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作戦開始

 輸送機に乗り込んでわずか数分で……シャオロンの側へと到着し、私たちは輸送機より降下する事と相成った。

 作戦は至ってシンプルだ。輸送機である程度接近して降下。降下が完了次第私がシャオロンへと近づいて、渾身の思いでシャオロンの頭部をたたき割る。これで終わりである。

 シンプルすぎて、文句のつけようがない。それほどまでにシャオロンに対して決定的な一手がないのだろう。しかしいくら手がないとはいえ、パワードスーツを着込んだ男の木刀による兜割で、全長100mの怪獣を殺してこいなど、常識的に考えて頭がおかしいと言わざるを得ない。

(まぁ私の常識では、なのだが……)

 平行世界のこの世界。かなり似通っている部分もあるのだが、それでも平行世界と思わせるところも多々ある。それの筆頭がオーラエネルギーだろう。私の感性で言えば、体力を燃料としてあらゆる工業製品が動いている世界だ。そのためこの世界にはエネルギー問題が存在しない。それを考えれば、常識が違うのも当然といえる。

 しかしそれを差し引いても……全長100m、全高50mの怪獣に木刀で挑めと言うのは、いくら常識が違うと言っても、常軌を逸しすぎてはいないだろうか?と思うのは、正常な思考だと思いたい物である。

 そしてそれを裏付けてくれるのが、部隊員達の反応である。直接的に言葉にしてくれたのは真矢さんとドゥ大尉のみだが、他の部隊達も流石にこの作戦について、何かしら思うところはあるようだった。

 しかしそれでもやらなければならない理由があるのだから、やらないわけにはいかないのだ。この作戦が失敗すれば……関東平野の外縁部である山間部全てが、FMEに浸食されてしまうのだから。

「よし降下開始だ! 周辺にFMEの反応はないが、降下して戦闘態勢が整うまでは決して油断するな! シャオロンにも注意を怠るなよ! では順次降下!」

 ドゥ大尉の号令と共に、順次降下が開始される。副隊長である煉道中尉、燐中尉。次に璃兜少尉と真矢少尉。そして真矢少尉に横抱きに……有り体に言ってお姫様抱っこされた私。最後にドゥ大尉が降下する。

 パワードスーツで使用することが出来る、降下パックがないこと。またパワードスーツを着ていても成人男性+α程度の重量しかない事で、私の横抱き降下が採用されてしまった。

「では行きますよ! 宗一少尉!」

「了解です」

 通信機越しに聞こえてくる真矢さんの声に、私は少々緊張した声で答えていた。非常に合理的であり、私も降下パックによる訓練は受けたことがないため、降下がまともに出来ないのも理解している。そして一応パワードスーツを着ているので、万が一のことがあったとしても最悪一度はブーストジャンプが出来ることは分かっているのだが、それでも……

(体感的に生身のような状況でノーロープバンジーは怖くないですかねぇ!?)

 パワードスーツを着ていても、それでもあまりスーツを着ているという実感もないので、生身のような感覚なのだ。それで高度数百メートルから抱きかかえられて飛び降りるのだから……怖くないわけがなかった。

「私高いところ、苦手なんですがねぇ……」

 そう呟くのだが……その呟きは降下する風切り音で全てかき消され、しかも落下の速度で一瞬にして上に置いていく。通信を切っていることもあって、なおさら誰の耳に届くわけもなく……私は落下していく。

(スカイダイビングの経験はあるにはあるのだが……インストラクター任せでキチンとパラシュートを装備していたからなぁ)

 スカイダイビングを自分だけで行うのは資格がいるので、私に単身でのパラシュート降下経験はない。何より違いがあるのは、プロが自分の直ぐ側にいるのと、パラシュートの有無の違いだ。怖くないわけがなかった。

「そろそろ地表です! 衝撃に備えて!」

「了解です」

 怖いのでずっと目を閉じていたのだが、落下速度は想像以上に速かったようだ。真矢さんの通信に衝撃に身を強ばらせて……降下パックからの減速ブースターが点火されて凄まじいGが私を襲った。そしてそれから少々の時間が経過して……パラシュートが展開されて、真矢さんのオーラスーツは無事に地表へと降下した。

 その瞬間に、私は動く。他の隊員と違い、私は唯一降下パックを使用していないので、降下パックを外す事をしなくていい。先に降下した煉道中尉と燐中尉がすでに警戒をしているのは分かっているが……それでも自分に出来ることをするしかない。周囲の警戒を行いたかったのだが……私は思わず呆然とそれを見てしまった。




「……な……っ」




 それしか言葉に出来なかった。声が出なかったのだ。距離にしてまだそれなりに距離はある。そして一応輸送機から眼下のシャオロンを見ていた。その時からサイズがやばいと思っていた。しかし……それでも……


 地表で見るその圧倒的巨体は、圧巻以外の何物でもなかったのだ。


「でっっっっか……」


 作戦中だというのに、ただ呆然と見上げてそう呟くことしか、できなかった。文字にすれば「全長100m全高50m」と……わずか11文字で終わる。しかし……それを直に見るのとでは意味が違う。文字通り、見上げることしかできなかった。

「宗一少尉! 作戦中ですよ!」

 そう真矢さんの怒号が聞こえて……我に返って、私は何とか意識を戻して警戒を行った。

「失礼しました」

「まぁ……初めて見るのですから、しょうがないと思います」

 作戦中に呆然とするなど……本来であれば厳罰もあり得るだろうが、今回は多めに見てくれたのかも知れない。といっても真矢さんが許してくれても、隊長であるドゥ大尉から罰則を喰らうことも十分あり得るだろうが。

「全機、状況報告」

 そして少しして最後にドゥ大尉のオーラスーツが無事に着陸し、全員にそう呼び掛けた。その呼び掛けに皆が異常なしと答えて、ドゥ大尉が大きく頷いた。

「ではこれより、山崩し作戦を開始する。オーラスーツのレーダーでも周囲にFMEの反応はないが、くれぐれも油断するなよ。とりあえずシャオロンへと接敵するため、移動を開始する」

 その号令ともに、私たちパラレル部隊は動き出したのだが……正直私は頭の中が混乱していた。というよりも間違いなく動揺していたのだ。

(百聞は一見にしかずと……初老の人生でそれなりに経験していたのだが……。今回のはそれどころではないくらいに、認識と現実に差がありすぎる)

 人生それなりに生きてきたが……今回の百聞は一見に~は、本当に凄まじすぎた。100mという単語を直接的に経験したのは、高校時代の100m走が最後になるだろう。免許を持っていたので車の運転で100mとか走ることもあるが、やはり「100m」と認識して動くことは、個人的にだが……一般的な人間では100m走位しかないのだと、思われた。

(ってそんなことよりも今は現実を見るべきか……)

 一応生命体として動いている存在を見るのは……本当にたまげてしまった。というよりも100mの生命体というと……私が知る限りゴッドジラしか思い浮かばない。

(といっても、空想上の特撮怪獣なのだが……)

 100mと言えば、100m走くらいしか思い浮かばない貧相な脳みそである。とてもではないが、シャオロンの大きさは本当にびっくりしてしまった。

(っていうか……この巨大な生命を木刀で撲殺しろと?)

 近づきながらその巨体を見る。まだ距離があるために……見上げる状況だが、それを差し引いても、斜め上に視線を向けなければならない。

(確かに1kmほど遠くに降下したのは事実だが……)

 周囲にシャオロン以外の通常のFMEがいないかをあぶり出す意味も兼ねて、少々離れた位置に降下したのだ。今のところレーダーに反応もなく、周囲を警戒しながら行軍していても……地中からの反応もない。別部隊の陽動がうまくFMEを引きつけてくれているのだろう。それについてはありがたいのだが……本当にもう何が何だか理解できない。

(語彙がおかしくなってるな)

 1kmなど……オーラスーツとパワードスーツの前では、助走にもならない。直ぐにかなり近い距離まで近づいて……私はそれを見上げた。

「これが……シャオロン」

 見上げるしかない……凄まじい巨大さだった。4足歩行で動いているので、そこまで上下の移動がない様子だが……それを差し引いてもでかかった。

 何せ頭部だけで新幹線すらも超えるサイズを誇っている。私の人生では、これ以上に巨大で身近な物が存在しないので、比較対象が存在せず……ただひたすらにでかいことしか分からなかった。でかいという言葉で、定番のネタすら頭に思い浮かばないほど、圧倒的だった。

 またシャオロンがどのような生体かは全く持って不明な訳だが……すでにあちらもこちらを認識しているはずだというのに、こちらに見向きもせずに、ただ歩くという行動を続けているだけだった。

「これがシャオロンか」

「でっかいなぁ……」

「でかいというか、これはもはや本当に巨大ね」

「ここまで身近に見ることなかったけど」

「凄い……」

 ドゥ大尉を始め、隊員全員がそのあまりの巨大さに……FMEという歴とした敵だというのにその圧巻な姿に、誰もが呆然してしまった。

「おっと……気持ちは分かるが呆けるなよ?」

「お前も呆けてただろうが」

「全員だからお互い様だな」

 ドゥ大尉の言葉に、茶々を入れる煉道中尉。その茶々を屁とも思わず……ドゥ大尉が大げさに肩をすくめた。そして、次の瞬間……その雰囲気が一変した。

「まずは……手始めに!」

 そう小さく呟くと……担架しているマテリアルライフルを手にとって地面に跪いて、しばしその場で止まった。何をしているのかと思ったのだが……銃口が淡く光っていることで何をしているのか気付いた。チャージをしているのだろう。そして……幾分かの時間が経過して、それは放たれた。

 放たれたマテリアルスナイパーライフルの閃光。それは一瞬にして空を裂いてシャオロンへと迫り、シャオロン頭部に弾かれた……ように見えた。

 しかしパワードスーツのおかげなのか……私は見ることができた。頭部に弾かれたように見えたが、頭部の数cm手前の見えない何かに弾かれたようだった。閃光そのものと言っていい、オーラエネルギーの弾丸を見ることができたことに、普段ならば驚愕するのだが……今の私はそれ以上にシャオロンの巨大さに圧倒されていて、何も思わなかった。

「さて、予想通りこの部隊での一般的なマテリアル兵装において、最大の攻撃力を誇る俺のライフルの最大出力で、全く変化が見られないわけだが……」

 私たちが今いるのは、シャオロンの進行方向の斜め前に陣取っている。真正面ではないため、このまま待機していれば、シャオロンが目の前を通過して終わりという状況だ。そしてライフルで撃たれたにも関わらず、シャオロンは何事もなかったかのように、そのまま歩み続けている。

「攻撃してもこちらを認識すらもしてないと思われる。そのためある意味で安全なんだが……どうだ宗一少尉? いけるか?」

 そして本作戦の要ともいえる私に……ドゥ大尉がそう問いかけてきた。一応皆が周囲の警戒をしているので、一斉にこちらに視線を向けてくるといったことはないのだが……それでも注目されているのは、間違いなかった。

 そんな中で……私は再度シャオロンへと視線を向けた。頭部だけ見ても、新幹線よりも圧倒的にサイズがでかい。身近でそれなりに大きいものが新幹線しかないので、比較できるものがないのだが……じかに見た巨大生命体というのはそれだけで脅威に思えた。向こうはこちらを認識すらもしてないにも関わらずである。あちらからしたらパワードスーツを着ているとはいえほぼ人間サイズの私など、虫にしか見えてないだろう。

 この巨大生命体を、木刀でドタマをカチ割れというのは……字面だけ見れば狂気の沙汰といえるだろう。

 そこで無意識に……私は右手を少し握りこんだ。そのため……右手に持ってないはずの愛用の木刀の感触が、右腕に返ってきた。


 その時……ようやく少し頭が冷えた。


(……考えすぎか)

 木刀を疑似的にとはいえ握ったことで、剣術の思考回路にシフトしたのだ。刀を振るう時……雑念は自然と抜けていくのだ。長年の修練の賜物とでもいえばいいのか……ともかく剣術の稽古をするときは、刀のことしか考えていなかった。

 故にこそ……無駄な思考をしていた自分を、認識できた。そして、無責任と言えなくもない思考へと、思い至る。

(……とりあえず試してみるか)

 シャオロンという巨大生命体に向けて、もしくはシャオロンでなくても、巨石に向けて木刀を振るったことなど、私の人生では一度もない。なればこそ、試してみる気持ちになったのだ。


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