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最終確認

「では作戦の概要を再度確認するぞ」

 輸送機内部にて、最後の作戦の状況を確認する。今は輸送機に資材の運搬をしている最中だ。といっても運搬しているのは、秋雄少尉やゲイツ軍曹と運搬ロボットである。オーラスーツの搭乗者である他の隊員と私は……輸送機から少し離れたところで、最終ミーティングを行っている最中だった。

「35分後、作戦開始時間となったら輸送機に乗り込み、輸送機にてシャオロンへと向かう。衛星で確認したシャオロンの現在位置は、ここだ」

 そう言いながら、ドゥ大尉が画面を表示させた。場所は関東平野の北西辺りで……記憶の知識を引っ張り出すと、川越辺りだと思われた。

「これより輸送機にて川越に向かい、シャオロンの間近で輸送機より各々が降下パックを背負って降下。シャオロンは関東平野を徘徊するだけで、攻撃行動をしたことは一度もない故の輸送機での接近及び降下になるが……くれぐれも注意だけは怠るな」

 座学で学んだ事を思い出した。シャオロンは本当に関東平野を徘徊しているだけなのだ。しかもその巨体にもかかわらず、移動に伴って地響きや足跡の陥没といった影響もない。正直に言って、何故こんなFMEが存在しているのか、激しく謎だった。

 しかしそうはいっても巨大なFME。仮に巣を攻撃した場合に襲いかかってくる可能性は捨てきれないし、また仮に巣を駆除したとしても関東平野を徘徊されたままでは、復興もままならない。どう考えても排除するしかない存在だった。

「降下後は各々シャオロンへと接近。そして接敵後は宗一少尉のバックアップが主な任務だ。またFMEがシャオロンの援護に来た場合、各個でそれの撃破となる。大まかだが作戦は以上だ」

 本当におおざっぱな作戦だが……現状それしか手段がないというのが、本音なのだろう。何せ列車砲と思しき巨砲から放たれたオーラエネルギー着弾ですら、シャオロンに毛筋ほどのダメージも与えることが出来なかったのだから。しかもシャオロンは身じろぎ一つせず、そのまま徘徊を続けている。当時の人間の胸中を思うと、何も言えなかった。

 この作戦も正直言って、作戦といえるほど大した物ではない。極端な事をいえば、私の木刀による打撃が通用するかどうかに全てがかかっているのだから、お笑いぐさである。何せパワードスーツに取り込まれたために、木刀として扱って良いかも不明な棒状の物でしかないとはいえ、元を正せば間違いなくただの木刀だ。

 それが通用するか否かで……今後の関東平野近辺の運命が、決まるというのだ。木刀もどき一本に……どれほど重い物が乗っかっているのか、正直言って色んな意味で筆舌に尽くしがたかった。

(いや実際問題どうなるのだろうな? 全長100mに全高50mの巨大な流体金属生命体に、木刀が通用するのか?)

 パワードスーツをまだ着用していないが、右手を意識して握りこめば……ないはずの木刀の存在を、確かに手のひらに感じることが出来る。

 剣術道場の門戸を叩き……それから一ヶ月ほどの期間を経て購入し、ひたすら素振りで稽古をしてきた長い年月。この木刀は、私の剣術人生そのものと言っていい。その思いと年月が……オーラエネルギーとなって、この木刀を変容させた。異世界において、オーラキャノンすらも凌ぐ決戦兵器とでもいうべき存在へと変わっていたのだ。

 正直言って……何を言われているのか、理解出来なかった。何せそれなりにいい木刀なのは間違いないが、それでも木刀だ。それ以上でも以下でもない。仮にもしも今この瞬間に、私の世界に戻って木刀がそのまま元に戻った場合……それは文字通りただの木刀でしかないのだ。

 この平行世界に来たことで、その変質が元の世界でも続く可能性がなきにしもあらずだが……それはともかくとしても、これは木刀であるはずなのだ。

(それが突如として決戦兵器になるとは……)

 人間万事塞翁が馬とは言うが……それにしても木刀が、超巨大異星起源生命体に対する決戦兵器に化けるとか、波乱万丈過ぎではないだろうか? 

「さて一応聞いておこう。宗一少尉、どうだ?」

「……どう、とは?」

「ここには俺らしかいないから、今の内に言いたいことがあるなら、言っておいた方が良いぞ?」

(と、言われてもなぁ)

 ぶっちゃけた話、それが私の本音だった。実感が湧かないのだ。何せ決戦兵器になったと言われても木刀でしかないのだ。平行世界の人間故に、この世界の人間と感覚がずれているのは間違いないが……それにしても木刀が決戦兵器とか、真面目に言わせてもらうのであれば「はぁ?」と、驚くよりも呆れる方が感覚的には近いのだ。

「そうですね、強いて言うのであれば……」

「ほう?」

「降下パックによる訓練をしたことがないので、降下が出来るかが正直不安です」

 本当に申し訳ないが……それが私にとって、目下もっとも恐ろしいことだった。この作戦は一応非公式な作戦のため、失敗しても糾弾される事はないだろう。となればそもそも作戦が行えるのかという、不安が大きかった。

 そんな私の馬鹿な不安が顔に出たのだろうか……ドゥ大尉だけでなく、他の隊員も私の方を見て、呆れた。

「まぁしょうがないのかも知れないが、大物だな」

「そうね。よくぞまぁって感じだわ」

「そういわれましても……」

 煉道中尉と燐中尉が、深々と溜息を吐きながらそういってくるが、こちらとしてはけっこう大きな問題なのである。

「いやいや。まぁでもしょうがないのかもね。正直言って、私も実感が湧いてないし」

 呆れて苦笑しつつも、璃兜少尉がそう同意してくれる。その眦には涙が微かに浮かんでいて……笑って涙が出てしまった様子だった。

「不謹慎……と、言いたいところだが、正直に言おう。俺もだ」

 そんなみんなの態度に、ドゥ大尉は腕を組んで一瞬だけ難しい顔をしたが、それも本当に一瞬で直ぐに破顔して大げさに肩をすくめた。その仕草が以前の飲み会の時と同じで芝居がかっていたので、皆が自然と笑っていた。

「とりあえず……死なないことだけを考えよう。目下それを第一に行動だ」

「まぁそれが一番だな。それでドゥ、どうする? 確かに宗一少尉は降下訓練を行ってないぞ」

「パワードスーツの降下パックもないな」

 降下パックがないという言葉が出てきて何故?と一瞬だけ思ったが直ぐに納得した。人型サイズのパックが、FMEとの戦争で使われているわけがない。

「ならば真矢少尉。命令だ。宗一少尉を抱きかかえて降下だ」

「えぇ!?」

 とんでもない提案をされて、真矢さんが慌てふためいていたが……直ぐに気を取り直して敬礼した。

「了解しました」

「? 素直だな?」

「いえ、私にしか出来ないなと、思っただけです」

 皆が笑っている中、真矢さんが急に真面目になる物だから、皆面を喰らっていたが正直な話、真矢さんが一番正しい姿だと思えた。

「まぁ冗談はさておき……降下はマジで真矢少尉に抱きかかえられて行ってくれ。恐らくそれが一番問題ない」

「了解しました」

 流石に巫山戯すぎたと判断したのか、ドゥ大尉が態度を一変して隊長として、指示を出してくる。こちらとしても真面目な話の方がありがたかったので、話を真面目に戻すことにした。

「先にも言ったが、シャオロンが攻撃してきたという事は今のところない。だが宗一少尉の攻撃が有効だった場合……流石に反撃してくるだろう。あの巨体から繰り出される攻撃がどんな物か正直想像も出来ないが……回避を徹底しろ。最悪は装備を捨てていい」

 確かに、あの巨体から繰り出される攻撃を喰らってしまった場合、どう足掻いても……即死だろう。どのような攻撃かは謎だが、尻尾を振り回してきただけでも相当な脅威だ。

(100mのサイズだから尻尾だけで見ても……数十mはあるはずだしな)

 もしくはレーザーとか光線技とか、火球を吐いてくることだって十分に考えられることだ。考えすぎかもしれないが、いかんせんデータがまともにない相手なのだ。警戒するに越したことはない。

 というよりも本音を言えば、私が攻撃をしてデータ収集をしてから作戦に移りたかったというのが、全員の本音のはずだ。正直な話、行き当たりばったり感が出ているというのが私の本音だ。しかしそれでも作戦を急ぐ理由は、すでに聞かされている。

 後は私の攻撃が通じることを、祈るばかりだ。

「では各員、オーラスーツに搭乗し、輸送機に機体を積み込め。その後……作戦開始だ」

「「「了解!」」」

 ドゥ大尉の指示の元、全員が己のオーラスーツに搭乗する。私はオーラスーツではないので積み込む必要性がないので、いつも通り積み込み状況を見学するつもりだった。そんな私に……後ろから声を掛けてくれた人がいた。

「大丈夫ですか? 宗一さん」

 声に振り向けば……そこにいたのは心配そうに、顔を強ばらせる真矢さんがだった。何を心配してくれているのかは流石に私も分かるのだが……正直何も言えないのが本音だった。

「大丈夫です。多分」

 というよりも本当に実感が湧かないのだ。木刀が最強兵器でも意味が分からないのに、もしもこれが通用しなかった場合……この基地、そしてこの基地と同等の基地二つの計三つの基地。さらにその周辺の町全てがFMEに飲み込まれると言われても、本当によく分からないのだ。しかしそれを口にするのは流石に躊躇われたので、それを口にはしなかった。

 だが……見透かされていたようだ。

「その……正直に言わせてもらうと、私はこの作戦、賛成出来ないんです」

「それは……」

「分かってます。この作戦に関東平野の命運がかかっていることは。でも……だからって、その全てを宗一さんに押しつけるような作戦内容で、こんなのって……」

 ぶっちゃけ言えばそれは私も思った。確かに状況的にしょうがないのは分かっている。だがそれを差し引いても……私の木刀に関東平野の命運がかかっていると言われても、どう反応すればいいのかまったくわからなかった。

「だから……正直言ってどういえば良いのか分かりませんけど……」

 そうやって言葉を切って……真矢さんは俯いてしまう。きっと言うことを考えてくれているのだろう。作戦の直前で考え込みすぎるのもよくないと思って、止めようとしたのだが……直ぐに顔を上げて私を見つめてきた。

「たとえ、この作戦が失敗したとしてもあなたが……、宗一さんがここにいる意味が、絶対にあります」

「意味……ですか?」

 その言葉は意外だったので、私は思わず面を喰らってしまった。ここにいる意味と言われても……正直何を言いたいのか分からなかったからだ。しかしそれは真矢さんも同じだったようで……自身の言葉にどう表現して良いかわからないように、頭をこんがらがらせていた。

「あなたがここにいるのは……決してそのパワードスーツだけでも、マテリアル兵装だけでもない。あなたがここにいる意味が、絶対に何かあるはずです」

「それは……そうなのでしょうか?」

「私にも正直それが何かは分かりません。お体のこともありますし、宗一さん自身も分かってないんだと思います」

 体のこと……それはつまり私の初老という精神と、ガンに巣くわれた肉体の事を差しているのだろう。このことを知っているのは、この部隊では真矢さんだけだ。だから曖昧な表現をしてくれていた。

「ですが絶対に意味がある。ううん。意味なんかなくても、私は宗一さんの事を、好ましく思っています」

「それは……ありがとうございます」

 なかなか凄いことを言っているのだが……必死になって考えながら話を続ける真矢さんは、自身の言った言葉に気付いてない様子だった。しかしその必死さが……この人の人柄を本当によく顕していて、私は何も言わずにただ彼女の言葉を聞いていた。


「たとえこの作戦が失敗したとしても、宗一さんがここにいる意味を……ここにいて良いんだって事を忘れないでください」


胸の前で両手を力強く握りしめて……真矢さんはそう言ってくれた。その必死さと、その言葉が……どこか馬鹿馬鹿しく思えていた私の心に、素直に入ってきてくれた。そうして綺麗に敬礼をして……苦々しく破顔した。

「って、最初から失敗する気じゃ駄目ですよね」

「――そう、ですね」

 真矢さんの言葉で再起動して私は……真矢さんに釣られて苦笑いしてしまった。呆気にとられたというか、何というか……ともかく真矢さんの言葉は、私を考えさせるのには十分な威力を秘めていた。

『おーい二人とも。時間は迫ってるんだから、作業をしろ。特に真矢少尉』

「は、はい! すみません!」

 オーラスーツ越しにドゥ大尉がそういってきて……真矢さんは慌てて自らのオーラスーツへと走っていった。私は積み込む物がないため作業はないので……自身の右腕に装備されているパワードスーツの腕輪を左手で軽く撫でていた。

「私が……ここにいる意味」

 何故愕然としたのか? その理由を考えて……思い至った。私はそのことに何も疑問を抱いたことがなかったのだ。

 というよりもあまりにも荒唐無稽すぎて、考えている余裕がなかったというのが正しいのかも知れない。初老でガンになり、退職後に死ぬ覚悟を決めて、自らの奉納刀を再度神に納めようと神社に訪れた瞬間、平行世界に来たのだ。それも若返って。

 しかもその平行世界は異星起源生命との戦争中と来た。とてもではないが……物事を考えている余裕が無かった。

 無論いろいろ考えてはいたが……ここにいる意味という事は、考えたことがなかったのだ。それに疑問を抱くこともせず……ただ流されるようにこの世界で、生きていた。

「真矢少尉と何を話してたのかはまぁ……聞こえちまったわけだが」

「でしょうね」

 こそこそと内緒話をしていたわけでもない普通の会話を、未来世界の科学技術で造られた集音装置が聞き逃すはずもない。ただ別段まずいことは言ってないので、此方としても別段どうでもよかった。

「まぁ真矢少尉の言うとおり、ちょっとむちゃくちゃなのは俺も思う。だからまぁなんだ……」

 そういって一瞬間を空けるドゥ大尉。オーラスーツの中でバツ悪そうに……頬をかいているのが何となく察せられた。

「マジで、死ぬようなことだけは、なしにしような」

 作戦の正否ではなく、人員が亡くならないことを願って。軍人としては正しくないのかも知れない。だがあまりにも作戦が、こちらの世界においてもあまり常識的ではない故か、隊長自らそんな正否について問わずそういってくる。

 否が意味するところも分かっているはずだというのに。そんな言葉を言ってくる真矢さんとドゥ大尉に……私は苦笑した。

「ありがとうございます」

 俺を言うのは間違っているのかも知れない。けどそれでも……私はただそう呟いて、輸送機へと乗り込んだ。




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