詳細
そこから具体的な説明をされた。突撃部隊とは別に、防衛線を押し上げるように関東平野外延部に沿って、部隊を展開。前進しつつ敵の数を減らす作戦らしい。
地中にいた個体も想定し、防衛線を押し上げるラインは2ライン引くとのこと。またいくら大規模で総力戦といっても、基地をがら空きにするわけにはいかないので、最低限の部隊を残して防衛にあてる。
さすがにそれだけの規模の作戦を、三基地だけで行うには部隊の数が足りないので、国際軍事光晶軍のWOAが応援に来てくれるらしい。
今回はまさに最大需要といえる。異星起源生命との戦争ゆえに、協力するのはある種当然だが、それでもこの関東平野は大和国だ。よほど余裕がない貧困国でもない限り、その国が奪還すべき事柄だ。ゆえに突撃部隊には編成されず、後詰の防衛線部隊に配置されるようだ。
(そして協力してもらったのだから、他の国がやばいときなんかには協力を求められると。完全な互助機関というかんじか)
「また本人の強い要望もあり、光夜少佐が国連軍より派遣されてくる」
その言葉に、今日で最も大きなどよめきが会議室にあふれた。それは私の部隊も例外ではなかった。
「おっと、あいつも出てくるのか。ありがたいが……固くなるなぁ」
「お前は少し緩すぎだからだろ? それに別に嫌いじゃいんだろ?」
「まぁな」
ドゥ大尉と煉道中尉のやり取りで、どんな人物かある程度予想がついた。千夏司令がわざわざ話題に出したこと、どよめきが戸惑いよりも歓喜であったこと、そしてドゥ大尉の態度と言葉。これらから考えられるに、優秀で士気向上もできる人材なのだが、お堅いのだろう。
(委員長気質ってやつかな?)
オタク作品で一人くらいはいる、まじめなタイプの人物を想像した。
ちなみに、その光夜少佐とは数日後に顔を合わせることになるのだが、それが大きく間違ってないことをすぐに知ることになる。
「歴史的に見てもこの作戦はかつてないほど重要な作戦となる。これを皮切りにして、人類の存亡をかけたこの戦争が……大きく好転することは大いにあり得る」
できたばかりの小規模な巣であれば、何とか過剰ともいえる戦力でつぶすことができているが、ある程度成長してしまった巣を破壊できた例は今のところない。特に今回の巣は、世界的に見てもかなり大きいサイズの巣となっている。当然これを墜とした前例は、今のところ皆無だった。
「必ずや成し遂げて……大和を、この世界の平和を取り戻す! 各員、死力を尽くせ!」
「「「了解!」」」
この言葉に誰もが立ち上がり、敬礼とともにそう吠えた。
そこからさらに細かい内容が指示された。突入部隊の指名防衛線部隊の配置と役割、作戦当日の当直の編成。作戦開始までの任務内容。
そして予想通り、私が属する部隊は突入部隊に指名された。指名された瞬間……部隊のだれもが戦意に満ち溢れており、だれも臆してないのがよく分かった。
中佐からこっそり教えてもらったことではあるが、真矢さんと璃兜少尉は私が意識を失っていた際の見舞いの時に、この作戦についてかなり不安だったらしい。本人には秘密にするようにと、厳命されたうえで教えてもらったことだったのだが、今の様子を見れば多少は安心できた。
(周りの高揚に中てられて……ってことも十分に考えられるので、要注意かな?)
新兵未満の私が心配するのはおかしな話なのかもしれないが、それでも私個人としては、孫くらいといっても差し支えない年代の女性なのだ。自分がミスをしない程度に気遣うのは私としては当然と言えた。
しかしその思いむなしく、私はさっさと部隊から離されてえらい目にあうことになる。
なお突撃部隊の配置については部隊長にのみ伝達され、明確に指名して特定できるようにはしないらしい。それが少々疑問に思えたのだが、それについては後程わかることとなった。
「では各員、部隊長の指示のもと、次の作戦会議室へ向かえ」
その言葉とともに、全部隊が一度自分の目の前に表示されたディスプレイを確認し、行動を開始した。私の目の前に現れたディスプレイには「司令室」と表示されていた。その文字が表示された部隊は、間違いなく私の部隊だけだろう。
司令室に呼び出したのは、間違いなくパワードスーツを隠すのが理由だろう。また突撃部隊の配置を公表しなかったことも、ほかに何か理由がありそうだが、パワードスーツも要因の一つだと何となく察せられた。
(いつまで秘密にしておくつもりなんだ?)
確かに異質の兵器……というよりも兵器といっていいのかも疑わしい存在ではある。人の手で作られたわけでもない以上、直接的に表現すれば、「謎の力そのもの」といっても過言ではないくらいに、不思議で不気味な存在ともいえるのがパワードスーツだ。
確かに秘密にしたい……というか公表するのをためらうのはわかる。それは私の身の安全も考えてのことなのは間違いない。それについてはありがたいのだが、それでもいつまでも、隠しとおせるものでもないだろう。
(そこまでくると政治的駆け引きも大いにありそうだから、そこらは本当にお手上げなのだが……)
私という存在を客観視すれば、自称平行世界の余命間近で初老の男と言い張る怪しい人物だ。いぶかしみながらも人道的に受け入れてくれた千夏司令とダヴィ中佐の二人には、かなりの心労と苦労を掛けているのは疑いようもない。
それについては感謝してもしきれないのだが……いくら最前線であり、世界的にもかなり重要な施設の司令と中佐とはいえ、そこまでの権力を有しているとは思えない。もしくは二人のバックには、それすらもはねのけるだけの、強力な協力者がいるのかもしれない。
そんな実にくだらないことを考えつつ、ほかの隊員について行き司令室へとたどり着いた。そして中に入れば予想通り、千夏司令とダヴィ中佐がすでにいて軽い打ち合わせを行っていた。
「む、もう来たか。まぁ大会議室からここまでそう遠いわけでもないし、当然か」
「だねぇ。まぁとりあえず席は用意したから、そっちに腰かけてくれたまえ」
中佐にそういわれて、私たちは素直に椅子に腰かけた。それからも少しに間二人で話し合いをしていたのだが、やがてそれも終えて二人がこちらに向き直った。
「ではこれより、突撃部隊であり、本命である貴様らパラレル部隊の作戦会議を開始する」
千夏司令の言葉と同時にディスプレイが投影される。映し出されていたのは、オーラキャノンと、砲身の根元とでもいうべき箇所の拡大図だった。そしてその拡大図に映し出されていたのは、明らかに最近増設されたとわかる、人が一人立つための金属の台と、何かを入れるための小さな穴が穿たれていた。
「この部隊……というよりも宗一暫定少尉には、この画面に映された台でオーラキャノンのエネルギー充填の補助を行ってもらう。それが終了次第、ほかの隊員が先に搭乗している突撃艇に乗り込んで、巣へと突撃してもらう」
そういって簡易絵図が動く、簡単なアニメーションが流れる。その内容を見た感じとしては三部隊ある突撃部隊のうち、私の部隊は最後の便で巣へと突撃することになるようだ。
「体力の消耗が少々懸念されるが……ほかの基地からの圧力でな。どうしても貴様にエネルギー充填をしてもらわなければならない」
(ほかの基地からの圧力?)
いわれたことの意味が分からず、内心で首をかしげたのだが、今はブリーフィング。質問をする権限を与えられていない。黙って聞いているしかなかった。と思っていたら私のためだろうか? ダヴィ中佐が内容を説明してくれた。
「巣には高純度のマテリアルがため込まれていると考えられている。それの争奪戦があるんだよ。ソウイチ君の詳細は伏せているけれども、存在自体は軍上層部には報告していてね。それをほかの基地の司令なんかもすでに把握しているのさ。だから公平を期して、うちの基地からの突撃部隊は、一部隊遅らせるという……正直に言わせてもらえればバカみたいな話がまかり通ってしまうんだよ」
心底あきれているようで、説明するダヴィ中佐の表情にはありありと、嫌悪感が透けて見えていた。正式なブリーフィングの最中にそんな赤裸々なことを言っていいのかと少々驚いたのだが、千夏司令に目を向けても怒っている様子は見られない……というか千夏司令も同じ意見のようで、実に苦々しい表情をしている。
(実際問題私のような特殊兵装が見つかるかはさておき、新たなオーラマテリアルの取得は即戦力強化に繋がるからな。分からんでもないが……それにしてもお粗末だな)
実際には、一部隊の突撃時間を少し遅らせる程度なので、大局的にそこまで大きな影響はないだろうが……仮にそれが原因で兵士が死んだら、前線の人間としてはたまったものではないだろう。そう思うのだが、戦時がすでに数百年続いている世界だ。あまり私の物差しで考えない方が無難かも知れない。
「突撃した後については、部隊の判断に任せることになるが……最優先目標は巣の内部にあるコアの破壊、もしくは成長を阻害するだけの損害を与えること。そして最優先目標と同等の重要度で、宗一暫定少尉の無事の帰還を厳命する。これはほかの兵装すべてを破棄してでも、成し遂げてもらう」
そして予想していたことだが、私の消失はやはり相も変わらず恐れているようだ。色んな意味で特殊なので仕方のないことなのかも知れないが。
「質問しても?」
「許可する」
「シャオロン討伐からそれなりの時間が経過しているのだが……巣の調査は行わなかったのか?」
ドゥ大尉から、実に当たり前とも言える質問がなされた。この部隊は全員がマテリアル兵装持ちのために、新たなオーラマテリアルの争奪戦は、あまり興味がないのかも知れない。
(そういえばその辺の説明がなかったな)
その質問で、先ほどの作戦会議でも調査関係について言及されなかったことを思い出して、私も不思議に思った。
「当然行った。しかし……見事に壊滅した」
「壊滅だって?」
(? 壊滅なのに疑問が?)
千夏司令の返答に、ドゥ大尉だけでなく他の隊員も驚いている様子だった。私としては敵の本拠地に侵入しようとして壊滅……つまり全滅というのは、そこまで不思議な事ではなかったのだが。
「ソウイチ君への説明も兼ねて説明するけど、巣への侵入は当然今までも行ってきてたけど、ことごとく失敗している。そして今回の失敗の仕方が、今までと全く異なって壊滅なんだ」
千夏司令の言葉の先を引き継いでくれたダヴィさんが、いくつかの画面を出現させる。その画面に映し出されたのは……巣へと突入する前後の写真とでも言うべき写真が、それぞれ複数セットで写されていた。
「巣へ侵入することは今までも出来ていた。けれど最深部どころか中層までもいけない場合がほとんどだ」
流石に全く調査が行えていなかったわけではなかったようだ。それでも最高で中層部辺りまで。そしてその中層部という考えも、人類側からの観点でしかない。恐らく機器を用いた振動検知などで中層階と判断したのかも知れないが、もしかしたらもっと地下深く巣がある可能性もあり得る。
「地中空間に巣を作っているのは分かっているのだけれど、それだけだね。そして何故それがわかっているのかというと、表示された画像のように、部隊が生還したからだ」
その説明に再度写真を見れば……年月日に更に時間まで書かれており、それを見ればわずか数時間しか調査が行えていないのが分かった。
(正確な縮尺は分からないが……どう考えても東京ドームよりも広大で、東京タワー並の高さがある巣の調査。この程度の時間で終わるわけがないか)
一定層までの調査は行えていたが、全容はつかめていない。これがこの世界におけるFMEの巣に対する状況なのだろう。
「そしてこれが先日シャオロンが討伐されて以来……調査した結果のデータだね」
その言葉と共に新たに映し出されたのは、明らかに調査機械だと思われる物が投入されたと思われる画像だったが……帰投後の写真が一枚もなかった。
「のべ5回の調査機械による侵入を行った。しかも全ての機械を基地の側までオーラスーツで運ぶという、万全を期した調査だったが、わずか30分も持たずに機械が破壊された」
調査機械をわざわざ運搬したというのに、調査を行うことすらも出来なかったと言わんばかりの状況だ。しかし機械を見るに、露骨な攻撃兵器を搭載していない。オーラスーツで調査を行うのと比較するのは、少々おかしい気がした。
(流石にオーラスーツでの突入はしていないのか?)
オーラスーツで突入し、調査を行ったことは過去に例があるようだが、流石に捨て身というか、命を賭した突入はしていないのかもしれない。さらにいえば今回は極東作戦が始まるまで日にちがない。わざわざ被弾を極力抑えるような指示を出すぐらいだから、機械のみの調査で終わらせようとしたのかも知れない。
そう思っていたのだが……私の考えを否定する絶望的な言葉を、ダヴィ中佐が発した。
「そして一度……オーラスーツ部隊を投入した。残念なことに、結果は同様だった」




