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歓迎会

「ではこれより、宗一・真堂の歓迎会を開催する!」

「「「「「「乾杯!」」」」」」

 夕刻。真矢さん、璃兜少尉、燐中尉とともにやってきた店内にて、宴会が開かれた。部屋は宴会場と思しき場所であり、畳敷きでそれなりに広く襖などで仕切られているので、ある程度気を使わないでもどうにかなりそうである。

 メンバーはパラレル部隊のメンバー全員だ。煉道中尉も無事に奥様に許可をもらえたようだ。乾杯の音頭はリーダーであるドゥ大尉が行った。

 乾杯で供されたのはビール。乾杯が出たので、手に持つコップに注がれたビールを飲んでみたが、味的には問題がなかった。

(ビールの味については、問題ないと)

 味わい的にリキュールではなさそうだった。また料理については、現時点で机に並んでいる物に関しては、そこまで違和感のあるものではなかった。細長い皿に野草のおひたしが三種が盛り付けられており、小鉢に小魚の南蛮漬け、豆腐の冷ややっこといった……実にヘルシーなものが並んでいる印象である。

(……基地ではそれなりに問題なかったが、何かあるのか?)

 案内された歓迎会の会場のお店は、どう見ても日本の居酒屋という感じで、西洋風ないし中華風の建築物ではなかった。そのため出てくる料理が、日本食と似通っているのは別段不思議ではない。

 しかし歓迎会で最初から用意されている品物にしても、ずいぶんとシンプルな印象を受けてしまうものだ。これに関しては別段店や料理に対する文句ではなく、平行世界という観点から見た純粋な感想である。

「新たに発足された我々の部隊だが……まぁ大分特殊ともいえる部隊といえるだろう。しかし俺自身も含めて一人を除いて、エリートといっても過言じゃないメンバーだ。この部隊ならどんな困難でも乗り越えられるだろう」

 乾杯して皆が酒に口をつけた後、ドゥ大尉がそう口を開く。飲み会という状況ではあるが、上官の言葉のためか皆ドゥ大尉へと視線を向けている。

「そしてその一人も、先日の初陣で華々しい戦果を挙げた。そしてその後の訓練でも、驚いたことに俺たちと比べても全く問題がない」

 まるで劇の舞台に出演しているかのように、少々大げさに話すその姿は……正直見ていて結構滑稽ではあったのだが、しかしそういうキャラクターなのだろう。皆愉快そうに笑ってはいるが、茶化すことなく話を聞いている。

「まぁともかく、これからもFMEとの戦いは続いていく。最後の一瞬まであきらめることなく戦い抜け。そしてたまには……こうしてみんなでバカ騒ぎをしようじゃないか。以上だ」

 そうして最後まで、舞台の演者のように立ち上がって、手ぶり身振りで動いていたドゥ大尉が、深々と頭を下げた。それに対して皆で拍手を行った。

「相変わらず演技達者で、大げさな奴だなぁ」

「噂には聞いてたけど、芝居がかった言い方するのって本当なのね」

「私も聞いたことありましたけど、結構声に抑揚があっていいですね」

「言ってることもいいですしね」

「いや、ただあほなだけだろ、こいつは」

「おやっさん。それは言い過ぎっす」

 煉道中尉、燐中尉、璃兜少尉、真矢少尉のオーラスーツ搭乗者組からはそれなりに好評で、明夫少尉はただただあきれて、ゲイツ軍曹はそれをフォローしていた。

 私としては、始まりのあいさつとしては別段十分面白かったこと、また本人も言っていたが飲み会の時くらい、バカをやってもいいだろうというスタンスなので、面白おかしく見ていた。

「ではしばし歓談しようぜ」

 そして皆が思い思いで飲み始めるのだが……新人である私がそんな余裕があるわけもない。すぐにドゥ大尉が寄ってきて、私の隣に腰かけた。

「酒は飲めるほうかい?」

「人並程度には、飲めるとは思いますが」

「なら問題ないな。まぁまずは一杯」

 私が手にしたコップに、瓶ビールを注いでくれるドゥ大尉。下戸ではないのは間違いないので、ありがたく受け取ることとした。

「では返礼を」

「おう、ありがとうよ」

 注いでくれたので注ぎ返し、私たち二人は再度コップで乾杯をした。

「それでどうだ? それなりの実戦をくぐったわけだが、宗一的には?」

「そうですね」

 このような質問をされるのはわかりきっていた。職場の飲みでも、酒を飲んで部下と話をするということは行っていた。ましてやこちらは、戦争中の部下と上司の間柄だ。文字通り命に係わる案件なので、部下の心境を把握しておきたいと思うのは、当然のことだろう。

「正直に言って、いまだ私自身自分の状況がよくわかってないのですが、それでも時間を止められない以上、進むしかないわけで」

「おいおい固いな宗一。飲んでるんだから、もっと気楽にいこうぜ?」

 ここらが職場の飲み会では難しいところである。無礼講と上司が言ったから無礼講で飲み食いしたら、次の日怒らてたケースもある。私にその経験はないが、無礼講と一口に言ってもその上司のさじ加減がわからなければ、無礼講しにくいのである。また逆に無礼講だからと言って、なんでもかんでも許されると思って、バカをするバカ者がいることもあるわけである。

 しかしドゥ大尉の人柄的に、おそらく互いに礼節を保った無礼講であれば問題ないと思われた。そのため、一応少し警戒を解いてみることとする。

「私の装備のおかげで何とか戦えてますので、それについては今のところ問題ないと思います。衣食住も問題ないですし、部隊人員的にも問題ないので」

「ふむふむ」

「ただ、元が一般市民なので、大規模作戦や、長期……それこそ数か月に及ぶ長大な遠征作戦で、やっていけるかといわれると、自信がありませんね」

 パワードスーツのおかげで、数時間の戦闘であれば問題ないのは、すでに証明されている。実戦には数週間の間にけっこうな回数を出撃しているので、そこは心配していない。やばい敵が出てきてないということもあるだろうが、それを差し引いても実戦に出るのは問題ない。

 問題は単一部隊だけではない、基地全体での大規模作戦や、長期間の遠征任務などで……一般人である私が、どれだけ耐えられるかがわからないのが恐ろしい。本来これらなんかも、相当期間訓練をするのが普通なのだが、いろんな要素がかみ合って私はその訓練を受けていない。

 平和とはいいがたい状況だが、大規模作戦や長期間遠征任務に比べれば、まだ安全な状況だ。そしてその安全ではない状況に差し迫ったときに……私がまともに動けるのかどうかが、正直不安ではあった。

「まぁ確かに、それについては俺も正直不安ではある。しかも宗一の特異性からかんがみても、どちらの作戦にも普通に駆り出されるだろうしな」

 注がれたビールを飲み干しながら、さらりと怖いことを言ってくる。といっても私自身はそれを十分に理解している。空になったドゥ大尉のコップに酒を注ぎながら、私はドゥ大尉の言葉を黙って聞いた。

「しかしそこらを加味して、千夏司令が俺たちを配属させたというか、新部隊を設立させたんだろう。宗一はわからないかもしれないが……割と真面目にこの部隊は異例な部隊だ。それぞれマジで部隊のエースを張れるだけの、実力を有しているからな」

 私が注いだビールに対して、軽く頭を下げて再度口にする。その時、実にうまそうにじっくり飲むのに少し、違和感を覚えた。

「これは私見だが……千夏指令にダヴィ中佐はお前にかなり期待している」

 半分ほど飲み、こちらに真剣な目を向けてくるドゥ大尉。無礼講とまでは本人も言ってないが、明らかに気楽な雰囲気ではなくなってしまっている。

「すでに数百年、FMEと戦っているが、いまだ抜本的な打開策すら出てきていない。しかもじり貧な状況ともいえる。そんな中で……お前という人間は、こちらに出現したんだ」

 そう……それだけをかんがみれば、まさに救世の英雄といえるような状況だ。一般市民ではあるが、平行世界の人間。あげくにその平行世界の人間は、この世界ではすでに失伝してしまった剣術の使い手だ。

 それだけならばまだ物珍しいで終わったが……この世界での物理的な近接武器を用いた攻撃は、文字通りの必殺になりうる攻撃手段となっている。あげくに何の因果か……私はパワードスーツという、あまりにもオーバースペックな最強とも言える、兵器を身に纏っている。

 今のところ、人類側がそこまで追い詰められている印象は受けない。それは本日の秩父の町を案内されたことで、確信に変わった。

 確かに珈琲がないといった欠点はあった。そして今食卓に並べられた料理を見て思うに……肉が見あたらない。喫茶店にもなかったので限られているのだろう。これについては、輸出入の関係で……畜産がかなり厳しい状況なのだと推察出来た。

 私の世界の日本も……畜産の餌である飼料は、かなり輸入に頼っていたはずだ。輸入がないかもしくは限定的なのだろう。餌がなければ家畜が育つはずもなく、そうなれば数を限定的にするしかない。

 しかし逆を言えばそれだけなのだ。この席は宴会で、しかも主催者が軍人だ。宴席に選ばれたこの店が、少し優遇されている可能性があるが、それでも真矢さんに案内された本日の喫茶店などは、優遇されてないはず。

 ということは通常通りに喫茶店として提供されているメニューだと推察できる。それを考えれば食料についても配給などになってないことを考えれば、ある程度の食事の変化は楽しめて、食うに困っていないということになる。

 無論秩父の山を越えた直ぐの関東平野は、敵の巣窟であると考えれば追い詰められていると、言えなくもない。私自身生まれる年代が違うので経験したことはないが、第二次世界大戦時の日本に比べれば雲泥の差だろう。

(毎度思うのだが……毎日空襲が来てたにも関わらず、戦っていた日本人って狂気だよな)

 この辺に関しては、キチンと詳しく勉強してない私が言うのは不謹慎なので、これ以上は言わない。

 ともかくとして、FMEの帰巣本能ないし縄張り意識とでも言うべき習性のおかげで、最前線に近いこの町でもそれなりに平和に暮らせているのだ。切羽詰まった状況ではないというのが、私の本音だった。

 しかし関東平野全てが敵の勢力圏内ということを考えれば、楽観視出来ないのも事実だ。そして敵の習性が変わらないという保証はどこにもない。そんな危ういバランスの上に、この町は成立している。

(平和な状況しか知らない私からしたら……凄まじいことだよ)

 恐らく徒歩で向かったとしても、数日以内に関東平野に出ることが出来るはずだ。それほど目と鼻の先だというのに、この町の人間は絶望せず、必死になって生きていた。その人たちを見て……私は何も言えなかった。

 未だに何故、私がこの世界に来たのかはわかっていない。しかしそれでも……私に出来ることがあるのであれば、やるのが人間という物だろう。

(明日にも死ぬかも知れなかったはずの人間が戦うのならば……まぁそうおかしな事ではないだろう)

 技術はあった。それを体現するための力も、この世界に来たことで手に入れた。ならば次は……というか正しくは、心を真っ先に鍛えなければならないのだが、その余裕がない。

 覚悟はある。意志もある。


 だが……その意志と覚悟を体現出来るだけの、体力と意志の強さがない。


 アンバランスとも言える状況ではあるが、やるしかないのだ。


 気持ちでは分かっていてもそれが出来るかが分からない。

 

 それが少々怖いと思ってしまう。


「……まぁそうあまり考え込むな」

 私が考えこんでいると、ドゥ大尉が私の肩に手を置いて意識を戻してくれた。ドゥ大尉へ目を向ければ……苦笑していた。

「といっても状況が状況だから、考え込むのも無理からぬ事なんだろうが……まぁ何かあったら俺にいえ。相談くらいには乗る。俺もそれなりに軍人やってるが、お前みたいなのは当然初めてだよ。間違いなく異質だが、それでも好感が持てる人間だ。今のところ俺たち全員、お前のことを助けたいと思ってる。だからこれからは、こちらも助けてくれるようになってくれればいいさ」

「それはそうかもしれませんが……」

「助けてくれるレベルになる前に、大規模だったり長期間遠征任務が入った場合はこっちでフォローするから、そこは安心しろ。お前があきらめない限り、見捨てる奴はこの部隊には一人もいない」

 見捨てないと断言したその言葉には、確かな力と思いが込められていた。芝居がかった挨拶をするおちゃめな一面はあるが、それでも誠実な人間なのは出会った時からわかっていた。ならばドゥ大尉の言葉は嘘ではないし、間違いではないのだろう。

 私は何も言うことができず、ただ黙ってうなずくことしかできなかった。

「……承知しました」

「ただやっかみは出てくるだろうから、そこだけは面倒かもなぁ」

 そんな真剣なのも束の間、一瞬にしていつも通りのドゥ大尉に戻った。


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