初陣帰り
不規遭遇戦の後は、再度の襲撃はなく無事に合流ポイントに到着して、輸送機へと乗り込んだ。この次は別のポイントに行って同じ訓練をする予定だったのだが、奇襲を受けたこと、初陣ということもあって帰還することになった。
そして初陣の私は、帰りは何事もなければ休んでいるように言われた。別段疲れた感覚はないのだが……しかし興奮していることは自分も多少はわかったので、男部屋に入って簡易ベッドに横になった。
パワードスーツの性能のおかげで、疲れはほとんどない。人型に吹き飛ばされたが怪我もない。常識的に考えれば、大けがをしているような吹き飛ばされかただったのだが……本当に凄まじい性能をしている。輸送機の簡易スキャンでも確認したが、特段問題はなさそうだった。
そして心配された興奮については……している自覚はあった。ただし興奮ほど強い感覚ではない。高揚しているのが正しいだろう。
(……久しいな)
怪我をしないように気を遣った、道具を使っての稽古をした後の感覚に近い物だった。本当にどうしようもなく……FME相手では、相手を殺しているという実感が薄いのだ。そうでなければ、この世界のこの状況でまともに働けたとは思えないので、ある意味でありがたい話なのだが……違和感はあった。
(あれほどのデカ物を倒したのか……)
私は本当に一般的な社会人の男だったに過ぎない。もちろん動物園や水族館に行ったことがないわけではないので、身近に間近で人間よりも遙かに巨大な生物を生で見たこともないわけではない。しかしそれは、檻越しだったりガラス越しだ。どうしても巨大という実感を抱きにくい。
そういう意味ではグカムボもパワードスーツ越しだ。パワードスーツの視線もあり、生身という感覚はしないが、それでも見上げるような生物を間近で見たのは、初めてだった。そういった高揚もあるだろう。
何よりもあれほどの巨大な生物を、木刀で倒したという事実が……これほどの高揚を生み出しているのだろう。死体が残らないので少々実感が薄いのだが……尾を吹き飛ばしたとき、そして頭部を撲殺したときの感触は残っている。死体も残らず、血も内臓も吹き出さないので、実感しにくいのは間違いないが……それでも手に返ってきた感触は、先日の人型種よりも確かな物があった。
そして私としては、気になることもあった。
(あの光の玉は何だ?)
グカムボから出てきた光の玉。先日リーレスを殺したときも出てきた光に、非常に似ていた。しかしリーレスから出てきた光はパワードスーツに自ら吸収されにきたのだが、今回のグカムボに関してはいつの間にか消えていた。思わず私の目の錯覚かと思ってしまう。
だがその光の玉を見たのは私だけではない。一人だけではあるが……確かに見たという人が同じ部隊にいた。
「宗一少尉、よろしいですか?」
そうして私が先ほどの状況を思い返していると、噂をすれば影とでも言うのか……真矢さんが男部屋にやってきた。やってきた理由がどのような物かは謎だが……まぁ真矢さんの性格上悪いことにはならないだろう。
「どうぞ真矢さん」
「失礼します」
開かれたドアから入ってきたのは、インナースーツを纏った真矢さんだ。全身タイツというか、まぁぴっちりスーツなので実に女性の肢体を強調するスーツである。しかも真矢さんは、胸の双丘が非常にご立派だ。若い精神の男であれば、その双丘に目を吸い寄せられること間違いないだろう。
しかしそこは私、初老の男。確かに男として見たい気持ちはあるが、それが失礼だと言うことは重々自覚しているし、この体は色々イレギュラーが多い。色んな意味で欲情することがない。
「いかがされましたか?」
「初陣で不規遭遇戦、しかも大型種を討伐したので、様子を見に来たのですが……問題ない感じでしょうか?」
こちらをのぞき込んでくる真矢さんの表情は、心底心配しているのがよくわかるものだった。その優しさにありがたさと、この人と出会えた自身の幸運に内心で感謝しつつ、質問に答える。
「大丈夫ではあると思いますが……昂揚しているとは思います」
「……なるほど」
私の言葉に真矢さんは少々神妙な表情で頷いている。それに疑問に思いつつ、カウンセリングだと判断した私は、とりあえず思ったことを素直に言ってみることにした。
「大型種を討伐した……という実感は死体がないので少々実感はないのですが、殴り飛ばした感覚は手に残っているので」
「宗一さんの装備でも、それがあったんですか?」
「そうですね」
空中投影させた画面にメモを取る真矢さん。未知の武装であるパワードスーツのデータを取っているのだろう。そう考えて、私は真矢さんの次々出される質問に一つ一つ答えた。
「さて、二人が部屋に行った状況でするのは申し訳ないが、これも仕事だ。宗一少尉について審議するぞ」
ドゥーラがそう言葉を発したのは、格納庫の作業台の側だった。そしてその作業台の上には空中投影された画面が表示されており、そこには今まさに男部屋にて真矢と面談をしている宗一の姿が映し出されていた。
「一応隊長である俺から意見を言わせてもらうが、動きについては何ら問題ないだろう。度胸も予想よりも遙かにある様子だ。装備している装備が少々ピーキーすぎる嫌いはあるが……それも此方がカバーすれば問題ないと俺は考えるが、どうだ?」
そう言いながら周囲の人間を見渡す。その誰もが、意義はないというように普通の表情をしていた。
「まぁ問題ないだろう。むしろグカムボ単体討伐がやばすぎだからな。これについては、基地に戻ってどうするのか千夏司令に相談した方が良いんじゃないか?」
作業台に置かれた蓋付きマグを手に取りながら、煉道がドゥーラへと同意を求めるように視線を向けた。
「そうでしょうね。パワードスーツのこともあるから、あんまり目立たせるわけにはいかないでしょうし」
自らの手元に映し出した画面に映した、宗一の録画を見つつ燐が自らの意見を口にする。璃兜も同じ考えのようで燐の言葉に頷く。
「そうですね。光の玉ってのが少し気になりますが、真矢と宗一さんしか見てないですし」
「それもあったか。それについてぶっちゃけどう思う?」
あまりにもぶっちゃけすぎるドゥーラの発言だったが、それも無理からぬ事だろう。何せその光の玉を目撃したのは……二人しかおらず、その二人がこの場にいないのだから。
「録画を確認しても光の玉の映像はない。それは二人ともだ。幻覚と言いたいのが本音だが……真矢少尉も見てるって言ってるしなぁ」
「二人だけってのが謎よね。あの二人に何か因果関係あったりするのかしら?」
「あるとすれば宗一さんと最初に接触したのが真矢って位じゃないでしょうか?」
煉道、燐、璃兜が口々に思い思いの意見を口にする。その様子はどれも嫌悪感や気味悪がっているといった、負の感情は一切ない。純粋に宗一について議論している様子だった。それを見て、ドゥーラは内心で安堵の溜息を吐いていた。
(まぁこいつらなら大丈夫だとは思ったが……実際に見ると安心するな)
ドゥーラ自身宗一に対しての評価は、先ほどの内容に嘘偽りはなかった。気になることなどがないと言えば嘘にはなるが、それは悪感情から出ている物ではない。千夏司令より新部隊編成の話が、来て実際に部隊として運用した結果が良好だったので、ドゥーラとしてもこれからの戦果に期待出来そうで、嬉しい限りだった。
ただ念のため……共通認識として、言葉として表に出しておくことが重要だと考えて、ドゥーラは言葉を飾ることなく確認する。
「とりあえずだが……宗一少尉については現時点では特異な新兵として面倒を見るというだけで良いか? それこそ……最悪の場合は後ろから撃つという認識ではなく?」
あまりにも直接的な言葉に、皆が一瞬だけ目を見開くが……しかし隊長があえて強めの表現をしたのを瞬時に理解し、皆大きく頷いた。
「現時点では問題ないと、俺は思うぞ、ドゥ」
「まぁ結局そういう表現になるわよね。彼自身、私としては好印象だけど……変わってしまったら、そうも言ってられないわけだしね」
「まぁそれを言ったら私たちも同じ事ですが……私としても真矢が信頼しているのも含めて、問題ないと思います」
真矢については、後に個別で話を聞く必要性はあるかも知れないが、おおむね問題ないとドゥーラは皆に笑顔を向けた。そして……別の相談をすることにした。
「では次にだが……今回の不規遭遇戦について少し話し合おう」
この話題になると皆の顔つきが変わった。しかし……FMEの事がよく分かっていないために、憶測でしか語ることが出来ず、あまり有意義な話し合いとはならなかった。
しばし真矢さんとのカウンセリングをしていると、機内アナウンスで基地まで後わずかだと放送があった。ほとんど音もなく、現代飛行機などよりも遙かに速く移動出来る輸送機に内心で驚きつつ、私と真矢さんは輸送機を降りる準備を始める。
(といっても、私は荷物も何もないのでほとんど準備も糞もないのだが……)
オーラスーツも装備してないのでそれの整備というか、ハンガーに固定する作業や輸送機が到着した後の移動といった手間もない。実に楽な物だが……私の場合はその後が大変なのがわかりきっていた。
(ダヴィさんの研究室に強制連行だろうなぁ……)
パワードスーツを使用しての実戦。それも大型種を討伐した実戦だ。なかなかイレギュラーの多い初陣だった。そしてそれに伴っていろいろなデータが取れた。特に不本意ながら被弾というか……攻撃を受けたデータも取れた。
これについては、正直機械ではないパワードスーツでは、詳細なデータはなかなか取りづらいのだが、それでも被弾した事は事実。そして他のオーラスーツには計測器が多数装備されている。それらのデータを持って、検証することになるのだろう。
(……残業にならなければ良いが)
ちなみに時刻は14時頃という頃合いだ。本来であれば野営訓練も含まれており、そこで軍用レーションの昼食を食べる予定だったのだが、帰投することになったので輸送機内で食べた。故にまだ定時まではそれなりに時間があるのだが……あのマッドサイエンティストのダヴィさんが、果たして帰してくれるか、見物である。
「やれやれだ」
そうして私が一人呟いていると、基地に無事に帰投した。まだ他の人間達は任務に就いているので、基地内はまばらな人しかいなかった。
「さてなかなかハプニングの多い初陣だったが……とりあえずは無事に帰ってきたことを祝おう」
ドゥーラ大尉が少々お茶目にそういって、和ませてくれる。この後の私のことを考えれば……笑えないのが分かっているからだろう。しかし無事に戻ってきたのが喜ばしいことは間違いないので、私もその言葉には頷いておいた。
「まぁ……宗一少尉と真矢少尉はこの後が大変なんだろうが」
煉道中尉が苦笑しながらそういうと……私と真矢さんの通信機に通信が入った。
「やぁやぁお帰り二人とも。話は聞いてるよ。直ぐに私の研究室に来るように!」
あまりにも予想通りの言葉と嬉々とした口調に、溜息を吐いてしまうのも無理からぬ事だと思いたい。そしてそれはダヴィさんだけではなかった。
「さぁ二人とも! 私と一緒にダヴィ中佐の研究室に向かいましょう!」
嬉々として大きな声を上げているのがゲイツだった。この人も……実にマッドな感じがする人である。というか、ダヴィさんが能力を把握していること、そして私の部隊に配属されたことから鑑みるに、それなりに親しい間柄なのかも知れない。
「二人が逃げないように、見張りの役目も言い渡されましたので、逃げないでくださいね?」
「逃げたいのが本音ですが……まぁ無理なのはわかりきっているので素直に行きますよ」
「そうですね」
私の言葉に真矢さんが苦笑しながら同意してくれた。真矢さんの方がダヴィさんとは付き合いが長いので、この後がどうなるかわかっているのですでに諦めている様子だった。
「ではでは! 楽しい研究の時間です! 張り切っていきましょう!」
「「了解」」
実にテンションの高いゲイツに今度こそ、心から溜息を吐いて……私達はダヴィさんの研究室へと足を進めた。
そして予想通り……四時間も拘束されて人体実験まがいの事をされて実戦よりも疲れたというのが本音だった。




