栄誉も不要です。生きて帰ることが、私たちには絶対条件です」

「「「了解」」」

 誰もが無理を感じさせず、気負いも感じさせない普段通りといわんばかりの口調で、そう返した。他が三部隊合同になってようやく対応ができている状況を、苦も無く対応し続けていた。




「通信は?」

「できてないね」

 秩父前線基地、作戦室。常に部隊を動かしている人類において、明かりが消えることがない場所であり、必ず数人が詰めている部屋だが、今は大勢の人間が詰めており、そして普段よりも明かりが多くともされていた。誰もが緊張しつつ、状況の推移を見守り、そして対応を行っていた。

 その一番高い席に座る二人の女性。千夏司令とダヴィ技術中佐の会話だった。

「やはり巣の中には何かしらの電波妨害か、電波障害がおこるように敵が何かをしているのは、間違いないか」

「それは過去の調査記録、そしてこの作戦が開始される前に、投入した調査機器との通信途絶から考えても間違いないね。歴史的事実として有線にして、決死部隊を突入させても無駄だったのだから、相当厄介なのは間違いないね」

 巣の調査が進まなかった大きな要因が、二人が話している通信障害にあった。部隊や調査機械を向かわせても、内部の映像すらもほとんど入手することができない。部隊や調査機械が、返ってこなかったことも大きな要因だが、それ以上に厄介なのが巣に突入した部隊との、通信途絶だった。

「通信さえできれば、もう少し調査が行えるのだがな」

 むろん人類側も通信障害が起こることは、とっくの昔に把握していた。ゆえに……決死部隊を派遣し、通信ができる巣の外部に数名を待機させて、突入部隊と有線で接続した状態で突入させたにも関わらず、それでも一切の情報を得ることができなかったのだ。

 これらの判断材料により、巣の内部の情報を得るためには「決死部隊を投入し、その部隊が無事に帰還するしかない」という……あまりにも決行しがたい事実が生まれてしまったのである。

「けれどまさか……パラレル部隊に持たせた、対策を講じた通信機器でも駄目だったのは、ちょっと驚いたけど」

 ダヴィも、何も対策をしてないわけではなかったのだが……その対策もむなしく通信は途絶した。歴史的に見ても、巣への調査は最悪の事実通り「決死部隊の帰還」でしか、情報を得ることができない状況となっていた。

「すべての部隊が無事に帰ってくれればいいが……」

 歴史的観点から見ても、突入任務が発令された作戦部隊には、当時の最新鋭の装備、最高の人材を投入。そのうえでの作戦行動だった。しかしそのどれもがすべて、部隊の全滅という二文字で終わっていた。

 巣の破壊でも成長阻害でもない、ただの調査すらも満足に行うことができない。それも巣へ突入するための道行きが、あまりに険しいわけでもないにも関わらず。巣に接近するだけならば、巣より少し離れた距離にいるFMEが、巣を防衛するような行動をした事例はない。そのため巣周辺や、その近辺であれば調査は行えていた。

 ただ、巣の内部に入った後のことは、すべて全滅で終わってしまう。これほどまでに巣の内外で違いがあるため、恐怖と不気味さを感じるには十分すぎることだった。

「前から思ってたんだけど、どうしてパラレル部隊を投入したんだい?」

「わかっていることを聞くのは、いい趣味とは言えないぞ?」

 無駄話と言えなくもないが、現況はある程度予定通りに進んでいるため切羽詰まる状況ではない。また直属部隊とも言えるパラレル部隊は現在巣に突入しており更新ができない。最高司令部の二人が、話をするくらいの余裕はあった。

「状況は分かっているとも。私が知りたいの君の胸の内だよ」

「……胸の内、ね」

 ダヴィからの質問に、千夏は嘆息を吐きながら姿勢を崩した。周りが真剣に事態に当たっている状況で、少々不謹慎と言えなくもなかった。しかし周りは自分のことに手いっぱいで、千夏を見ている者はおらず、また見ている者もそれをとがめることはしなかった。

「国と国連からの要請だ……と言って満足はしないな?」

「もちろん。胸の内だからね」

 笑みを浮かべながらそう答えたダヴィだったが、その目は笑っていなかった。そんなダヴィに千夏は内心で苦笑しつつ、背もたれに預けた体を起こした。

「調査も満足に終えてない状況でパラレル部隊を……もっと正確に言えば宗一を投入したくはなかった。それが国や国連の要請を蹴ることになってもだ」

 冗談抜きに、人類存亡をかけた異星起源生命との世界大戦の最中の、国と国連からの要請を断るというのは常識的に考えてあり得ない行為だ。それがあまりにも非人道的であればそれも無理からぬことかもしれないが、国と国連の要請はあくまでも部隊の投入だ。それが歴史的に見て、調査が全く行えたことがないできていない……敵の巣への突入であったとしても。

「でも突撃の命令を下したよね?」

「国と国連の要請だけだったなら、初回からの突入はさせなかったが……陛下に頭を下げられてはな」

 苦笑しながら……苦々しく言われたその言葉には、普段の厳しく律した千夏とは違った……やわらかい雰囲気が漂っていた。それを見て得心がいったのか、ダヴィも同じように苦笑した。

「やっぱり」

「わかりやすかったか?」

「逆に言えばそれぐらいしか材料がなかったからね。さすがは人にも自分にも厳しい司令官様だ」

「からかうな」

 わずかな時間だけ和やかになった二人の雰囲気だったが、しかし作戦中ということもあって、すぐに二人とも弛緩した気持ちを引き締めた。

「むろんそれだけではない。確かに希少な存在だが……正直私とダヴィ以外に、あいつをうまく扱えるところが、どこも思いつかないからな。宗一には申し訳ないとは思ったが、自らの居場所は自分で守ってもらう必要性もあった」

 うまく扱えないという表現は少々語弊があったのだが、それでも千夏はその言葉を使った。その意味はダヴィも理解しているようで、小さくうなずいていた。

「それに……くだらないことを言わせてもらえればだな……」

「? ほう? というと?」

 興味深そうにダヴィが先を促すが……珍しく千夏が言いよどむように、言葉を続けようとしなかった。そんな珍しい千夏を茶化すことなく、ダヴィは千夏の言葉を待った。

「おそらく、ここが分水嶺だ」


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