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歴史的出来事


 成功した時、駄目だった時……そしてその結果によって一体何がもたらされるのか?


 そのことは一度考えず……木刀を振るう。無心の剣というほど崇高な物ではないが、それでも試してみる。そう考えた。

 この時……巨大生命体を見たゆえの驚きと、木刀を握ったことによる安堵故というべきなのか? 大事なことをなぜか失念していた。

 それは、パワードスーツに取り込まれた愛用の木刀は、素振り用として購入し長年大事に使用してきたもので、この木刀で物を殴ったことがなかった。一番初めに稽古のために購入した木刀であるため、大事に使用してきたのだ。

 丸太に打ち込む稽古などを行う際は、それ用に購入した別の木刀を使用していた。その木刀は、丸太に打ち込むという稽古の都合上、それなりの日数で使い物にならなくなってしまう。

 そのため、事実上木刀を入手するのが困難になったこの世界において、いろんな意味で貴重品といえる木刀を、シャオロンに向かって振るうこと。普段の私であれば、心の中で少しであっても躊躇いが出るはずだというのに……この時の私はそれが全く思い浮かばなかった。

(サイズが大きいので、大上段であっても届かないな……)

 振るうべきは頭部なのだが、いかんせんシャオロンが大きいため、地面に立ったままでは掠ることことすらもできない。しかも、その巨大なサイズと、オーラバリアとでもいうべき見えない膜がある。リーレスの時のようにジャンプした後にブースターで急速反転しての攻撃では、おそらく力が乗らずに有効打を与えることはできないだろう。かといってシャオロンが都合よく頭部を地面につけてくれるなどありえない。

(ならば……)

 全長の大きさも相まって、その頭部も相当な大きさを誇っている。それこそ乗用車であれば余裕で上に乗れるだけの面積がある。ならば人間一人が乗るにはあまりにも十分すぎるサイズだ。さらにおあつらえ向きに、頭部に段差が存在していた。

「ドゥ大尉」

「なんだ?」

「サイズ的にどう考えても当たらないので、シャオロンの頭部に乗ってから攻撃を行います」

「何?」

「ドゥ大尉の攻撃にも見向きもしなかったので、おそらく大丈夫だと思います。また頭部に乗ってしばし固まると思いますが、必要なことなので見守っていただけるとありがたいです」

 返事も待たずに、私は攻撃はないと確信して宙へと跳んだ。小さめの一軒家はあるであろう高さを一足飛びで飛び上がる、身体能力の向上に驚きつつも、私はシャオロンの頭部へと無事着地した。

 そして予想通り、シャオロンは私が頭部に降り立ったにも関わらず、一切の反応を見せずに前進を続けていた。

(頭部のどこをたたけばいいのかは謎だが……)

 倒すと流体金属になって、地面にしみこんで消えていくFME。それゆえに生体は一切わかっていない。それはこの巨大なシャオロンも同様であり、生物における急所というものがわからない。故に単純な考えだが、正中線を本気で殴ることしか思い浮かばなかった。

 さすがに剣術の稽古で地面に立っている状況から、地面を叩き切るようなことは行ったことがない。故にもしもまっ平な頭部であった場合は、膝立ちの状態で地面に向かって木刀を振るうことになっただろうが、それでは下半身の力を十分に活かすことができず、まともな攻撃を行うことができなかっただろう。

 しかし今立っている場所は段差があるため……私の目の前には、私の胸元くらいの高さに眉間か額と思われる頭部がある。この立ち位置だけが、頭部をたたきやすい形状をしている箇所だった。

 あとはリズムを整える。揺れ動く地面に立った状態で、目の前の頭部に向けて全力で木刀をふるうことになるのだ。ならばその揺れている地面に逆らわないようにして、木刀をふるわなければまともに殴打することができない。

 しばし……私は全神経を集中させて、シャオロンの揺れを感じた。どのタイミングでどう動くのか? 速さにリズムに動く時の感覚。それらを把握したら、次はその逆である。

 自らの力を殺さずに最小限の力でもってタイミングを合わせて、木刀を振るうその瞬間だけ……自らの力を合わせることから、振るうに変えなければならない。そのタイミングを見極めて……私はその瞬間を待った。

 自らを剣を振るうためだけの存在となったかのように……私はそのためだけにここに存在した。短くない時間であったはずだが……私にはほかのことは一切何も認識することはなく、ひたすらにそのことだけを思い続けた。




 そして、その瞬間が訪れた。




「っ!」

 短い呼気とともに振るわれた、私の剣。それはほかの一切を認識しない、無我の境地の剣。これほど「これだけ」のことを考えられたのは、今までの生涯において一度もなかった。

 しかしこれすらも私は認識することなく……振るわれた木刀はシャオロンの頭部へと瞬時に迫って、その固い感触を突き破り、確かな破砕音と砕いた感触が、私の手のひらに返ってきた。

「■■■■■■■■!!!!!」

 声にならない声を上げて、シャオロンが吠えた。それと同時にまるで痛みを訴えるかのように大きく体のけぞらせる。上体をのけぞらせたので頭も大いに動くことになり、そのため私は思いっきり上空へと打ち上げられてしまった。

「おぉぉお?」

 突然のことで思わず間抜けな声を上げてしまう。集中しきっていたので何もできずに、投げ飛ばされるしかなかった。

「お前ってやつは……」

「宗一少尉がすごいのか、パワードスーツがすごいのか、マテリアル兵装がすごいのか……」

「全部じゃないかしら?」

「ですねぇ……」

 私が吹き飛ばされた状況で、皆が思い思いの言葉を口にする。もはや半ば呆れられている感じである。

「そ、宗一少尉! 大丈夫ですか!?」

 そんな状況下で、私が吹き飛ばされたことで慌てている真矢さんがいた。本来私も慌てるべきなのだが……ほかの人が慌ててくれたおかげで、意外にも冷静だった。

「大丈夫です」

 実際、頭を大きく上下に動かしただけであったため、ほぼ真上に打ち上げられただけだったのは幸いだった。スーツのブースターを意識して……何とか地面に着地する。

「さて、おそらくシャオロンが痛みにのけぞるなんてことは、歴史的な快挙ともいえるのだが……悲しいがそれだけなうえに、さすがにこちらを認識したようだな」

 ドゥ大尉のそんな言葉に導かれて、私はシャオロンに視線を投じる。すると巨大な眼光が明らかに私を見ているのを感じた。そしてそれを勘違いだと思わせない事態が……起こったのだ。

「■■■■■■」

 低くうなり声のようなものが聞こえた気がした。その後……なんと驚いたことにシャオロンが立ち上がったのだ。四足で歩いていた体勢だった。その体勢から後ろ足のみで立ち……文字通り仁王立ちをしたのだ。

「「「……」」」

 その巨大さに、誰もが呆然と口を開けることしかできなかった。私だけでなく、歴戦の勇士達である私以外の部隊員の全員が、その圧巻の巨大さに驚くことしかできなかった。そしてそれは……私がもっとも大きいだろうと、私は思えた。

(ゴ○ラを見上げたことがある人間は……私だけだろうなぁ)

 実に的外れな感動を覚えていた。特撮怪獣王ゴジ○。私と同年代の男性は、特撮に触れる機会がそれなりにあった……ウルト○マン、仮面ラ○ダー、○ジラ、ガメ○等……と思うので、ゴジ○を知っている人間はそれなりにいると思う。

 しかし、設定として100mの身長を知っているとしても、それを見て体感して経験するというのは、間違いなくないだろう。それも、100mのビルとかではなく、異星起源とはいえ生命体の100mとでは、絶対的に感じ方が違うはずだ。

 そんな間抜けなことを、考えているときだった。立ち上がり、長い首を曲げてこちらを見下ろしてきたその時……悪寒を覚えた。そしてその悪寒以上に……この目の前の巨大なシャオロンに、どこか違和感を覚えた。そしてその違和感について……何故か「変わってしまった」という思いが、頭の中をよぎっていた。

 その不可思議な感覚と思考を整理したくても……そんな余裕をシャオロンは与えてはくれなかった。見下ろすために下を向けていた首を、後ろに下げる。そしてそれと同時に口を開き……その口内に光が見えたその瞬間に、私は先読みが出来た。

(!?)

 それが分かった瞬間に、私は真上に跳んでいた。それ位しかする事が出来なかったのだ。

「何を!?」

 ドゥ大尉が何かを疑問に思い言葉を発しようとしたが……シャオロンの口内が発光しているのに気付いて言葉を止めた。何故かそれを感じつつ……私は、自ら視線を向けている、シャオロンの口内の発光が収束していくのを見て、顔を歪めた。

(100mの怪獣が口内を発光させるって事は!)

 そう思考した一瞬の時間で……私の視界は閃光で埋め尽くされた。




 宗一少尉が飛んだその瞬間に放たれた、シャオロンからの閃光。巨大な口内から放たれたその光は、楽々と宗一少尉を飲み込んでいた。

「宗一さん!?」

 シャオロンが痛みに悶え、宗一さんを認識して立ち上がり、あまつさえ攻撃してきた。歴史的に見ても、今までではありえなかったことの連続だった。それはシャオロンだけでなく……今までの宗一さんも同じだった。

 ダヴィ中佐に、測定が何とか可能だと言わしめた、宗一さんのマテリアル兵装。宗一さんが自らの世界で、長年剣術の稽古に使用してきた、木刀といわれるもの。オーラエネルギーがすさまじいのはわかっているけれど、それを差し引いてもあんな細い棒で、巨大なオーラキャノンすら通用しないシャオロンを討伐できるのかと……内心で疑問に思っていた。

 だけどふたを開けてみれば、驚くことの連続だった。シャオロンが明らかにダメージを受けたかのように、身をよじったのだ。そして今まで意志らしい意志を見せず、ただ歩いているだけだったシャオロンが、宗一さんを認識した。そして立ち上がり、攻撃と思われる光線を発した。

「まずい! 直撃っていうか飲み込まれたぞ!?」

「宗一少尉! 応答しろ!」

 隊長と副隊長である、ドゥ大尉と煉道中尉が声を張り上げる。私を含めた他の三人も同様だった。しばし固唾をのんで見守っていると、光線が消える。そして消えた光線の中か現れたのは、特に変化のない宗一さんだった。

「もう、何も言えん」

「記録見るとすさまじいオーラエネルギーだったはずなんだが……無傷かよ」 

 隊長と副隊長であるドゥ大尉と煉道中尉が、あきれたような声を漏らしていた。私を含めた他の三人も同様で、燐中尉に至っては渇いた笑い声を、あげていた。

 と、思っていたのだけど……宗一さんの体勢が力なく、四肢を投げ出すように変化したのを見て……皆に緊張が走った。

「っ!? マヤ少尉確保! 他はシャオロンに牽制攻撃!」

 手にしていた装備をすべて背面に戻して、私は宗一さんに向かって飛び上がった。それと同時にみんながシャオロンに向けて散開しつつ、攻撃を始めていた。背後から先ほどの光線が飛んでくるかもしれないと、考えると恐ろしかったけど……気を失っていると思われる宗一さんを受け止めるために、飛び上がった。

 落下してそれほど経たずに飛び上がったので、相対速度はそれほど気にすることなく受け止められた。けれど私が受け止めてなお、宗一さんは何の反応も見せなかった。

「宗一さん!」

 そう叫ぶが……それでも反応はない。しかも普段であれば、目を見ることのできるバイザーに光がともっておらず、宗一さんの表情をわずかでも見ることは、かなわなかった。

「意識は!?」

「ありません。ですが、接触して体調測定機器とリンクしましたが、呼吸も脈拍も正常です!」

「なら気を失っているだけか? あのオーラエネルギーを受けて、それだけで済むってのは大概だが……」

「っていうか、それどころじゃないでしょ、ドゥ隊長!? どうするの!?」

 燐中尉があえてドゥ大尉を隊長呼びする。それは隊としての指針を示せということに他ならなかった。

「どうもこうも撤退するしかないだろ!?」

「同意!」

「宗一少尉が気絶したままじゃちょっと無理があるわよね!」

 隊長、副隊長がそう叫び、そしてとどめというように璃兜が隊の皆の思いを述べる。そして私が着地する。そのため移動が可能となった瞬間に、ドゥ大尉が声を張り上げた。

「ひとまず退く! P3のフォローにP4とP5、P2とPLの二手に分かれて回収予定ポイントと、現在の中間地点に集合だ!」

「「「了解!」」」

「戦闘は極力避けろ! 行動開始!」

 その叫びと同時に皆が全力で走った。その私たちを、シャオロンは何もせずに……立ち上がったまま、黙ってこちらを見ているだけだった。












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