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作戦準備

 山崩し作戦が発令されたことで、我々の部隊は一気に忙しくなった。何せ非番の次の日に指令が下り、作戦決行がわずか明々後日である。準備期間はたったの二日だ。てんてこ舞になるのも無理からぬことだと思われた。

『資材搬入の受け入れをお願いします』

「そこに置いておいてくれ。受け取りは副隊長の俺で問題ないか?」

『大丈夫です』

 私が今いるのは、パラレル部隊に割り振れらた格納庫である。作戦に向けての準備で大忙しの状況だった。特に一か月近くすでに稼働している、パラレル部隊のオーラスーツのオーバーホールを、昨日終えたばかりなのだ。それに伴った微調整という大事な作業を、ほかの隊員たちは行っている真っ最中だった。

「璃兜少尉。私のスーツの設定で知恵を貸してほしいんだけど、ちょっといいかしら?」

「了解しました」

「調整しました。照準及び発射願います」

「はい」

 全体的な流れの作業を煉道中尉が行っている。運送ロボットによって運ばれてきた物資の受領なんかも、責任者の一人として行っている。ほかは各々がそれぞれ必要な作業を行っている。

 燐中尉と璃兜少尉が、接近戦関係の話をしているのだろう。ゲイツ曹長と真矢さんは、スナイパーライフルの照準関係の作業を行っている。一ミリのずれが数キロ先では大きな差ができるために、髪の毛ほどの誤差も許されないのだ。慎重に、真剣に作業しているのが見受けられる。

 今も普段のホンワカした雰囲気とは一変した……文字通り狩人というべき鋭い雰囲気を漂わせて、真矢さんが登場しているオーラスーツが、オーラスナイパーライフルの引き金を引いていた。おそらく訓練モードなどになっているのでオーラは発射されないのだろう。そしてその中で最も忙しそうにしているのが――

「二丁拳銃の反応速度は?」

「ばっちりだな。問題ない」

「マテリアルバスターソードの具合は?」

「……わずかに違和感があるな。反応が本当に少しだけ鈍い」

「コンマ3秒……いや、コンマ3.32秒ほど反応速度を上げるか」

「いつもありがとうな、おやっさん」

「そう思うならもっと大事に乗れ」

 ドゥ大尉と秋雄少尉だった。二人とも鬼気迫る雰囲気で作業をしている。特に秋雄少尉の体から発せられるオーラは、もはや一種の結界だ。明らかに近寄れないほどの気迫を放って……指先の調整に全神経を集中している。

(どこの世界に行っても、日本人というのは職人気質なんだなぁ……)

 職人というのは、一種の化け物と称して何ら支障がない存在だと、私は思っていた。むろんいい意味である。職人と呼ばれる中でも、名を馳せた人物は……本当に言っていることが一般人のこちらの想像の埒外過ぎて、意味不明なことが多い。

(綾杉肌を独学の勉学とセンスで身に着けて、綾杉肌短刀を打った刀匠と話ができたのは感動したなぁ)

 綾杉肌という特徴的な刀の肌模様があるのだが、それは月山一派という方々が自身の祖先から脈々と受け継いでいまだにそれを門外不出として、その刀剣の鍛錬にいそしむ一族がいる。

 その方々から一切助言を得ず、自身の力のみで再現したすさまじい刀匠がいたのだ。その話を聞いたときはあまりにもすごすぎて思考が興奮しすぎていて、その瞬間はわからなかったのだが、その話を友人にしたら「月山の開祖と同じことしてるんじゃね?」と、言われて……思わず爆笑してしまったことがあった。

 そんな職人というぶっ飛んだ存在というのが、この世界にいることにも、何か感慨深いものを感じていた。

『こらソウイチ君! さぼらないで作業を続けたまえ!』

 私がふと懐かしい思い出に浸っていると、ダヴィさんからおしかりを受けてしまった。彼女は小型指令車……小型といっても装甲車くらいのサイズはある……に乗って、こちらに怒鳴ってきていた。

『オーラスーツの調整が必要ない君は、今日明日は雑用係で作業をこなすのと、私の実験に付き合うというのが決まったはずだ。雑用をさっさと終わらせて、私の研究室へと向かうのだからちゃっちゃと動く!』

「了解しました」

 そう、そんなパラレル部隊の人間全員が忙しく働く中、オーラスーツとは違い、あまりにも異質すぎるパワードスーツを装備している私には、調整作業というものがない。ゆえに補給される物資の格納庫内の運搬や輸送機への積み込みなどの、完全な雑用係と化している。

 パワードスーツの性能がすさまじいおかげで、運ばれてきた巨大コンテナ……2m四方の正方形……なども、空っぽの段ボール程度の重さしか感じない。そのため、私が投げ捨てるといった手荒な扱いをしなければ、危なげなく運搬ができる。

 また私自身の怪我の心配も、パワードスーツの防御性能の前では問題ない。この部隊は現時点ではまだ「真堂宗一が身に着けているパワードスーツ」という機密事項があるので、一般作業員を入れることができない。

 幸い荷物の運搬や簡単な作業などをこなすことができる、業務用ロボットは存在しているのでそこまで大きな問題ではない。ぶっちゃけ私がパワードスーツをわざわざ装着して雑用する理由は、雑用以外の理由が主だった。

 ダヴィさんがいることでわかるだろうが、私のパワードスーツのデータ収集のためである。戦闘行動以外のデータを収集することで、何か新たなデータや思い付きや閃きなどが得られないかと、ダヴィさんが私に中佐として命令してきたのである。

 私としても皆が忙しく作業をしている中、暇そうにしているのも座りが悪いので渡りに船ではあった。

『オーラ感応値的には、ソウイチ君が生身で日常的に動いた時と大差がない。しかし事実として、パワードスーツを身に着けているはずだというのに、どうして変化がないんだ?』

『ソウイチ君とスーツに直接的な装置が取り付けられないのが痛いな。外部カメラの映像解析ではどうしてもわからないことが多すぎる』

(白熱してるなぁ)

 ぶつぶつと……高速で繰り出される、意味の分からない言葉をダヴィさんがつぶやいている。装甲車もちょっとした観測が可能……普段使っている大型観測車は、この格納庫に入れなかった……であり、そのためその車両の中から、私のデータを解析しているのだろう。

 そして聞こえてきた言葉の通り、私の体とパワードスーツには計測機器などが装着できず、外側から見たデータしか計測できないという問題があった。

 歩兵用の通信機と録画装置は取り付けられたのだが、なんというか……それ以外は受け付けないといったように、ほかの機器類はすべてはじかれてしまうのである。パワードスーツ着用後にスーツに取り付けようとしても、普段は装甲と言わんばかりに固いのだが、機器を取り付けた部分のみ液体金属のように流体になって地面へと落ちるのである。

 まるで意思でもあるかのような反応である。

(実際問題……有用だから助かっているのだが、このスーツは一体何なんだろうな?)

 自在に姿を変えている……というわけではないのだが、しかしそれでも先ほどの装置などを拒絶するようなときは、流体金属のような反応を見せる。しかし普段はすさまじい頑健性と柔軟性、衝撃吸収性を備えたトンデモスーツ。これを着るだけで、一般人でしかない私が、漫画やアニメに出てくるような、超人と同じような能力を得るのだ。しかも動力源が謎だが……オーラマテリアルによって形成されていることから、私の体力を動力源として動いているのだろう。

 しかもただ超人的能力を得るだけでなく、右腕に装備されたアームキャノンからは、すさまじい威力のオーラが弾丸のように放出される。その発射された弾丸は……FMEを楽々と一撃で殺すことができる威力を秘めている。

 挙句の果てに防御性能についても、群を抜いている。何せ人型種とはいえ、無防備に攻撃を受けたというのに、パワードスーツに傷一つつくことがなく、装着者であるいわば中身である私の体にも、一切の影響がなかったのだ。

 アームキャノンの威力、防御性能についても、どちらも現段階では人型種のみしかまともなデータがないのだが……これで終わるとも思えない。仮にこれで攻撃力や防御力が打ち止めであったとしても、かなりの有用性があるのが確かなのだ。

『どうして計測機器が取り付けられないのか? ソウイチ君はともかく、パワードスーツに関しては明らかに、拒否といえる反応を示しているものねぇ』

「それについては同意しますね」

 ダヴィさんの独り言に、私は素直にそう言葉をぶつけていた。何せ明確に計測機器のみが着用できないのだ。これはパワードスーツが明らかに着用を拒否しているととらえて何ら問題がない。そしてそれによって別の問題が発生することになる。すなわち……パワードスーツとは果たして何なのか? という実に根本的問題である。

 このパワードスーツがこの世界に出現し、さらに運用されてからすでに数か月の時間が経過している。その間私に害は全くなく、また異星起源生命体との戦争中という世界情勢のため、戦時的に有用な装備であるパワードスーツは、意味不明な存在でありながら運用されている。

 一応オーラマテリアルという夢の液体金属が変容したという事実があるため、運用されているのだが、戦時中でなかった場合明らかに人体実験と言えなくもない状況のため、世論が黙っていなかっただろう。

(まぁそんな世論など人類存亡を賭けた戦争中というお題目の前には無意味なわけだが)

 現時点では毎日の検査……といっても、基地の測定機器で普通に生活しながらほとんど問題のない検査ができる……で異常は検出されていない。また仮に検出されていたとしても、人類存亡以下略を考えれば、よほどでなければ無視されるだろう。

(しかもその人間が並行世界の人間だしな)

 極めつけが、装着者は並行世界からやってきたと宣っている人間だ。常識的に考えて、そんなことなどあり得るわけもない。一応信じてくれているようだが、信じたふりをして利用しているということも、ありえなくはないだろう。

(まぁいろんな意味でそんなことはなさそうだが)

 ダヴィさんが少しだけ心配……マッド的な意味で……だが、しかし今のところ一部の例外を除いて人格者しかいない。有用なのは間違いないだろうが、それでも人体実験的な意味で、私を酷使している人物はいないと断言できた。

 そういった問題を無視したとしても、不安がないといえば嘘になる。それは私だけでなくほかの人間も一緒だろう。作戦行動中に突然パワードスーツが故障して使用できなくなれば、部隊全員を危険にさらす。もしくはそれこそ山崩し作戦の最中に使用できなくなり、シャオロンが討伐できないと判断されれば……前線基地三つはFMEに飲み込まれてしまう。

 ほかにも考え出せばきりがないのだが……突如出現したパワードスーツという兵器は、強力でありながら不明な多々あって、非常に不安定な兵器といえた。

 兵器という……人の手が介在した武器に「不安定」などという状況は、本来であればあってはならない。何せ命を預ける兵装なのだ。不具合ですら忌避されるのに、不安定など言語道断と言っていいレベルの問題である。

 しかしそれを運用しなければ、まともにシャオロンに攻撃すらできないというのだが……ダヴィさんとしても、非常に歯がゆい思いなのだろう。しかもシャオロン討伐のための新兵器を、開発中という身の上だ。開発者として、意味不明な存在に上に行かれてしまって……何も思うところがないわけがないだろう。

『さすがに体を切り裂いて、計測機器を埋め込むってのはちょっとねぇ。しかもそれで問題なかったらいいけど、拒否反応起こされてパワードスーツが動かなくなった場合、目も当てられないしね』

「そこは私の人権を多少は配慮してくださいよ?」

『……しているよ? もろちん?』

「わざとらしく間を開けた、上に変なこと言わんでください」

 つけられないのであれば、埋め込むという思考に行き着くのは、そう難しいことでも不思議なことでもない。ただダヴィさんが言っていたとおり、それで動かなくなった場合という最悪の事態を想定すれば、まだ強硬手段に出るのは時期尚早といえるだろう。

『まぁだからこうして雑用時なんかのデータすら、貴重というわけだね』

「なるほど」

 一応パラレル部隊のオーラスーツに、パワードスーツを計測するための簡易な計測機器は、後付けで取り付けられてはいるのだが……いかんせん計測車両などに比べれば精度が落ちる。ダヴィさん的には今の計測車両よりも、普段使っている大型車両を使用したいというのが本音だろう。

 なんというか……なんとなく察しはつくのだが、今のダヴィさんは少々情緒不安定といえなくもないだろう。

『搬入は終わったかな?』

 そうしてある程度無心で作業していると、無事に作業を終えた。そのため……私に待っているのは、作戦に支障を来さないレベルでの実験だった。

「そうですね」

「なら私の研究室に行こう!」

 私の台詞に食い気味に、装甲車から出てきたダヴィさんが、うきうきとした表情と声でそういってくる。しかしその瞳には何か言いようのない悲壮感というか、悔しさが混じっているように見えて……必死になって自分を押し殺しているのが察せられた私は、内心苦笑しつつそれに頷いていた。

 



 しかし研究室に行って思いつく限りの実験をしたとしても、劇的に変化があるわけもなく……パワードスーツの性能が向上したことしか分からなかった。とりあえず向上しているのは間違いないので……意味不明な装備に目を瞑ることしかできなかった。




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