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想い

 ズバリ自らの心情を言い当てられてしまって……私は目を見開いてしまった。そんな私の様子に璃兜は苦笑しながら、宗一さんが横たわっている診療台に浅く腰かけた。

「やっぱりね。沈んでるのは見ただけで分かったけど、沈み方がなんか暗いっていうか、黒かったからそんな気はしたけど」

「暗いはともかく、黒いってどういう意味よ?」

「さぁ? 言葉通りの意味よ」

 からからと笑いながら、診療台に腰けたことで少し高い位置にいることで、私の頭をなでようとしてきたので、私は思わずその手を払ってしまった。少々いらだってしまっていた。そんな私を見て、璃兜はさらににやにやと笑みを浮かべていた。

「そんなに怒らないでよ。当たり前のことでしょ?」

「? 当たり前って?」

「宗一さんが目覚めないことに、ほっとしたことについてよ」

 先ほどよりもひどいい方をした璃兜に、私は再度驚かされた。その驚きの隙を優しく包むようにして、璃兜が払った私の手を握ってくれた。

「真矢もわかってると思うけど、世界的に見ても、宗一さんがしたことは偉業だわ。そしてその偉業に伴って、FMEとの戦争との戦史上で初めて、巣へと突入が可能になりえた状況になったわ」

「えぇ」

 まごう事なき事実を言ってくれた。それに対して反論など出来るわけがない。私は素直に頷いた。

「そんな状況で考えられるのは二つ。宗一さんが調査に向かうか、もしくは偉業を成し遂げた貴重な存在を失うことを恐れて、別の部隊が調査に向かうか。どちらにしろ、調査に着手すらしない……なんてことはあり得ないと断言できるわ」

 これについても同意するしかなかった。世界中にFMEの巣は存在する。そのすべてにおいて、遅滞戦略しかできていないのが、今の人類の現状だった。すべての巣にシャオロンのような超大型の個体が、存在しているわけではない。けれどどちらにしろ巣の調査を行えた例はない。

「けれど真矢も知ってると思うけど、いまだかつて巣の調査を行って、その調査結果を持ち帰った事例はひつつもない」

 もちろん、人類としても調査を怠ったわけではない。何度か捨て身覚悟で部隊を派遣したのだけど、そのすべての部隊がわずかな調査記録を送信することもできず、すべてが飲み込まれてしまったのだ。ゆえに……どの国も巣に対して手をこまねいていることしかできなかった。

「巣に何があるかはわからない。けれど、FMEの本拠地である以上、激戦になることは想像に難くないわ。そんなところに調査に行くことは、自殺以外の何物でもないわね。むしろ命令されていくんだから、殺害といってもいいレベルかしら?」

 少し重くなってしまった雰囲気を和らげようとしたのか、璃兜がドゥ大尉のように大げさに肩をすくませて見せた。その真似があまりにもよくできていたので、私は思わず少し笑ってしまった。

「まぁともかく、一度も成功例がないことを考えれば、間違いなく宗一さんに……命令が下るはずだわ。調査して来いってね。そして単身で行かせるわけにはいかないから、私たちも同行せざるを得ない」

 璃兜の意見に、私は同意するしかなかった。宗一さんが調査を命ぜられることがほぼ確実なこと。そして、その調査に私たちの部隊が、同行を言い渡されることも確実といってよかった。

 現在、敵の習性も相まって、前線を後退するだけで済んでいる戦争。けれどいつ、FMEが攻勢に転じるかはわからない。だから逆に人類が攻勢に転じることができる今……挑まないわけにはいかなかった。

「って……かっこよくいうだけならいえるわよね。でも……ほら」

 先ほどの場を和ませようとした笑顔から一転して……力なく笑いながら璃兜が私の手を握っている、自らの手の力を抜いた。すると……璃兜の手がかすかに震えだしたことに、私は気が付いた。

「私も気を抜くとこうなっちゃうの。だってしょうがないじゃない。怖いんだもの」

「……だよね」

 力なく笑ってくる璃兜に……それが本当に心から本音を言っていることが分かって、私は同じように力なく笑った。

「だからね。私も同じ気持ち。宗一さんには申し訳ないけど……ほっとしてしまった自分がいるの。ダメな考えだってわかってるけど、でもそれでも思ってしまったのは事実」

「だけど……」

「そうよ、真矢。怖いし、意識不明になってしまってよかったと、思ってしまった。けれども、『だけど』……なのよ」

 震えていた手に再度力を入れて……私の手ごと自らの手を力強く握りしめた。

「怖いし、ほっとしたのもあった。だけど……これ以上巣を野放しにしては、この基地が敵につぶされてしまう。この基地だけじゃなく……ほかの二つの基地も」

 そう。このままでは三つの基地すべてが、FMEに攻め込まれて敵の勢力圏下になってしまう。それを防ぐためにも、巣の成長阻害の破壊は必須であり、そして根本的解決をするためにも、巣の調査は必須事項だった。

「怖いし、宗一さんが意識を失って安どしてしまった自分がいる。けど、それ以上に基地を守りたい、みんなを助けたい。そう思っているからこそ、『だけど』って言ったはずよ」

「うん」

「だったら大丈夫! それでこそ私の親友!」

 今度は正面から抱き着いてきて、顔が璃兜の胸に埋もれてしまった。少し息苦しかったけど、璃兜の胸の鼓動が少し早かったのと、何より体も少し震えているようだったから、無理をしているのがそれとなく分かった。

 守りたい気持ちも助けたいという気持ちも嘘じゃない。そして残念だけど、意識を失って安堵したことも嘘じゃない。それでもやはり怖いものは怖いのだ。それを教えてくれている気がした。

 だから私も、璃兜が少しでも落ち着けるように……抱き返していた。

「だから真矢も気にしなくていいのよ」

「それ、璃兜も同じこと言えるでしょ? 自ら暴露してきて」

「本当にね」

 互いにおかしくなって笑ってしまった。宗一さんが倒れてからようやく、少し心が軽くなった気がした。

「仲いいねぇ。二人とも」

 その一言で、ようやく落ち着いた心が再度、とんでもなく荒れ狂ってしまった。それは私だけではなく璃兜も同様で、私たち二人は互いに驚きのあまりに飛びあがってしまって、こけそうになってしまった。ここがダヴィ中佐の研究室なのを忘れていた。

「二人の世界に入るのは構わないのだけどね? ここは一応私の研究室で、意識不明とはいえソウイチ君のそばで、イチャコラするのはちょっとよろしくないと思うけどなぁ? まぁ私としては、法律は当然として、倫理、道徳なんかの守らなきゃいけないことを守ってれば、男同士、女同士であっても何ら問題ないと思うけどね?」

「「いやいやいやいや」」

 思わずハモってしまった私たちだったが、そんな様子もおかしいのか、今度は思わずといってように大声で笑われてしまった。

「本当に仲いいね? 本当にそういう関係?」

「私は伴侶になるなら男性がいいです」

「もちろん私もそうよ。でもそうね? 確かに私が男だったら真矢にアタックしたわね。真矢なら落とせる気しかしないわ」

 互いにノーマルだというのに、何故か知らないが悪ノリする璃兜に内心で頭を抱えてしまう私だった。

「璃兜、話がややこしくなるから、たらればはやめて」

「そうしたらそのおっきなおっぱいしばき放題だもんね? 中佐、性転換で機能する下って、取り付けられましたっけ?」

「冗談でもさすがに度が過ぎるわよ!?」

「ふむふむ。確か420年くらいに実験をもとに、検証していた論文があったはず」

「中佐!?」

 病人……とは違うかもしれないけど、昏睡した人の側であまりにも不謹慎なばかばかしい話で騒いでしまった。といっても、研究室故に防音も問題がないので、私たち自身が落ち着かなければ周囲からも注意されることもなく……しばらく三人で実に下らないことで騒いでしまった。







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