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常識

 何故か気付くことができた、遠くにいる二人の知人。何故気付いたのかは謎だが……気付いてしまった以上は無視をすることも出来ない。何故二人がここにいるのかは……出刃亀と考えるのが妥当だろう。

(みんな好きだねぇ……)

「えっと、どちらにいるんですか?」

 私の呟きが聞こえた真矢さんが、どこにいるのかを聞いてくるので私は素直にそちらの方を指さした。そして……そちらに二人の人がいるのは見えるのだが、距離があるために誰かまでは分からなかったらしい。一瞬顔を歪めて、直ぐに手元を操作して……画面を表示してそれを操作していた。

「おぉ!?」

 その画面が拡大して望遠鏡のように画面内の二人の顔が見れた。どういう原理かは謎だが……こんなところにも近未来感が出てきて、感動してしまった。

「よく見えましたね?」

「自分でもびっくりしてます」

 正直な感想を述べる。真矢さんのように未来技術を使用したわけでもないのに見えたのだ。若返っただけではなく、何かもっと凄いことが私の体に起こっているのかもしれない。

「まぁともかく……悪趣味な人たちには、お仕置きが必要ですね」

「同感ですね」

 これに関しては同意だった。そのため、私たちは立ち上がって二人へと近づいていた。私たちが気付いたことに、あちらも気付いたのだろう。最初こそ自分たちに近づいてくる私たちに焦っていたようだが、やがて観念したのか……あちらからもこちらに寄ってきた。

「奇遇ですね? こんなところで」

「えぇ、奇遇ねぇ」

(おぉ、ほとんど動揺を外に漏らしてない。凄いな)

 燐中尉が返してきた言葉には、全く動揺がなかった。動揺を隠していると言うことは、罪悪感が皆無というわけではなく、うまく自分の感情を隠しているのだろう。なかなか出来ることではないので、思わず尾行されていたというのに感心してしまった。なかなか立派な腹芸をお持ちの人である。それに対して……。

「璃兜~。どうしてこんなところにいるのかしら?」

「え……えっとぉ。き、奇遇ねぇ、真矢」

「奇遇ねぇ? 本当にぃ?」

(こっちは素直だなぁ……。そして意外なことに、結構強めににじり寄っているな)

 普段のほわほわした感じとは一転して、なかなか強気にぐいぐいといっている。しかも文字通り、顔も近づけてにじり寄っていきながら、問い詰めている。それに対して、璃兜少尉がたじたじになっている。

 二人のやりとりには気楽さと信頼がある様子だ。私が璃兜少尉と最初に出会ったのも、真矢さんの救助の時だった。そこから察するに、二人の仲は結構良いのだろう。

「璃兜?」

「ごめんなさい。付けてました」

 しかしそれでも怒りのほうが、勝ったようだ。真矢さんが少々低めの声を上げて名前を呼ぶと、璃兜少尉は素直に認めて深々と頭を下げた。相方が認めてしまっては己も認めざるを得ないと悟ったのか、燐中尉も同じように軽く頭を下げて謝罪した。

「ごめんなさい。私から誘ったの。だから璃兜に対してあまり怒らないで上げて」

 嘘か本当かは謎だが……一応かばっているので、そこらへんにも人格がにじみ出ていて、非常に好感が持てた。璃兜少尉が顔を上げて何か言おうとしたのだが、燐中尉がそれに目線を向けていた。黙らせた……というよりは言うなという感じだった。そしてそれに対して、璃兜少尉も小さくうなずくだけで何も言わない。きっと燐中尉が誘ったのは事実なのだろうと、察せられた。

「まぁ……私としては、別にやましいことをしているわけではないので、かまいませんが」

 思うところが何もないといえばさすがに嘘になるが……逆に言えばその程度でありそれだけだ。男女ということもあって、出刃亀したくなるのも無理はないだろう。そしてそれが許されるということは、法律的に男女の関係を縛っているのではないことが察せられた。

(法律もそうだがマナーの関係も、ある程度聞いたほうがいいかもしれないな)

 日本によく似た大和国とはいえ、倫理道徳、法律やマナーの関係もだいぶ違う可能性がありえなくもない。ゆえに私は、一つここで落としどころとして提案することとした。

「真矢さん、ご相談があるのですが?」

「? 何ですか?」

「男女間的なことや、また町における倫理道徳、マナー等々……その辺を今のこの場所で教えていただいてもよろしいでしょうか? 先ほどの喫茶店内では少々聞きづらいことだったので」

「!? そうですね」

 少し口走ってしまったが、周りにあまり客はいなかったし、「若い頃」という単語だけでは、私がほんの二か月ほど前まで老人だったとは、だれも予想だにできないだろう。ましてやそれが並行世界の人間だということに、「若い頃」という単語だけで気づけた人物がいた場合、そいつはもはやただの変人か狂人である。

(まぁ怪しまれる可能性はあるが……それで終わりだわな)

「お店の飲み物のテイクアウト……お持ち帰りというのはできるのでしょうか?」

「テイクアウトはできます。そうですね、そのあたりもお話ししたほうがいいかもしれませんね」

 テイクアウトは通じたが、逆に言えば通じるかもわからないことが、多々あるのだ。ならばそのあたりを聞かせてもらうのは、ちょうどいいだろう。女性三人に男一人ということで注目はされるかもしれないが、周囲が開けているので会話を聞かれる心配は……

(いや、さっきの望遠機能を考えるとなくはないか?)

 先ほど真矢さんがやっていた、画面を空中に投影しての望遠機能。それが盗聴というか、遠くの音を拾う機能がないとは言い切れない。

「ちなみに先ほどの望遠は、音も拾うことができるのですか?」

「それは大丈夫です。防犯や有事の際のために、いろんなところに設置されたカメラからの映像を、補正して望遠することができますが、プライバシーの関係もありますので声は聞き取れません」

(いろんなところのカメラとリンクができるのか、すごいな)

 カメラの性能がどの程度かは不明だが……少なくとも私のいた世界より、機能が上なのは疑う余地もないだろう。そして設置されてないとは言わなかったので、マイクが設置されているのかもしれない

「なら飲み物を燐さんと璃兜さんに買ってきてもらって、ここでお聞かせ願えませんか?」

「あら? 上官を使う上に奢らせるなんていい度胸してるわね?」

 暗におごってもらってそれで終わらせようという提案なのだが……それに燐中尉が反応する。

(パシるって概念はあるんかね?)

 仮になかったとしても、立場が上の者に買い物をさせようとしているのは事実だが、本日は非番である。

「本日は非番では? また上官であっても、プライバシーを守らわないのは人としてどうかと? それともこちらのプライバシーという単語は、上官という言葉には無力なのですか? むろん時と場合によるでしょうが、今この場で適用されると?」

 軍事作戦中だった場合はプライバシーもくそもないだろう。むろんそれも程度と内容によるが、今この場で適用されていいわけがない。少なくとも私の世界の感覚では。

「……それもそうね。私の負けだわ」

 一瞬だけ黙ったが、すぐに素直に諸手を挙げる。これが燐中尉だけの感覚なのか、それとも日本人……ではなく大和人の生来の資質なのか、その辺も確認すべきだろう。

「燐さんがいいなら私には是非もないわね」

 もちろん璃兜少尉もあっさりと私の提案を受諾し、私と真矢さんのリクエストを聞いて飲み物を買いに行った。この後の予定がなければ軽食もおごってもらってもよかったかもしれないが、歓迎会があるので自重するしかなかった。バカの一つ覚えだが私は抹茶。真矢さんは紅茶を選択した。

「すぐに買ってくるから」

「いいの買ってくるから、許してね」

「大丈夫、そこまで怒ってはないから」

 手を顔の前に合わせて拝みながら歩いていく璃兜少尉に対して、真矢さんは苦笑しながらそう返していた。この辺の感覚も、結構似ていると感じた。大和国の宗教は神道が主体だが、仏教も伝来自体はしているのかもしれない。その辺も聞いたほうがいいかもしれない。

「ちなみにパシリって言って通じます?」

「通じますよ」

 二人がいなくなったので、直近の気になったことを聞いてみた。そして通じることから、本当にかなり似通った世界であることは間違いなさそうだと、私は思った。

 その後は、二人が戻ってきたので日常的なマナーや、町の中での振る舞い。最低限してはいけない法律的なことを聞いておいた。そのあとはおいおい私自身で勉強するしかないだろう。またどうしても聞かなければいけないことも、聞いておくことにした。

「ちなみに飲み会的なルールとかあります? 私の地元ではだいぶ前に廃れてはいるのですが、上司が酒を注ぎに来てくれたら、盃を開けなければいけないとかがあったのですが」

 あとはノリで一気飲みというのも私の学生の頃はまだ残っていた。そして私が大学に入ってすぐぐらいから、一気飲みで死亡する人が報道されるようになって、法律で禁止されて以降はなくなった文化だ。

 また飲みにケーションという文化も、私が就職する前から結構廃れていた。私は飲みにケーションについては、そこまで否定派ではなかった。酒を飲むと結構自制心がはがれるので、人となりを知るという意味では結構便利なのである。

(まぁぶっちゃけ……面倒な奴は、酒飲んでもめんどくさいんだけどね)

 これも結局最後は人なのだという……私の人生観になるのだが、それはまぁいいだろう。

「そこまで硬くならなくていいわよ。最低限のことを……って、それがわからないから聞いてるのよね」

「そうなります」

「でも当たり前のことだと思うのよね。ほかの客に迷惑をかけない、飲んで暴れるな、吐くならトイレ、泥酔するまで飲むな……ほかに何かある?」

 燐中尉から出てきた単語は、本当に当たり前のことしか言っていない。しかしそれを守れないやつも多いので……酒というのは本当に一種の判断材料になるのである。

「飲むのを強要も駄目じゃないですか? あとやたらべたべた引っ付いてくるの。同性ならまだいいけど……」

「それ、璃兜はあまり人のこといえないと思う」

「えぇ~あの程度で~?」

「璃兜はなぁ……。胸とかおしり凄い触ってくるじゃない。あれ、完全にセクハラだよ」

「あぁやっぱりそれもあるんですね。というかないと駄目か」

 そして男からは、聞きにくいことが話題に出たので自分で拾った。これを知っておくのは非常に重要なことだ。

「ちなみに、どの程度でアウトになりますかね? この質問も本来はアウトなのでしょうが、平にご容赦いただきたい。許可のない身体への直接的な接触は当然厳禁として……身体的特徴をからかうのもアウトで良いですか? 背丈や胸の大きや、お尻の大きさとか」

「問答無用でアウトね」

 やはりけっこう似通っている部分は多いようである。というか、当たり前の感覚を言えば、流石にセクハラやらがない文明は……あまりよろしくない文明だと思えてしまう。

(まぁ昔はセクハラするのが常識みたいな物だったわけだが、時代で変化するのは世の常か)

「逆に逆セクハラもあります?」

「もちろんありますよ」

 真矢さんからの言葉に、私は胸をなで下ろした。基本的なことは同じだと分かったからである。

 しかしそれでも平行世界で戦時下であることも……間違いなかったのである。

「まぁ悪いこととかしたら監視カメラで特定されて即独房行きだから……早々馬鹿なことするやつなんていないけどね」

「監視カメラ?」

 燐中尉の言葉を聞いて、先ほどの真矢さんが操作していた望遠機能のことを思い出し、そしてカメラが設置されている事を確認した。その上で、そのカメラで個人が特定されて即独房行きということは……間違いなく監視カメラが設置されていると言うことである。それも、未来世界のこの平行世界の高性能なカメラが。

 しかも今の断言した様子から見て、相当量のカメラが設置されていると察せられた。それこそ、このだだっ広い公園をカバーすることが出来るほどに。更に言えば発言も気になった。防犯カメラではなく監視カメラと言ったのだ。

「監視カメラが付いていて、監視されているのが当たり前ということですか?」

「? 当然でしょ?」

 そして私が言った監視カメラという単語に反応せず、監視されているのが当たり前ということにも疑問を抱いていない。本当にそれが当たり前と言うことなのだろう。

(なるほど……科学が進んだ世界での戦時下ってのは、こうなるって事か)

 そして監視対象は、人間だけじゃなくFMEも対象に入っているのだろう。もしかしたら逆で……FMEへの監視のためにつけていた物が、住民への監視も行うようになったという事なのかも知れない。

(あまり……油断はしないほうが良さそうだな)

 まだまだ覚えるべき事はたくさんありそうだと、痛感した。


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