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それぞれの思い

「私も、不安だったんです」

 不安でないわけがなかったのだ。あのときの私は。私が以前所属していた部隊は、私と隊長を除いて皆が戦死してしまった。戦死したその内の二人は……FMEに吸収された。しかも運が悪いことに、その内の一人は……即死することが出来ず隊長がとどめを刺していた。

 その後、私と隊長はなんとか帰還出来た。けれど……部下を死なせてしまったこと、そして部下のとどめを刺したことで、隊長が除隊してしまったのだ。そのため、私の部隊は解散となった。

「その状況で、私が基地で自主訓練をしているときに、新たなオーラマテリアルが発見されました」

 そんな状況下で、新たなオーラマテリアルの反応が検出された。その時手が空いていたオーラスーツ搭乗者は私しかいなくて……だから仕方なく出撃した。

 正直……手が震えるのを必死に抑えていた。どうしても……同じ部隊のみんなが死んでしまった姿が、脳裏をよぎってしまって。採取こそ何とか順調に進んだけど、帰還準備を終えて、離陸してしばらくしてからだった。輸送機が落とされてしまったのは。どうして落とされたのか分からなかったけど、けど死ぬわけにはいかないから、動くしかなかった。

 だから必死になって動いた。幸いなことに、基地はそう遠くなく、しかも移動車両も積みこまれていたため、私以外の人を全て移動車両に乗せて脱出させた。その時オーラマテリアルも一緒に持って行けたら何よりだったのだけれど、厳重に厳重を重ねていたことが災いして、容易に移動させることが出来なかった。そのため私は……唯一戦闘が出来る人間として、即時に残ることを決めたのだ。救援がくるまでオーラマテリアルを守ると。

 けれど……正直言えばそれは欺瞞だったのだ。部隊で唯一残ってしまった私が……この任務で終わるのもいいかもしれない。そう心のどこかで思っていた。完全に逃げていた。心が参っていたというのが、今なら分かる。

 でもそれも仕方がないと思いたかった。FMEに取り込まれてしまった隊員は……私と仲が良かった同期の子で、何度もお世話になった人だったのだ。一緒に頑張ろうねって……そう励まし合っていた子の一人だった。その子のことはもちろん璃兜も知っていて、彼女の葬儀にはみんなが参加して涙を流した。

 そう考えていると……ポッドの着地がうまく気を失ってしまった。その時だった。


「あなたが……私の側に現れました」


 今私の目の前にいる人が、私の側に現れたのは。


 死ぬだろうと覚悟した。死ねるだろうと諦めていた。しかし……そんな気持ちは民間人を前にして、綺麗に吹き飛んでしまった。私一人ならば良かった。けれど……民間人を死なせるわけにはいかないと、震えそうになる気持ちを奮い立たせた。

 色んな思いを……覆してくれたのが、宗一さんだったのだ。そして覆すのと同時に……そんな思いは綺麗に吹き飛ばしてくれたのも、宗一さんだった。

(人型を生身で倒す、意味不明な装備を纏う。挙げ句の果てにリーレスの単独撃破。もう笑うしかなかったなぁ)

 考える間もなく、あまりにも奇想天外な事が起こってしまって……悩んでいたことすらも、その時は忘れてしまった。

 今考えれば……私を宗一さんの訓練係に任命したのは、千夏司令の計らいだと思えた。その気遣いに気付く暇もなくて、私はこの奇想天外な人と一緒に訓練に勤しんだ。

 そんな中起こったのは、愼司中尉との模擬戦だった。愼司中尉は性格こそあれだけど……優秀な軍人とは思っていた。そんな愼司中尉を、この人は圧倒的に不利な武器で、倒して見せたのだ。そして初陣で、グカムボを討伐するという大金星。

 この人を見ていたら……立ち止まっているわけにはいかない。そう思えたのだ。

「訓練を懸命にこなす姿、初陣でも冷静に戦って……グカムボを倒したあなたの姿は、本当に眩しかった。純粋に凄いと思いました」

 正直に言えば……まだ内心で怯えながら戦っているのが事実だ。何とか部隊のみんなに迷惑を掛けないように、必死になった。ならざるを得なかった。


 だって、わずか数ヶ月前までは、戦争すらしていなかったあなたが……こんなにも懸命に戦っているのだから。


「あなたは私に助けられたとおっしゃいました。けどそれは私も同じなんです。ダヴィ中佐の部屋でも言いましたが、改めてお礼を言わせてください」

 

 先ほど宗一さんがそうしたように……私も姿勢を正して宗一さんに向き直って、深々と頭を下げた。


「あなたには何度も助けていただきました。本当に、ありがとうございます」




 お礼を言うつもりが……お礼を言い返されてしまった。しかしそれに関して……先日のダヴィさんの部屋と同じ状況に陥るのも滑稽に思えたので、素直に受け取ることにした。

「ならば私たちは互いに命の恩人と言うことですね」

「……そうなりますね」

「なら……今までも、そしてこれからも、そうなるように、互いに頑張っていきましょう」

 これからも戦いは続いていくのだ。これで終わりではない。終わるわけがない。この戦争がどう終わるのかは謎だし、そして……私たちが生きている内に終わるはずもない。ならば、私たちが現役を退けるその時まで……もしくは、志半ばで死んでしまうその時まで、互いに互いの命の恩人として、この人と邁進していきたいと、私は素直にそう思った。

(まぁその前に……若返りの魔法が解けないことを祈るしかないが……)

 現時点で全く問題がないので後回しにしているが……未だに若返った事が謎だ。今のところ悪いことはなく、良いことづくめであり……しかも若返りを証明しているのは、私の免許証と私の証言だけだ。

 しかもこの世界の技術ならば……免許書の偽造など朝飯前だろう。正直なことを言えば……私が老人だと言うことを知っている三人が、私のその話をどれだけ信じてくれているのかは、果てしなく謎だった。

(まぁ考えてもしょうがないので、その辺は置いておこう)

 無駄な思考になりそうだったので、そこで一度思考を停止させた。その時……私はふと違和感を覚えて、その違和感へと視線を向ける。するとそこに、二人の女性がいることに気がついた。




「なんだか普通に案内してるだけね? つまらないわねぇ」

「人を無理矢理引っ張り出して、言うことがそれですか?」

 燐中尉の言葉に……私は深々と溜息を吐いていた。今私たちがいるのは、秩父駅前広場から少し離れた場所だ。本日は隊のみんなが非番で、宗一さんの歓迎会は夕方を予定していた。なので訓練しつつ、溜まっている本でも読もうかと考えていたら、燐中尉がやってきてこう言ったのだ。

「面白そうだから尾行しましょう」

 私としても気になっていたのだけど、さすがに出刃亀をするつもりはなかったのだ。けれど燐中尉の熱意に押されて、仕方なくついていくことになった。

(まぁ心配していたのも事実だし……ちょうどいのかな?)

 駅前で集合ということはドゥ大尉が指示していたので、そこから行くとしたら温泉銭湯だろうと、二人であたりを付けたら見事に的中した。さすがに会話が聞き取れるほどの距離に近づくわけにはいかないので、話している内容はわからない。

 ただ、宗一さんが並行世界の人間ということ、そして真矢の真面目さからそれなりに細かく説明していると容易に想像できた。そこで見かけた、真矢の嬉しそうな仕草を見て、おそらく賭博のことを話したのだろうとわかった。

(賭博っていうか、賭け事全般嫌いだからなぁ、真矢は)

 私は肯定も否定する気もないけど、真矢は結構否定的なスタンスだった。何か特別嫌いになる理由があったわけではないけど、熱中して身を崩す人が多々いて、何人かそういう人を見てきたからかもしれない。

 そんな真矢が説明した賭博について、宗一さんが真矢同じようなスタンスの回答をしたのだと、何となくわかった。それからタクシーが向かった方角からミューズパークに案内すると判断して、少し経ってから私たち二人もタクシーに乗って、二人を探した。これも順路通りにいくのと、真矢が気に入っている喫茶店があるので、そこで休憩を入れるのもわかっていた。そして私の予想通りのルートを行くので、燐中尉に感心されてしまった。

「よくここまで思考が読めるわね?」

「付き合い長いので」

 そう、私と真矢はそれこそ幼稚園からの幼馴染だ。互いに互いのことを大事に思っている。だから私と真矢がもしも逆の立場になったとしても、私の行動は真矢に筒抜けっていうか……容易に予測されてしまうと思う。

「……何を驚いているのかしら?」

「なんかすごいショックを受けてますね?」

 後から入るとばれると思ったので、先回りして喫茶店の一番奥の席でいると……宗一さんが声こそ上げなかったけど、愕然としているのが二人して疑問に思った。といっても、並行世界ということを考えれば、メニューにないものがあったり、逆にないものがあったりしたのかもしれない。

 耳は別段悪くないけれど、店内とはいえ距離がある上にほかの客や音楽もあるので、会話を聞き取ることはできない。収音機器を持ってくるのはさすがにできないので、口の動きで判断するしかないのだけど……あまり注目しすぎてもばれてしまっても本末転倒なので、私たちも喫茶店のメニューを楽しむことはした。

「食堂のケーキもおいしいけど、やっぱりお店のほうがおいしいわね」

「それはさすがにそうですよ。珠代おばちゃん料理がうまいけど、専門的なお菓子はさすがに作れないですよ」

 食堂の守護神と呼ばれる珠代おばちゃんは、基地内の人のお腹と味を満足させてくれる、凄腕の料理人といえた。軍という大量の人員がいて、さらに多種多様な人がいるというのに、珠代おばちゃんが調理人の時はほとんどの人が文句を言わない。もちろん皆無というわけではないけど、それでもほかの方に比べれば圧倒的に少ないのだ。

 理由は簡単、おいしいのだ。宗教的なタブーもきちんと考えてくれる……といっても、秩父前線基地にはあまりそのタブーに触れる人はいないのだけれど……ため、評判もいい。また……なんというか食事関係に関しては、逆らえないという妙な圧力を感じてしまうので、表立って逆らう人はいなかった。

 最低限の戦闘訓練しか受けてない、半分民間人というのに……曹長という確かな肩書を持ってをいるのは、伊達ではないのである。そしてそれ以上に好感の持てる人で、みんなから好かれていた。

 そうして気がゆるんだその時だった。意外な言葉が私の耳に届いた。

「抹茶お好きなんですか?」

「若かった学生の頃から――ゲフン、好きですね」

 ちょうどBGMが切り替わる瞬間だった。そして時間がお昼を過ぎていることもあって、本当に混雑していなかった。だけど……それでも何故か分からないけど、二人のこの会話が、私の耳に驚くほど明瞭に届いていた。そして聞こえた会話の内容に……違和感しか覚えなかった。

(若かった学生の頃から?)

 聞こえてきた台詞の違和感があまりにもひどくて、思わずこっそりとつけてきているのも忘れてじっくりと、宗一さんへと目を向けてしまった。

 平均的な大和人男性の肉体。髪の色も当然黒い。その髪には若白髪とかもなく……どう見ても若々しい二十代前半の男性だ。

 しかしそんな男性が、若かった学生の頃というのはどういう事なのか? しかもわざわざ咳を出して台詞を言い直しているところに、非常にリアリティさがあった。

(どういうこと?)

 そしてその言葉の違和感について考えていると……新たに違和感があるのを見つけた。

「そんなに変ですかね?」

「いえ、すみません! 馬鹿にしたつもりはなくって!」

「もちろん、そんなことを思ってるとは思ってないですよ」

(真矢が何も反応してない?)

 真矢は天然というほどではないが、少し抜けている子だ。だけど……今の台詞を聞き逃すほど間抜けではない。

 というよりも、狙撃という後衛を担うことの出来る真矢は、かなり優秀なのだ。あの粘着質の愼司が粘着していたのは、真矢に気があったというのが大きな理由の一つだろうけど、それでもそれと同じくらいに……あの男は真矢の狙撃能力を欲していた。今は……幸か不幸か、マテリアル兵装の適合者になってしまったために、ポジションが少々中途半端なことになってしまったし、それに拍車を掛けるように、あまりにも特殊な存在である宗一さんと一緒に行動することになってしまったため、中衛として今の部隊に所属している。

(つまり……それだけじゃないってことなのね)

 今の会話から……宗一さんにはまだ特殊な何かがあることに、私は気付いた。出刃亀をするつもりはなかったし、後ろ暗い気持ちはずっとあったのだけど……この事に気付けたのは、幸運だったのかも知れない。


 これが……私の今後の運命を決定づける……




 出来事だった。




 違和感を覚えて……そちらに目を向けた。すると……何故か知らないがそこにいる人物二人が明瞭に見えた。明らかに、目視で見れる距離ではないにもかかわらずだ。この異様な視力の良さに、私は何度か覚えがあった。

(ポッドを見つけたときも、異様に視力が良かったな)

 真矢さんが搭乗したオーラスーツが、入っていたポッドを見つけた時だ。あのときも視認出来ないくらいに、遠いはずのポッドを事細かに見ることが出来たのだ。今回はそれほどではないが、少なく見積もっても100m位は離れているであろう場所にいる、二人の顔を正確に把握することが出来た。距離があるため油断していたのかは謎だが、二人とも顔を隠す物……サングラスやマスク等……を何も身につけてないので、誰だかは直ぐに分かった。

「あちらに燐中尉と璃兜少尉がいますね」

「え?」

 何も考えず口にした私の一言は……真矢さんの耳にばっちりと届いたらしく、そちらの方へと目を向けた。







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