部隊の人員について
「やっかみですか?」
新たに日本酒を頼みながらのそのセリフに、私は疑問符を浮かべるしかない。特別待遇が多いのは理解できているので、言われるのもやむなしを言ったところではあるだろうが、何に対して言われるのかがわからない。
(優遇されすぎも考え物か?)
歴戦の勇士しかいない部隊、新造された新型輸送機。他の人が聞いたらぶっ飛ばれそうな考えである。そう思っていると、ドゥ大尉が私の肩に手をまわしてきて、耳打ちしてくる。
「下種な話になるんだが、美人が多いんだよこの部隊」
「あぁ、なるほど」
それに関して私は大きく頷いた。真矢さん、璃兜少尉、燐中尉の三名は、間違いなく美人に入る。真矢さんは背丈の低さ、童顔ということでかわいい系に分類され、璃兜少尉はどちらともとれる顔の容姿をしている。燐中尉は間違いなく美人系だ。というか燐中尉の顔の造形は、まじめにモデルでも通用すると思われた。
(しかも前線に出たときのすっぴんでも、三人とも抜群の美人度だったしな)
本日は三人ともうっすらと化粧をしているようだが、部隊の作戦行動中は女性陣三人誰もが化粧をしていなかった。私という新人を慣れさせるための間引きのような作戦であったため、歴戦の勇士たちから見たら軽い任務だろうが、それでも任務だ。化粧に気を使っている場合ではないということだろう。
(その上三人とも……目を引く肢体をしていらっしゃる)
さらにもっと下種なことを言えば、三人とも顔だけじゃなくスタイルも非常によろしい。軍人ということで太るわけがないというのもあるだろう。そして筋肉質ではあるが、かといってボディービルダーを目指しているわけではないので、筋肉モリモリマッチョウーマンには、なっていないのである。
(さらに見事に大中小になっているのが、非常に面白い)
女性という性別を最も主張する肉の丘が、背丈に反比例するようにサイズ差があった。背丈は高い順から言って燐中尉、璃兜少尉、真矢さんなのだが、胸のサイズは逆で大きい順で真矢さん、璃兜少尉、燐中尉、となっている。
反比例と表現したが、真矢さんが突出してでかく、璃兜少尉は巨までいかないレベルで十分大きく、燐中尉は二人に比べれば小さいが、しかし服の起伏を見ればもめる程度にはあると思われるので、決して小さくはない。
背丈は燐中尉が私より少し低いくらいなので、私の世界の日本人成人女性の平均身長は超えているので女性にしては背丈が高く、璃兜少尉はおそらく平均。真矢さんは普通に首を下に傾けるほどなので、かなり低めになる。
顔や背丈に体のプロポーションから、燐中尉は間違いなく超絶といっていいほどの美人。璃兜少尉はどちらにも思える顔の造形に、結構な大きさの胸に標準的な背丈でいわゆる中性的な美人。真矢さんは童顔に小柄ともいえる体躯でありながら巨乳。真矢さんについては、一部の界隈から非常に熱烈なアプローチを受けそうである。
「ちなみに部隊内恋愛は禁止ではないが……一応いろんな意味で覚悟を持ってやれよ?」
「覚悟は十分理解できますが、いろんなとはどういう意味でしょう?」
「一つは言わんでもわかるだろうが死に別れだ。あとはまぁ……恋愛のいざこざで、後ろから撃たれたなんて笑い話があったりなかった」
「シャレにならんでしょうそれ。どっちなんですか?」
ひそひそと話すドゥ大尉の言動が少々怪しくなってきた。顔を見てみればすでに赤らんでいるので、酔っぱらっているように見えなくもない。そこまで飲んでいないと思うのだが……あまり強くないのかもしれない。
「二人でいつまで内緒話してるんだ?」
そうして酔っぱらいに絡まれる図が完成しつつある中、救いの男性がこちらにやってきた。煉道中尉だ。
「もう酔ってるのかドゥ。相変わらず弱いなぁ」
「ちなみにこいつの奥さんマジで美人だからな。見たら腰を抜かすかもしれないぞ」
「なんで咲の話になってるんだ? あぁなるほど。そういうことか」
「何がそういうことかだ愛妻家! というかあの咲がよく許可をくれたな?」
「お前のお目付け役だって言ったら、快く許可してくれたよ」
実に仲良さげに話しながら、煉道中尉が私とドゥ大尉の対面に腰かけて、ビール瓶を差し出してくれる。
「こいつはいいやつなんだが、見ての通りあまり強くなくてな。ある程度になったら止めてやってくれ」
「承知しました」
すでにそれなりに酔っているようで、私の肩に体を預けてきている。しばらくして復活しないようなら横にした方が良いだろう。
「咲は美人で有名でな。こいつとの結婚の時はそれはそれは大騒ぎだったぞ」
「人のことを話してるようだが、お前だってエヴァっていう美人の恋人いるだろ? 特殊なのは分かってるが、いい加減覚悟を決めたらどうだ?」
私が介抱しようと考えている間に、煉道中尉が手早く介抱を始めてしまった。
「俺とあいつは、今のままで良いんだよ」
「まぁ人の恋路にどうこう言うほど、野暮じゃないからもう言わないが後悔しないようにな、って……寝てやがる」
宴もたけなわなんて時間ではない。開始して直ぐに酔いつぶれてしまっている。これでは弱いではなく、飲まない方が良い体質ではないかと心配してしまう。
「安心してくれ。こいつはいつもこうで、健康診断でも一切引っかかったことがない超健康体だ。面白いのが一度寝てしばらくしたら復活して、食べて飲んでって始めるタイプだ」
「なるほど」
そういう類の人間は私の周りにもいたし、本当に煉道中尉が手慣れているので、いつものことなのだろう。飲み方も一気飲みとかではないのでそこまで心配ではない。急変しそうであれば対処すれば良いだろう。
「しかし何というか、手慣れてる感じだな? お前さんの地元では飲み会ってのは、やっぱり多かったのか?」
小さめの宴会場を貸し切っているが、それで大声でいうわけにもいかないので言葉を濁して聞いてくる。やはり並行世界という強烈な存在は、興味を惹かれるということだろう。
「そうですね。私の職場はあまり多いほうではありませんでしたが、四月の年度切り替えの歓送迎会、暑気払い、年末の忘年会は、職場全員で合同で行っていました」
これがまともな人間しかいない部署なら楽しい以下略。ちなみに年度切り替えが一緒で4月なのも、すでに確認済みだ。
「暑気払いってなんだ?」
「こちらも夏は暑いでしょう? ぶっちゃけて言えば暑さにかこつけて飲みの口実を作っているだけですよ」
「酒についてはどうなんだ? ビール飲んでケロッとしてるし、強いほうか?」
「弱くはないと思いますが……ビールで度数強い感じなのですか?」
ビールはアルコール度数5~6%のはずである。もちろんそれで酔える人はいるし、ぐでんぐでんになる人もいる。私は体調に問題なければビール350ml缶2本に、四合瓶の日本酒一本を一晩で空けられる程度だ。弱くはないが決して強くはない。
しかしそれはあくまでも私の感覚だ。この世界では違う可能性もあり得る。
「強くはないが、結構貴重品だなビールは。土地柄米を作ってるからな。大和で酒といえば大和酒がほとんどだ」
「なるほど」
予想通りの言葉にうれしいやら悲しいやら。軍人の飲み会だというのに瓶ビールの数が少ないのと、飲み方がけっこう慎重というか、味わって飲んでいる感じがしたのでもしやと思ったが、予想通りだった。そしてビールが貴重品ということを考えれば、洋酒は壊滅的かもしれない。
(ワインはあるとうれしいなぁ)
ちなみに私の好きな酒は日本酒、ワイン、ビールである。ブドウについては日本でも生産し日本産ワインがあったはずなので、珈琲と違い生産が不可能ではないはずだ。たまにでもいいから、ぜひとも飲みたいものである。
「口ぶりから言って大和酒も行ける感じか?」
「口に合えばですが……」
「なら飲んでみようぜ」
そういってすでに寝てしまったドゥ大尉が、頼んだ大和酒が来たのでお猪口で乾杯することになった。
「あら、男三人でなに悪巧みしてるのよ? まぁ今は二人か」
「悪巧みなんてしねぇよ燐さんよ。こちとら愛妻家だぜ?」
「悪巧みがそれだけって訳じゃないでしょ?」
そういいながら、嬉々として燐中尉がこちらにやってきた。新人に平行世界の人間なのだ。暇が出来るわけがないとは思っていたが、なかなか料理を味わうのは難しそうだ。
(ただまぁ……順番で来てくれているので、その辺は気を遣ってくれているのだろうか?)
「あら、大和酒もう頼んだの?」
「ドゥがな。まぁこいつもしばらくしたら起きるだろ」
「いつものことね」
燐中尉が肩をすくめて苦笑していた。このやり取りから察するに、三人ともそれぞれ何度か飲み会を経験したことがあるようだ。
「同期とかですか?」
「俺と燐中尉はそうだが、ドゥは違うぞ? こいつは……言っていいと思うか?」
「いいんじゃない? 最低限のことは。みんな知ってるし」
言葉を濁した煉道中尉が燐中尉に確認を取って、燐中尉がそれに答える。会話の中身から言ってそれなりにプライバシーっぽい話のようだ。
「こいつはアメタリカ移民の末裔でな。欧州で生まれ育って軍人になって、優秀ということで大和に派兵されてきたのさ」
「派兵ですか?」
この軍隊は基本的に自国防衛が主な任務である。しかしこの世界では軍備を持つ余裕がない国や、最低限の戦力しか持てない国もあって、それらに兵力の派兵を行う世界的な軍事組織がある。それが国際軍事光晶軍、通称WOAと習った。
「ドゥには双子の兄がいるんだが、二人共ども世界的に有名でな。そして二人とも最前線で戦いたいと志願したんだ。ドゥは大和国の最前線の秩父で、兄はシアロのナウカンっていう、アメタリカ大陸目前のマジもんの最前線に派兵を志願した」
「ナウカン?」
シアロというのは私の世界でいうロシアなのは勉強で知っていたが、ナウカンがわからない。それは煉道中尉もわかっていたのか、立体画面を起動させて地図で図示してくれて、私は絶句した。
「目と鼻の先レベルですね」
北アメリカ大陸と本当に目と鼻の先レベルの場所であるところだった。
(現代世界でもロシアの北のほうは寒すぎて人が住めなかったはず。オーラマテリアルのおかげってことか?)
極寒のロシアの町では、車なんかは一度エンジンを入れたら、エンジンを切ることができないらしい。何せ氷点下70度とかいうすさまじい寒さだ。一度でも切れば中で発生した水分等が一瞬にして凍り付いて二度と動かなくなるという。一分もあればバナナで釘が打てるようになるという。
北方いうのはそれだけ寒いのだ。そんな極寒の地に前線基地を建設できるのは、恐ろしいことだと思えた。
「もう知ってるだろうが、ドゥは気さくな奴でな。俺と燐中尉が任官して数年後、ひょんなことから同じ部隊に配属になってな」
そう考えればそれなりの年月交友していると思われた。しかもただの交友ではなく、同じ部隊の仲間として互いの命を支えあってきたのだ。そのうえで互いに気が合えば、仲良くなるのも当然といえるだろう。
「世界的に有名だったが、さすがに一度も戦闘を見ないわけにはいかないので、俺たちの部隊に配属されてな。それがなれそめだ」
であれば仲の良さも納得ができるというものである。
「でも最初の挨拶でもしてたけど、少し飄々というか、芝居がかったことが多いもんだから最初は少しだけイライラしたのよね。それも戦闘中も結構変なこと言ったりしているし」
「そうでしたか?」
燐中尉の話から、今までともに戦った時のことを思い出すが、戦闘中に変なことを言っている記憶はなかった。
「最近はしないわね。だから普段お茶らけられるところは、お茶らけてるって感じかしら?」
そういってお猪口の日本酒……大和酒をグイっと男らしいしぐさで一気飲みする。見た目にそこまで変化は見られないので、燐中尉はそれなりに強いのかも知れない。
「そんなに気にしなくても、私はドゥほど弱くないわよ?」
「それは失礼しました」
「別にいいわよ。ほかの人を結構見てるみたいだけど……それもあなたの地元では普通なのかしら?」
「普通ではないですが……まぁ性分ですね。飲みつぶれている人の介抱は、よくしていたので」
大学時代、長年の勤務生活。その間あまたの飲み会があったが、性分でほかの人のことが結構気になってしまうのだ。というか、私の場合後輩らしい後輩が入ってくるのが結構遅かったので、一番の年下時代が長かったのも大きな影響だろう。体育会系の鉄則として、下っ端が仕事をするのが基本なので、酔っ払いの介抱や忘れ物とかのチェックもしていた。
(まぁ最初はめちゃくちゃ弱かったし、お残しの処理は親友に任せっきりだったが)
バカ真面目だったために酒を飲んだのは大学に入ってから……飲酒は20歳を過ぎてからにしましょう……だったが、そのため最初は全然飲めなかった。
高校時代から自身の酒豪の父親と飲んでいた……飲酒は二十歳になってから!……親友が鍛え上げてくれたおかげで、人並みになったものだった。そいつは酒豪の父を持つためか、一晩で一升瓶を二本飲み干す男で、本当に強かった。
(……元気にしてるかなぁ)
酒を飲んだからか、大学時代の親友たちの顔が頭に浮かんでしまった。皆それぞれ年齢を重ねてきたため、いつかは誰かが死ぬのはわかりきっていたのだが、まさか私が行方不明になるとは私を含めて、誰も思いもよらなかっただろう。病気のことは伝えているので、長くはないとはすでに知っているが、行方不明になったことで心配をかけていなければよいのだが。
「まめねぇ。まぁでも、こういうやつがいるからほっとけないってのは確かにあるけどね」
そういってそばで寝ているドゥ大尉の頭を小突いていた。
「それよりもあなたの小説の続きを聞かせてくれない。独創的過ぎて面白くって」




