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最終確認

(おぉ……私の勘も捨てた物ではないな)

 予想が的中して驚きつつも、ちょっと嬉しかった。私は異性関係がけっこう壊滅的だった。

 いくつかあるエピソードとして、後輩と飲んでいたらその後輩の同期の女性が来て、めっちゃびびっていたがあった。その女性が隣の席になったのだが……酔っていたこともあって、セクハラをしてもまずいと緊張して物理的に席を遠ざけて、距離を取ったこともあったほどだ。今考えればあれはあれで失礼だったが……まぁどうしようもない。

「真矢さんの件と言いますと?」

「あの子の部隊が解散したって、話は知ってる?」

 その話は知っており、解散と言うよりもむしろ壊滅の上で解散だと認識している。私が知らなかったことも想定して、解散と言葉を柔らかくしているのだろう。私は回りくどく言うのも面倒なので、ある程度直接的に言うことにした。

「存じております。そして……最後の一人が退役されたことも」

 これを言えば、此方が事情を知っているのを把握するには、十分だろう。

「そっか、ならお願いしても大丈夫そうかな」

「お願い?」

「大したことじゃないの。ただ……どうか今度の作戦だけじゃなく、これからも死なないように努めて欲しいの」

 そんな当たり前の事を言われて一瞬戸惑ったが……真矢さんの話を先にされた事で、ある程度言ってきていることの意味が理解できた。

 軽く話を聞いただけだが……どう考えても尋常じゃない経験だ。それも心に傷が出来ない方がおかしいと、断言できるレベルの。ならば私に話をしにくるのも納得だった。

 私が所属しているパラレル部隊は、精鋭が集められた文字通りの精鋭部隊であるため、現在のところ死者どころか負傷者も出していない。

 また別部隊との連携での作戦行動も経験がないため、自分はおろか他者の死も感じたことはなかった。

(そんな精鋭部隊にいるド素人の新兵。死ぬなら私が一番可能性が高いと考えるのは当然か)

 故にいまだに敵との戦いに負ける……つまり死というものがわからない。加齢と病気による死の足音を聞いていた身だったが……それでも他者の死は、久しく感じたことはなかった。

(最後に感じたのは、両親が他界したときか……)

 それぞれ二人とも病気による死亡だったが……まっとうに生きた人生ゆえか、あまり苦しまずに逝けたと私は思っていた。

(結婚できず、孫を抱かせてあげられなかったのは、少々申し訳ないが……)

 それ以降は、職場の人間の血縁者が死んで葬式等には出ていたが、亡くなった方の今際の際の時に、側にいたわけではない。

(戦場でもしも……人が四散する様な死にざまを見て、私は平静を保てるだろうか?)

 当たり前だが、不安要素が多いのが私という存在だ。急な若返りに対する逆の作用……つまり急な老化……がある可能性や、訓練が浅いことによる任務への対応や対処のミス。人が死んだのを目の当たりにして、平静でいられるのか。


 そして……同じ部隊の仲間が死んだとき、冷静でいられるのか?

 

 経験をしたくない……身近な人の死。もっと言えば想像すらもしたくない。これが偽らざる私の本音だ。

 むろん、だれもが同じ思いのはずだが……生まれる前から戦争状態だった環境で育った人間と、平和な日本で生まれ育った人間で覚悟に差があるのはさすがに少し多めに見てほしい。

「あの子はいい子だから……今も内心ですごく苦しんでる。仲間が死んでしまったことも、自分と同じ生き残りのもう一人が、退役してしまったことも」

「はい」

 それについては、想像に難くない。何せ私のような人間を、あそこまで気にかけてくれるような人だ。それが嘘でも見栄でもないことは、少しでも接すればわかることだった。

「むろん前線に出撃する以上、誰だって死に対する危険は付きまとう。けれど……私たちの部隊の中では、正直に言わせてもらえればあなたが一番危ないの」

「当然ですね」

 それについては、パワードスーツという異常な兵器が、いろんな意味で不確定要素すぎた。

 いまだほとんど解明できてないこの謎の兵器が、どのような不具合を起こすのかすらもわかっていない。中身がベテランだったら少しは不安要素が減るが、中身はド素人だ。強力なのは間違いないが、あまりにもピーキーすぎる。

(そして最大の欠点は……私の完全専用機ということだな)

 兵器というのは武器であり、人間が作り出した道具の一つだ。道具とは、ある程度の習熟が必要とは言え、だれでも使えることが最大の利点であるはずである。

 しかしパワードスーツは、現況私にしか使えない。実験をしようと思っても、ほぼ完全な人体実験になってしまうので、良くも悪くも今の戦況では、そこまでの非道を行うのは難しいだろう。

(もっと壊滅的な状況になったら……分からないがな)

「こんなことを私が頼むのもおかしい話なんだけど……お願い。あの子に、仲間を失わせるような経験を、させないで上げて」

 そういって頭を下げてくる璃兜少尉。それに私は慌てるしかなかった。

「頭を上げてください。そこまでする必要性はないでしょう?」

「そうかもね。けれど……私の中のあなたという人物は、こういうことをされると気にするタイプだと思ってね?」

 そう返ってきた言葉には……どこかからかうような感情が漏れ出ていた。頭を下げているので見えないが、何となく少しにやりと笑っている璃兜少尉の姿が、想像できた。

「よく見てらっしゃる」

「これでも戦時下の女兵士ですからね。いろんな人がいるから、人間観察は必須なの」

 技術が発達しており、また戦時下という状況で異性を襲うなんという、そんな馬鹿なことをする奴はなかなかいないと思うが、それでも自衛するに越したことはない。それはどこに行っても同じことのようだ。

(まぁくそ野郎どもに気を使って生活するってのは……なんか間違っている気がするんだがね)

 盗難、暴漢、煽り運転等々……明らかにおかしなニュースを見て、いつも思っていた。

 とある作品で、聡明な小学校低学年の女の子が、「夜は変な人が出てきて危ないから出歩いてはいけない」と主人公にたしなめられたときに、「まっとうに生きている側の人間がなぜ悪党どもに気を使わなければいけないのか?」と、素朴な疑問を返していた問答があった。

 これに私は激しく同意した。なぜまっとうに生きている側が、防犯カメラ設置、GPS装置の設置、夜道を歩くのを控える、煽られても我慢する等々……耐えなければならないのか。明らかな凶悪犯罪者に対しては、公開拷問してもいいのではないかと、私は思っていた人間だった。

(そして人を見るのは、何もそちら側だけではない)

「しかしそういう璃兜さんも……ただやられっぱなしの人には、思えませんが?」

「あらわかっちゃう?」

「何となくですが」

 私の部隊はみな精鋭なのは間違いない。それでも人それぞれの性格というのは出るもので……璃兜少尉は絶対にやり返す類の人だと思えた。

 燐中尉もそうだと私は思っているのだが、璃兜少尉が過激で悪魔的なやり方をしそうなイメージに対して、璃兜少尉はにっこりと不気味な笑みを浮かべながら、からめ手で追い込んでいくように思えた。

「失礼なこと考えてない?」

「いいえ?」

 一人で内心思っていると、実に鋭くこちらの内心をついてくる。恐ろしいお方である。

「まぁお遊びはこれくらいにして……お願いね?」

「死にたいわけではありませんので、もちろん善処しますが……それは璃兜さんもですよ?」

 私がそういうと、一瞬きょとんとした璃兜少尉だったが、すぐににんまりといたずらっ子のように笑みを浮かべて、小さく笑った。

「それもそうだね。けれどあなたにそれを言ってくるのは意外だったな? 案外大物なのね?」

「からかわんでください」

 私自身何を言っているんだと思っているのだ。新兵がベテランに対して言うことではないだろう。

 だがこれは紛れもない私の本音だ。よほど嫌いな人物でない限り、だれも死んでほしくないと思うのは、そうおかしなことではないはずだ。そしてその相手が……憎からず思っている相手ならば、なおさらである。

「まぁ互いに気を付けるってことで。明日の作戦、頑張りましょうね」

「えぇ」

 そういいながら差し出された手を、強く握り返した。そして入ってきた時と同じように、部屋の外の様子を確認して、璃兜少尉は人に見られないように……というよりも隣室の真矢さんにばれないように……そそくさと私の部屋を後にした。

(別段気にするようなことでもないような?)

 一部屋に男女でいるというのは勘繰られるかもしれないが、長時間いたわけでもない。そもそも軍事基地内ということ、さらに私の部屋は間違いなく監視装置がある。言い訳どころか間違いのない証拠があるので、そこまで隠れる必要性は感じられないのだが……女性の感情の機微に関して、私がわかるはずもなかった。

 そんな出来事があったおかげだろう。その後私は平静を保ちつつ……眠ることができた。




「では最終確認を行う」

 時刻は午前6時30分。普段よりも早めに起床し、普段よりも少ない量で高カロリーな食事を終えて集まった作戦会議室。そこで千夏司令、ダヴィさん、部隊全員が集まって、最後のミーティングを行っていた。

「これより三十分後の0700に、三基地に設置されたオーラキャノンにおける巣への一斉攻撃を行う。更に道を作るような斉射を行い、それぞれの基地から突撃部隊を発進させる」

 以前にも使われた、簡易アニメーションを用いた映像を流して、説明が続けられる。

 部隊の全員が、すでに直ぐにでも出撃できる体勢を整え終えているため、その表情は真剣そのものだ。また、包囲網を敷くべつ部隊などはすでに出撃している。つまり、作戦自体はもう始まっているのだ。

「宗一暫定少尉のチャージが完了次第、すでに他の隊員が搭乗している突撃艇にて巣へと飛んでもらう。巣に侵入次第……巣のコアを破壊するか、巣の成長阻害をするほどの破壊を行ってもらう」

 世紀の大作戦とも言える今回の作戦だが、やることはけっこう単純だった。これは新兵の私としては、非常にありがたいことである。複雑な作戦を立てられても……まともに機能できるわけがない。

(中学時代バスケ部だったが……連携プレーと、臨機応変という言葉が本当に出来なかったからなぁ……) 

「そして悪い知らせだが……巣の調査はあれから進展していない。非常に申し訳ないが、人類未到の巣の内部の調査も、必然的に同時に行ってもらう形になる。宗一暫定少尉の生存も含めて、今作戦は非常に大きな意味を持つ。くれぐれも死んで楽になろうなんてことは考えるな」

 予想通り調査はうまくいかなかったようだ。しかしこれは誰もが予想していたようで誰も文句を言わなかった。

「この部隊の人間はあまり心配してないが……くれぐれも欲を見るなよ? この部隊は我が基地の精鋭部隊であり、貴重な人材も装備も多い。必ず全員無事に帰ってこい」

 それ故か……普段は覇気を漲らせている千夏司令の声にも、少しだけ弱気が混じっていた。しかしそれも無理からぬ事。敵の本拠地に何の情報もなしに行かねばならないのだ。不安に思わないはずがない。

 そしてその不安は司令だけではない。精鋭部隊と断言できるこのパラレル部隊も、例外ではない。出撃前と言うことで昂ぶっているのは間違いないし、歴戦の勇士達故にそこまで感じられないが、皆少々体を固くしているように思えた。

 気を抜けば確実に訪れる、敵の巣の内部での襲撃による死の恐怖。その中に……突撃しなければならないのだから。

「質問がなければ出撃準備だ。最後の準備を整えて……機体に乗り込め」

 その言葉と共に、全員が一斉に敬礼して部屋を出て行った。

 わずかな時間しかないが、それでもその突撃艇に乗り込むわずかな時間に機体の挙動確認を行うためだ。

 そんな中私は……ダヴィさんに先導されてオーラキャノンのエネルギー充填位置まで足を運んでいた。そこにエネルギーを充填し、オーラキャノンの砲塔より火が噴いた時……作戦が開始される。

(……いよいよか)

 山頂に建設された、オーラキャノンにいるため……ここからは関東平野が見渡せた。

 初めて生で見たその景色は……圧巻だった。何せ関東平野に建物が一切ないのだ。木々も生い茂っており、緑があるため荒野ではないが……森林になるほど木々や植物があるわけではない。故に……本当に平野なのだ。

 そのあまりにも自分の中にある景色との違いに、思わず笑いがでそうになってしまった。

 ただ、一つだけ、私が知っている関東平野に似ているところがあったのだ。それは姿形こそ違うが……空まで伸びるのかというほど高くそびえ立つ、ツリーだった。

(まぁ見た目生物的な感じで気持ち悪いのだが……)

 極東一号。FMEによって築かれた……天をも貫くかのような高い何か。友人が都内に住んでいたこともあって、そいつの家に行く際、また東京で飲む際にスカイツリーはたびたび目にしていたが、それよりも高いように思えた。

 ツリーといっても敵の巣だ。見目良いはずもない。ただ……高くそびえ立つ事だけが似ているのだが、少しだけ似ている気がした。

(まぁ私は、高いところ大嫌いなんですけどね)

 友人とスカイツリーに行った時も、けっこうへっぴり腰だった。今もそれなりに高いところにいて、その不安定というか今にも落ちそうなところに立っているというのに、少し平気な事に少し驚いていた。

(出撃前で少し精神がおかしくなっているな)

 恐怖と昂揚。その相反する感情を生み出しているのは、ひとえに死にたくないという生存本能に他ならない。死ぬことに対する恐れ。死なないために気分を揚げて肉体を動かすため。その本能が……自らの感情を生み出している。

(平行世界の老人故に、出来ることがあればとは思っていたが……ここまで大役を任されるとは……)

「それではソウイチ君。充填を開始してくれたまえ」



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