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状況把握

 シャオロンの光線が放たれて数分後。私たちは二手に分かれて退避していたが、合流ポイントで無事に合流することができた。幸いなことにどちらも不規遭遇戦に陥ることはなく、皆が無事だった。

「真矢少尉。宗一少尉の容体は?」

「いまだ意識を失ったままです」

 私に横抱きにされている宗一少尉は、意識を失ったままだった。バイタルサインは正常のため、命に別状はないと思われたが……何せ意識を失った原因がシャオロンからの極太のオーラエネルギーの光線だ。何か異常をきたしていないとは、断言ができない。

「ドゥ大尉。状況を報告しろ」

 私たちが合流してある程度落ち着いたのを見計らったタイミングで、千夏司令から通信が入った。宙に投影されたその顔は、険しく歪んでいた。

「宗一少尉の攻撃にシャオロンが痛がるように身をよじらせた。しかしそれで殺すことには至らず、反撃として放たれた極太のオーラ光線を、宗一少尉はもろに……というか飲み込まれてしまった。俺たちに被弾しないように宙に飛んだので、よけるのは難しかったのだろう」

「なるほど、すさまじいオーラエネルギーの検出が二度あったのはそれでか。衛星でも確認はしていたのだが、すさまじいな」

「そしてその攻撃を受けて、宗一少尉が意識を失った。真矢少尉の計測機器にて、バイタルサインは正常だというのだが、一向に目覚める気配がない」

 宗一さんの攻撃が、シャオロンに有効だったというのは間違いなく朗報といえた。一度でダメならば、何度か攻撃すれば殺すことが可能かもしれないからだ。

 しかし今回の件で、歩く以外の行動を起こしたシャオロンが、それ以上に脅威といえた。歩くだけで特に被害らしい被害を及ぼさなかったシャオロンが、すさまじいほどのオーラによる攻撃を行えることができると、実例ができてしまったのだから。

 現時点では宗一さん以外に見向きもしないけれど、本日歴史的に見ても二度も変化が起こってしまったシャオロンに対して、永遠に続く保証はどこにもなかった。

「真矢君。宗一君のバイタルはどんな感じだい?」

「データを転送します」

 ダヴィさんから質問を受けて、私は即座に宗一さんのデータを転送した。すぐさま送られてきた宗一さんのバイタルデータを確認し、分析を開始した。

「……ふむふむ。みんな安心していい。宗一君は意識を失っているだけだ。これは私が保証する」

 ダヴィさんの言葉に、隊の全員がほっと胸をなでおろす。しかし楽観はできない。何せ現時点での最悪の事態は免れたが、シャオロンが健在である以上……巣に対する作戦行動を行うのが困難なのは変わりがないからだ。

 更にもっとも重要なのが、宗一が未だ意識を取り戻さないことの原因も不明なのだ。

「皆の映像を確認させてもらったが、正直……私も驚きの連続で、どうして良いかはわからない」

「「「でしょうね」」」

 宗一さんを除く、隊の人間全員が作戦行動中の上官との会話だというのに……思わず砕けた口調で返答してしまった。それに対して千夏司令が少しだけ眉を動かしていたけど……特に何も言わずに、ダヴィさんの言葉を待っていた。

「ただ、みんなのデータを此方で解析した結果……恐ろしいことにソウイチ君の攻撃は、シャオロンに対してかなり有効な事を示唆してくれた」

 その言葉に……全員が内心で普通に納得した。何せ列車よりも大きなオーラキャノンですら、全く変化を見せなかったシャオロンが、痛みにのけぞったのだ。あれを見て驚き、呆然とするか、合成映像だと思うほどの驚愕的な事態だ。

「だからソウイチ君を死なせることだけは、なんとしても防いでくれ。最悪はみんなのマテリアル兵装を放棄してもだ」

 その言葉には流石に誰もが驚いた。何せ現時点で唯一絶対的な戦闘力を有しているマテリアル兵装を手放すと言うのだから。それもこの部隊は全員がマテリアル兵装を所持している。これら全てを捨てると言うことは……一個師団の戦闘能力を捨てる以上といってもいい。

「もちろんそれは避けたいのだけど……。最悪の場合はだよ? とりあえずソウイチ君の身の安全を優先して今すぐに帰還――」

「それは、お断りさせてもらいます」

 そんな会話を遮る声が新たに発言する。それは私の腕の中で意識を失っていた、宗一さんその人だった。




 光に飲み込まれた。その瞬間に私の意識も、体も消えていなければおかしいはずだった。何せ100mの怪獣から放たれたオーラ光線だ。常識的に考えて……普通の人間が助かる攻撃ではない。

 直径がどれほどあるのかは謎だが……先に突き出ている口を全開にしての経の大きさは、大型トラック程度ならば丸呑みできるくらいは、あるはずだ。それに飲み込まれて生きている方がおかしいのだが……私はそれを浴びたその瞬間に、また声を聞いたのだ。




「違うよ」




 しかし今回はその声を聞いた瞬間に、意識を失った。

 何の声なのか? 何が違うのか? 何かを考えることもなく。そしてダヴィさんの声が聞こえて……目を覚ました。

「宗一さん!」

「目が覚めたのかい!? 状況報告!」

 真矢さんの安堵の声と、ダヴィさんの悲鳴のような命令が、少し耳に響いたが……私は自らの体を自己診察し、問題がないと判断した。

「状態に問題はありません。肉体的にも、パワードスーツ的にも」

 パワードスーツに関しては自己申告しか出来ないので、少々信憑性は怪しいのだが……それでもこの謎の兵器を扱うことが出来るのは私しかいない。私の申告を信じるしかないのは、周りとしても歯がゆいだろう。

「……ならばそれを信じて再度シャオロンに攻撃してもらうしかないね」

 苦渋の決断というか……ダヴィさんが実に苦々しい表情でそう指示を出してくる。その言葉に一瞬真矢さんが声を上げようとしたのを感じたのだが、それを遮るように千夏司令が声を上げる。

「これに関しては申し訳ないが、明確に不可能と判断されるまで遂行してもらう。事はこの秩父前線基地だけではない、関東一帯の命運がかかっているからだ」

 それを言われては、誰もが口を紡ぐしかない。この世界の関東平野外縁部の町、基地。これらにどれだけの人口がいるかは不明だが……秩父の町の具合から言って、万単位の人間がいるのは間違いない。それらを危機にさらすなど、軍人として断固として看過できないだろう。

「しかし宗一暫定少尉の攻撃が通じるというのは朗報だったが……出来れば先の一撃で仕留めて欲しかったというのが本音だな」

「同意です」

 先ほどまでは此方を認識すらしていなかったシャオロンだが……これ以降は間違いなく私を意識して狙ってくるだろう。しかも相手の攻撃は、四肢や尻尾を用いた近接攻撃ではなく、極太ビームだ。しかも射程が現時点では不明。正直な事を言うと……ぶっちゃけこのまま逃げたいのが、少し気持ち的にあった。

「卑怯だがその上で聞こう。宗一暫定少尉。シャオロンの討伐は可能か?」

 自ら言うことで卑怯だと強調するのをよくする人だと……どうでもいい感想を抱いてしまう。そんな自分に対して内心で苦笑しつつ……私は千夏司令にこう返した。

「可能かどうかは不明ですが……私としても、このまま基地に戻るつもりはありません」

 本当に不思議な気持ちだった。逃げたいと思う気持ちよりも、シャオロンを討伐しなければならないという、気持ちの方が強いのだ。状況は凄まじく悪化している、今の状況になったというのにだ。

「勝機があるというのか?」

 千夏司令からのその言葉に、私は返答することが出来なかった。それは自信がないからとか、やけくそになっているとか、そういうのとは違う。何というか……勝ち負けではないのだと、何故かそう思考している自分が、いるからだった。

 しかしその私の不思議な心情を、今この場で言うのは憚られた。千夏司令も言っていたことだが、この作戦の成否で……関東一帯の運命を切り開く事が出来るかも知れないことになるのか、ならないのかという、非常に神経質にならざるを得ない状況なのだから。

「どちらにしろ……やるしかないのでしょう?」

 故に私は……明確には答えなかった。自分の気持ちをぬきにしたとしても……どうなるかは自分でも分からなかったからだ。

「それはそうだが……お前に死なれるのは、ある意味でもっとまずい事態なんだが……」

 パワードスーツにマテリアル兵装。さらには平行世界の人間という貴重なサンプル等々……確かに色んな意味で、死なれるのはまずいことは間違いないだろう。

 もちろんそれだけではないことも、理解している。しかしそれ以上に、希少な存在なのは間違いなかった。そして今回の件で更に重要度が上がったと言っていい。

 何せシャオロンに対して、初めて有効な攻撃を行うことが出来たのだから。勉強不足ということもあって、外国ではどのような状況になっているのかは謎だが……シャオロンのようなFMEがいるかも知れない。もしくはいなかったとしても。今後出現しないとは限らないのだ。ならば手札は多いに越したことはないというのは、当然といえた。

「ともかく……どうなるかは分かりませんが、作戦司令として支障がなければ、再度シャオロンへの攻撃の許可をいただきたい」

「支障もなにもない。問題がないのであれば作戦続行だ」

「了解です」

「しかし千夏司令!」

 作戦続行という断言に、真矢さんが声を上げた。本来であれば何の意味もなく、しかも上官の決定に異を唱える行為は御法度というか……普通に軍法会議もあり得るかも知れない。

 しかし真矢さんが声を上げるのも……第三者から見れば至極当然の事だと言えた。何せ100mの怪獣に木刀で立ち向かって討伐してこいと言っているのだ。私の常識から考えれば……狂気の沙汰以外の何物でもない。

「言いたいことは分かるが、言うだけならば簡単だ、真矢少尉。ならば逆に問う。宗一暫定少尉がシャオロンを討伐する以外に……方法があるのか?」

「……それは」

 そしてこの世界の常識で考えれば……私が攻撃をしに行くのは全く持って非常識ではない。何せ非常識なのは私なのだから。測定できないほどのオーラエネルギーを内包した人間と、得物を有した男。私を超える攻撃力を有する兵器等は、この世界には恐らく存在しないだろう。

 更に言えば千夏司令の言葉ももっともであり、現時点で……私がシャオロンを討伐する以外に方法はないのだ。この状況であれば……かなり非人道的なことであったとしても、まかり通る状況といえた。

「お気遣いありがとうございます、真矢さん」

 故に……これは強制された物ではなく、自分で決めて自分で行くのだと言うことを、この場の皆に宣言しておく。

「作戦の事もありますが、それと同じくらいに私個人として、シャオロンについては討伐しなければならないと思っています」

 何故シャオロンを討伐することに固執しているのか……自分でもまだ具体的に分かっていない。それを知るためにも、私は再度あの怪獣に立ち向かわなければならない。


 何故かそう確信していた。


「ですが……」

「しかし先にも言ったが、貴様に死なれる方が問題だ。そのため引き際に関しては、ドゥ大尉に一任する。無論、私が責任を持とう」

「了解した」

 方針は決まった。別段作戦時間が制限されているわけではないが、それでも敵地とも言える関東平野に長居する理由はない。故に……パラレル部隊は作戦を再開した。

「さて、作戦再開となるわけだが……どうする気だ?」

 隊長として、ドゥ大尉がそうして質問してくる。といっても私としても具体的な案があるわけではない。また他の隊員達は正直なことを言えば、シャオロンに近寄りたくない……もっと素直に正直にぶっちゃけて言えば、私の側にいたくないだろう。何せあの極太ビームだ。私の側にいただけで、十分直撃レベルのダメージを負うことになる。

(そういえば……あれほど巨大なオーラエネルギーを被弾した場合、この世界だとどれほどの損傷を伴うのだろうな?)

 客観的というか、あの極太ビームを外から見てみないと何とも言えないが、相当な大きさであり、エネルギーの奔流だった。不思議と私のパワードスーツは無事だが……この世界の兵器が被弾というか、飲み込まれた場合どうなるのかがちょっと気になってしまった。

 私が飲み込まれたオーラエネルギーの熱線。何も感じなかったというか……飲み込まれた瞬間に意識を消失したので、正直何も感じてないのが本音ではあるのだが、周りはそうはいかない。私は飲み込まれた人間のために、明確にどれほど大きかったのかは謎だが、少なくとも歴戦の勇士たるこの部隊の人間が恐怖しているのだから、それだけで推して知るべしといったところだろう。


(さて、どうするか?)


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