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 FMEは流体金属生命体だ。故にドラゴン……ファンタジー小説に出てくるドラゴンの姿をしているのは、擬態しているに過ぎない。この個体……リーレスはすでに、数年間姿を変えてないことを、確認されている。全長で20mもある、巨大な体躯をしているのが特徴だった。


 長年形を維持し続けるということは、動きの最適化が進んでいくと言うこと。そのためリーレスは、足と翼の効率的な運用が可能としていた。そして実際に翼を利用して空力で飛翔しているのではないため、その翼も防御と攻撃にのみ使用することが可能なのだ。飛翔している方法としては、オーラを用いての飛行だとするのが、学者たちの通説だった。


 この個体に殺された戦友の数は、すでに千を超えている。オーラスーツすらも貫通するほどの鋭い足の爪と、しっぽの先にある棘。極めつけは、その巨体の口腔より吐き出される、オーラレーザーだ。防御兵装を装備した、オーラスーツの耐レーザー用シールドすらも、十数秒持たずに貫通される威力を誇る。


(リーレス相手に私一人で戦うのは、万全な状態であっても無理だろうな)


 現在背面に装備している、オーラライフルが万全の状態であっても、リーレスに対抗するのは難しい……というよりも無理だろう。


「終わったわ……」


 思わず口から本音がこぼれていた。言葉が通じないとわかっていても、外部音声にしていないのが、せめてもの救いだったのかも知れない。後数十秒もすれば……互いに視認できる距離になるだろう。そうなれば一巻の終わり……そう思っていたときだ。


『――せ―! 真――尉!』


 無線が傍受されたのだ。救援であることが理解できた私は、すぐさま意識を切り替えて、無線出力を最大に上げた。


「こちら真矢・山谷少尉です! 応答願います!」


『よ―生―てい―! 真―少―! よ―聞け!』


 まだ完全に繋がってないが、直ぐにオーラスーツが調整して、問題ない状態で通信することが出来るようになった。


『戦闘用超音速輸送機で今そちらに向かっている。十分後にそちらに到着する予定だ。状況はこちらも確認している! 何とかそれまで生き残れ!』


「……了解しました」


 救援が来たことは喜ばしいことだけど、十分後という。恐怖と希望が同時に胸中を駆けめぐって……私は覚悟を決めるしかなかった。


 戦闘用超音速輸送機は、リーレスに対抗するために開発された輸送機だ。純度の高いオーラマテリアルを用いられたオーラドライブを搭載し、反重力ユニットを搭載することで垂直離着陸が可能。輸送機といいながら、輸送機能を削減して兵装を追加装備した、超音速で飛翔する移動要塞と言っていい。最悪の場合は逃げるために、FME用のジャミング装置すらも搭載している。


 欠点としては、先にも言ったとおり兵装を積むために、輸送機能が減少したことだろう。虎の子とも言うべき輸送機だが、輸送可能なのはオーラスーツ二機と、わずかなバックアップウェポン程度。


 今ここにある物は、私が搭乗しているオーラスーツと、装備類。それからコンテナのわずかな兵装、そして回収されたオーラマテリアルと民間人の男の人だけだ。輸送機でも十分に運び込むことが可能だろう。しかしそれも……リーレスがいなければという前置きがついてしまう。


(ここが私の死ぬ場所か……)


 幾人もの同期を見送ってきた。無惨に切り裂かれて殺された人。牙にてかみ殺された人。中には同化吸収されて、人として死ぬことも、部隊認識のドッグタグすらも残さずに、亡くなってしまった人もいた。入隊したときに覚悟はしているはずなのに……それでも目の前で近しい人が死んでしまうと、どうしても心が恐怖で塗りつぶされてしまう思いだった。そしてその恐怖が今……生涯で最も重く濃い死が目前に迫ってきていた。


 でも……その恐怖で怯えて止まるわけにはいかなかった。劣勢に立たされて人類。その人類の一縷の希望とも言える、高純度のオーラマテリアルがこのコンテナの中に積まれている。これを使えば、どうにか戦況を打破できると……多くの人に希望を与えることが出来る。千夏司令も……期待しているはずなのだ。


 ならばここが私の死に場所なのだろう。再度オーラライフルの状況を確認した。すでにレッドアラートが出ている装備。現状で唯一リーレスに対抗できる装備だった。


 けど……私は覚悟を心で決めるだけではなく、行動でも決めるために、オーラライフルを除装した。使い物にならない物を纏っていても、動きが鈍くなるだけだ。オーラハンドガンで、どうにか出来る相手でないことは、わかりきっている。ならば……リーレスに対抗できる残された武器は、腰に携えた剣のみだった。


 マテリアルソード。私のオーラスーツの中で最強の武器といえる存在だ。歴史ある実際の剣をオーラマテリアルが取り込み、オーラスーツ用に調整された武器。オーラマテリアルはその性質とオーラスーツの運用方法から、オーラスーツに搭載されるオーラドライブに使われることがほとんどだ。その貴重なオーラマテリアルを使用された武器は、どれも強力な物が多かった。


 欠点としては、オーラドライブではなく武器に用いることで、形状を完全に記憶してしまうからか、別の物への変換が出来なくなるということ。また個々人のオーラとの相性があるのか、使用できる人と出来ない人が出来てしまうのだ。


 私のオーラスーツが腰に帯びている物も……前回装備していた人が亡くなったため、私が装備させてもらえることになったのだ。空を飛ぶFME相手に、近接武器で挑まなければいけない状況だけど……やるしかなかった。


!!!!


 再度接近の警報が、オーラスーツから出された。


『コンテナの中で、じっとしていて』


 そう言い残して、私はマテリアルソードを手に持って、コンテナから少しだけ離れた。離れすぎるわけにはいかないけど、それでもコンテナの近くにいるわけにもいかない。その一歩を踏み出したとき……オーラスーツの望遠カメラが、リーレスを捉えた。


「……きた」


 遠間に見たことは何度もある。映像も……報告で見るときに何度も見た。そのたびに恐怖と憎しみを覚えた。だけど今は……恐怖と戦意が自らの体を支配していた。相対すれば確実に死ぬだろうという恐怖。そして……その恐怖を押し殺してでも、リーレスに立ち向かわなければならない数々の理由。


(お願いラーファ。私と一緒に……戦って)


 自らのオーラスーツに心の中で呼び掛けて、恐怖よりもわずかに勝ったその戦意を持って……私は剣を構えた。


「さぁ……行きます!」


 そう咆えていた。






「……ふむ」


 何が起こっているのかはわからないが、何か尋常ならざる状況に陥ったのは、間違いないようだった。それを証明するのが、先ほどから宙に投影された立体地図に映し出された、大きめの光点。この光点が凄まじい速度で、こちらに向かってきているようだ。


 このコンテナが簡易拠点としても機能することは、ロボットを固定できるハンガーや予備の装備、そしてベッドなどもあるために判断できる。索敵範囲がロボットよりも広いかは謎だが、拠点にレーダーがあって、ロボットにレーダーが搭載されてないということはあり得ないだろう。


 先ほどまで何度か話しかけてきていたロボットが、話しかけてこなくなったこと。それに付随するように、光点が凄まじい速度で接近してきていることからも、相当やばい相手がこちらに向かってきているのだろう。


 更に悪いことに、立体地図の情報を見るに……この敵は空を飛んできているようだ。ロボットが空を飛べるのかは謎だが……どちらにしろロボットが装備している武器はハンドガンと直剣だ。どう考えても……


「空飛ぶ相手には絶望的だな」


 そしてコンテナに映し出された映像には、背面のライフル装備を捨てて身軽になって、剣を構えているロボットの姿だ。ハンドガンでは確かに決め手に欠けるが、それでも間合いが剣身の長さしかない得物で、空飛ぶ相手と戦うのは常識的に考えてあり得ない。ロボット故に、何かしらの手段で空を飛べるのかも知れないが、それを差し引いても、空飛ぶ敵を相手に、ハンドガンではなく剣で戦おうとするのは、あり得ない選択肢と言って良いだろう。ならばあの剣には、見た目以外の秘密が何かあるということになる。


(剣からビームでも出すのだろうか? それとも飛ぶ斬撃?)


 そう考察するも……今の私に出来ることは他になかった。パニックになってコンテナの外に出て、足を引っ張らないことが肝要だろう。そう考え……どこか少しでも隠れる場所があればと思い、コンテナの中を再度捜索しようとしたときだった。


『嘘!? 何でそっちに!?』


「うん?」


 ロボットから、悲鳴に聞こえる声が鳴り響いていた。そしてそれに違和感を覚えたそのとき……凄まじい衝撃がコンテナを襲って、辺りの物が散乱した。その散乱した物の中には……私も含まれていた。


「ぬっ!?」


 命の危機故か、再度思考が加速して辺りの物がゆっくりと動いていた。視界の端に映ったのは、先ほどまでと違う……変化が訪れたところ。そちらに視線を移せば、凄まじいほどの大きな亀裂が走っている。


 どうしたのかは謎だが、先ほどの飛んできた敵が、コンテナを攻撃してきたと考えるのが妥当だろう。その衝撃で私は吹き飛ばされていた。奇跡的と言うべきか……吹き飛ばされ方が良かったのか、頭をぶつけるということは無かった。何とか危なげなく着地した。


 しかし問題があった。こちらに向かって近づいてきている箱があったのだ。このコンテナに入ったときに、吸い寄せられるような感覚がして目を引き付けさせられた、危険だと知らしめるマークが刻印された箱だ。それがこちらに向かって吹っ飛んできている。


 間違いなく命の危機であると咄嗟に判断して、私は手にしていた木刀で箱を思いっきり叩いていた。破壊する意図はなく、少しでも直撃を防ぐために、横凪ぎにしたのだ。


 そこで不運というべきか……その箱に亀裂が入っていたのが、私の目に映し出されていた。コンテナを破壊できるような巨大で強力な敵だ。箱がどれほど頑丈なのかは不明だが、空飛ぶ敵が箱を破壊できても何ら不思議はなかった。そして私が自衛のためとはいえ箱を叩いたことで、箱が砕け散って中身が出てきてしまった。




 それは……実に綺麗な白銀に輝く、玉だった。




 いや、正しく言えば白銀に光り輝く液体だった。その白銀の玉を目にしたとき……視線を奪われてしまった。視線だけでなく……意識さえも。何故か……その白銀に光り輝く液体から目を離すことが出来ず、絶体絶命の状況だというのに……何故か一切の思考が停止した。


 そして思考が底止するということは……基本的に人間は動きを止めると言うことになる。そのため……私は飛行型の敵の攻撃による衝撃によって、封印を解かれた箱の中身が、自らに飛んでくるのを間抜けにも見つめていただけだった。


 そのとき、何故か魅せられたかのように……自らに向かってくる白銀の液体に右手を伸ばしていた。




 そして……白銀の液体と右手が触れたその瞬間だった。






『お願い』






 そんな声が聞こえた気がして……白銀の液体が眩しく発光した。

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