模擬戦と衝突
訓練五日目。この日ダヴィさんからの言葉は、昨日予想した通りの言葉だった。
「本日はソウイチ君対マヤ君の模擬戦を行ってもらう」
数日間データを収集したことで、ある程度の安全性は検討できたと言うことだろう。模擬戦をするということで、私と真矢さん共に緊張したのがわかった。
「マヤ君は普段使用しているオーラスーツと、オーラ兵装を使用してもらう。無論出力は最低出力でね」
「了解しました」
「そしてソウイチ君については……君のパワードスーツの装備はまだ不明な点が多い。そのため武装は、こちらで用意したオーラ兵装を使用してもらう」
そういってトレーラーの装甲の一部が開いて出てきたのは……オーラハンドガンとオーラサーベルの柄だった。本当に無理矢理使用できるようにしただけのようで、ハンドガンは持ち手の部分を人型サイズに変えているだけだし、オーラサーベルも同様に、まさに取って付けたかのように人が握るこむことが出来る柄が増設されていた。
これでは片手にそれぞれずっと持っていなければならず、担架することも出来ない。突貫作業なのは言われずともわかるので、文句を言うつもりはないが……非常に扱いづらい兵装である。
拡張性のなさというか、互換性のなさがパワードスーツの最大の欠点であると、如実に証明している気がしてならない状況だった。
「また、無駄に壊されても敵わないので、基本的に物理的な攻撃は禁止だよ。ソウイチ君は四肢を用いた殴る蹴る。マヤ君の場合はマテリアルソードの攻撃と、同じく四肢の攻撃、体当たり、また最悪の事態でもある、オーラ兵装を鈍器にする攻撃ね」
いくら訓練かつデータ取りといっても、資源を無駄に消費するのは愚かな行為だ。その忠告は当然といえた。またある程度パワードスーツの攻撃力や防御力は計れているが、想いに反応するという特性から考えて、出力がどうなるかまだわからない点が多いはずだ。それを考えれば、直接的に殴る等を禁止にするのは当然だろう。
「いくつかのシチュエーションで複数回行ってもらう。それぞれ不調やら違和感を覚えたら、直ぐに報告するように」
そういいながらトレーラーに乗り込んだダヴィさんより指示を受けて、私と真矢さんはいくつかの条件で対峙して戦闘することになった。
まずは接近戦。射撃場で距離5mほどで相対し、合図と共に戦闘開始。この条件下の場合……私が圧倒する形になった。それは当然の結果だった。
何せ私の武装は、無理矢理使えるようにしたといっても完全に接近戦仕様だ。対して真矢さんの装備は両手に持ったオーラライフル、バックパックに装備したマシンガンのような銃が二丁。腰にオーラハンドガンとマテリアルソードだ。この兵装が、マヤさんの通常の兵装の組み合わせのようである。使用できないのにマテリアルソードを装備しているのは普段通りに動いて欲しいからと、登録者が二人になったマテリアルソードが、何かしらの影響を与えるかも知れないと言うことで装備している。
バックパックに装備されたマシンガンは、近~中距離において威力を発揮し、弾をばらまくことで牽制にも使用できるが、いかんせん距離が近すぎる。開始の合図と共にバックパックのマシンガンを作動させても、その前に私のパワードスーツに接近されて何かしらの攻撃を受けてしまう。
徐々に距離を離して模擬戦を行うのだが……射撃場の端と端で戦闘を開始しても……ほぼ私が圧倒できた。模擬戦に限らず、戦闘経験豊富な歴戦の勇士である真矢さんを圧倒できる事が、パワードスーツの圧倒的運動性能を証明していた。
「視認できる位置ではソウイチ君が圧倒……と。次、見晴らしの良い場所ではなく森林地帯での模擬戦」
射撃場という平坦で開けた場所ではなく、森林内部での戦闘となったが……これもパワードスーツの有用性が証明された形となった。
何せパワードスーツはほぼ完全な人サイズなのだ。いくらロボットとにしては小型な部類の3mとはいえ、森林での活動はけっこうめんどくさい。
しかもいくら直感的に動かせる神経伝達システムを採用しているとはいえ、自らの手足を使って移動しているわけではない。別の四肢で行動している以上、どうしても人としての認識と、実際に動いているロボットとのサイズ差による誤差が出来てしまう。
おまけにバックパックとかに装備している武器も、動きを阻害するには十分邪魔な要素に成り得る。サイズの大きさによる動きにくさ、移動に関してこちらに軍配が上がるのは当然だろう。
しかしそれでも相手は歴戦の勇士たる真矢さん。遮蔽物が多くなったが、それは互いに同じで有り、楯になる木も多いが、それが移動にけっこう邪魔だった。装備している武器の違いもあり、けっこう善戦された。といっても……3mサイズのロボットの武装のため取り回しにけっこう苦戦していて、それでも勝率は私が七割を下回らなかった。
「次、完全に互いが視認できない距離からの戦闘」
この条件での戦闘は完全に私が敗北した。これは当然といえた。何せ真矢さんのオーラスーツは……どう見ても遠距離戦仕様なのだから。
(手持ちのオーラライフルが射程と威力を持つ代わりに連射性に乏しい。それを補うためにバックパックにマシンガンを装備して牽制。最悪の事態を想定して接近戦武器のハンドガンと適合者故のマテリアルソード装備……といったところか)
しかもここでもパワードスーツの欠点が浮き彫りになった。それは遠距離故に私が視認してない……つまり認識してない相手には反応できないのだ。簡単な話、ロックオン警告音が出ないのである。
オーラスーツはロックオンされたことの警告が流れるようにはなっているし、四方より接近している敵や攻撃などを警告してくれるシステム……つまりレーダーが搭載されているが、こちらにはレーダーは搭載されていない。先ほどの中距離戦で私が勝てたのは、真矢さんがどこにいるのか分かっていたことが大きな要因の一つだった。
しかし驚いた事に……パワードスーツは学習していることがわかった。遠距離戦になった時は、最初こそぼろ負けしていたのだが……先日の誤射訓練の時に感じた、真矢さんの射撃タイミング。それを直感的に私が見抜いた時と同じように、ある程度攻撃を喰らい、更に慣れてきたことで私がある程度避け始めた時だ。射撃タイミングを読んで避けた時、パワードスーツが射撃ポイントを記録し、その地点を一部拡大表示してくれるようになったのだ。
これはモニタリングではわからなかったことらしく、私が訓練終了後にダヴィさんへの報告したことで伝えたのだが、ダヴィさんが天を仰いで笑っていたのが実に……引いてしまう光景だった。
それは真矢さんも同様で、完全に死角というか、意識の外より放たれた狙撃を避け始めた私のことを、化け物を見る目で見てきていた。これに関しては、私もびっくりしていることなので、甘んじてその目で見られていおいた。
(確かに……剣術においても先読みが出来ていた時は確かにあったが……)
真矢さんの射撃タイミングが読めたというのは、相手の行動の先読みだと思われた。剣術で稽古したときに何度かあった……意識が覚醒して周囲の動きが遅くなって冷静に物事が判断できる状況。その更にその上として……対峙した相手の動きを先読みしている時が、確かにあったことはあった。
意識の覚醒、先読み。確かにこれは経験があるが、この世界に来てから……つまり若返ってからはそれがほとんど恒常的に起こっていた。あまりにも不思議な状況だが……これから戦闘する事を踏まえれば歓迎すべき変化ではあった。
(しかし……それだけで終わらせて良い物だろうか?)
何せ今回私を撃ってきたのは光学兵器だ。銃弾とは違い……亜光速で飛来する攻撃なのだ。それをいくら先読みしているとはいえ避けるというのは、常識的に考えておかしい話なのだ。
(ムアロ・レイじゃあるまいし)
自由戦士ダムガンの主人公は、最終的には敵から放たれる射撃の射線を正確に予測し、撃たれる前から回避行動をしていたという。光学兵器の射撃を避けるには、常識的に考えてそれしかないだろう。
それが出来るようになってしまっている己自身。かなり不安に思う気持ちはあるが……これは今後の戦闘に置いては非常に重要なことなので、受け入れるしかなかった。
「ふむふむ。何というか……本当に規格外だねぇ……」
「ですね」
「君のことなんだけどなぁ」
からから笑いながら、ダヴィさんはデータを何度も見たりして整理を進めている。しかし直ぐにまとめられるデータ量でもないし、また時間も夕方になっていたこともあって本、日の訓練は終了となった。
訓練終了と共に、ここ数日の流れで真矢さんと食事に行くのだが……そのときは真矢さんも割り切ったというか開き直ったというか、純粋にこちらに興味を抱いたようで、色々と質問されるハメになった。
といっても、まだ私の中身というか、パワードスーツなどの性能的なことは分かってない部分がかなり多く、私も語彙が豊富ではないのでないため、かなり抽象的な内容の会話になってしまったが。
訓練六日目。
この日は……訓練場に凄まじい緊張が走った。
「これより訓練を開始する」
なんと本日は……千夏司令が訓練場へと来ていた。それだけで何倍にも緊張するのだから凄まじい御仁である。
「まぁ二人ともそこまで緊張しなくてもいいよ。訓練内容としては前後にわけて、前が模擬戦、後ろが随伴行軍訓練という感じだ」
そんな中、ホントに普段通りに説明をするダヴィさん。その順応性というか、マイペースっぷりはいっそ清々しいくらいだった。
ただダヴィさんのいうことがもっともであり、また訓練が始まればそんなことは言ってられる余裕もなく、必死になって訓練を行った。新たなことはせず、反復とでもいえばいいのか、今までの訓練兼実験を総ざらいしている感じの訓練だった。そのため、トレーラーに入った二人がどのような会話と相談をしているのかは、全くわからなかった。
そんな生活が、10日ほど続いた。しかし逆に言えばいくら若返ったとはいえ、10日程度の訓練で直ぐに行軍というか軍事行動が出来るわけもないので……まだ訓練は続くようである。
ここで一つ私の認識が甘かった……というよりも日頃の訓練で頭が回らなかったと言い訳したいが……事があった。私がこの基地に来てから、それなりの時間が経過したていた。にもかかわらず未だ情報が出回らない私という存在。そして……老いた精神であったためか、けっこう重要なポイントを忘れていた。
この世界は戦争中であり、そしてここは軍隊だ。現代における軍隊というのがどれほど過酷かはわからないのだが、個人的にまだそれに比べれば緩いとは思われた。一応就業時間があって、それ以降の時間は待機とはいえほぼ自由行動。
しかも戦時中であるにも関わらず糧食に困らず、戦闘する相手は人間でもなく、血を流さず臓腑も撒き散らさない、生物らしくない生物。それらを考慮するだけでも、極限とは決して言えないだろう。
しかしそれでも戦争中ということもあって、戦死者が出ているのだ。そして生命というのは死に直面したときに……というよりも生物学的に自らの後継者というか子孫を残すのが、生命としての大前提であって……。
その上で私の相棒というか、幸か不幸か行動を共にすると命令された真矢さんは……ひいき目に見てもかなりかわいい人だった。そして肢体も実に男好きする体をしていた。
ということである。
「おい、真矢少尉」
本日の訓練を終えて二人で夕食をとっている最中だった。命令でも出ているのかと思うほどに、ほとんどの人たちが私たちに声をかけてくることはなかった状況だったのだが、真矢さんに声をかけてくる存在がいた。
私は真矢さんとは対面して食事をしており、真矢さんの後方より声をかけてきた形だ。そしてその声を聞いた瞬間……真矢さんの顔が曇り、雰囲気も少し落ち込んだように思われた。視界に写っていた相手だったため、私は相手に気取られないために相手の方に視線を向けず、普段は意識の外に追いやっている、注目していない存在へと意識だけを傾けて相手を視認した。
端正な顔立ちといって差し支えのない顔。背丈は比較対象がおらず自分が座っているため即断出来ないが、平均身長よりも少し低く見受けられた。軍隊所属と言うことでだらしない体躯をしているわけがないが、それを差し引いても少し細身に見えた。
そして重要な表情だが……実に偉そうと言うか、目が相手をさげすむというか明らかに下に見ている感じの目をしている。率直に言えばあまり親しくできなさそうな雰囲気の青年だった。
「愼司少尉、何かご用ですか?」
何とか表情を造ったのがありありとわかる……まさに営業スマイルを浮かべながら真矢さんがそちらへと顔を向けた。相手の名前は愼司というようだ。そして少尉と言うことは階級的には真矢さんと一緒だった。と思ったのだが、その真矢さんの言葉を聞いて愼司がニヤリと、嫌みったらしい笑みを浮かべた。
「残念だったな真矢少尉。先日昇格したから今の僕は中尉だ」
そういって胸を張って自らの階級章であると思われる物を指さした。それを認識して、真矢さんは立ち上がって綺麗に敬礼を行った。
「昇格、おめでとうございます」
「何、僕の実力を考えれば当然の結果さ?」
そういって笑いながら……真矢さんへじろじろと無遠慮な視線を向けている。その視線の先が……まぁ本当にわかりやすくて思わず笑いそうになってしまった。
(まぁ気持ちはわからんでもないが……)
真矢さんが立ち上がって背後の愼司とやらに体を向けたので、私は真矢さんの敬礼した後ろ姿を視界におさめているわけだが……それでもなお実に魅力的な体躯をしているのがよくわかる人だった。恐らく私がもっと若い頃に会えば私も同じように……とまではいわないが、間違いなく双丘に視線を向けていただろう。
「ところで真矢少尉。最近前線に出てないみたいじゃないか? 周囲の人間も不思議がっていたぞ? お前の狙撃能力は一級品であるにもかかわらず、前線に出てこないのは不自然だってな」
狙撃能力については直に何度も味わった私だったために、愼司中尉の台詞に何ら疑問を抱かなかったが、どうやら私が認識していた以上に真矢さんの狙撃能力は周囲から評価されていたようだ。そして狙撃能力があるというのはけっこう貴重なようだ。
「それは……申し訳ないことを」
「別に謝る必要はないさ? 能力がある人間にはそれ相応の責務が課せられているが、逆に言えばそれを果たせば問題ないさ」
(その考えもどうかとおもうが……)
無遠慮な視線を隠そうともせず、愼司は真矢さんの体をさらになめ回すように見ている。更に極めつけが……肩に手を乗せてきた。
(おぉ~~~~セクハラだぁ……。いや、逆にすげえぇなこいつ……)
積極性がないというか……どうしてもそこまで本気になれなかった私から見たら、ここまで積極的というか、相手が嫌がっているにもかかわらず触れにいけることの図々しさを素直に凄いと思った。
(そう言えばセクハラって私と同じ考えで良いのだろうか?)
平行世界の感覚で今、愼司中尉がセクハラをしたと考えた私だが、この世界ではこれが普通なのかも知れない。しかし後ろ姿とはいえ、真矢さんの雰囲気が暗く沈んでいるので、仮にセクハラでなくともあまり健常な関係とは言い難いのは間違いないだろう。
(今度その辺も教わらないとまずいかもな)
「だけど軍務を果たさないといけないことは事実だよな? 真矢少尉?」
「……そうですね」
「お前が所属していた部隊が解散したのは知ってる。だから今は別の任務をしているんだろうけど……なら僕の隊に来いよ、真矢少尉?」
そういって顔を寄せて至近距離で顔をのぞき込むようにしてきた愼司とやら。その時真矢さんの体がぴくりと反射的に動いているのを見て……ほぼ間違いなく嫌がっていることと判断した私は、流石に見かねて声をかけることにした。
「愼司中尉。おやめになられた方が良いかと」
「……あぁ?」
私の声掛けに、実にドスが利いたというか……低めの声でそう返してくる愼司中尉。私自身訓練生ということで、未だ階級らしい階級がないので声をかけるのは本来止めた方が良いのかも知れないが……それでも恩人が嫌な目に遭っているというのに、それを見過ごすことはしたくなかった。
立ち上がって相手の目を見てはっきりと……私は自らの考えを口にした。
「お初にお目にかかります。訓練生の宗一真堂と申します。真矢少尉は私と共に訓練を行ってくれている方であり、またその訓練はダヴィ中佐から受けた指令です。たとえ愼司中尉であっても、その命令を無碍にすることは難しいと思いますが?」
一応上官からの命令であるということと、愼司中尉であっても……と持ち上げるような言葉を使用したのだが、その程度では駄目だったらしい。
というよりも、ここで私が少々間抜けだったのだ。この男の目的は真矢さんではなく、私だったのに、気づかなかったのである。




