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撲殺

 周囲の人型を撲殺しつつ……私は近寄ってくる大型の姿を、意識の中央に据えつつ俯瞰的に周囲を見て対応していた。

 大型種グカムボ。甲殻に覆われたFME。その甲殻はかなりの硬度を誇り、オーラ兵装ではほとんど通用せず、この個体を倒すには、マテリアル兵装でなければ難しいという。

 私の手には、マテリアル兵装となった、愛用の木刀がある。正しくはマテリアル兵装になったのではなく、オーラマテリアルであるパワードスーツに、吸収されたものである。果たしてこの木刀が、巨大な異星起源生命体に通用するのかは……わからなかった。

(というか、でかいな)

 比較対象であるビルやら建物が一切ないので……どの程度の大きさかは不明だが、見上げられる大きさだ。そんな4本足の巨大なサソリのような生命が……此方に車よりも速い速度で迫ってくるのは、恐怖以外の何物でもない。

 しかし……私はそれをいやに冷静な思考で見ていた。加速した意識が原因かも知れない。意識の加速という周囲がゆっくりと動くというのは、肉体と脳が極限状態になったことによって、脳が活発化して覚醒している状況だ。命の危機に瀕した際に周囲がゆっくり見えるというのは、脳が死を回避するための行動を行うために、生まれる現象であるとされている。

 今の私もまさにその状況なのだろう。何せ異星起源の巨大な生命と戦っているのだから。恐怖を覚えるよりも、生存本能が勝っての意識の加速による脳の覚醒。その覚醒した意識が……更に加速して、グカムボの動きを先読みしていた。

 その動きを見て……私は自らの肉体を俯瞰的に見て、最小限の動きを意識する。剣術をしていたし、その上で真剣ではなく、袋竹刀で打ち合う組み手も行っていた。故に……自らの肉体だけであれば、先読みと意識の加速の恩恵で、見切るのも難しくはない。

 しかし今の私は防具ともいえるパワードスーツを纏っている。これは文字通りの生命維持装置。そして私の存在意義証明装置とも言える。もちろん純粋な防具としても機能しているが、それ以上に存在意義を立証してくれている存在だと言える。あらゆる意味で……この防具には損傷を与えない方が無難だと言える。

 故に……私はその先読みを加速した意識で己を見て、最適な動きで動くことを意識する。といっても……相手が人間ではない、巨大なサソリだ。最適な動きなど出来るわけもない。そして私の存在意義を証明するパワードスーツを傷つけないために……かなり余裕を持って回避しなければならない。

 突き込まれる両手の鋏。その速度は……巨体から繰り出されたとは思えないほどの速度を誇っている。質量がどれほどかは謎だが、体の一部にでもまともに当たれば、間違いなくその部位が質量による打撃だけで吹っ飛ぶだろう。

 しかし……見える。先読みだけじゃない。私の加速した意識の中で……その鋏は確かに見て、対処することが出来た。先日愼司中尉との演習で見ることができた、ペイント弾と同じ程度の速度だった。この質量で弾丸と同じ速度に驚くが……驚いている場合ではない。

 突き出される鋏は、両手で交互に突き込まれている。故に……その間を縫うようにして懐に入り込めば一番なのは間違いないが、まだパワードスーツの動きに慣れていない。故に……大きく避けて確実に被弾しないようにした。

「■■■!!!!」

 大きく避けることで、懐に入り込むことが出来ないが……それでもこちらが攻撃もしないことで、確実に避けることが出来ていた。いつでも攻撃できるように、または受け流せるように正眼の構えで、後方へと下がりつつ避け続ける。

 何度か鋏に殴りかかろうとする気持ちを……私は抑えていた。まずは動きに慣れる必要がある。無闇に攻めてやられるわけには行かないからだ。

味方の状況に気を回すほどの余裕はなかった。しかしグカムボとの交戦に入る前の状況を鑑みれば……私が心配するような人員がいないのは間違いない。故に、私は自らの事だけを考える。

(どうする?)

 突き込まれる鋏を避ける。合間を見て避ける私の、その合間を更に縫うようにして……尾の針が突き込まれてくるが、それも俯瞰的に捉えて避ける。しかし避けてばかりでは、勝負はじり貧だ。勝つためには……攻撃しなければいけない。戦術レベルで見れば、このグカムボに勝てなくても問題はないだろうが……この個体は少々危険だ。ここで殺しておいたほうが、被害を減らせるのは間違いない。

(しかし……殺れるか?)

 問題はそこだった。色々イレギュラーな私の武器と防具だが……パワードスーツに関しては不明だが、武器は元を正せば唯の木刀。マテリアル兵装と化したことで色々飛躍的に向上しているのだが、それがこの大型に通用するのかはまだわからない。

(木刀だからなぁ……)

 安物買いの銭失いはいやだったので、最高級の木刀を購入したのは間違いない。長年使用してきたために、愛着もあるし手入れも欠かしたことはない。しかしそれでも木刀でしかないのだ。人であれば木刀でも十分に殺せるが……熊などは流石に難しいだろう。熊を木刀で殺すには、固い頭蓋をたたき割るしかない。真剣であれば、恐らく熊一匹であれば余裕で対処は出来ると思う。

 しかし今の私の相手は、人でもなければ熊でもない。巨大な異星起源生命体。不可思議な鉱石に取り込まれたために、不可思議な力を宿したとはいえ、ただの木刀で撲殺できるとは、どうしても思えなかった。

 その迷いを気取られたのか……グカムボが突き込んできた鋏を避けた瞬間に、その楯のような腕を振りかぶって、私の視界を覆うようにして前面に突きだして殴りかかってくる。そのため……私の視界がほとんど埋め尽くされて、動きが読めなくなる。

「しまっ!?」

 動きの先読みは……相手の重心や体勢の動きを予見して、見ることの出来る技術。当然……相手が見えないのであれば先読みは出来ず、また視界が覆われてはそもそも相手の動きが見えない。そこに……視界の端に微かに見えた迫り来る鞭のような尾。

「!?」

 見えないために想像するしかないが……グカムボの右手を私に向かって振る勢いを利用して、尾で薙ぎ払ってくるようだ。避けるのならば跳ぶしかない。しかし跳べば……間違いなく左右の鋏で追撃される。ブースターがあるため、一度は方向を変えられるがそれだけだ。故に……私は非現実的な事を思い描いて、それを実行した。

 一歩下がり四肢に力を込める。腕を振り上げて、大上段の構え。対する相手は全身で回っての尾の薙ぎ払い。恐らく相当の力を込めた攻撃だ。ならば……此方もその大技に正面から相対しよう。実に……馬鹿な考えだった。

 しかしそう馬鹿に出来ない対処なのだ。敵の攻撃を真っ正面から破ることで、大きな隙を生じさせる。常識的に考えれば、あり得ない対処法だ。現実世界で無理矢理当てはめるのならば……ドリフトで此方にぶつかって来ようとするスポーツカー相手に、不可思議なパワードスーツと、そのパワードスーツによって強化された木刀で迎え撃つような物である。サイズ的に、車高が低いスポーツカーがもっともグカムボの尾の太さに似ていた。

 木刀故の……刃が潰れることを心配しない、真っ向の力勝負。タイミング的には問題なく……私が渾身の力で振り下ろした木刀とグカムボの尾が激しくぶつかった。


!!!!


 反響する高いビルなどもないというのに、ぶつかり合った音は甲高い音を響かせて辺り一帯を振るわせた。そして、その結果は直ぐに訪れた。


「■■■!!!!」

 

 グカムボの尾が、私の木刀とぶつかり合った箇所が完全にぶちぎれて、私の右後方へと吹き飛んでいった。痛覚があるのか謎だが……尾が殴打によって引きちぎられたグカムボが、耳に聞こえない悲鳴を上げて悶えているように見えた。

 そのように見えた瞬間に……私は動いていた。何も考えず相手の懐へと突っ込んだ。グカムボの頭部と思われる場所はビルの二階建てよりも高い位置にあった。このパワードスーツならば恐らく跳び上がって、その高さに行くのは可能だろう。しかしそれでは……確殺するに至らない。空中のために、こちらの動きを自ら制限することにもなる。

 ならば……

「高嶺なら……落ちてこい!」

 意味不明な言葉を吐き出しながら、私は懐に飛び込んだグカムボの左足の前後の足を、思いっきり殴り飛ばしていた。走った勢いも付けての殴打。見た目的に、尾よりも硬さを感じさせない足だ。更に関節部分と思われる箇所を殴り飛ばした。

 そのため……グカムボが悲鳴を上げながら倒れ込んでくる。倒れ込んでくるグカムボの体を……その外側に避けることで躱し、目の前に頭部が降ってくる場所に陣取った。そして……頭が刃圏に入ったその瞬間に、再度私は渾身の力を込めて左切上で頭部を迎え撃った。


!!!!


 再度凄まじい音が鳴り響いた。しかしそれも直ぐに収まった。収まった理由は……グカムボの体が形を失って水銀のように液状化して、地面に落ちたためだ。

 そのグカムボの体があった場所で……私は不思議な物を見た。

(……光の玉?)

 グカムボの中心部とでも言えばいいのか……その部位があったと思われる場所に、バスケットボールほどの大きさの光の玉が出てきたのだ。その光は何か……安心させるような雰囲気を放っていて、私は戦場であるにもかかわらず、思わずそれを無防備にも呆然と立ちつくして凝視してしまった。

「これは……」

 不可思議な物ではあるが、それでもここまで心を揺さぶられたのは何故なのか? それすらも認識しないまま……私はそれを見ていた。

 そしてそんな隙だらけの敵を、FMEが見逃してくれるはずもない。数秒後……私は横からの猛烈な衝撃を受けて、数m吹き飛んでいた。

「ぐっ!?」

 吹き飛ばされたことで状況を思い出した私は、地面を転がりつつ自らの状態を確認した。パワードスーツの防御力が高かったのか、人型の攻撃力が弱かったのか、はたまたその両方か? ともかく五体満足で何も問題ないとは、認識できたが、詳細は分からなかった。

(なるほど、これも欠点の1つか?)

 今回の攻撃を受けてわかったことがいくつかあった。良いこととしてはパワードスーツの防御力は、少なくとも人型のFMEの攻撃程度ならば、吹き飛ばされても私の体に怪我を負わせることは出来ないと言うこと。悪い事はどの程度の損傷か全くわからないと言うことだ。

 ロボットなどであれば組み込まれたコンピューターなどが、被害状況を解析してパイロットに教えてくれる機能などが搭載されているだろうが、パワードスーツにはそれがない。しかも普通ならば攻撃されそうになっている状況に対する、警告音などが出てもおかしくないはずなのだがそれもない。正に……人間を強化するための装備なのだと感じだ。なかなか、ピーキーな機体であると言えた。

 吹き飛ばされた勢いを利用して転がって体制を立て直し、反撃しようとして……その前に燐中尉が右手のマテリアルハンドガンで、私を吹き飛ばした個体を吹き飛ばして、消失させていた。

「油断大敵ね? P1?」

「失礼しました」

 顔を表示する機能は搭載されてないのだが……燐中尉がドヤ顔しているのが容易に想像できる声色だった。思うところがないと言えば嘘になるが……戦場で呆然としてしまったのは事実なので、とりあえず意識を切り替えて周囲の状況を瞬時に把握し、私も行動した。

 といってもやることなど1つだけだ。すなわち……FMEの掃討である。

「おいおいやるじゃないかP1! 奇襲された予定外の初陣で、単騎でグカムボ討伐とは! 勲章物じゃないか!?」

「同感だな。これはなかなか嬉しい想定外だな?」

 PLとP5もからかうようにそういってくる。無我夢中でやったことではあるが大型種を一人で倒したのだ。座学の内容で鑑みれば、それなりに凄いことは間違いないだろう。

 しかし……私としては、先ほどグカムボの中から出てきた光の玉が気になって仕方がなかった。吹き飛ばされて体勢を立て直した時には、すでにその光はなかった。今は周りに確認できる状況ではないが……誰も言及しないと言うことは、見えてないと判断するのが妥当だろう。

(まぁ念のために聞きますがね!)

 周囲の人型FMEを撲殺するが、すでに掃討が終わりかけていたのでそう時間はかからずに、不規遭遇戦は無事に終了した。

「PLより各機へ。自身の索敵範囲で構わないので周囲の状況報告」

「P1。目視での残敵なし」

「P2。レーダーに反応なし」

「P3。同じくありません」

「P4。こちらもなし」

「P5。俺もだ」

「PLもなし。第一種警戒態勢を解除。伏兵に注意しつつ、当初の予定通り合流ポイントへ向かう」

 私のパワードスーツにはレーダーが搭載されてない。しかし望遠機能は他の機体よりも高性能。P2、P4、P5はそれぞれ近距離、中距離、中距離なのでそこまで広範囲のレーダーではない。P3とPLは狙撃も可能とするため、索敵や望遠が他よりも性能は良かった。その全てに反応がないので、この周辺に敵がいないことはほぼ間違いないだろう。

「しかし驚いたな。まさかグカムボを単機で討伐するとはな」

 残敵や再度の襲撃を警戒するので先ほどよりは少し行軍速度が落ちるが、それでも戦闘後だというのに皆は雑談をする余裕があるようだ。私自身、敵を殺したという実感が薄いために何とか普通に行軍できている。ならば他の連中が余裕なのは当然といえるだろう。

「1つ聞きたいのですが……グカムボを倒したときに、光の玉が見えた人はいますか?」

 正直聞くのは少々怖かったのだが、それでも聞かないのは気持ちが悪いので、私は先の光のためについて皆に聞いてみることにした。

「光の玉? グカムボから? 俺は見てないが……皆は?」

 PLがそう皆に問うてくれるが……誰も反応しないかと思った。しかし驚いたことに私以外にも見た人間がいた。

「私も見ました。そこまで大きな感じではありませんでしたが」

 私以外に見たのは真矢さんだった。しかし話を聞いた感じでは、どうやらそこまではっきりと見えていたわけではなく、しかもサイズも距離があったために正確には不明だが、かなり小さな光だったようだ。私が見たサイズは、バスケットボールのサイズだ。距離があってもはっきりと見える程度のサイズではあるはずだ。

 そして見えたのも真矢さんだけだった。グカムボを撃破したときは、皆ある程度は私がやられないかと言うこともあって、それなりに気にしてはいたはず。なので、他の人間はほぼ間違いなく見えてないと断定できるだろう。

 とりあえずこの問題については、基地に帰投次第、録画装置を確認して検証することとなって終えることになった。

 無事に接敵した敵を討伐したことを告げて……私たちの部隊は合流ポイントへと向かった。その道中は何も起こることはなかった。



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