山落とし
「まさか……」
この話の流れから……何故私たちパラレル部隊が呼び出されたのかを、真矢さんが理解して声を上げる。それは私も同様であり……部隊全員が共通して認識出来たと考えて良いだろう。それが分かったのか……千夏司令が大きく頷いた。
「極東一号作戦の前段階として……シャオロン討伐作戦が計画された。作戦名は、『山落とし』。その作戦を……貴様らパラレル部隊に任命する」
予想通りの言葉だった。しかし気になるのが、何を持ってして……この作戦が決行されるに至ったのかだ。このまま放置すれば、敵の縄張りが広がるのは火を見るよりも明らかなのは分かる。故に、極東一号をどうにかしなければならないのは、理解出来る。
だが、その最大の障害であるシャオロンを、討伐することが出来ると至った理由が知りたかった。
「質問しても?」
「許可する」
再度ドゥ大尉が挙手をして質問の許可を求めた。千夏司令も今度は頷くだけでなくキチンと返事をしていた。先ほどよりもドゥ大尉の言葉が固い感じがしたので、何とか必死になって感情を抑えているように思えた。
「作戦立案はけっこうだが……まさかうちの部隊だけなんて、冗談は言わないよな?」
「無論だ。貴様らが作戦を行う際は、別の部隊が周辺のFMEに対して対処を行う」
「逆に言えば……それだけということか?」
シャオロンがどのようなものか私は今知ったばかりなので、何とも言えないが……あれだけの巨体だ。普通に考えれば大規模な討伐作戦が、立案されてもおかしくない。しかも最強の兵器が通用しないという、データもある。
だというのに、作戦に従事するのはパラレル部隊のみ。これでは常識的に考えれば、死んでこいと言っているのと同義だろう。
「そうだ」
そう暗に確認したドゥ大尉の言葉に、千夏司令ははっきりと頷いていた。それに対して……ドゥ大尉は大きく息を吸って、一度息を止める。そして少しして……大きく吐き出した。
嫌みったらしく大きく溜息を吐いて、喧嘩を売るのかと内心で私はハラハラしていたのだが……どうやらそんなことはしないようだ。
「山落としだけを聞いていたら切れていたところだが……範囲拡大を聞かされては仕方ないか……」
(確かに……)
FMEの縄張りが拡大してしまえば……この辺りも危ないのは誰もが分かっている事だ。ならばそれを阻止するために立案された作戦を、不可能だからと一蹴するような人間は、この部隊にはいなかった。
「そしてこんなむちゃくちゃな作戦を立案したって事は、ある程度の勝算があると言うことで良いんだよな?」
「もちろんだとも。それについては私から説明させてもらおう」
ドゥ大尉の質問に、ダヴィさんが元気よくそう返事をしながら、新たな画面を出現させた。映し出されたのは……私が纏っているパワードスーツと、その横に表示された数値。その数値は前後というように、左よりも右の表に記載された数値が、どれも左よりも上回っていた。ほぼ間違いなくビフォーアフターの表だろう。
更に別の画面が表示されて、そちらに写っているのは私が先日初陣にて討伐した、グカムボを殴殺した瞬間の画像だ。更にその隣に何かを表す数値が、映し出されている。
「これはソウイチ君のここ最近の戦闘的数値の変化を示したデータだ」
「これ、オーラスーツ着用者のデータ表記という事でいいんだよな? 確かか?」
「私が表記ミスをするとでも?」
ダヴィさんが示したデータが何か問題があるのか、ドゥ大尉が先ほどよりも強ばった声で確認するが、それに対してダヴィさんはあっさりとそれを否定する。その言葉を聞いて……質問したドゥ大尉だけでなく、部隊全ての人間から深々と溜息が出ていた。
「こいつ、本当に意味がわからんわ」
「これはこれは……」
「本来嫉妬すべき何でしょうけど、ここまでだと、逆に引くわね」
「ホントですね。私も何というか……凄すぎて意味が不明ですね」
「……確かに」
(真矢さんまで!?)
それなりに私のことを、擁護してくれる真矢さんまでも遠い目をしていて……少々私もショックを受ける。といっても私自身、これがどれほどやばいのかは分かっていなかった。
「ダヴィ中佐。宗一がわかってないようだから、オーラキャノンとのデータと比較した物出してやれよ。あるんだろ?」
「もちろんだとも」
秋雄少尉の言葉に、ダヴィさんが大げさに頷いて……その資料を写しだした。そして……それを見てようやく私も、皆が驚いている理由を察した。
「……オーラキャノンの着弾時よりも数値が高い?」
映し出された資料には、シャオロンにオーラキャノンが着弾した時に計測された数値と、私がグカムボを殴殺した時の数値が、画像データと一緒に映し出されていたのだが……その数値が、オーラキャノンの数値よりも遙かに大きな数値となっているのである。
「そう。ソウイチ君自身が呟いたとおり、君がグカムボを殴ったときの数値が、驚いたことに、オーラキャノンよりも数値が高かったのだよ」
「し、しかしそれだけで――」
それだけでは対象が違うので分からないだろう? そう返そうとした私の言葉を遮るように、ダヴィさんが更に新たな画面を表示させる。
そこに映し出されたのは、先ほど見たオーラキャノンよりも更に大型になり、各部パーツなども増えている新型と思しきオーラキャノンと、そのカタログスペックと思しき表だった。
「当然これも守秘義務があるので、漏らさないように。これは私が今現在開発している、新型オーラキャノンのカタログスペックになる」
喜色半分、悲しさ半分とでも言えばいいのか……何とも表現しづらい声で、ダヴィさんはそう言い放って説明を続ける。
「一応改良には成功しててエネルギー効率や連射性、整備性、もちろん威力も格段に向上しているんだけど……ソウイチ君には負けてしまっていてね」
「ほう? 負けず嫌いのダヴィが認めるとは珍しいな」
「どれほど言葉で虚飾しても、事実は事実だからね。受け入れられないのは学者失格だよ」
深々と……苦々しい思いを吐き出したのがありありと分かる渋面で、ダヴィさんが溜息を吐いていた。その顔が何というか少しコミカルで笑えてしまって、皆の雰囲気が少しだけ和らいだ。
「まぁそういうわけだ。悔しいことに現時点で、世界最強の攻撃を有しているのは、ソウイチ君以外に存在しない」
「それはまぁそうなのかもしれませんが」
「無論、これだけではソウイチ君が最強という結果のみで、それがシャオロンに通用するかという疑問が生じるだろう。そして……それすらも可能と示唆するデータがここにあるのだよ」
そういって映し出されたデータは……シャオロン着弾時のデータと、私がグカムボを殴殺したときのデータだ。それに何か小難しい計算式で何かを算出し……データ数値が表示されていた。
「これは私なりの計算式なんだが……私的カオス統計学で算出すると、ソウイチ君のマテリアル兵装木刀であれば、シャオロンのオーラバリアを突破出来ると算出された」
(カオス統計学って何なんでしょうかね?)
と、実に純粋な突っ込みをしたかったのだが……誰も何も言わないので、空気を読んで黙るしかなかった。
「FMEの巣の進化の兆候、驚くべき事にオーラキャノンすらも超えたソウイチ君の攻撃力、そしてカオス統計学の計算結果。以上の理由から……私はシャオロン討伐が非現実的ではないと、そう判断した」
きっぱりと……ダヴィさんはそう断言した。しかしその声色が微かに震えていること。そして、言い切ったその表情が……少し歪んでいるように見えた。何よりも、わずかに震えているように見えるその体が、しっかりと恐怖していることを物語っていた。
恐らく誰もが気付いているだろうが、誰もそれを茶化すような者はいなかった。何せ……この基地がなくなるかもしれないことを、この場にいる人間だけが理解している。それはつまり……基地だけでなく秩父の町が消えることと同義。そしてそれはこの秩父だけでなく、他の関東平野外縁部に築かれた町なども同じ目にあうことになる。
(正直に言えば……前線に出るわけではないのにと思わなくもないのだが……)
ダヴィさんは技術仕官だ。ほぼ確実に前線に出ることはないだろう。しかしそれでも技術仕官として、シャオロンを倒すための新兵器の開発。FMEの巣が成長することによる縄張りの拡大。それに伴った関東平野の変化など……あらゆる面で恐怖と戦っているはずだ。それをあざ笑うことなど……誰にも出来るわけがなかった。
「まぁ正直に言えば……やりたくないんだが、やるしかないわな」
がりがりと粗野に頭を掻き毟りながら、ドゥ大尉がやる気なさそうにそう呟いた。しかしそれを咎める者はいない。その体からにじみ出る戦意を、誰もが感じ取ったからだ。
「作戦の具体的な内容は?」
「三基地合同で、それぞれ二部隊ずつ派遣し、外縁よりも更に中側に侵入し、FMEがシャオロン援護に向かわないように、間引き作戦として掃討を行う。その間に秘密部隊として貴様らパラレル部隊が強襲。シャオロンに輸送機にてある程度近づいた後、攻撃を仕掛けてシャオロンを討伐してもらう」
「弱点は想定通り、頭部と体内のコアであると認識していることで、問題ないでしょうか?」
煉道中尉の言葉に……私は再度講義で習ったFMEの生体について思い出していた。流体金属生命体とでも言うべきFMEには、内臓器官というものがない。そのため、通常の生物と違い、肉体の一部の損傷に伴った内臓の損傷による、機能不全に伴った生命の危機という物がない。
そんなFMEだが、一応有効に攻撃出来る部位があった。それが頭部と体の中心にあるとされている……コアである。といっても解剖したことすらないFMEの生命としての特徴は未だ一切解明されてない。統計的というか……長年の戦争によって培ってきたFMEの弱点と思われる場所が、その二つだと言うことである。
それがシャオロンに当てはまるのかは謎なんだが……逆に言えば当てはまらない場合本当にお手上げと言うことになる。
「その通りだね。体内の中心部は流石に無理だろうから……ソウイチ君には頭部を潰してもらうことになるかな」
「ずいぶんと巨大な……兜割な事だ」
「? カブトワリ?」
「失礼。独り言です」
説明しても良いのだが……ちょっとめんどくさく思えたので、今回はスルーさせてもらうこととした。本来のダヴィさんであればもっと聞いてくるのだが……流石の大規模作戦前ということで、緊張しているのかも知れない。そしてそれとは別に、私からも聞きたいことがあった。
「それともう一つよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「わからないので教えて欲しいのですが、シャオロンが徘徊しているだけなのですよね? ならばオーラキャノンで巣に直接攻撃をして、成長阻害をするのでは駄目なのですか?」
そう、それがどうしても疑問だった。超大型がいるために巣に対して攻撃することに、二の足を踏むのは理解できる。しかしその大型がただ徘徊しているだけなのならば、そのオーラキャノンで直接攻撃をすれば十分成長を阻害させることが出来るのではないのだろうか? と。
この私の素朴な疑問に答えてくれたのは千夏司令ではなく、ダヴィさんだった。
「確かにその方が効率的だ。そしてそれは誰もが考えることなんだけど……それをしないのは、極東一号とシャオロンの厄介な関係が関係しているんだよ」
「厄介な関係?」
私は言っている意味が分からなかったのだが、他の隊員は誰も疑問に思っていないようだ。ということはその厄介な関係というのは、それなりに有名な話なのだろう。
「まぁソウイチ君が知らないのも無理はないので、私が解説しよう!」
そういって投影されたディスプレイは三つあり、オーラキャノン、シャオロン、巣がそれぞれ映し出されていた。そしてオーラキャノンから巣へと向けて発射されたその光は、見えない壁に阻まれた。そしてそれと同じ瞬間に、シャオロンが発光している現象が見られた。
「この映像を見て分かると思うんだけど、巣へ攻撃したのと同時に、シャオロンが発光しているのが確認された。そして何度も攻撃を行い研究を重ねた結果、シャオロンが巣のオーラバリア発生装置だという、結論にいたったのさ」
それを聞いて私も納得した。それならば巣を攻撃しない理由も、シャオロンを討伐しなければいけない理由にも説明が付いた。私の質問が最後だったようで、ここで一度場が静まった。それを確認して千夏司令が頷き、指示を発する。
「作戦開始は三日後、朝0800となる。装備の調整、準備を整えろ」
「「「了解」」」
千夏司令の言葉に内心で少し驚いた。時間があると先ほど言っていたので、一週間ほど先かと勝手に思っていたからだ。しかし先に二人が言っていたが、時間をかけたところで何か新兵器が開発ないし、完成されるわけでもない。
また最悪……失敗したときのことも考えれば、その後の行動も考えることが出来る。速いに越したこしたことがないのはその通りといえた。
「宗一に関しては体を整えておけ。分かっていると思うが休みではないので、酒などで明後日の作戦に支障を来すような事は許さん」
「待った千夏司令。なら私からお願いしたい任務がある」
「良いだろう。宗一暫定少尉は、ダヴィ中佐の指示に従うように」
「了解いたしました」
前夜にならなければ何とも言えないが……緊張して眠れなくなりそうで怖かった。私は酒を飲むと眠りが普段よりも更に浅くなるので、寝酒をしても全く意味がない。そういう意味では、この体質に感謝出来たかも知れない。
(まぁ……若い頃に夜中に何度も起きるのは辛かったが……)
寝れないのはけっこうきついのである。睡眠薬にこそ手を出さずに済んだのだが……それでも眠れないのは辛いのである。
「この作戦には、言うまでもなく多くの人命、資源、そして……思い出を賭けた作戦の前段階とも言うべき物になる。総員……気を引き締めて任務を行うように」




