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吶喊

「おい、宗一少尉?」

「……失礼しました。下らない考え事をしておりました」

 少々苛立ち気味にドゥ大尉に声を掛けられて……私は思考を停止した。しかしそれが良かったのか……周りの隊員が皆呆れるように大きく溜息を吐いていた。

「暢気だなぁ、お前は」

「悪いことではないが……凄いな」

「いや、作戦行動中に考え事は悪いことでしょ」

 上官三人組からは少々小言が飛んでくる。

「でも……あのオーラを受けて意識を失ったとはいえ平然としているのは、流石と言えると思いますよ?」

「宗一少尉、本当に大丈夫ですか?」

 燐中尉の少々苛立ち気味な言葉に、若干苦笑しつつも璃兜少尉がフォローを入れてくれて、真矢さんが心配そうな声を上げる。そんな皆の様子を見て……やはり安全策をとった方が良いと、私は考えた。

 この部隊最強のマテリアル兵装である、ドゥ大尉のマテリアルスナイパーライフルの最大出力が通用しなかったのだ。それはつまり、少なくともオーラスーツが携行可能な兵器全てが、通用しないのと同義である。そして先のシャオロンの視線を考えれば……考えるまでもない。


 シャオロンは私以外に絶対に注意を割かない。


 そして全く通用しない武器しか持たず、毒などの搦め手もない以上……申し訳ないが、他の隊員では絶対にシャオロンに傷一つつけられないし、毒などで殺すことも絶対にできない。そんな相手に敵が意識を割く道理はない。

(ならばやはり……私一人の問題か)

 私の木刀の兜割では痛痒を感じた。ならば、殺すことも不可能ではないかも知れない。そして先に聞こえた声の意味。色々検討しても……どう考えても私一人で行くのがもっとも効率的というか、他の事に気を遣わなくて済む。

(皆さんには申し訳ないが……周囲の警戒と迎撃をお願いするのが妥当か……)

 その上で……この後私がどうシャオロンを攻撃するべきかを、思考する。こちらを敵として認識した以上、先ほどの最高条件とでも言うべき兜割は出来ない。

 しかしあれほどの巨体とオーラバリアを突破するには、先日のリーレスのような曲芸攻撃でどうにか出来るとは思えない。

(更に言えば、回避がうまくできるか?)

 地上から少なく見積もっても70mの高度から放たれる……極太のオーラエネルギー。しかも遮蔽物は廃墟と化したアパートや家屋が少々。樹木もあるが、元は住宅街と言うことでそこまで大きな樹木はない。

(これが東京のビル群の都市戦なら……多少はやりようが合っただろうが)

 遮蔽物もなく、曲芸攻撃が有効でないと考えられる以上、万全の状態で攻撃できる状況をいかにして作るか? これが問題となる。

 何せ相手の弱点は高所にあるのだ。簡単に見積もっても50m以上の高さにあるのが胸部で、それよりもさらに高い位置に頭部がある。生物学的な生物ではないので、大量出血による失血死などの絡め手も使えない。となれば必然的に弱点と思しき胸部と頭部を破壊するしかないが、胸部は明確な弱点がどこにあるのかわからない。必然的かつ消去法的にも、頭部を破壊するのが最も間違いがない。

 しかしそれには70mはあるだろう、高度をどうにかする問題が出てくる。曲芸攻撃で殺せるほど、相手のバリアは決して柔くはないだろう。

(後ろ足を壊して体勢を崩すしかないか?)

 大地を踏みしめた力を、うまく体と腕と刀に乗せることができなければ、大きなものは斬れはしない。相手がこちらを認識してしまったために、先ほどのように頭部の上に乗ることができない以上、相手の体勢を崩して地面まで頭を落とすしかない。それを可能とするには、立てないようにするしかないだろう。

(一人で突貫し、攻撃を掻い潜って接近し、足元を攻撃して体勢を崩させて兜割……これしかないか)

 方針は決まった。あとはこの無謀以外の何物でもない作戦を、どうやって行動できるように部隊を説得するかが問題となる。




 そんな私の気持ちを読んだかのように……シャオロンがこちらへと視線を投じて、私を視たことが、私にはわかった。




その瞬間に私は即応した。今度は真上に飛ぶのではなく……真横に飛んで周囲の隊員達から離れた。私の突然の行動に皆が驚くのがわかったが、私としてはそれどころではない。というよりも、皆が直ぐに状況を把握できることを、シャオロンがしていた。


!!!!


 パワードスーツによって強化された跳躍で数十メートルは横に跳び、着地した瞬間に更に同じ方向に全力で跳んだ。私が着地した場所よりもさらに今跳んだ私に近い場所に……シャオロンから攻撃が放たれた。

「ドゥ大尉! あいつは私しか視てないようです! 申し訳ありませんが、何とか頑張ってみますので独断行動をさせていただきます!」

 一方的になってしまったが、こうするよりほかなかった。何せ本当に私にしか攻撃してこないのだから。シャオロンが痛がったというのも歴史的というくらいだし、そもそもオーラキャノンが通用しなかった時点で分かっていた。

 冗談のような真面目な話。私の木刀がシャオロンを殺しうることが出来る唯一の武器なのだ。ならば私しか認識しないのは道理というものであろう。しかも面倒くさいことになっているのが……今放たれた攻撃は球だった。極太ビームではなかった。

(ゲロビじゃないのは助かるが……)

 自由戦士ダムガンシリーズの一つ、「自由戦士ダムガン花の種」の対戦アクションゲームで使われていた名称で、攻撃のビームがずっと放射されていることが、嘔吐をし続けるのに似てると言うことで使われていた名称である。

 シャオロンもそれと同じように、ゲロビをされてそのまま薙ぎ払われたら面倒な事になっていたのだが、別の意味で面倒な状況に陥ってしまった。

(火球のような攻撃を何度もしてくる感じか……)

 先ほどのゲロビが効かなかったことで戦法を変えてきたのかもしれない。こちらとしては薙ぎ払いがなくなったことで、友軍への流れ弾がなくなったのは幸運といえるし、私としてもあの極太ビームを避け続けるのは難しい。好都合といえた。

 しかしそれでも長々と悠長にしているわけにはいかない。作戦時間が長ければ長いほど、私だけでなく皆にも危険が及ぶ。ならば……速攻とは言わないまでも、早めに終わらせるのがよいのは間違いない。

 殺せるかはわからないが……少なくとも私の攻撃が有効なのは間違いない。関東平野を救うという大義名分はあれど、私にその実感は薄い。

 だが……秩父前線基地を守るというのならば、私としても十分にやるべき事である事は間違いないのだ。周囲のFMEは他の隊員がどうにかしてくれると信じて……私は私の成すべき事をすべきだろう。

 そう考えると……私はまた、おかしな心境へと陥った。陥ると言うよりも、それ以外の事を考えないというか……成すべき事だけを考えられるようになるのだ。

「真堂宗一、参ります」

 



「独断行動をさせていただきます!」

 敵の攻撃がまた変化した。宗一さんが再びシャオロンより攻撃されたのを明確に察知して回避したことで、私たちは再び難を逃れることが出来た。

 そして宗一さんはそのままシャオロンへと、単身で吶喊していってしまった。その間も、シャオロンからの攻撃は止まらず、大量の球を宗一さんめがけて発射していた。咄嗟についていこうと体が動きだしたけど、すぐに止まってしまった。

 それは恐怖から来たものではなく、失望から来たものだった。少尉が攻撃した際に初めて歩行以外の……それも明らかにダメージを負ったと思しき動作をした敵。大尉の最大の武器ですら全く通用しなかったことも考えれば、私がついていったところで何もできない。むしろ邪魔になるだけだ。

「球も出せるのね……」

「あれ……当たったら明らかにまずいですよね」

 本日何度目かの驚きか分からず……燐中尉と璃兜が、乾いた笑い声を上げながらそんな感想を口にする。そんな皆の感想を二人が代弁した後、直ぐにドゥ大尉が言葉を放った。

「さて……少尉が独断で突っ込んでいったわけだが、それは状況的に仕方がないから問題ない。俺としては歯がゆいが、ほかの個体が邪魔しないように見張ることしかできないと思うが、反対意見は?」

 ドゥ大尉の言葉に、誰も言葉を発せない。発することができなかった。オーラキャノンが通用しない時点で分かり切っていたことだ。けれども実際にそばまで来て、無力感を味わうなんてことは、みな誰もが初めてだった。特に燐中尉からはすさまじいほどの激情を感じさせられた。きっとスーツの中の表情は、ひどくゆがんでいることだろう。

 シャオロンには攻撃が通用しない。それが当たり前だったのだけど……宗一さんが迷い込んできてくれた。そして歴史的に見ても、歩行以外の動作をしなかったシャオロンに攻撃が通用して、痛がった。ならば奇跡が起こるかもしれない。そう思わせるだけの歴史的瞬間だった。

 本来、司令から直接指示が出ているとはいえ、隊長の許可もなく独断行動をするのは厳罰ものだけれども、今回の場合は致し方がないように思えた。それを強調するためにドゥ大尉があえて独断という言葉を使ったというのは、誰もが分かったことだった。

「反対意見がないならそれでいく。敵を中心として正面が俺。三時方向をP2、九時方向をP5。六時方向はP3、P4だ」

 敵は現時点で関東平野の巣を背後にした体制をしている。巣の方角が危険視されるのは当然と言えた。だから私と璃兜の二人を配置する。

 また敵の正面も攻撃の流れ弾が来ることを考えれば一番危険だ。だけど大尉は状況判断をしなければならないという使命がある。ゆえに、最も危険な状況を引き受けざるを得ない。だから誰もこの布陣に文句を言う人はいなかった。

「最低でも100m以上の距離を開けておくように。俺たちの布陣で、布陣の中の地中からFMEが出てきた場合の即応の可能性もあるので、P3は注意しておくように」

 遠距離攻撃が可能な狙撃が出来るのは、私とP1のみ。緒ならばそれに注意するのは当然といえた。

「はい」

「とりあえず死なないことが第一だ。もしも敵が大量にあらわれて混戦となった場合は、俺が早々に見切りをつけて後退の指示を出す。その際は可能ならばP2、P5、PLの部隊。P1、P3、P4の二手に分かれて単独行動は避けろ。合流ポイントはここだ」

 合流ポイントが転送されて各自が確認する。敵の勢力圏内だ。各自分散しての行動は自殺行為に等しいので当然と言えた。それに対しても誰も文句は言わなかった。

「では行動開始!」

 その言葉とともに、私たちは動き出した。私と璃兜は、P5とともに九時方向の後方へと向かう。仕方がないことだけど敵とは相当な距離がなければ危険だ。けれど油断はできない。何せ敵はオーラ攻撃を仕掛けてきたのだから。あの攻撃にどれほどの射程距離があるかはわからないけど、あの巨体から繰り出される攻撃が、たかだか数百mで減衰するとはとても思えない。

 その間隙に……通常のFMEが地中から出現することは大いにあり得る。だから互いがフォローできる場所に、狙撃手である私と大尉自身を配置した。敵の攻撃に、地中からの奇襲。油断などできるわけがない。

(でも……宗一さんは)

 しかし現在の状況で最も危険な目にあっているのは、間違いなく宗一さんだ。今も……立ち上がった姿勢のままで、シャオロンが球状のオーラエネルギーで攻撃している。幸いなことに連射速度はそこまで早くはない。けれどあの巨大な口から放たれる球は、巨大と言って差し支えないサイズであり、どうしてもそれを避けるために大きく移動しなければならない。

 先ほどのビームのような攻撃を受けて意識を失っただけで済んだけれど、今度の攻撃もそれで済むかはわからない。そしてもしも宗一さんが被弾して意識を失った場合……助けにいかなかればならない事態にもなりかねない。そう考えただけで体が震えるほどに恐ろしかった。あれほどの巨大な攻撃を、果たして私たちが被弾して無事でいられるのか? けれども見捨てる事なんて出来るわけもない。


 色々醜い感情や、希望などがごちゃ混ぜになって……私の頭の中を駆けめぐっていた。





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