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新部隊

 部隊設立を通達された次の日……午前中は今まで通りの訓練を行った。そして昼飯後の時間に……私と真矢さんは司令室の隣の会議室に呼び出されていた。呼び出された会議室に入ると……そこにはすでに他の部隊員と思しき人間がいた。

 椅子が八つ置かれており、それが三列に整列されて置かれていた。入り口の正面の壁に向かって、椅子が置かれているので顔を見ることは出来ない。しかし、前方の方に腰掛けている人物達は、皆が皆、実に落ち着いた雰囲気を発しており……出来る人間だと思わせるには十分な風格を漂わせていた。

「真矢!」

「璃兜!?」

 そうして私が先にいた人間を分析していると、私たちの入室に気づいた真ん中の席に座っていた人物がこちらを振り向いて、破顔しながら立ち上がってこちらに駆け寄ってきた。その人物は私も見覚えのある人物だった。

(私と真矢さんを救助しに来てくれた、オーラスーツに搭乗していた方だな)

 真矢さんと同じく肩くらいまで伸ばされた赤みがかった黒髪だが、少し外に撥ねているのが特徴的だ。背丈は真矢さんとほとんど変わらない。肢体については……実にバランスの取れたプロポーションをしている。快活に笑うその表情は、実に人好きされるような明るい雰囲気を醸し出していて、好印象を抱かせる人物だった。

「璃兜もこの部隊に?」

「詳しい話は聞いてないけど、恐らくそうね。他の部隊員とあなたたちを含めると、ちょうど部隊の最大人数になるしね」

 真矢さんと親しげに話す璃兜さんとやらの台詞を聞いて、私は再度この部屋にいる人員をカウントした。

 先頭二つの椅子に腰掛けた二人の男。真ん中の列は四つあり、腰掛けていた璃兜さんとは他に、もう一人女性が座っている。一番後ろの三列目は二つの椅子で、腰掛けた男性が二人。

 真ん中の列の空席二つの椅子に、私と真矢さんが腰掛けることを考えれば、一部隊8名。それがこの世界における部隊の数だと判断できた。

(一番後ろの二人からあまり覇気を感じないな。整備兵?)

 一番後ろの席の二人は、後ろ姿で少々わかりにくいが、一人はけっこういい年齢と判断できる肌つやと白髪の多い頭髪をしており、もう一人は鍛えこまれた感じがしない。そう考えれば整備兵と思えた。

「あなたと一緒の部隊になるとはちょっと思わなかったわね。荒野をさまよっていた男性Aさん?」

 すると私に声を掛けてきたので、一度考えるのを止めて璃兜さんへと視線を投じた。そこには……実に悪戯っぽい笑みを浮かべながら、こちらをじろじろと見ている璃兜さんがいた。じろじろ見てきているが……その視線に嫌な感じはしない。本当に興味本位で見ているのだろう。

「先日は助けていただきまして、ありがとうございました。あのときはまだ言葉が通じないかったため、ろくにお礼も挨拶も出来ず、失礼しました」

「固いなぁ。これから同じ部隊になるんだから、もう少しフランクにいこうよ?」

 からからと笑いながら、ひょうひょうとした態度でそういってくる。何というか個人的に……実にひとたらしな印象を受ける女人だった。そこで自己紹介へと入ろうとしたのだが……その前に後ろの出入り口の扉が開いた。

「? 何を入り口付近で固まっている。早く席に着け」

 千夏司令とダヴィさんが連れだって入室し、着席を促された。そのため、自己紹介をする雰囲気でもなくなり、私たちは一度頭を下げてからそれぞれ席についた。

「そろっているな……では早速だが始めよう」

「みんな~注目~」

 扉から見て一番奥の壁の側で千夏司令とダヴィさんが並んで立った。そして……これからそれなりに大事な話をするというのに、ダヴィさんの気の抜けた始まりの合図を告げる。しかし……そんな気の抜けた合図だったが、流石は軍隊だった。皆が一律に起立して、実に慣れた仕草でぴっしりと敬礼を行った。

 一瞬面食らった私だったが、直ぐにそれに倣った。

「はい、休んで良いよ~着席~」

 そして再び気の抜ける声でそういわれた。そしてそれも気にせず皆休んでから着席する。もはや日常茶飯事というか……これがダヴィさんの通常運転ということが、よくわかる光景だった。

「無駄話は趣味ではない。本題に入る」

 そういいながら画面が映し出された。そこには「新規遊撃部隊」の設立と書かれていた。しかしそれに対して誰も驚くような様子は見られなかった。部隊最大人数の人員が、1つの会議室に呼びされたのだから容易に想像できることだからだろう。

「ダヴィが新たに開発した、新兵器を効率的に運用、データ収集をするための特別部隊となる。故に……様々な場所に飛んでもらって任務に励んでもらうことになる」

 そして次に映し出されたのは……部隊員全員の名前と顔写真だった。

 精悍だが無精ヒゲを生やして、少しワイルドに見える風貌で、短く刈り上げられた銀髪の白人男性、ドゥーラ・ローネ大尉。

 耳が隠れる程度に伸ばされた黒髪が印象的な、煉道・間宮れんどう・まみや中尉。

 ウェーブが軽くかかった黒に近い茶髪を後ろで1つにまとめている、燐・笠戸りん・かさど中尉。

 外に撥ねている赤みがかった黒髪が特徴的な、璃兜・楯乃りつ・たての少尉。

 先日より行動を共にさせてもらっている、真矢・山谷まや・やまや少尉。

 深い皺と日に焼けた浅黒い肌。真っ白な髪とひげが似合う、熟練と見受けられる秋雄・大束あきお・おおつか整備少尉。

 丸坊主の頭に黒い肌、そして肌と真反対の白い歯を満面の笑みで魅せる快活な印象を受ける、ゲイツ・ミュー整備軍曹。

 そして最後に私、宗一・真堂暫定少尉。

 総勢八名の部隊であるようだ。

「今この場にいる八名が新たな部隊として、新兵器の運用とデータ収集を行ってもらう。また新規部隊ということで、専用の輸送機も用意した」

 その言葉に、皆が驚きの声を上げていた。どうやらけっこうレアケースなようである。

「戦果を期待すると共に、この部隊には他と違い、厳命がある。これを違反した場合は……最悪な処分も検討しなければならないことを、頭に入れておいてくれ」

 最悪な処分。これがどれほど重い言葉なのかは謎だが……皆が一様に緊張した雰囲気になったことを考えれば、本当に最悪な状況もあり得るということだろう。それこそ死罪もあり得るのかも知れない……そう思わせる重さがあった。

「ではそれについては私から説明するよ~。ソウイチ君。こっち来て~」

 しかしそんな重さもどこ吹く風。いつも通りの飄々とした言葉と笑みで、ダヴィさんが私を呼んだ。それに思わず気持ち的にこけそうになっていたが、態度には出さずに声を出して前へと歩いた。

 そしてダヴィさんの隣に立ち、部隊の人間の前に立って……初めて部隊員の顔を直に見た。逆に皆が私を見ているわけだが……そのどれもが興味深そうに私を見ている。嫌悪感のような視線は感じられてなかったので、少しだけほっとした。

「では新兵器についてだけど、まぁ見てもらうのが早いね。ソウイチ君、装着して」

「はい」

 ダヴィさんの許可が出たので私はパワードスーツを装着した。一瞬にして纏うパワードスーツ。それを見た部隊員達は……一人を除いて全員が驚いていた。

(まぁそうだろうね……)

 この世界の人間ではない私でも驚いた装備だ。この世界の人間からしたらまさに驚天動地な兵器だろう。

「見ての通り、実に特殊な兵器でね。そして何故この兵器が特殊かというのは……恐らくソウイチ君が平行世界の人間だから、というのが理由だと思う」

 平行世界。現代日本よりも近未来なこの世界の住人ならば概念自体はあるようで、そこまで大きな反応はない。ただ……大概の人間が懐疑的な目線を、私とダヴィさんに向けている。

「まぁそういわれても直ぐに納得できないのは理解できるよ。ただ、この中ではそうだね、リツ君ならまだわかるんじゃないかな?」

 そういわれて、璃兜さんが少しだけ驚いた表情をしていた。名前をいわれるとは思っていなかったのだろう。そして挙手をした。

「私の場合はそこまで固くなくて良いよ~。それでも挙手をしてくれてありがとう。発言どうぞ」

「ありがとうございます。そうですね……私は宗一さんの保護と真矢の援護に向かって彼を見たことがありますし、その時自動翻訳機が動作しなかったのも知っていますから」

 自動翻訳機が作動しなかった。この言葉でだいぶ信憑性が生まれたらしく、皆が納得するような吐息を出していた。そんな周りの様子を満足そうに見てから、ダヴィさんが新たな写真を写しだした。そこには私がこの世界に紛れ込んだときの格好をした写真と、ダヴィさんの研究室で抜刀した刀達の写真が映し出されていた。

「自動翻訳機が作動しなかったこと、彼の服装に、彼が所持していた日本刀と呼ばれる、測定機器が測定を拒否したという謎の剣。他にもあるけれど……これらと彼本人の話を総合して勘案して、平行世界の人間だと判断した」

 その言葉と共に、パワードスーツが映し出された後に、パワードスーツで行っていた映像をいくつか流していた。映像を再生しながらダヴィさんがパワードスーツについての説明をしている。映像を見つつダヴィさんの説明を聞き……誰もが驚嘆するように小さく頷いていた。

「まぁそういうわけだから、悔しいことに……彼が着ているこのパワードスーツは私が開発したわけではない。けれど……ちょっとあまりにも出自が特殊過ぎるので、いたずらに騒がれても困るから、これは秘匿事項とさせてもらう。君たちは同じ部隊のため、ソウイチ君の着脱を見るだろうから共有するよ」

 そしてさらなる注意事項として、外部にもらさず部隊内だけで終わらせるようにダヴィさんが再度厳命していた。また、他の部隊からしつこく私についての情報を聞かれた場合は、そういう命令が出ていると言っても良いといっていた。

「次に今後の予定について説明させてもらう」

 一通り私についての注意事項が伝達されると、ダヴィさんが私を席へと戻し、再度千夏司令から説明をされた。

「平行世界では民間人だったということで、実戦経験が皆無だ。一応一ヶ月ほど訓練したが、逆に言えばそれだけだ。実戦に耐えうるということは私とダヴィが保証するが……気質ついてはまだ判断できない。そのため、遊撃部隊として訓練をしつつ、戦場に出てもらう」

 すると、一番先頭の列に座っている銀髪の白人男性、ドゥーラさんが挙手をした。

「何だ、ドゥーラ大尉?」

「つまり……しばらくはお守りといことでいいか?」

「不定はしない」

「なるほど。ただ……慣れれば問題ないのは、先日の演習でわかっているがね」

 千夏司令の言葉に大仰に頷き、こちらへと首だけで振り向いて……不敵な笑みを浮かべる。お守りという表現こそあれだが……その笑みと視線には嫌味な感じは一切しなかった。むしろ……好奇に満ちており、まさに観察しているといっていい笑みをしていた。

 それから再び今後の説明がされた。早ければ数日後には部隊として敵地である平野部に行っての行軍演習をするということだった。

「これより数日は、この基地の訓練場で部隊としての行軍訓練をしてもらう。それについては後々に詳細データを送るので、各々確認するように」

「「「了解しました」」」

「ちなみに隊長はドゥーラ大尉、副隊長に煉道中尉を指名する。貴様らならあまり心配はしてないが、良き働きを期待する」

「「了解しました」」

 先頭に座っていた二人の男性が隊長と副隊長だったようだ。

「では、私とダヴィからの説明は以上とする。ただ、貴様らは残って自己紹介などをすませておくように」

 そう言い残して、千夏司令とダヴィさんが会議室を後にした。上役がいなくなったことで多少なりとも緊張感に満ちていた会議室の雰囲気が、幾分か和らいだように感じた。

「さてと……」

 千夏司令が退室するまで……立ち上がって敬礼をしていたが、退室したのでその必要もない。そんな感じに思わせるような、実に軽い感じに一番前にいるドゥーラ大尉が、そんな声を上げた。

「今後部隊として隊長を任命されたドゥーラ・ローネ大尉だ。ドゥーラだと長いからな。親しみも込めてドゥと呼んでくれて構わない」

 笑みを浮かべつつ、両手を広げてそういってくる。その仕草は……大尉というかなり上位の肩書きを持つ人間にしては、親しみやすさが出ており、嫌味が全くなかった。

「そうそうさっきは悪かったな、宗一少尉。表現がよくなかったな」

 こちらに頭を軽く掻きながら歩み寄ってきて、掻いていない右手をこちらに差し出してきた。

「先日の模擬戦は見させてもらったぜ? なかなか思い切ったことをしていたな。愼司中尉を圧倒した腕前と実力、型破りとも言えることをする度胸もある。お前なら何の心配もいらないのがよくわかる。今度は俺とも演習をしようじゃないか。これからよろしくな」

「承知しました。ドゥ大尉」

 差し出された右手を握りしめて、私はそう返した。すると……キョトンとした表情をしてから盛大に笑った。

「いいね! 即応してくれたのはこちらとしても嬉しい限りだ。お前とは仲良くやっていけそうだな!」

 力強く握手して大きく上下させて、空いている左手でこちらの肩をばしばしと叩いてくる。少し痛かったが……嫌がらせでないのはその裏のない笑みを見ればわかったので、甘んじて受けることにした。

「ほらドゥ大尉。そんなに肩を叩いたらかわいそうだろ?」

 そんな私を気遣ってくれたのか、副隊長の煉道中尉が苦笑しつつ注意をしてくれる。

「む、それもそうだな。すまなかった宗一暫定……めんどくせぇな。この隊では宗一は少尉と呼ぼう」

「……怒られませんか?」

 私としては別段どちらでも良いのだが、それで別の人が怒られるのも本意ではない。しかし私の心配を、ドゥ大尉は豪快に笑い飛ばした。

「その程度どうってことない。むしろ暫定なんて面倒な肩書きを呼ぶのに意識を割く方が問題だ」

 そのドゥ大尉の言葉に、誰も否定しなかった。暫定というのは、間違いなく私くらいしかいないだろう。締めるところだけ締めればいいという考えだろう。

「さて……正直自己紹介といっても宗一少尉以外皆大体は知っているだろうが……まぁ命令だしな。とりあえず皆々で自己紹介をしようか?」



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