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分断

 それは正に一瞬の出来事だった。先ほどまでは確かに。物的な見た目をしていた床があった。スーツの測定機器でも、真下に空間が続いているような形跡は見受けられなかった。

 だというのに……一瞬にしてP1の足元に穴が出現してP1が落下し、すぐにまた元の床へと戻った。

「!? 宗一さん!」

「なんだ今のは!?」

「落とし穴!? でもさっきまで確かに何の反応も!?」

 私が悲鳴を上げるのと同時に、PLとP2が疑問の声を上げていた。

 P1に調査機械を詰め込めてない都合上、五体のオーラスーツによる測定しかできなかったのは事実だ。しかしその五体すべての機体の調査をした結果、何も問題がなかったはずだった床に、突如として穴が出現した。

 しかも、いくら唐突に穴ができて落下したとはいえ、あまりにも落下速度が速すぎる。さらに穴が出現したことによる変化に対して、P1が全く反応を示していないのも、いくら何でもおかしかった。穴が突然足元に出現したら、何かしらの声を上げるはずだというのに、それもなかったのだから。

「周囲の変化は?」

 あまりにも突然の変化に戸惑いながらも、それでも何とかPLが指示を飛ばしてくれる。その指示に、皆が内心動揺しつつもそれでも仲間のために、今自分にできることを行った。

「P2、異常なし」

「P3、同じく」

「P4、同じく」

「P5、同じく」

「PLも同様。なんの変化もないのが不気味だが……各機P1と通信が繋がるのはいるか?」

 はぐれてしまったP1と連絡が取れるか試すも……全機通信でつながることはなかった。かなりの高性能を誇る、オーラスーツに搭載された最新鋭の通信機器ですら、通信を行うことができない状況に陥ってしまった。

「まずいな。いくら何でも速攻で分断されるとは、予想だにしなかったぞ? しかも接敵すらしてないってのに」

「すぐにやられることはないだろうが……しかしP3とすらもはぐれたのはやばいぞ? これが長期戦になった場合、P1には携帯食料や飲料が積載されていない」

「それもあるけど、敵地の中枢部で孤立って状況は、精神的にかなりの負担がかかるわ。それが私たちの誰かなら、すぐにはパニックにならないと思うけど……P1では」

 P2の言葉の通り、周囲が敵だらけの状況で孤立するというのは、かなり不安をあおられる。正直に言わせてもらえれば私が同じ状況に陥った場合……最初は何とか冷静を保てると思うけど、接敵した場合はパニックに陥る可能性が高いと、自己分析ができた。

 だというのに、今分断されたのは新兵ですらない、訓練兵のP1……宗一さんだ。

「ともかく探さないと……どこか地下に行けそうな場所を見つけないと!」

 P3……璃兜も焦っているのが声で分かる。PLや、P5、そしてP2の中尉以上の階級と確かな実力を有する歴戦の勇士達が努めて冷静でいる中、私と同期の璃兜が慌てていることで、少しだけ冷静さを取り戻した私は……測定機器で、あらゆる方面から調査を開始した。

 その瞬間だった。

!!!!

 けたたましい警告音が五つ……この場にいる部隊全員のオーラスーツから発せられた。

「!? 敵襲!?」

 誰が叫んだかはわからない。けれど……まるでその言葉がこの空間に木霊するのを待っていたかのようなタイミングで、先ほどまで壁だった場所に穴が開き、FMEが飛び出してきた。ぱっと見た感じ、この部隊の人間であれば対処できる程度の数しかいなかった。

 けれど……宗一さんと分断された私たちにとっては、最悪な襲撃だった。

「ちっ!? 円陣を敷いて各自、対応に当たれ! 10分戦闘を継続した後……その時の状況で判断を下す! ともかくなんとしても被弾するな! 死ぬな!」

 吐き捨てるようにPLがそう言うと同時に、自ら二丁拳銃のマテリアルハンドガンを両手に装備して、火を噴かせた。

 それが合図となって敵の巣の内部で、激しい戦闘が開始された。




 その時の私の心境を、正直に言うのであれば……全く持って訳が分からない状況だった。

「いや、マジで一体何が起こってる?」

 思わずそう口にしてしまうくらいだ。もはや定番になりつつあって恐ろしいのだが……一瞬意識を失った次の状況は、真っ暗闇の状況で下に真っ逆さまに落下している状況だったのだ。

 それも何というか、完全な自由落下というよりも、何か管の中を通って落下しているようだった。暗いため分かりづらいが……たまに緩やかに曲がって体がくねらされる感覚があったのだ。

(見えないと何もわからんが……)

 そう考えて……ロトメイドのパワードスーツの便利機能の一つに、暗視装置があるのを思い出して、念じてみた。するとその想いにパワードスーツが応えてくれて……暗視装置のような視界広がった。

 視界に慣れるまで少々時間がかかったが、目の前のそれなりの至近距離に壁があり、その壁が高速で上に昇っていく……つまり私が下りることで壁が上に上がる現象が起こっている。間違いなく落下していると判断できた。

(しかし一体何故私は落下した?)

 この作戦終了後、意識を失ったその直後に出来た床の穴に吸い込まれてしまったことを知るのだが、現時点でそれを知るよしはなかった。

(というか他の人は?)

 少ししてようやく落下したこと以外のまずい変化に気付いて、直ぐに通信機を起動させるが……あいにく誰とも繋がることはなかった。

(まずいな……)

 どうして穴を落下しているのかは謎だが……それでも他の隊員とはぐれてしまったのは事実だ。

 というよりも……間違いなく意図的に分断されたと見るのが、正しい判断だろう。

「さて……この奈落の底には何があるのか?」

 仏教の世界観で、地獄とされる場所。それが奈落と呼ばれる。そこまで神話等に詳しくない私としては、猫夜叉に登場した逃亡系ラスボスとからかわれた存在の名前というイメージが強かったりする。

 ともかくとして、私は敵の巨大な巣の内部で他の隊員と分断されて、あげく地下何階かも想像できないほど、地の底へと引きずり込まれている真っ最中である。

 視界も何とか確保できた状況ではあるが、万全な視界とはお世辞にも言い難い。端的に言えば、絶体絶命と言って差し支えない状況だ。

 更に最悪なことを言えば……この穴が都合良く地下の広場に繋がっているとかではなく、敵の胃袋の中へと通じている可能性も捨てきれない。何せ巣と便宜上呼んでいるが……超巨大なFMEと言い換えられなくもないものなのだから。

(さて……藪の中に誘い込まれて出るのは大蛇か? はたまた……)

 

 そんなことを考えていたからか? 

 なんというか悪い予感ほどよく当たるというが、ものの見事に私は最悪な大蛇を引いてしまった。


 しばらくすると、管を伝って滑り落ちていく感覚が突如として消え、どこかに広い空間に投げ出されたのが、流れる空気の感じが変わったことで、認識できた。

 だだっ広い空間に出たことで、周囲を見ることができるようになったため、すぐに状況を確認する。

(暗視装置ではあるが、見える範囲で敵影なし。……うん?)

 周りを見渡していると、奥のほうにわずかながら光源がある様子だった。先ほど作動した暗視装置である程度不自由なく、視界で状況を確認できる状況だった。

(それなりの高さがあるな)

 その視界で見ることのできる床は……それなりに下のほうにあったが、高いところが苦手な私でも何とか耐えられるレベルの高さではあった。

 パワードスーツを着ているおかげでパニックになることもなく、何とか冷静を保って、背面のバーニアを何度か吹かした。それによってすさまじい速度になっていた落下速度を殺して、地面に着地した。

(地面はある程度普通に感じられるようなものか)

 ロトメイドのゲームは、場所にもよるが一応マップは普通の地面だったり、機械設備の地面だったりする。しかし当然、ゲームなのでどのような地面であろうと、動きを阻害するような地面ではない。

 しかし今私がいる場所は敵の巣の内部であり、現実だ。流体金属が基本構成の生物とはいえ、生物の巣である。もう少しぬめるというか、生き物の臓物のような感触をしていたらいろいろと困ったのだが、どうやらこの落とし穴の先も、普通の地面だったようだった。

(さて……この空間の意味は?)

 暗視装置のためだいぶ見えにくいが、それでも通常の視界……つまり裸眼のような状態であたりを見渡しても、壁が見当たらない状況だった。周囲に何も見えないということは、相当広い空間ということになる。

 天井は何とか見えるが、それ以外の四方すべて拡大しない視界では、何も見えず暗闇が広がっているのみ。つまり私は本当にだだっ広い空間に落下させられたという状況だった。そしてそんな状況で、少々行った先に一つの光源が、まるで一縷の望みとでもいうように光っている。

(罠かな?)

 あたりが暗闇という中で唯一の光源。これが……深海のチョウチンアンコウに思えてならなかった。しかもこの光源が罠だった場合、出てくるのはチョウチンアンコウではなく敵の巨大生物だと考えるのが妥当である。

(行きたくないが……いかざるを得ないか)

 距離があるゆえに、四方の壁すらも見えない状況。唯一変化を望めそうなのは、多少の距離がある光源のみ。これがRPGとかのダンジョンであれば、宝が光っていると考えられなくもないが、ここは敵の巣の中。宝物があるわけもない。

(いやでもオーラマテリアルがあるかもしれないって話だったか?)

 巣の調査を行えてない状況なので、夢物語といっても差し支えのない眉唾物の話である。と、グダグダ考えていても意味がないので、私はその光源へと向かって慎重に近寄った。

 現在の状況は、敵地のど真ん中に単身で孤立した状況だ。警戒しすぎても足りないレベルだ。しかも私のパワードスーツは、レーダー五感などが搭載されていない。自身の五感だけが頼りなのだ。警戒せざるを得なかった。

(その割には……落ち着いているのが自分でも謎だが)

 絶体絶命といっても何ら差支えのない状況下で、私は何とか冷静を保ちつつ歩いていた。武器は最も信頼する木刀をすでに出現させて手にもって、いつでも迎撃できる状況である。

 そうして警戒しながら歩いていたのだが……光源が近づくにつれて、その光源の不思議さに徐々に警戒を解いて、注視してしまっている自分がいた。

「……これは?」

 光源の正体。それは文字通り光の玉だった。光源が近づいたことで暗視装置も解除して、通常の視界でその光の玉を見ているのだが、それしか形容しようがなかった。

 宙に浮いている光の玉。大きさは目測になるが私の背丈とほぼ同じくらいの、巨大な玉だ。そしてその光は……不思議な温かさを感じさせるものがあった。

 そうして私が無防備に光の玉に歩み寄り、あと数メートルで触れられる距離になったその瞬間……すさまじい悪寒が全身を駆け巡った。私はその悪寒に逆らわずに、後方へと全力で跳んでいた。

 私の足が地面より離れたその次の瞬間に、私が先ほどまで立っていた場所に、何か巨大なものがぶつかった。その巨大な何かと、地面とが激突して轟音と激震を発生させた。

 光源との間にぶつかった何かのせいで、光が遮られて視界が暗くなる。再度意識を切り替えて暗視装置で、そのぶつかってきた何かを見て……私は思わずつぶやいた。

「触手?」

 それはまさに触手だった。そしてその触手を見た瞬間に、私の脳裏に真っ先に思い浮かんだのは、ゴッドジラに出てくる敵怪獣ラビオンテと、自由武闘伝Bダムガン出てくるラスボスだった。

「まさか……」

 再度思わず口から出たその言葉。その言葉をまるで具現化したかのように……視線を向けたその先に、それはいた。

「デビルダムガンじゃん……」

 口をあんぐりと開けて漏れ出た言葉は、私の心からの言葉だった。

 デビルダムガン。正式名称はアルティメットダムガン。荒れに荒れた地球を再生させるために生み出された、自己再生、自己増幅、自己進化を続ける究極の存在。

 それが大気圏突入の落下衝撃によってバグってしまって、まさに悪魔というべき存在になってしまった。地球を再生させるために作られ、その目的のために様々なバカげた機能全てが反転した結果として……そんな悪名がつけられたしまった存在。

 最後は主人公とメインヒロインが乗ったバーニングダムガンの、愛の絶技に吹っ飛ばされてしまうのだが。

 そんな現実逃避をしてしまうくらいに……突如として出現したその敵は、見た目がほぼ一緒だったのだ。

(むろん差異は山ほどあるが)

 巨大化した頭に足が生えていること、その下半身の頭のおでこの部分から蛇のような胴体が伸びて、人型の上半身がくっついているというフォルムはまんまだった。

 サイズも、私をバーニングダムガンとして見立てた場合に比率したサイズであり、普通に巨大だった。超巨大と言われたシャオロンに比べれば小さいのだが、比較対象がでかいだけで、目の前の相手も十分にでかい。

 そんなどこからか出現したデビルダムガンは、その下半身にある巨大な口をあんぐりと大きく開けて、光の玉を飲み込んだ。

(まずい、光源が!?)

 一切光のない暗闇になってしまえば、慣れない暗視装置を使用しての戦闘になってしまう。それを恐れたのだが……飲み込んだかに見えた光の玉は、口に咥えただけで吸収していないようだった。鋭く伸びた牙の間から、光が漏れていることで何とか見える状況になっていた。

 と……安堵したのも、つかの間だった。

「む?」

 加えこんだ光の玉ごと、その巨大な体が宙に浮いていくのだ。それも重さを一切感じさせないほどスムーズに。その動きを見て気づいた。浮いているのではなく、デビルダムガンは遥か上の天井から、触手で下に降りてきただけなのだ。そしてそれなりの高さのある、天井付近まで登って行ってしまった。

「しまっ」

 気づいたときはすでに遅く……デビルダムガンはパワードスーツで跳躍しても届かない高さへと陣取った。ブースターを吹かせば何とか届くかもしれないが、ブースターでの機動はまだ慣れていないこともあって、どうしても意識することになる。

 そしてその陣取りが完了したと同時に……天井から生えたデビルダムガンのそばからいくつもの触手が生えてきた。

「まんまじゃねーか」

 思わずそんな悪態が出てくるのも無理がないと思いたい状況である。そしてその状況で……周囲に生えた触手がこちらに鎌首をもたげ、襲い掛かってきた。




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