暫定任官
演習より次の日。演習の結果が何か変化をもたらすのかちょっと身構えていたのだが……特段訓練内容に関して、変化はなかった。
「とりあえず、ある程度データは取れてきたから……後は慣れて緊張感がなくならないように、訓練内容に変化を持たせた上での、行軍訓練が主になるね」
そういわれて、私と真矢さんはタッグを組んでの行軍訓練を淡々とこなす事になった。
またそれとは別に、私のパワードスーツの特異性を考えて、一人での行軍訓練も行うことになった。訓練用に無理矢理パワードスーツが使用できるように取っ手をつけられた、オーラスーツの赤外線ハンドガンを装備し、訓練用の砲台を見つけては撃たれる前に撃つという訓練だ。赤外線を照射し、赤外線が命中した砲台が機能停止するという仕組みだ。
なんでそんな面倒な手順を踏むのかと言えば、アームキャノンで撃てば破壊してしまうためだ。そして……そうなると問題が発生しする。
(これでは私自身の戦闘状態での訓練が出来ない)
私のパワードスーツ用の武器を開発、製造することは現状できない。完全な人型サイズのオーラ兵装の開発が進んでないからだ。またそもそもオーラキャノンを装備しており、更にそのオーラキャノンの破壊力は他のオーラ兵装よりも高出力なことが確認されている。わざわざ開発する理由がない。
そして接近戦については……マテリアル兵装となった愛用の木刀があるため、相当の強さを誇っている。木刀については、まだ実戦で使用したことがないため確実なことは言えないが……入手したデータを鑑みれば、歴戦のマテリアル兵装に劣らない威力を誇っているようだ。
そのため、訓練装置などを無闇に壊すわけにも行かないため、私の武装のマテリアル兵装を使用するわけにはいかない。そうなると……私自身の訓練をするのは難しい状況だ。しかし訓練をしなければ熟練度が上がるわけもないため、咄嗟の判断を行わなければならない戦闘を強いられる状況で、まともに戦う事が出来るかは不明だ。
(なんとか訓練できない物だろうか?)
これは私だけではなくダヴィさんも考えていたものだったので、とりあえず未開地かつ開墾して訓練場とかにする場所で、ある程度好き勝手に動くことで、誤魔化すことにした。
(適当だなぁ……)
と、思うところがなくもなかったが、それでも訓練が出来るのはありがたい。そう思った。しかし、直ぐに私の訓練内容は自ら変更することになった。
開墾予定の場所にたどり着き、一人で動き回って好きにアームキャノンを撃ったりした。仮想敵との仕合を想定してのイメージトレーニングは剣術の稽古で生涯を通してやってきた。その程度の事は造作もないことだった。
しかし、今の私はパワードスーツを使っていること、そして肉体が凄まじい進化を遂げていると考えれば、今までの感覚では駄目なのだ。鹿島家に伝わる剣術を元に、パワードスーツを用いた立体的な機動をする剣術を、新たに造らなければいけないからだ。
そう想いながら仮想敵と戦っていた時、接近してきた敵を迎撃しようと、左手に出現させた木刀を両手で構えようとした、その時だった。
「むっ」
両手で構えるということは……すなわち右手が空手でなければならない。しかし、パワードスーツを纏った今の私の右手はアームキャノンになっている。スライドして右手が自由に出来ることはわかっているのだが、咄嗟の場合……アームキャノンのまま普段の癖で右手を使おうとしてしまう。そのため、右手で握ろうとした時、右手はアームキャノンなのだ。握れるわけがない。そのため、咄嗟に握ろうとした右手はアームキャノンのため、木刀とぶつかる音が響くだけとなった。
「死んだな」
戦闘中に生まれた隙。しかも今回は驚いてしまったことで数秒は固まった。仮想敵を想像するまでもない。間違いなくFMEに攻撃されて死んでいるだろう。そして、今回のことで……訓練内容が確定した。しかも、それは端から見れば訓練とも言えないような訓練になる。
「ダヴィさん」
「……なんだい、ソウイチ君?」
この開墾場所に来てからまだわずか数分しか経っていない。だといいうのに、ダヴィさんはそのわずかな時間で、収集したデータを興味深そうに眺めている様子だ。それが少し気になるところではあったが……それ以上に大事なことであったため、私は自らの思いを進言した。
「私が訓練できる場所まで案内し、訓練場所を用意してくれたにもかかわらず大変申し訳ないのですが、訓練内容を変更させていただけませんか?」
「? 何故だい?」
「右手のアームキャノンの除装というか、右手を出現させるための訓練をする必要があるからです」
行軍訓練はせざるを得ないだろうが、その次に大事な訓練は間違いなく、咄嗟の状況で木刀が使えるように、右手のアームキャノンを除装してタイムラグなく両手で握れるようにしなければならない。私の人生の半生を占める剣術が絡んだ問題だ。間違いなく慣らさなければ……今のように、アームキャノンと柄がぶつかって剣術が使えなくなってしまう。
(完全分業する方が効率的かも知れないが……恐らくそこまでは無理だ)
右手に銃を、左手に刀を……という片方の手で完全に別にするということも一瞬頭に浮かんだ。しかし、そこまでの新しい流派は……すぐには出来ない。今まで私が修めた剣術である、鹿島一刀流にパワードスーツというアレンジを加えるのならば、まだ剣術の応用だ。右手に銃、左手に剣という新流派とも言える戦と方法が、一朝一夕で出来るわけがない。
ならば……パワードスーツを纏った状態で、パワードスーツの圧倒的機動力を応用した鹿島一刀流を使用できるようになるべきだろう。しかし今のままではそのスタート地点にすら立てない。私自身がいつ実戦にかり出されるかは謎だが……急いだほうが良いのは間違いない。
これを説明しようとしたのだが……その前に先ほど私がアームキャノンと木刀の柄をぶつけたシーンを、画面に映し出してダヴィさんが見ていた。
「なるほど、これは確かに問題だね」
「はい」
「剣術に関しては門外漢だけど……これがまずいのはよくわかる。ソウイチ君の言うとおりにしよう」
そうしてわざわざ森に来たというのに……私はひたすらに右手のアームキャノンを除装、装備、除装、装備……を繰り返す訓練を始めた。まずは意識的に行って除装と装備の動作に慣れて速度を上げる。次は意識的に行いつつも、別の動作を行いながら除装、装備をしてその速度を上げる。
まずは意識的でも……その意識に追いついてこなければ、まともな剣も振るう事が出来ない。そんなことは、私自身の感情が許さなかった。自らを生かしてくれた刀、剣術。師範との信頼と稽古の時間の蓄積。それら全てを汚すように思えたから。
しばらくはその稽古のみになってしまった。何とか頑張ったのだが、自身が定めた目標には届かず、稽古が間に合わず、実戦を迎えるハメになってしまった。
訓練開始よりおよそ一月経過した頃。その日の訓練を終えた私と真矢さんは、再び千夏司令の部屋へと呼び出されていた。
「司令室へと呼び出しとは。何か聞いていますか、真矢さん?」
「いえ、私も何も聞かされてないです」
道すがら情報共有を行うのだが……どちらも話を聞いてないので、何もわからなかった。しかし呼び出し命令を受けている以上、行かないわけにはいかないため、何を言われるのか少々不安を覚えつつも、私と真矢さんは司令室へと向かって、入室をした。
「真矢少尉、宗一訓練兵、計二名。呼び出しに応じ参上しました」
こういう場では上官である者が発言すると教えられたので、真矢さんに続いて司令室に入室した私は、何も言わずに不格好ながらも敬礼した。私たちを待っていたようで、千夏司令は何をするでもなく椅子に腰掛けており、その側にはダヴィさんがいた。
「よくぞ来てくれた。こちらへ」
「はっ!」
どうやら何かしら大事な案件だとわかり、私と真矢さんは更に緊張を強めながら、司令の側へと近寄った。そして一定の距離で再度立ち止まって直立した。
「休んで良いよ~」
そんな少し気の抜ける感じでダヴィさんが言ってくれたので、どうすべきか咄嗟に悩んだが、真矢さんが直ぐに休めの姿勢になったので、私もそれに倣った。
「さて時間も惜しいので、単刀直入に告げよう。先日司令部の方でも宗一訓練兵の処遇が完全に決まり、ついに貴様にも働いてもらうことになった」
働いてもらう。これはすなわち正規兵として戦場に行くことになるということ。少々早いと思ったのだが、司令部でそう判断したのであれば、及第点にはなったということなのだと、私は一応納得した。しかし真矢さんは驚いていた。そしてその驚きは……納得はしたが私も同感だった。
「千夏司令。宗一さんの実戦投入が早すぎませんか?」
「発言を許可した覚えはないぞ?」
「で、ですが……」
「くどい。二度はいわんぞ?」
睨み付けながら凄んでくる。その眼光と雰囲気があまりにも鋭く重い物で……許可をもらってないことも事実な真矢さんは、黙るしかなかった。
「まぁマヤ君の気持ちもわかる。本来であればもっと時間をかけるべきなのが、当然だ」
そんな雰囲気を柔らかくするためなのか、それともただマイペースなだけなのか……ダヴィさんが普段通りの口調でそう口を開いた。千夏司令が遮らないということは、この後はダヴィさんが説明してくれるのだろう。そう判断し、私はダヴィさんに注目した。
「ただ、ソウイチ君の戦力を早急に投入しなければならない理由があるんだよ」
「それは?」
「一応ソウイチ君の情報はキチンと報告しているんだが、それを見て周りの連中が早く実戦でデータをとれとうるさくってね。そして場所によっては……ソウイチ君の配置換えを、打診してきているところもある」
その台詞を聞いて……私は顔をしかめるしかなかった。一応世界的に戦争をしている状況で、余裕がそこまでないのも理解はしている。しかしそれを差し引いても……まるで便利な道具をよこせといってきているような感じで、嫌悪感を抱いた。
そんな私を見て、ダヴィさんが実に愉快そうに笑い出した。
「安心してくれ。そんな要求など私たち二人がいればはねのけて見せるよ。ただ……申し訳ないんだが、それでも理由付けを強固にしたいということもあって、君に……というよりも君たち二人に出撃して欲しいんだ」
「二人に……ですか?」
ダヴィさんの二人という言葉に、一瞬だけ疑問に思ったが……わざわざ私と真矢さんをタッグで組ませていたことを鑑みれば、間違いなく私と真矢さんだろう。
「いいかい?」
「問題ない」
念のために千夏司令に確認して、ダヴィさんが画面を出現させる。映し出された画面には、オーラスーツが三つ縦に映されて、そしてその横に数値の一覧とグラフが映し出された。
「一番上は真矢君のソウイチ君と出会う前、真ん中は昨日のマヤ君のデータ、一番下は世界的なオーラスーツの平均的な数値だね」
そういわれて数値を比較してみた。上の数値は、下の平均に比べて一部のグラフこそ少々低いが、他は問題ない様子だ。それを見ても、真矢さんが軍人として十分に優秀なことを物語っている。
しかし問題なのはそこではない。真ん中の数値を確認すると、明らかに以前の真矢さんも、世界的な数値もぶち抜いて……全ての数値が上回っている。
「これを見ればわかるように、ソウイチ君と出会ってからマヤ君のオーラスーツが、全ての項目において性能が向上しているんだ」
「? そうなんですか?」
ダヴィさんの台詞に、きょとんとしたのは真矢さん本人だった。私はオーラスーツに搭乗したことがないのでわからないが、乗っていた本人がわからないということは、数値的には凄くとも劇的な変化はないのか? と思ってしまった。
「まぁマヤ君が気づかないのも無理はないよ。面白いことに……まるで成長するかのように日に日に右肩上がりで、向上していったからね」
「なるほど……」
「おまけでいえば……比較対象がソウイチ君のパワードスーツだからね。最近真矢君は他のオーラスーツと行動を共にしてないだろう? 気づかなくても無理はない」
「……あぁ」
(……そこで、妙な納得のされ方をされるのはちょっと嫌だなぁ)
「まぁそういうわけでね。君たち二人を訓練で行動を共にさせていたのはこういう理由もあったわけだ。そして……それを踏まえると、ソウイチ君の配置換えは好ましくないんだよ。戦力的にも……研究者としてもね?」
茶目っ気たっぷりに、ウインクをしながらそういってくるダヴィさん。しかし……今いった理由だけでないことは、何となくわかってしまった。
「貴様をこの基地の人員として正式に配属させるために、訓練を早めに切り上げて正式に任官させる。しかし、訓練期間が短いこともあって、あくまでも暫定少尉……という肩書きにはなるが」
一度正式に配属すれば異動が簡単でないのは、どこの世界も一緒のようだ。それである程度の意見をはねのけるということなのだろう。
「明日、新たな部隊を発足するためのブリーフィングを開く。その際他の隊員にも貴様の事を伝えるので、自己紹介を考えておけ」
「了解しました」
「先のデータを見せたとおりだ。真矢少尉もその部隊に正式に配属となる。そのつもりでいるように」
「了解しました」
他にある程度細かい事項を伝達された。パワードスーツについては、同じ部隊ということもあって、どう考えても装着する瞬間を見られるため、「新兵器」として通すこと。私が転移者であること、マテリアル兵装の木刀について部隊内には明かすということだ。パワードスーツについてはそれが正しいと思える。転移者については何とも言えないが……ある程度証拠を見せれば納得するだろう。木刀についても同様だ。
「ただし……若返りについては説明しないことにするよ。というか……見た目じゃどう考えてもわからないから、伝えることで混乱させても時間の無駄だからね」
否定は出来ないが、何というかそう断言されてしまうと、私の半生を否定されているような気がしないでもなく……ちょっともやっとしてしまった。
「では質問がなければ退室してくれ」
正直……質問したいことはあったのだが、今は司令としての言葉と判断できた。それはつまり……言外に質問をするなといってきているのが、ありありとわかる雰囲気だったのだ。別段それを推して質問しても良かったのだが……明日の部隊発足で説明されると判断して、明日に回すことにした。
「一気に動きましたね」
「……そうですね」
司令室を後にし、二人で自室へと戻っている時に話を振るが……考え事をしていて真矢さんが若干上の空になっていた。しかしそれでも、どこか悔しそうに顔を歪ませているのが、どこか痛々しく思えてしまった。
「事情はわかりますが……まだ一ヶ月しか訓練をしていない宗一さんを実戦に……それも部隊に正式に配属させるなんて」
「そんなにレアケースなのですか?」
私としては正直な話、FMEという異星生命と直に戦い、さらには一応軍に入隊し、訓練も行っておいてなんだが……未だあまり実感が湧かないのが現実だった。
「通常であればどんなに短くても半年は訓練に従事します。確かに戦況は逼迫していますが……それでも人材というのはそれだけで貴重なのです。それなのに……まるで使い潰すかのように、こんな早くの配備なんて」
人材が貴重。それはどこの世界でも一緒だった。元の世界でも、戦闘機などでもっとも高価な代物はパイロットであると聞いたことがある。そしてその考えは正しいだろう。
クローン技術であっても、完全に同じ人間になることはない。材料さえあれば新たなパーツを作れる部品などと違い、人はどう足掻いても……その人そのものの完全な代替品は存在しないのだから。
「まぁ……正直まともな実戦に出たことがないので何とも言えないのですが、何とかなりますよ」
「ですが……」
「むしろ私としては真矢さんが一緒の部隊で助かりました。ぶっちゃけたことをいえば……真矢さんは間違いなく私の子守として配属されたような物です。ご迷惑をおかけしますが……どうかよろしくお願いします」
一度立ち止まり、頭を下げてそういって、私は右手を差し出した。
「迷惑を掛けないように注意しますが……よくご存じの通り、完全な素人です。どうか私を助けていただければ幸いです」
無論助けてもらうだけのつもりはない。しかし今の私がそれを口にしても……空しいだけだと判断した。
(実戦経験0のド素人が……ベテランの軍人に「あなたを守ります!」とか、口が裂けてもいえぬわ……)
しかしそれでもおんぶに抱っこというわけにはいかないので……早めに実戦慣れする必要性があるだろう。そこで私の利点という物があるのが救いではあった。
(比較対象がないし……パワードスーツが規格外過ぎる)
話しぶりから考えて、ダヴィさんは世界でもかなり有数の科学者のはずだが……そのダヴィさんが興味津々ということを考えれば、かなり特殊な兵器だ。というよりも100%完全なオーラマテリアルで形成されたパワードスーツを、果たして兵器と呼んで良いのか謎だった。
「……はい。その代わりといっては何ですが、私のことも、キチンと助けてくださいね」
私の台詞にキョトンとするが……直ぐにおかしそうに吹き出して笑い、温かい笑みでそういってくれた。私が言ったことを、それとなく察してくれているのだろう。二人で固く握手を交わして……内心で驚いていた。
(……小さいな)
情けない話だが……女性とふれあうのが何十年ぶりだった。握手など……果たして最後にしたのはいつだったか? ともかく、女性とふれあうのが久方ぶり過ぎて、思わず真矢さんの手の小ささに驚いている自分がいた。
(まぁ驚きこそすれ……それ以外に何も感じることはないのだが……)
確かに若返ったが中身は還暦を超えた初老のおっさんだ。そういう感情がわき上がらないのは、逆に正常と言えるだろう。
そんな実に下らないことを考えつつ、私と真矢さんは自室へと戻っていった。




