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異形

 まさに拮抗とでもいうべき状況の中で……私に何かが流れ込んでくるのを感じた。暖かさと冷たさを、同時に内包したというべき実に奇妙な感覚が私を襲った。その襲われたのと同じくして……敵に変化が訪れた。

「■■■!?」

 聞こえない悲鳴を上げて……敵の頭部全体に罅が入り、そこから光が漏れ出たと思った次の瞬間に、その光があふれてはじけ飛んだ。突貫していた勢いそのままの状態か、弾け飛ばされたことで凄まじい勢いが私を襲い……敵の後方へと吹き飛ばされてた。

「おぉっ!?」

 急に視界と体勢が大きく変動したので、思わず間抜けな声をあげてしまう。先ほどのオーラビームを食らった時と違って、敵の外殻に吹き飛ばされたので、結構な勢いがあった。

「少尉!?」

 方角的に敵の後方……九時方向へと吹き飛ばされている状況で、真矢さんの悲鳴が私の耳朶を打ったことで、私はようやく他の隊員がシャオロンに対して、四方向それなりの距離を開けて分散しているのが確認できた。一瞬疑問に思ったが、地中からの敵の奇襲を警戒してのことだとわかり、納得した。

 そんな自問自答をしていると、すぐに地面が近づいてきて……私は何とか体勢を立て直して、勢いを殺すためにブースターを再度点火させる。しかしすぐに地面に衝突し……激しい爆音と振動をあたりに響かせた。

「少尉、無事ですか!?」

 P3の悲鳴が私の耳を打っているのだが、現在の私は高速で回転している最中でそれどころではなかった。100m近い高さから爆発の余波で吹き飛ばされた影響を、完全に消すことができなかったので、その勢いを殺すために何とか受け身を取りつつ落下して、その勢いのまま勢いを殺しつつ転がり続けているのである。

 幸いなことに、更地とまでは言わないまでも大きな障害物がない土地だったので、長々転がることができていた。

「大丈夫……です……」

 正直なところ、数十mはすごい勢いで転げていたのだ。気分が悪くなってはいないが、頭がぐるぐるだったので大丈夫とは言い難い状況だった。それでも心配してくれているP3のためにも、何とかそう返事を返していた。

 そんな頭がぐるぐる状態の私のフォローをするために、P3、とP4がこちらに近づいていることが分かった。

「!? シャオロンは!?」

 二人が駆け寄って体を支えられたことでようやく状況を思い出して、私はまだほぼ回復した頭を敵へと向けた。


 その私の視線の先にいたのは……最初の敵と同じように、頭部が破裂したことで頭なしの体になった巨大生物の姿だった。


「いやぁ、規格外すぎだわ、お前は」

「同意だ。どうしたらこんなことが可能になるんだか?」

「さすがにこれは私も……あきれる以外の感情が出てこないわ」

「しっけ――」

 そばにいる二人以外から好き勝手に言われて思わず言葉を返そうとしたが……私はその言葉を自らの体が淡く発行するという、超常現象によって止められた。

「これは?」

「少尉!? 大丈夫ですか!?」

「発光するって……もう、本当にあなたって人は、飽きさせないわね」

 先日の光の玉同様、私にだけ見える現象かと思いきや……そばの二人も反応していることから私にだけ見える現象ではなさそうだった。それに驚いていたら、今度は文字通り驚天動地の現象が発生した。


「■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」


 頭が吹き飛んだことで、常識的に考えれば咆哮など上がるはずもない敵から、大地を揺るがす怒号を響かせた。出されているはずのない声であるため、耳を抑える必要などはないはずなのだが……そのあまりの巨大すぎる怒号は、私たちの心胆を響かせる何かがあった。

 そしてその怒号が最後の力だったとでもいうように……敵が徐々に形を崩していく。

「やった……のか?」

 部隊六人の全員が見守る中……巨大すぎる敵は形を失って、流体金属のように崩れ落ちていく。そしてその体の崩れが、胸部に差し掛かった時に……私は再び光の玉を目撃した。

「P3、P4、光の玉が見えますが、そちらは?」

「私も見えます」

「……驚いた、今度は私も見えるわ」

 そばにいる二人に確認すれば、先日の 敵 の時に見えていた私とP3以外に、P4も今回は見えるようになっていた。それを認識したとき……私は思わずその光の玉へと照準を向けていた。

「少尉! 待って!」

 咄嗟の行動なのだろう。P3が私の右腕の向きを強引に返させた。照準がずれたことで発射することなく、私は自らの行動に戸惑っていた。

(なぜ体が勝手に?)

「こちらからは見えてないが、少尉だけじゃなくほかの二人も見えているのなら、幻覚ではないのだろう。とりあえず何が起こるかわからないので、少尉、待機だ」

「了解」

 PLの声色から明らかな命令だと判断し、私は右腕を下した。そしてその私の行動が引き金になったかのように……崩れ落ちていく流体の肉体から完全に解き放たれた光の玉が、私たちのほうへと向かってきて、そのままはるか後方へと飛んで行った。三人で思わずそのあとを視線で追えば、光の玉がどこに向かったのか三人ともが理解した。

「本拠地に」

「向かってますね」

「……だねぇ」

 あまり嫌悪感は抱かなかったが……何も感じなかったといえば嘘になる。そんな光の玉が本拠地である、極東一号へと向かって消えていった。

「詳細な報告は後で聞こう。とりあえず各員、現況報告」

 PLからのその言葉に、現在の状況を思い出して各員がそれぞれ状況報告を行った。また自身の機体が収集した周囲の状況も報告し、問題がないと結論付けられた。

「よし、とりあえず集合しよう。敵がいた位置まで各員慎重にもどってこい」

 PLの指示に従い、各員が集合する。

「データリンクを開始して、この場で三人のデータを確認する」

 PLのその言葉と同時にこちらの有無を言わさずデータリンクを開始して、三人が私たち三人の録画データを確認する。前回は何も見えずに少々微妙な感じになったのだが、今回は違った。

「あれま? 俺たちの目には見えないから今回も不思議案件かと思えば……録画されてるな。しかも少尉、なんで発光してるんだ?」

「俺も見えてる……というか無事に録画できているのなら、見えるのも当たり前か」

「今回の問題は、私たち三人は見えてないのに、少尉三人の目と機体で見えたことの違いが問題といえば問題ね」

 P2の言葉に……全員がそれぞれ微妙な表情になっていることだろう。しかし無理からぬことかもしれない。

 前回同様、私とP3だけで済めばまだ、前回と同じ怪奇現象ということで一応片付けられた。しかし、今回は一人増えた上に、なぜかそれぞれの機体のデータにきちんと録画されたのだから。

 大きな問題ではなさそうだが、解明できていない以上、楽観視はできないだろう。さらに今回三人が見えた謎の光の玉は、敵の本拠地へと向かっていったのだ。どう考えてもまともなことにならないと考えるのが普通であろう。

 挙句の果てには私の発光現象。そんな考えるべき案件がいくつもできたことで、素直に勝鬨を上げることも、ままならない状況といえた。

「状況を報告しろ。部隊全員でなぜ固まっている?」

 そうして微妙な沈黙になったそれを、千夏司令が通信によって破壊してくれた。それで微妙な雰囲気が霧散し、現在が重要な作戦が遂行中であることを、皆が思い出した。

「失礼した千夏司令。あまりにも驚きなことと、ちょっと微妙なことが重なりまして、少々皆思考が停止しました」

「冗談を言える状況であるのならば大丈夫だな。こちらでも衛星で確認できているのだが、改めて確認する。間違いないということだな?」

 衛星で情報を仕入れているのであれば、間違いないのはわかっているはずだ。しかしそれでも起こった出来事があまりにも想像どころか妄想すらすることも難しかったことであった。

 しかし現実としてデータではその事象を決定づけている。それを確定させる……というよりも、接したことのある身近な存在からの言葉が欲しいのだろう。そんな感情が込められている気がした。

「間違いありません。敵は少尉によって消滅させることができました」

「!? よし!」

 それを裏付けるかのように、千夏司令が思わずそんな歓喜の声を漏らしていた。後方で中佐が騒いでいる様子も感じられるので、無理もないことといえた。こちらとしても喜ばしいことは間違いないのだが……いくつもの謎の現象のせいで素直に喜べてはいなかった。

「取り乱したな。すまない」

「いいえ、こちらとしてもその気持ちはよくわかるのですが……ちょっとまた面倒ごとが起こっておりまして」

「……なるほど、こちらでも確認させてもらったよ」

 こちらが何を言いたいのか、データで確認したのだろう。千夏司令の代わりにダヴィ中佐がそう言葉を返してきた。その言葉には……好奇心による興味深さと不気味さによる恐怖がない交ぜになったような声をしていた。マッドサイエンティストであるダヴィ中佐から考えれば、珍しいことだと思えた。

「これに関してはとりあえずいったん放置だ。まずは全員無事に帰ってこい。この件も大事だが、これから忙しくなる」

「了解しました」

 中佐からまとめられたデータでも見せられたのか、指令も実に苦々しい声と表情をしていたが、それでも偉業を成し遂げたことと、それに伴った今後の重要な作戦が控えていることもあって、気を引き締めたようだ。その指令の雰囲気に触発されて、PLも気持ちを切り替えたようだ。

「千夏司令の言うとおりだな。とりあえず帰還する。輸送機を予定通りのポイントに呼び出したので、そこに向かうぞ」

 そのドゥ大尉の言葉を聞いたその瞬間に……私の頭の中に何かが流れ込んできた。


「    」


(何?)

 それが何だったか分からず一瞬戸惑ったその時……私の意識は途絶えた。




「少尉?」

 移動を開始すると指示が出たその時から、何故か宗一さんが棒立ちになって固まってしまった。それを不思議に思って声を掛けてみても……宗一さんは反応することなく棒立ちしたままだった。

「どうした、P1?」

 他の人もそれに気付いて、隊長であるPLがそう声を掛けた。それに対しても一切反応がない。流石におかしいと気付いて皆が宗一さんに注目しだす。私はその前に気付いて宗一さんに近寄って、その肩に手を掛けた。

 すると宗一さんが倒れそうに体勢をそのまま崩したので、私は慌てて宗一さんを抱き留めた。

「宗一さん!?」

「P3! バイタルは!?」

「も、問題ないはずです」

 接触したことで分かる宗一さんの体調には、何ら異変が見られない。意識を失ってすらいないはずだというのに、今の宗一さんはどう見ても意識がない。

「意識を失ってないのに反応がないと? さっきの光が――」

「!? 振動探知! 地中より此方に接近する反応在り!」

 ドゥ大尉が考え始めた瞬間に、私のオーラスーツから悲鳴のような報告がされて、それを私は叫んだ。それに呼応するように……他の隊員からも同様の報告が発せられた。

「俺もだ」

「俺もだPL」

「私も。これけっこう数多いんじゃない?」

「他の部隊が陽動をしてくれているはずでは?」

 まだ即時接敵ではないために、皆が所見を口にする余裕はあった。しかし……それでも状況が変わるわけもない。すぐさまPLが判断して指示を出した。

「P3、P1を抱きかかえて移動しろ。他は二人のフォローだ。世紀の偉業を成し遂げたP1を必ず基地に連れて返るぞ! もちろん部隊全員でだ!」

「「「了解!」」」

 そう怒号を発して……宗一さんを抱きかかえた私を中心として四方に皆が配置されて……輸送機へと急いで移動した。


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